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 司は長い人生の中で、確実に一番錯乱していた。


 東を前に、ただ押し黙ることしかできなかった。

 東はその様子を満足そうに確認し、疲れが出ているようだと部屋へと案内した。


 そこは確かに牢獄ではなかったが、窓には鉄格子、自殺しないようにカーテンやタオルのようなものもなく、ひっかけられる場所もないまっ平らな六畳間だった。


 司は座り込み、頭を抱え込む。


 見間違えるはずもない。

 彼女は、ユリナだ。

 そもそもあのドレスはユリナが作った服で、他人の空似で片付くものじゃない。


 どうして彼女がこの世界にいるんだ?

 魔族の女王というような姿、何に巻き込まれているんだ?

 話しかけてきたあの男とどういう関係なんだ?


「駄目だ、碌に頭が回らない!」


 会いたい。


 気が狂うほどに会いたい。

 抱きめ、ありったけの言葉をかけ、キスがしたい。


 理性では、これが罠だということもわかっている。

 直情的に動く性質ではない。

 だが本能が、そんなものを押しつぶした。


 司は、脱獄する決心をした。


 次の日、再び朝早くから呼び出された。

 東ではなく、ガタイのいい男だ。


「何を知っている。吐け!!」


 当人を殴ることはできないのだろう、テーブルを叩き威嚇してきた。


 心の中で安堵のため息をついた。

 微笑ましい手口だ。

 優しく接し、次に徹底的に脅す。

次は、お優しい誰かがやってくるのだろう。

 よくあるやり口だ。


 東さんはきっと反対したことだろう。

 なぜなら・・・


「し、知らないんです! わからない! わからないんだ! ああ! どうしてこんなことに!」


 司は体を震わせ、怯えた声を上げた。

「助けてくださいよ! あなた警察ですよね! 僕は本当に何も知らないんだ! ただ友達に会いに来ただけで、家に帰りたいんだ!」


 脅しつけるような野獣の視線。

 本当に15歳の少年ならば、あまりに恐ろしい姿に見える事だろう。

「ふざけるな! だったらなぜ隠れていたんだ!」

 危うく笑いそうになるのを耐えるのが大変だった。

「化け物が出てきたから隠れただけですよ!」


「どうして出身地が違うメンツが集まった! どのような繋がりがある!」

「スマホで知り合ったんですよ! 異世界とか、なろう小説が好きな人が集まったんだ!」

「ふざけてるのか!」


 再びテーブルを蹴飛ばした。

「ひぃ!」

 司は情けない悲鳴を上げ椅子から転げ落ちる。


 そして、思いっきり壁に頭を打ち付けた。


 目を回しながら、ゆっくりと意識を失わせた。

 次に気が付いたときは、ベッドの上だった。


 さっそく周囲を調べようと少し体を動かそうとするが、あまりの頭痛に改め意識を失いそうになる。


 剣の訓練で容赦なく相手を叩きのめしていたが、悪いことをしたなぁと今更反省をしながら痛みが少しでも引くように待つ。


「あのさぁ、違うじゃん」


 小さな女の子の声が近くから聞こえてきた。

 司は、聞き覚えのある声に微笑んでしまう。


「トトトポヤ。ずいぶん久しぶりだね」


 痛みをこらえながら目を開くと、可愛らしい女の子が座っていた。

 記憶の中の彼女はヒッピーのような派手な服装だったのだが、今は可愛らしい子供の服に大きな帽子をかぶって耳を隠している。


 リングという、子供の姿をした種族。

 好奇心が強く、どこにでも潜り込んでくる困った側面がある。


「どのぐらい久しぶり?」

「どうかな・・・40、50年ぶりかな」

「うわ・・・こっちは一ヵ月ぶりぐらいだよ?」


 トトトポヤはリングの中でも指導者の役割を担っていたはずなのだが、ある日を境に一切見かけなくなった。


 それは・・・UFOがこの世界に戻る時に、中で暮らしていたリングが多く排出されたのだが、その中にトトトポヤの姿はなかったのだ。

 ああ、こりゃこの世界に来たなと思っていたが、案の定だ。


「っていうかさ、困るんだよねぇ、領主様」

 トトトポヤはわざとらしいため息をついた。

「ここはさ、ああ、閉じ込められて何もできない! 一刻も早く逃げ出さないと! って時に颯爽とあたしが現れて、ふふ、ピンチを助けに来たぜぇ、って手はずだったわけじゃない。それなのに自力で逃げないでくれないかな!」


 頭を押さえながら体を起こす。

 医務室のようで、出入り口はしっかりと閉められているだろうが警備はいないようだ。

 もし司が指揮する砦の中で同じことをしたら、怒鳴りつけていたところだ。


「そう言わず助けてくれ、トトトポヤ。今の僕は完全に冷静さに欠いている。君の力が必要なんだ」


 むふーっ!

 しょうがないなぁと鼻息荒くにやける笑みを誤魔化そうとしている。


 彼女は、さすがは本職足音もなく鉄格子の窓に近づくと、すぽっとそれを外してしまった。

「他の人たちどうする? 助けておく?」


 司は首を振る。

「今の僕は、無謀だ」


 彼女は面白そうに微笑みながら、窓を開けて飛び降りた。

 どうやら3階で、足を引っかけるような場所はなかった。しかし、壁に杭のような足場を突き刺してあった。

 よほど訓練されていなければ足場に離れないような杭ではあったが、司はそれを足場に、素早く降りていく。


「いやいや、お見事おみごと。昔のパワーはなくなったみたいだけど、さすがは領主様、人間とは思えない!」

「力があれば無理できるんだけどね。君が頼りなんだよ、トトトポヤ」


 彼女はにこっと微笑むと、パトカーや草むら、塀から数十人、いや百人以上の子供たちが顔を出した。


「もちろん存分にお頼りください。あたしたちに任せておけば、万事うまくいきますよ」


 尖った耳の子供たちは、手で丸を作って見せた。



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