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一人のリングがスマホを取り出し、動画を見せてくれた。
『これより、人間による、人間のための世界を作ろう! 卑しき愚かなるゴブリンどもよ、人間の女王たるこのユリナが世界を支配する! 歓喜し、その時を待つがいい!』
砕けたアスファルトを積み上げ、豪華な玉座を置き、そこに彼女は座っていた。
映像はそこで切れ、別のリングが手持ちカメラの映像を見せた。
そこには自衛隊、そしてアメリカ軍が銃撃戦を繰り広げていた。
マシンガンでは取り囲む魔族たちを貫通することはできなかった。
弓矢でもそうだ、魔族にそれらは通用しない。丈夫な皮膚はもちろんだが、すぐに回復してしまうのだ。
それに・・・
魔族たちは手から炎や氷を出現させ、軍隊を消し飛ばしていく。
弓や、銃の射程距離は、魔族の魔法の距離でもある。
拳で殺せる数は1人か、2人。されど魔法ならば、一気に何十人と殺せてしまう。魔族との戦い方としては間違っている。
時に魔族の頭を消し飛ばすほどの威力のある銃弾も飛んでくるが、魔族たちは持ち前の戦いによる勘で素早く動き回り、照準を合わせさせない。
巨人でありながら、魔族は俊敏なのだ。
銃弾はユリナへと向けられた。
動かない敵大将、それは当然狙われるだろう。
だが、まるでSF映画のような魔法障壁で銃弾は燃え消えた。
「すごいな、ユリナ。見たこともない魔法だ」
素直に感心してしまう。
司は動画を何度も見直す。
敵の戦力を見極めるのは、戦に置いて重要なことだ。
「世界各国で協議がされているよ。コロナ対策ってことでね」
トトトポヤはノートパソコンを開き、何やら見たこともないウィンドを開いてイヤホンで何かを聞いていた。
「自由主義陣営はやる気満々だけど、中華陣営は様子見って感じかな。日本政府も自衛隊が何十人も死んでるから、結構オコみたい」
「・・・」
トトトポヤは日本に来て一か月ぐらいだと言っていたが、随分とこの世界に慣れているようだ。
トトトポヤと3人のリングを連れ、見知らぬ道を歩いていた。
ルート取りは完璧らしく、道の先にある曲がり角には必ずリングの姿があり、司たちを案内していた。
「渋谷区の住民は避難中。裏を返せば、渋谷区に入っちゃえばあたしたちを捕らえるのは相当難しいと思う」
仕事モードのトトトポヤは早口で、有用な情報を伝えてくれる。
「どうする? 武器を取ってこいってことならすぐ容易できるけど?」
「銃はダメだ。撃ったことがないし、無駄に危険すぎる。剣でもあれば助かるが・・・」
「日本刀なら用意できるよ?」
「日本刀の使い方なんか知らん。両刃の、西洋剣はないか?」
「ん~、すぐ容易できるのはおもちゃしかないね。日本人は刀好きだからねぇ」
それなら、普通にバッドや鉄筋の方がよほどマシだ。
「実際問題、どうするの? 今の領主様だと、たぶん魔族も倒せないよ?」
「臨機応変に行動する」
らしくないっすねぇと言いながらも、トトトポヤは司の望みを叶えようと調べ始めた。
無人のドラッグストアに入り頭痛薬を盗み、痛みを和らげる。
そして閉まっていた無人のラーメン屋に入ると、リングの少年がいらっしゃいと出迎えてくれた。そして、手早く横浜ラーメンを作って出す。
「お前らはどれだけこの世界に順応してんだよ!」
「あっしらを舐めてもらっちゃ困りますなぁ」
ぱたんとノートパソコンを閉じ、トトトポヤもラーメンを食べ始めた。
「完全封鎖、なんて言ってるけど、屋根の上まで完璧に封鎖はできてない。ま、数日でここまで広範囲を封鎖できるのはさすがだけどね。あ、もう指名手配犯になってるよ。家族も捕まってる」
「順当だな。次の一手が読み安くていい」
「じゃ、次の一手は?」
彼女は上手にハシを使い、ズルズルとすすりながらラーメンを食べている。
「状況を完全に理解できない以上、現状維持。何かを知っているだろう、僕を全力で捕まえたいと思っているはずだ」
「ん~・・・? アメリカ軍と交戦続行のはずなんだけどなぁ」
口をもぐもぐさせながらノートパソコンを改め開き、動きを止める。
「あ、やべ」
「ん?」
スープをぐびっと飲み、懐から増え取り出し思いっきり吹く!
「コード・まんもす! コード・まんもす!!」
すると、小さな店内がガタガタと揺れ始める。
「ごめん! 居場所逆探知受けてた!」
トトトポヤは一万円をテーブルに置くと、急いで外に出て走り出す。
しかし、装甲車が猛スピードで道を塞いでいく。
大きな盾を持った自衛隊が装甲車から降りてきた。
「投降しろ! 逃げきれんぞ!」
両手を上げながら、これは困ったぞと考える。
ここで捕まれば絶対に逃がさないだろう。
それどころか、薬などはもちろん、家族を脅しに使ってでも情報を引き出そうとするはずだ。少なくとも自分ならそうする。
「少しだけ、時間稼げませんか領主様」
「少しぐらいなら」
無抵抗と見て押さえつけに来た男を、足払いをして頭を掴み、思いっきり地面に叩きつけた。
迷わずスタン銃を放ってくるが、叩きつけた男を持ち上げ盾にする。
そのまま盾と盾の間に体をねじ込み陣に入り込み、警棒を奪うとアーマーの間に容赦なく叩きこむ。
そして、流れる様に腕を絡み取り・・・
「ぐあぁ!!!」
腕をへし折った。
その流れで、発射するスタンガンを手にしてしまった。
好奇心で撃ってみるが、アーマーに弾かれてあまり効果がない。
「これだからよくわからん兵器は嫌いだ。棒でいいんだよ、棒で」
そこから、淡々と自衛隊員の腕と足をへし折っていく。
彼らの悲鳴がこだまする中、最後に残った隊長であり、一番の実力者だろう40代ほどのひょろ長い男と対峙する。
「ボウズ、いくつぐらいだ?」
そう訊ねたのは、司の方だ。
隊長は無駄だと思いながらも身構え、引き攣った笑み浮かべる。
「そうですねぇ、43歳ですわ」
「で、どのぐらい人を殺している?」
彼は弱ったように首を振る。
「そりゃいかんぞ。年を取るとボケてくるからなぁ、わしなんぞ年に10人ぐらいは殺す様にしておったよ」
司はため息をつく。
「まぁ、70過ぎたぐらいからさすがに暗殺者も来なくなってなぁ、それから急に老け込んだもんじゃよ」
流れる様に男は警棒で殴りつけてきたが、それを受け流しアーマーの間にスタンガンを押し付けた。
「かはっ!」
「こりゃ便利だ」
アーマーなどの兵器を奪い、トトトポヤの元に帰っていく。
「領主様、あたしは時間稼ぎをしてほしいだけで、壊滅させろとは言ってませんよ?」
「時間の問題だよ。すぐに囲まれる。数が多いと、さすがに対処できなくなる」
奥からタクシーが走ってきて、その場で止まった。
「トトトポヤ! 早く乗って!」
「領主様!」
「ああ、わかった」
タクシーを運転していたのは、子供だった。大きなクッションに座り、足に木の棒を付けた少女が振り返った。
「お客さん、どちらまで!」
「渋谷駅、スクランブル交差点! ですよね、領主様!」
「ああ!」
きゅいーん! とタイヤを鳴らしながら、タクシーは出発した。




