②
不思議な感覚だった。
もう60年以上の年月が流れているはずなのに、家に帰ってくると、そのすべてを覚えていた。
下駄箱に入っている靴の種類。
トイレットペーパーは棚の上、買い置きでまとめてある。
廊下は階段の下がベコっとへこんでいる。
庭の物置には使われない釣り竿と、キャンプ用品が置いてある。
ああ、そうだ、冷蔵庫にいつも父親が食べるアイスクリームが入っている。
甘いものが母と自分が苦手でいつまでも置いてあるのだが、久々に盗み食べてみてもいいかもしれない。
「司、何か食べたいものはある? 今日はご馳走よ!」
「なんでもいいぞ、何だったら食べに行くか? 寿司だろうとステーキだろうとなんでもいいからな」
母さんと父さんは、それは嬉しそうに言ってきた。
「ご飯とみそ汁、それと鶏のから揚げが食べたいな」
「よし! じゃ母さん頑張って作るわね!」
「材料はあるかい、母さん。車はすぐ出せるよ」
張り切る二人を見ながら、司は二階の自室へと向かった。
本当は二人ほど子供ができるはずだったので少し広めの部屋。
そこには漫画用の棚、小さな安物のテレビにゲーム機、机には父親のお下がりノートパソコンが開いてあった。
座り心地最悪の椅子に座りパソコンの電源を入れて、立ち上がるのを待ちながら机に置かれていた歴史の教科書に手を伸ばす。
気が付くと食い入るように読みふけっていた。
小さく息をつき、無理やり目を離した。
これがこの世界の歴史。
この教科書があればと、何度思ったことか。
一階では父さんと母さんが帰ってきたようだ。
おーい、お土産買って来たから降りてこーいと聞こえてきた。
きっといつもの「お好み焼きたい焼き」だ。好物だから、よく買って帰っていた。
「・・・・・・」
とっくに立ち上がっていたノートパソコンを使い素早く検索する。
『ユリナ 悪役令嬢』
売れているゲームなので、すぐに画像が出てきた。
眼つきの悪い、いかにも悪役の女性。
その画像に触れる。
「・・・勘弁してくれよ」
言葉にならない失望に、体中が震えた。




