プロローグ
争いあう三国があるとする。
三国の王が面会する集会があるとして、例えば一国が顔を見せなかったとする。
それなら残った二国はどうするか? 当然休戦し、共闘して顔を見せなかった一国を攻め滅ぼす算段を付けるだろう。
華やかなる社交界。
そこは暇を持て余した貴族が持て余した時間を楽しむ空間ではない。
燕尾服にドレスは戦場に赴く鎧であり、彼らはライバルを蹴落とし略奪を繰り返している猛者の集まり。決して道楽のために集まったわけではない。
彼らは見ている。
誰が敵で、誰が味方か。誰が出世しそうで、誰が落ち目か。誰が与しやすそうで、誰が曲者か。
穏やかに笑いながら、誰一人楽しんでいない。できれば、このような戦場から早く抜け出したい、出席など誰一人望んでいない。
それでも彼らは笑うのだ。
自国を、領地を、家族を守るために、彼らは笑い、さも素晴らしい娯楽を楽しむかのように立ち振る舞っている。
「ツカサ・モリオウ伯爵。ようこそ社交界へ! 私はグィン・ナラールです」
「グィン・ナラール伯爵、お会いできて光栄です。あなたとはゆっくりとお話がしたかった」
「あら、私とはお話ができませんかしら?」
「まさか、メリオ・センネル子爵。あなたの活躍は聞き及んでいます」
この戦場に、新たなる挑戦者が足を踏み入れた。
周辺国の協力を得て魔族大戦の勝利に多大なる貢献をし、魔族の本拠地アンドリア大陸へ渡り、魔王グランドールを倒して世界を救った英雄。その貢献を認められ、かつて魔族の地であったアンドリア大陸へと渡る沿岸部一帯の領地を得て伯爵となった異世界からの来訪者。
彼らは見極めなければいけない。彼は有益なのか? 害悪となるのか? 所詮戦場帰りの軍人でしかないのか? 彼はこちら側か? あちら側か?
森往司は戦場で学んだ英雄スマイルを駆使しながら、一生懸命「敵に回ったら損するぞ」と思わせることに尽力を続ける。
ここでは異世界転生で得られたチートパワーはまるっきり役に立たない。これなら魔王と戦っていた日々の方がよっぽど楽だった。
そう思いながらも、取り囲む貴族たちの顔と名前を一所懸命覚えようと苦心し続けた。
森往司は奇病にかかり、高校入学と同時に入院、そのまま命を落とした。
気が付くと中世ヨーロッパ風の異世界へと召喚されていた。同じく奇病にかかり命を落としたという10人の異世界人はそれぞれ最強の能力を持って襲い掛かる魔族軍と戦うこととなった。
それはアニメや漫画で描かれるような気楽なものではなく、チート能力を得ていたとしても6人もの友人は命を落とし、1人は精神を病んで病室から出られなくなってしまうほどに過酷な者だった。血で血を洗う凄惨な日々を8年続け、遂には魔王グランドールとの一ヵ月にも及ぶ戦いを制した司が戦いを終わらせた。
世界を救った司は領地を得て伯爵となり、王族の娘と結婚をしてドワーフとエルフの職人が作り上げた美しくも堅牢な城で優雅なスローライフを手に入れたはずだった。
それが、まさか新たなる戦場での四苦八苦する羽目になるとは思いもしなかった。城の中で唯一落ち着ける夫婦の寝室に入り、妻のユリナは微笑み頷いた。
「お疲れ様です、ツカサ。社交界デビューは成功だったと思います」
「そう思うかい?」
妻を抱き寄せ、絞めつけているコルセットの紐を緩めてあげると、彼女は大きく息を吐いた。
「ええ、まさしく世界を救った英雄として振舞われていましたわ」
「それはよかった。正直へとへとだよ。気が休まらない。ユリナ、よく君はあんなことを続けることができるね」
ユリナは愛おし気に司の頬を撫でた。
「困りますわよ、旦那様。あの殺伐とした戦場をお楽しみくださいまし。一度楽しんでしまえば、他にないスリリングさがありますわ」
さすがは生まれながらの王族。
赤毛に近いブルネットを撫で、鋭くキツめの瞳にキスをした。
別に恋愛結婚だったわけじゃない。アニメや漫画ではツンデレ好きだったが、リアルツンは気後れしてしまう。実際結婚するなら大和撫子が理想だ。そしてユリナはどうなのかと言えば、ツンの政治家。
ユリナの母親は先々代の私生児で、政争に巻き込まれ引っ張りだされた人物。ユリナは王位継承順位で断トツの最下位だが、だからこそ野心と陰謀が彼女を育てた。
性格は完全に男、乙女ゲームの悪役令嬢とは彼女のような人物なのだろう。
「ただ少し、英雄にしては迫力が足りませんね。ヒゲなど生やしてみては?」
「ヒゲねぇ」
彼女の手は口元、顎をさすった。
「ヒゲを生やしてもキスしてくれる?」
ユリナは目を丸くして、くすくすと笑う。
「ええ、もちろん」
まぁ、何度か肌を合わせすっかり虜になってしまったのだが。
二人は社交界のドレスをその場に脱ぎ捨て、ベッドへと向かった。
新しい試みに挑戦し、思いっきりスランプに陥ったので、何も考えずただただ指を動かすだけの文章を書いて行こうと思います。
起承転結も何も考えてないので、彼らが歩む先に何が待ち受けているのか、自分もわかりません。
ある日突然更新が止まった時、それが終わり。