⑧
「よくある話さ。交通事故に巻き込まれ、異世界に来ていた。そして、神たる力を得たのさ」
魚の腐った匂いの充満する町だった。
汚らしい港町で、誰も死んだ目をしているか、気でも狂ったかのような目をして歩いているような場所だった。
僕は食事がしたくてね、街の中を歩いていた。
懐には僕を襲って来た盗賊が持っていた金があったからね、綺麗な宿屋も探していたんだ。
そこで、信じられないものを見た。
信じられるか?
人間を売っていたんだ!
はじめ泥人形かと思った。
動く泥人形、それがまだ幼い子供だと気づいたとき、僕は商人を、そしてそれを購入しようとしていた連中を殺していたよ。
死んで当然だ。
命を売り買いしていたんだ、殺されるべきだ!
「僕は力を示し、戦い続けた。正義の戦いさ。そうしているうちに、秩序ある町が生まれ、正しき国ができた。作るしかなかったのさ、そうだろ? 貧困、差別、奴隷、虐殺に略奪、あの世界は地獄だ、地獄だった」
僕によって導かれた国は繁栄していった。
とても大変だったけど、充実していたよ。
戦争に次ぐ戦争。
反乱の粛清。
暴動の鎮圧。
それでも悪を挫く行為はとても楽しかった。
「司くん、君は裏切られたことあるかい?」
運のいい君は裏切られたことなんて一度もないだろう。
僕はね、奴隷だった子と結婚をしたんだ。
とても可愛らしくて、僕にとても懐いてくれていたんだ。
僕は彼女に女王をプレゼントした。
両親を殺され、自由を奪われ、無慈悲に命を落とすところだった。彼女は幸せになる権利がある、そうだろ?
だけど、彼女は何をしたと思う?
「奴隷を飼っていたのさ」
意味わからないだろ?
奴隷だったくせに、奴隷を廃止しているというのに、奴隷を使っていたのさ!
この僕が戦争をしている時に!
親友だと思っていた人を殺していた時に!
あいつは奴隷を購入して身の回りの世話をさせていたんだ!
「もうゴブリンだよ、ゴブリン。人間じゃない、卑しいゴブリンと同じだ。ああ、うんざりだ。ウンザリなんだよ! ゴブリンはゴブリンらしい人生を送ればいい!」
どれだけ僕が心血を注いだかわかるか!
わからないだろうな、司くん、幸運な人生を送った君にはわからない!
僕は、卑しく醜いゴブリンどもを捨てて一から作り直すことにした。
近くの無人島に降り立ち、本当の人間を作ることにしたんだ。
ゴブリンの国がすぐに滅んだんだそうだ、いい気味だよね!
存分に差別を楽しめばいい! 存分に奴隷ライフを楽しめばいい! 存分に殺し合い、奪い合い、醜く死んでいけばいい!
僕は人間の世界を作ることにしたのさ!
それはもう一から作るしかなかった。
チート能力を持っていても、さすがにてこずったよ。
僕の望む能力を兼ね備えた生き物を作るには、どうしても巨大化してしまう。
ところが強靭な肉体を得ると、どういう訳か木や岩を食べ、常に裸で、家も建てず、常に戦い続ける生物が生まれてしまった。
そう、君たちが魔族と呼んでいるのは、僕が泥から作り出した生き物さ。
より豊かな変化を求めて変異するように作り変えたが、本質は何も変わらない。
どうしても野蛮人、それでもゴブリンよりよほどマシだけどね。
君たちのことは知っていたよ。
どうやら僕を追って不愉快な連中が事象を変化させていたみたいだが、そのおかげで僕もこの世界に来るきっかけを作ってくれたわけだ。
「おめでとう、英雄ツカサくん。マリグ帝国は世界統一を成し遂げ、銀河へと飛び立ったよ」
ゴブリンの罪は未来永劫贖罪し続けることだ。
それがどうしたことか、ある日を境に“聖なる導き手教”は衰退し始めた。
その代わりに、英雄ツカサの逸話ばかりが広まり始めた。
ゴブリンどもは贖罪より英雄譚の方が好きみたいだな。
そして、マリグ帝国はいち早く文化革命を起こし、社会制度を変え、王室を残しながらも民主制を取り入れた。
無論、多くの国家と戦争をすることとなった。
だがマリグ国は強かった。
「マリグ人は、君の名を自由の象徴として掲げ、戦った」
腹に据えかねたね。
ゴブリンどもが自由などとほざくのはいいが、なぜ君なんだ?
裏切られたこともない、ただ運がいいだけの君がどうして?
君と僕は何が違う?
「ユリナ、そう彼女さ」
かたや汚らわしい奴隷のゴブリンの女、かたや宇宙人により作られた人造人間。
なるほど、運のいい君は一人じゃなかったわけだ。
仲間もいる。
妻もいる。
君たちの子供たちは歴史に名を残し、君の一族は傑物を定期的に排出する優れた一族になっていく。
「ああ、ムカつく」
だけど、ね。
そうさ、君が答えだ。
その幸運で得られたすべての物を僕の物にすればいい。
「支配してやるぞ、ゴブリンども」
支配するのはユリナだ。
僕は本物の人間を作る仕事があるからね、ユリナが僕の代わりに支配するわけさ。
「今は君の幸運が嬉しいよ、すべてこの僕の物になるんだからね」




