第102話 そういう奴
ツカサの居城にはテントが張られ、多くの人々が暮らしていた。
子供や、大人、男も女も、どう見ても乞食から、身分の高い貴族などが驚くことに、肩を並べて暮らしているのだ。
一人の男が話しかけてきた。
「君は領主様の関係者かい?」
戸惑いながら頷くと、混雑していた人々が道を開けてくれる。
「ただ心配で集まった者が多いからねぇ、ご迷惑をおかけしてはいけない」
「どうか領主様の顔を見てあげてください」
「必ずお父さんは目を覚ますんだ、そう思いますよね」
誰もが不安な声をあげ、奥へと導いていく。
「待てよ」
門を守っていた兵が胸ぐらを掴んできた。
「何の用だ、ジョルジュ」
ジョルジュは手を払い睨みつける。
兵士が剣を抜くと、守備兵が集まってきた。
取り囲んでいた民も棒や石などを持ち、逃げようとしない。
無駄だと思いながらも周辺に突風を巻き起こす魔法を起こすが、恐れるも殺されると知りながら動こうとしない。
「やめなさい」
城の扉が開かれ、1人の女性が出てきた。
腕には赤子を抱え、その美しい女性は小さく頷いた。
「待っていたわ、いらっしゃい坊や」
ジョルジュは、剣を抜いたまま不満を隠そうとしない兵士を押しやり、門をくぐった。
城の中にも多くの人が集まっていた。その中には、魔族の姿すらあった。
重厚な階段を上り、立派な扉を横切って小さな部屋へと入っていく。
そこは夫婦の部屋なのだろう、質素な使い込まれた椅子に書類が置かれたテーブル、壁には木や布のレリーフが飾られ、地面には横になれるほどふかふかの絨毯が敷かれていた。
そして大きなベッドには、男が横たわっていた。
いつもそうしているのだろう、ベッドの傍らに座ると、優しく男の顔に触れた。
「ほら言ったものですか」
優し気に女性は男に語りかけた。
「だから多く子を産みなさいと言ったのです。たった一人では、潰しがきかないではありませんか」
その手の仕草は、心から愛している女性を思い出させ、少年の胸に突き刺さった。
腕に抱えていた子が、声を上げて泣き始めた。
女性は母親らしく、優しくあやす。
「ツカサがどのような状態なのか、学者たちもお手上げ。息をしているので死んではいないけれど、体温が低すぎるらしいわ。汗もかかないし、生物ではありえない状態らしい」
そして、女性はジョルジュに目を向ける。
「それでもきっとツカサなら目を覚ましてくれると信じていたのだけど、それも今日までね」
覚悟したように微笑んだ。
「彼を、殺しに来たのでしょう?」
ジョルジュは口を閉ざす。
何をしに来たのかと問われれば、わからないと答える。
理由などない。
とにかく、来なければいけないと思っていた。
だが、その女性の言葉を受けてやっと何をしに来たのか分かった。
剣を引き抜き、ジョルジュは頷いた。
「はい」
言い訳はなしだ。
僕を殺してよかったという世界を作るんだ。
君が、やるんだ。
彼を否定した。
だから、彼が何をしたのかを知らなければいけなかった。
そう、すべてを否定するためにすべてを見ておかなければいけなかったのだ。
「・・・」
彼女は子供をあやしながら、その時を心穏やかに待っていた。
剣を水平に持ち上げ、内で騒ぐ迷いを理性で抑え込む。
この男は多くの人間を戦に巻き込み、多くの人間を殺した。何も知らず死んでいった者たちの無念は誰が晴らすと言うのだ。
この女もそうだ、どれだけの人間を貶め、殺し、奪ってきたのだ。
この女も、この町も、抱いている子ですら殺さねばならない。
悪魔と悪魔の間に生まれた子供、成長する前に殺せることを幸運に思うべきなのだ。
迷うな!
正義のためだ!
怒れ! 憎しみだ! 奴らはすべてを奪った! 殺せ! 殺す権利がある! こいつらが死ねば世界は平和になる! 正義の鉄槌を下すのだ!
剣を持ち上げた瞬間、
不意にツカサが体を起こした。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
変な間が、3人の間に広がる。
「えっと、僕から説明しないといけない感じ?」
ツカサは長く眠っていた事など忘れたかのように、流暢に話し始めた。
「宇宙人が・・・いや、説明は難しいけど、なんやかんやあって二回死ねる体だったんだ。だから体は再生したんだけど、魂はその剣に引っ張り込まれたんだ」
呆然とした2人を残し、彼は楽しげに話を続ける。
「その剣の中は、今まで吸い込まれた魂が未だに消えずに生活していたんだ。人間やドワーフ、エルフや数億の妖精、動物に植物、死のない世界が広がっていた。大冒険だよ。魂の世界ではチート能力使えなくてね。その剣に封じられていた剣の作り手、ドワーフが言うには死んでいない自分の肉体に剣先を向ける事だったんだけど・・・」
呆然とする2人に気が付いたツカサは、首を傾げる。
「えーと、緊迫したシーン? 自分は英雄王だって言う変な奴がいて、そいつと死なない戦いを続けてすげぇパワーアップしてるから、今度は負けんぞ!」
ジョルジュは、剣を投げ捨てた。
「・・・もういい」
うんざりと吐き捨て、その部屋から出た。
最悪の気分だ。
一つだけ分かったことがある。
これからも、これから先もずっとあの男が大っ嫌いだろう。




