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 森往司は落胆の中、旅に出ていた。


 新幹線に乗り、東京へ降りたち、あの有名な山手線に乗っていた。

 コロナの緊急事態宣言によって、電車内はがらんとしている。


「妻はこの状況を見て何と思うか。言われた通り自粛する日本人に驚くか、それとも電車に夢中になるだろうか?」


 心の中で、何度目かのため息をついた。


 司は死ねば妻と会えると思っていた。

 妻のいない数十年間は、ただただ虚しく、辛く、苦しいものだった。


 無暗に健康な肉体が、死を遠ざけ長く生きてしまったが、やっと妻と会えるものだと思っていた。


 司は渋谷で降りた。

 全体が工事中でありながら複雑怪奇な駅内、多少迷ってしまう。


 両親に東京に行きたいと告げると、当然だが反対された。

「死んでいた時に知り合った友人と、渋谷駅で会うことを約束したんだ」

 と、実にスピリチュアルなお願いをしたら、すんなりと送り出してくれた。

 息を吹き返したこと自体がスプリチュアルな出来事、そう言われると送り出す他なかったのだろう。


 何故か渋谷駅をぐるりと回り、やっとハチ公前という看板に目が行きそれに従い進んでいた。


 すると、突然、がしっと腕を回してきたやつがいた

 背の高い、金髪のアロハ姿の男だ。


 更に隣に、ジーンズをはいている美少女が付いた。


「よ、ツカっちゃん!」


 司は思わず笑ってしまった。

「お前、坂本か?」


「イェイ、どうだいオレのハンサム顔は」

 エルフ少女だった男は、見覚えのある笑みを返してきた。


 異世界に行った10人の一人、エルフの少女になってしまったが、その実触手エロをこよなく愛す変態男、坂本一颯だ。


「すぐに気づいてもらえないとは、傷つくな」

 少女は鈴のような愛らしい声で、司の背中を叩いた。


「まさか、中田か?」

「当たり前だろ?」

 可憐な微笑みに、錆びついたはずの男心がキュンとする。

「おまえ、女だったのか!?」

「男だよ!!」


 顔を真っ赤にして、尻尾が地面を叩くかのように地団駄を踏んだ。


 異世界時では巨大なリザードマンだった中田里桜。

 姉たちに女装させられ年上嫌いになったらしいが、これは、姉たちの気持ちが心から理解できる。


「キャハハ! 女と間違えんのもしょうがねぇんじゃね?」

「聞いてくれよ! こいついきなり俺をナンパしてきたんだぞ! 頭おかしいんじゃねぇか!?」

「いや~ん、オレお前が男でも構わなねぇんだけどぉ?」

「・・・殺すぞ?」


 50年前に異世界から現世に帰った友人たち。

 姿かたちは変われど、まるで昨日今日別れたかのようだ。


 彼らはこっちだというように進んだ先には、懐かしい6人の友人たちが待っていた。

 ハチ公の銅像前、司の目の前で魔王に殺された6人の勇者。


「おおっ! 司! 待ってたぞ!」

「司君! 司君も帰ってきたんだね!」

「地元が遠くだからな、新幹線か飛行機だろう。このぐらいの時間はかかるさ」


 腰に手を当て、苦笑してしまう。

「あの世で同窓会って感じだな」


 異世界に飛ばされた10人。

 異世界モノらしくチート能力を持ってはいたが、テレビもラジオもスマホもない世界。

 チート能力を持っていたとしても、ごく普通に過酷な環境下で共に支え合った友人たちだ。

「よかったよ、坂本と中田以外にイメージと違う人はいないようだ」

「だよねぇ!」


 異世界で死ぬことによって、地球に帰ってこれる。

戦いによって命を落とした仲間たちは、この世界に無事に帰ってこられたようだ。


 司は仲間に近づき、力強く一人ひとりを抱きしめた。


 彼らは思いもしなかったのだろう、少し驚いている様子だ。


「僕を庇って、目の前で殺されたことを忘れたのか?」

「覚えてるさ、俺たちからしたら数日前の話だからな!」


 魔王グランドールでの戦いで、彼らは司と共に戦い、司の代わりに殺されたのだ。

 彼らの死後、どれだけ長い時間彼らのことを想い続けたことか。


彼らが生きていたのならどのような選択をしただろう。

 彼らが生きていたのなら、どのようにこの世界を変えていくだろう。

 生き残った者の義務として、彼らが目指す未来を作らねばならない。


 その荷は80歳が過ぎ、老衰で命を落とすまでずっと背負い続けていたのだ。


「あとは一人だな!」

「その一人ってのが、一番難しいだろうがな」


 中田は綺麗な顔を曇らせた。

 司たちも難しい表情を浮かべる。


 緑川聖良。

 異世界を誰よりも喜んだオタク少女だった。

 しかし殺伐とした中世風世界で心を病み、一時期気が狂ってしまった状態になっていた女性だ。


 坂本と中田が無事に帰ってきたのなら、きっと緑川も帰ってこられているはずだ。

 念願のこの世界に。


「来ないかもしれん。だが、俺はここで待とう! 思わずここに来た時に誰もいないでは寂しいからな!」

「ええ、私もお付き合いします」

「やれやれ、時間が許す限り僕もここに来ますよ」


 ああ、そういう奴らだよなぁ。

 司は思わず微笑んでしまう。


 異世界に行き、ただの高校生が人を殺さなければいけなかった。

 何度も異世界人に裏切られた。

 何度も何度も殺されそうになった。


 それでも、彼らはそういう奴らだった。

 だからこそ司も、変われたのだろう。


 妻を、心から愛せたのだろう・・・


「雨にも負けず、風にも負けず」


 一人の少年が近づき、そのようなことを言って来た。


 司たちは、無意識のうちに身構えていた。


 理由はわからない。

 だが、本能的にヤバい。

 そう感じたのだ。


「雪にも夏の熱さにも負けぬ丈夫な体を持ち、良くはなく決していからず、いつも静かに笑っている。それが人間だ」


 渋谷駅周辺が激しい揺れに見舞われた。

 スクランブル交差点が割れ、中から次々と黒い肌の巨人が次々と現れ始めた!


「ま、魔族!! ど、どうして!!」


 司たちは武器になる物を探したが、現代日本の駅前には、空き缶1つ転がっていなかった。




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