③
森往司は落胆の中、旅に出ていた。
新幹線に乗り、東京へ降りたち、あの有名な山手線に乗っていた。
コロナの緊急事態宣言によって、電車内はがらんとしている。
「妻はこの状況を見て何と思うか。言われた通り自粛する日本人に驚くか、それとも電車に夢中になるだろうか?」
心の中で、何度目かのため息をついた。
司は死ねば妻と会えると思っていた。
妻のいない数十年間は、ただただ虚しく、辛く、苦しいものだった。
無暗に健康な肉体が、死を遠ざけ長く生きてしまったが、やっと妻と会えるものだと思っていた。
司は渋谷で降りた。
全体が工事中でありながら複雑怪奇な駅内、多少迷ってしまう。
両親に東京に行きたいと告げると、当然だが反対された。
「死んでいた時に知り合った友人と、渋谷駅で会うことを約束したんだ」
と、実にスピリチュアルなお願いをしたら、すんなりと送り出してくれた。
息を吹き返したこと自体がスプリチュアルな出来事、そう言われると送り出す他なかったのだろう。
何故か渋谷駅をぐるりと回り、やっとハチ公前という看板に目が行きそれに従い進んでいた。
すると、突然、がしっと腕を回してきたやつがいた
背の高い、金髪のアロハ姿の男だ。
更に隣に、ジーンズをはいている美少女が付いた。
「よ、ツカっちゃん!」
司は思わず笑ってしまった。
「お前、坂本か?」
「イェイ、どうだいオレのハンサム顔は」
エルフ少女だった男は、見覚えのある笑みを返してきた。
異世界に行った10人の一人、エルフの少女になってしまったが、その実触手エロをこよなく愛す変態男、坂本一颯だ。
「すぐに気づいてもらえないとは、傷つくな」
少女は鈴のような愛らしい声で、司の背中を叩いた。
「まさか、中田か?」
「当たり前だろ?」
可憐な微笑みに、錆びついたはずの男心がキュンとする。
「おまえ、女だったのか!?」
「男だよ!!」
顔を真っ赤にして、尻尾が地面を叩くかのように地団駄を踏んだ。
異世界時では巨大なリザードマンだった中田里桜。
姉たちに女装させられ年上嫌いになったらしいが、これは、姉たちの気持ちが心から理解できる。
「キャハハ! 女と間違えんのもしょうがねぇんじゃね?」
「聞いてくれよ! こいついきなり俺をナンパしてきたんだぞ! 頭おかしいんじゃねぇか!?」
「いや~ん、オレお前が男でも構わなねぇんだけどぉ?」
「・・・殺すぞ?」
50年前に異世界から現世に帰った友人たち。
姿かたちは変われど、まるで昨日今日別れたかのようだ。
彼らはこっちだというように進んだ先には、懐かしい6人の友人たちが待っていた。
ハチ公の銅像前、司の目の前で魔王に殺された6人の勇者。
「おおっ! 司! 待ってたぞ!」
「司君! 司君も帰ってきたんだね!」
「地元が遠くだからな、新幹線か飛行機だろう。このぐらいの時間はかかるさ」
腰に手を当て、苦笑してしまう。
「あの世で同窓会って感じだな」
異世界に飛ばされた10人。
異世界モノらしくチート能力を持ってはいたが、テレビもラジオもスマホもない世界。
チート能力を持っていたとしても、ごく普通に過酷な環境下で共に支え合った友人たちだ。
「よかったよ、坂本と中田以外にイメージと違う人はいないようだ」
「だよねぇ!」
異世界で死ぬことによって、地球に帰ってこれる。
戦いによって命を落とした仲間たちは、この世界に無事に帰ってこられたようだ。
司は仲間に近づき、力強く一人ひとりを抱きしめた。
彼らは思いもしなかったのだろう、少し驚いている様子だ。
「僕を庇って、目の前で殺されたことを忘れたのか?」
「覚えてるさ、俺たちからしたら数日前の話だからな!」
魔王グランドールでの戦いで、彼らは司と共に戦い、司の代わりに殺されたのだ。
彼らの死後、どれだけ長い時間彼らのことを想い続けたことか。
彼らが生きていたのならどのような選択をしただろう。
彼らが生きていたのなら、どのようにこの世界を変えていくだろう。
生き残った者の義務として、彼らが目指す未来を作らねばならない。
その荷は80歳が過ぎ、老衰で命を落とすまでずっと背負い続けていたのだ。
「あとは一人だな!」
「その一人ってのが、一番難しいだろうがな」
中田は綺麗な顔を曇らせた。
司たちも難しい表情を浮かべる。
緑川聖良。
異世界を誰よりも喜んだオタク少女だった。
しかし殺伐とした中世風世界で心を病み、一時期気が狂ってしまった状態になっていた女性だ。
坂本と中田が無事に帰ってきたのなら、きっと緑川も帰ってこられているはずだ。
念願のこの世界に。
「来ないかもしれん。だが、俺はここで待とう! 思わずここに来た時に誰もいないでは寂しいからな!」
「ええ、私もお付き合いします」
「やれやれ、時間が許す限り僕もここに来ますよ」
ああ、そういう奴らだよなぁ。
司は思わず微笑んでしまう。
異世界に行き、ただの高校生が人を殺さなければいけなかった。
何度も異世界人に裏切られた。
何度も何度も殺されそうになった。
それでも、彼らはそういう奴らだった。
だからこそ司も、変われたのだろう。
妻を、心から愛せたのだろう・・・
「雨にも負けず、風にも負けず」
一人の少年が近づき、そのようなことを言って来た。
司たちは、無意識のうちに身構えていた。
理由はわからない。
だが、本能的にヤバい。
そう感じたのだ。
「雪にも夏の熱さにも負けぬ丈夫な体を持ち、良くはなく決していからず、いつも静かに笑っている。それが人間だ」
渋谷駅周辺が激しい揺れに見舞われた。
スクランブル交差点が割れ、中から次々と黒い肌の巨人が次々と現れ始めた!
「ま、魔族!! ど、どうして!!」
司たちは武器になる物を探したが、現代日本の駅前には、空き缶1つ転がっていなかった。




