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外伝 その物語の結末 ①


 じいじ、じいじ・・・

 目を開くと、可愛らしい女の子が顔に触れていた。

「やぁ、ニーキかい?」

「じいじ起きた!」


 小さな顔を見て、微笑んだ。

「クゥエかい? 大きくなったね」

 体を起こそうとして、体が動かず改めベッドに身を沈める。

「無理をしないでください、旦那様」

「父さん、無理をするな」


 取り囲む面々を見て少し驚く。

「アカツキ、それにルゥス、アイド。仕事はいいのか?」

「ああ、いいさ」


 親に似ず、立派な髭を蓄えることができたアカツキがごつごつした手を握り締めてきた。

 ルゥスは少し見ないうちにすっかりと禿げあがり、アイドは不健康そうに痩せ細っている。

 3兄弟はすっかりと立派な老紳士だ。


 孫たちの家族、そして曾孫がベッドを取り囲んでいる。


「やれやれ、どのぐらい眠っていたんだ?」

「ほんの数日さ」


 これだけの大騒動だ、数日ではないのだろう。


 もうろくに動かすこともできない手足、いよいよというべきか、やっとというべきか・・・

「アカツキ、お前はアカツキだよな。ワシはこの期に及んでボケてはいないか?」

「ああ、父さん。普通なら意識が朦朧とするらしいけど、父さんはしっかりしているよ」


 しゃがれた、力強い声だ。

「なら、まだまだ死なんのかもしれんぞ。いい加減、母さんに会いたいんだがな」

「そんなことを言わないでくれよ、父さん。まだ世界は父さんが必要なんだ」


 ルゥスは涙声で空いた手を握ってくる。

 鬼の教皇がこのような声を上げているなどと知れば、信者たちは腰を抜かしてひっくり返ってしまうだろうな。


「アイド、兄さんたちと仲直りはしたのか?」

「今だけは。また落ち着いたらケンカするさ」

「立派になったな、アイド」


 孫が次期皇帝候補となっている宰相となったアカツキ。

 教皇となったルゥスは、元英雄一家という肩書ではなく実質的な超名門家となっている。


しかしその中で、アイドだけは音楽家になりたいと家を出て行った。

 だがそう簡単ではなかったらしく、アイド当人は成功しているとは言い難い。

 ところが孫は、比類ない大作曲家として大成していた。


「お前たちもいい年なんだ、子供たちに迷惑をかけるんじゃない」

「ケンカしてるぐらいが丁度いいボケ防止なのさ」


 息子の冗談に笑ってしまうと、咳き込んでしまう。

 お付きのメイドは慌てて水を飲ませてくれた。


「お前たち、世界は相変わらずかい?」


 集まった子供たちは、ああ、もちろんと頷いた。

「戦争に内紛、虐殺に略奪、まだまだ世界には不正が蔓延っているよ」

「何故救いを求める同士が争い、殺し合うのかが理解できないよ、父さん。悲しみは増えるばかりさ」

「皮肉なもの、悲しみが名曲を作る。そうだろ、ヴォイス」

「ええ、お父さん」


 思わず微笑み、頷いた。

「それは何より。まだまだお前たちが成すべき仕事が沢山あるな」


 ああ、死にたくない。

 成すべき吸ごとは多くある。

 それがせめてもの、慰めだ。


「もう随分、母さんと会っていないんだ」


 妻は、50歳になろうかというときに、コロリと死んだ。

 流行り病気だった。

 家を空けている時に、あまりにあっさりとした死に、対処しようがなかった。


 それからというもの、一気にやる気を失ってしまった。

 ありとあらゆる企みごとから足を洗い、妻との思い出の城で、ただ時間が過ぎるのを待っていた。


「いい加減、この丈夫な体が疎ましいよ」

「俺たちからすれば、祝恩さ」


 ルゥスは涙声で強く手を握る。

「あなたの存在が、どれだけ大きいか。年を取ればとるだけ分かってきます。地位や名誉もそうですが、あなたの手に抱かれていた愛がどれほど尊いか・・・」


ああ、父さんが死んだらどうしたらいいかわからない。

 そう言って涙を流した。


 子供たち、その妻、そして孫に家族に、曾孫たち。

 みんながこの役に立たない老人に対して涙を蓄えている。


 死に淵にあり、悲しんでくれる家族に囲まれている。

 ああ、なんと有難いことか・・・


「少し疲れたよ、眠らせておくれ」


「ああ、父さん。大丈夫、ゆっくり休んでくれ」

「愛しているよ、みんな、愛している。ああ、安心して眠るよ」


 再びスッと意識を失った。


 それから、数日眠りについた。

時々目を覚ますが、会話をすることなく再び眠りに落ちた。

そして、一度大きなイビキをかいたあと、静かに命を引き取った。


 ツカサ・モリオウは82歳だった。



 目を覚まし、顔の布を取った。

 明るい部屋だ。

 花の上の台、傍らには大きな仏壇が置かれている。


 ドアを開け入ってきた人物は息を飲み、すぐさま部屋を出て行った。


「・・・えっと、まさか」

 手のひらは、白く小さく、頼りない。

 そこそこの筋骨隆々だった腕が、ヒョロヒョロの腕になっている。


「司! 司!!」

「司!」


 入ってきた女性、そして男性を見て痺れるような寒気が立ち上る。

 そして、その女性はためらいもなく、そして潰れるほど強い力で抱きしめた。


「司! ああ!!」

「か、母さん」


 泣きながら抱き着く母さんを抱き返し、父さんも涙を流しながら力強く頭を撫でまわした。



正直、サボってた

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