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083 例の少年vsソルジャーたち。


「おさじの法則って何?」


「えっ、ニーナ知らないの? 『大きく息を吸って、三秒吐きながら、上手に出来ました』だよ」


「えっ、知らない……」


「んな冗談みたいな法則はいいから! 後はどうすりゃいいんだ?」



 4人と1匹は作戦を打ち合わせ、少しずつ迫って来るソルジャーたちを待つ。


 まずエインズとチャッキーが戦意を喪失させ、その後にニーナとジタが両脇を固める。魔王は鎮圧出来た後でソルジャーたちに語り掛ける。



「魔王様ァー! ソルジャーたちが来ました!」


「ガルグイ様から聞いております、玉座の間にソルジャーを誘い込みます!」


「任せた! すまんが人族の子らよ、魔族に力を貸してくれ」


「当然よ! エインズ、チャッキー、いいわね」



 チャッキーが低く唸り、エインズに力を流し込もうとする。けれどエインズは自我を失うことなく、まだその場でしっかりと前を見据えている。



「えっ、もしかしてチャッキーが弱くなったから、エインズに力が流れない……?」


「ううん、ちゃんと力が流れてくるのが分かる。今までの俺の体と同じ、さっきよりとても軽い!」



 ニーナはエインズの鞄の中にあるエサ用の皿を取り出し、回復薬を並々に次ぐと、疲れたら舐めるようにという。


 舌を出しておそるおそる舐めたチャッキーは、一瞬マズそうに毛を逆立てて後ずさりしたが、仕方ないと舐め始めた。



「来るぞ!」


「エインズ、今よ!」


「分かった! お・さ・じ! ファイアー!」


「うおぉぉ!?」



 剣や斧、銃や弓を抱えた人族のソルジャーたちが玉座へと入って来る。駆け込んで数秒で浴びせられた超特大の火球にソルジャーたちは慌てふためき、その場で立ち止まる。



「あれは……人族!? どうして人族が魔王の味方を……」


「あ、操られているんだ! 人族を殺す訳には、いかないぞ……」


「待て待て! あいつ、そうだあいつだ! 今年の規格外新人、エーゲ村で魔族を追い払った新人だ!」


「あいつが操られるってことは、俺達で敵う訳がねえ!」



 エインズの顔は知られている。


 暗がりの中、ファイアの残煙の中から現れたエインズに前列の者たちが怯む。エインズを操るほどの力があるのなら、魔王はエインズよりも強いと考えたのだ。



「武器を捨てなければ、もう一度放つ事になります! チャッキー、力を」


「かしこまりました。回復薬があまりにも不味いので、出来るだけこの1回でお願いしたいのですが」


「俺も後で疲れたら飲んでみる。そういえばまだ疲れた事なかったから」



 チャッキーがエインズへと力を送り込み、エインズの体が僅かに赤い光を放つ。そしてすぐにエインズがファイアを発動させるが……そこに発砲音が1つ響き渡った。



「キャッ!? ちょっと誰よ!」


「……おい、エインズ?」



 ジタが声を掛けるとエインズがふらりと体を揺らし、右に倒れそうになる。エインズの右肩にあった肩当てが吹き飛び、ニーナの足元のすぐ手前まで転がった。



「おいエインズ、大丈夫か!?」


「だい、丈夫。肩当壊れちゃった」


「ちょっと! 撃つのやめて! 私たちはソルジャーよ!」



 ニーナが猛抗議をする。が、同じようにソルジャーたちもエインズを狙撃した者を特定しようと抗議している所だった。


 荒くれ者が多いソルジャーであっても、こんな所にやって来る以上、それなりの志がある。人族をやむを得ないから殺そうなどと考える者は決して多数派ではなかった。



「エインズ……?」



 だが、こちらにはエインズが自身の全てだと思っている魔獣がいる。


 弱体化などなんのその。チャッキーは怒りに毛を逆立て、目を赤く光らせ、小さな猛獣と化している。その姿はニーナもジタも、魔王でさえも声を掛けるのを躊躇う迫力だった。



「おのれ、エインズ様を撃つとは……許せん!」


「チャッキー、俺は大丈夫だから!」



 チャッキーの怒りがエインズに伝わっていく。チャッキーを宥めようと抱きかかえたエインズも、その瞬間に意識をチャッキーに支配される。チャッキーを抱えたままソルジャーたちへと振り返り、エインズは右手の平を向けた。



「ちょ、ちょっと! 今までと同じくらいエインズに力が流れ込んでない? この殺気、禍々しいオーラ!」


「遠隔操作じゃなく、エインズに触れてしまえば力がそのまま流れ込むのか!」


「みんな、逃げて! 逃げてー!」



 エインズは呪文を口にすることなく、先程とは比べ物にならない大きさの火球を生み出す。その火の玉は周囲の温度をどんどん上げていく。



「エインズ! チャッキー! 落ち着いて!」


「……お」


「お?」


「……さ」


「さ?」


「……じ」


「おさじ!? 今ここで無意識なおさじなんてどうでもいいのよ! さじ加減する気ないじゃない! 止めて!」



 ニーナが叫ぶと同時にエインズがファイアを放つ。玉座の手前から猛スピードで進んでいく火球は、避ける暇もないソルジャーたちに襲いかかった。そして床や柱、火が掠めた部分が黒く焦げ、燭台の炎を揺らして消えていく。



「た、大変だわ! ジタさん、治療にあたりましょう!」


「あ、ああ……」



 魔獣にとって相手が誰なのか、どういう存在なのかは関係ない。エインズを傷つける者すべてが敵なのだ。まだチャッキーの怒りは収まっておらず、エインズの目は倒れ込むソルジャーたちを見据えていた。



「くっ……間に合ったか」



 そんな倒れ込んだソルジャーの中から、数人が立ち上がる。よく見るとその場にいる者たちは、多少やけどをしてはいるが、焦げたり死んだりはしていない。


 魔法使いが数名、咄嗟にその場を魔法障壁で守ったのだ。



「良かった……みなさん! 武器を捨てて下さい! 今の一撃で分かったはずです! 攻撃したら反撃されます、あなたたちが束になって、勝てますか?」


「か、勝てねえ……」


「そう、そうなの! 勝てないの! 勝てないわ、絶対勝てない! だから私たちはこうしてここにいるの! ひとまず武器を捨てて! そしてさっきエインズを撃った人はすぐに謝って! じゃないと次が来ちゃうわ!」



 エインズを撃ったという中年のソルジャーが起き上がり、そして肩を庇い、足を引きずりながら前に出る。そして掠れた声でエインズへと謝った。



「も……申し訳ない、操られているのなら、撃って止めるしかないと……手当はする、申し訳ない!」


「チャッキー、聞こえた? 聞こえたわよね? ええ聞こえていたはずだわ! お願い、落ち着いて!」

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