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082 例の猫が魔王城決戦の鍵。


 城内を魔族たちが駆けまわる足音がする。外はワーワーと声を荒げて騒いでいるようにも聞こえる。


 何か事件があったのかと耳を澄ませるエインズたちの許に、1体の魔族が駆け込んできた。



「魔王様! た、大変です! そ、ソルジャーの大群が!」


「なんだと? そんな、何故人族の方から連絡が入らない! ガルグイ、先程人族と連絡を取ったはずだろう?」


「は、はい、しかし向こうは何も言っておりませんでした……情報を掴んでいなかったと思われます」


「魔王様ァー!」



 壊れた玉座の間に続く扉に驚きつつ、また1体の魔族が駆け込んでくる。



「うおっ!? まさかもうソルジャー共がここまで……扉を破壊するとは」


「あーそれは関係ないのだ。それで、何か情報でも」


「はい! 自治区へ入る為の門が壊され、ソルジャーがなだれ込んでいるとの情報が! 警備の者が縛り上げられ、情報がこちらに伝わるのが遅れたと」


「何だと!?」



 エインズとニーナに、真実を伏せてくれと頼み込んだところだが……伏せるも何も、もう争いは避けられない。引き下がれないところまできてしまったようだ。



「城下の者は避難させたか!? 城の裏の山にお前らも今すぐに逃げろ! しかし、何故今になって……」



 この襲撃の原因は、実はエインズたちにあった。


 ・ダイナ市のソルジャー試験で試験官が唖然とするような結果を出した。


 ・各地で規格外の魔法発動を行い、ジュナイダに入国してからはドワーフを驚異的な破壊力を示して倒した。


 ・エーゲ村では、魔族をたった2人で追い払った英雄だと崇められている。


 そのエインズが魔王討伐に向かっているのなら、今がチャンスだとソルジャーが押し寄せているのだ。


 エインズたちが自治区に入ってから2日の差で、ソルジャー協会が指揮を執り、軍ではなくソルジャー部隊が数百、数千、集まれるだけ押し寄せていた。



「大変だ! とにかく、魔王様を倒させるわけにはいかないよ! ジタさん、魔王様、ガルグイさん、早く逃げて下さい!」


「そ、そうですよ! わたしたちがもう倒しました、もういません! って嘘をついておきます!」


「そんな事をしても、いずれバレてしまうことだ。流石にここまで大々的に襲い掛かられたなら、魔族の側からも協定に不満は出る。命を落す者も……」


「対抗するって言っても、お互いに死傷者を出す訳にはいかないわ。戦いになれば必ず誰かが傷つくのよ」



 出来る事なら戦いは避けたい。表では既に好戦的な一部の魔族が人族を襲いに行かんとしている。並のソルジャーと魔族であれば、魔族の方が強いだろう。


 ただ、ソルジャー側の数からして、魔族の犠牲も0では済まない。



「ねえ、話合い出来ないかな。俺たちは人族なんだし、魔王様は何も悪いことしてないんだよって説明しなきゃ」


「そうね、ソルジャーはきっともっと押し寄せてくるわ。魔王様、こうなってしまったら、どのみち魔族が減ってしまって、均衡は崩れます。真実を語りましょう!」


「……それは、俺の一存で決めていいものではない」


「こっちにはエインズという最強の味方がいるんだし、いざとなったら黙らせるだけ……あああ! そうだった、エインズはもう普通の人族になっちゃったんだわ!」


「その通りでございます。おめでとうございます、エインズ様」


「うん、有難うチャッキー」


「じゃなーい!」



 1時間ほど前までなら切り札になり得たエインズも、今はチャッキーの首輪によって普通の人族に戻っていた。弱体化、すなわち完全に封じる事は出来ていないため、若干は身体能力が高いにしろ、とても大群を黙らせるには足りない。



「首輪、外れないのよね?」


「外せないみたいだ。多分、俺の力が弱くなったせいで、無理矢理取ることは出来ないみたい」


「頭からも抜けないのよね、ああ、どうしよう!」


「エインズの全力で外れないって事は、今まで抑えていたつもりだった普段の力より、今の全力の方が弱いって事だな」


「ええ、小瓶も割れなかったみたいだし」


「えっ? 小瓶なら全力は駄目だからって、ちょっと握っただけだよ」



 ニーナとジタは互いに顔を見合って頷く。



「もう1回、怪我しないように少しずつ力を入れてみて」


「うん、わかった……あっ、割れた」


「やっぱりね」



 ニーナはもう一度頷き、魔王やガルグイにも手招きをして、作戦会議を提案する。



「魔王様はここにいて下さい。玉座の間の入り口からは、あまり明るくないから狙撃も難しいはずです。ガルグイさんは、人族がこの部屋に入ってくるよう、今すぐに戦おうとしている魔族を誘導してください!」


「分かりました、偵察も兼ねて行ってまいりましょう」


「俺はどうしたらいい」


「ジタさんは人族に見えるし、俺達と一緒にいた方がいいんじゃないかな」


「そうね。……いや、魔王様が強いんだと思って貰えるように、操られているふりをするのはどうかしら。私も一緒にするから」



 ガルグイが玉座の裏から出ていき、ジタとニーナは玉座のすぐ下で武器を構えて待機することにする。魔王は玉座で待つのだ。



「俺は? 俺とチャッキーは?」


「本当は首輪を外して、人族の皆の戦意を喪失させてほしい所なんだけど……。エインズ、全力で魔法を唱えてみて! ここは広いし、力が抑えられているから大惨事は免れるはずよ」


「分かった。……ファイアー!」



 エインズはファイアを唱える。広い空間の中、一瞬背丈の倍ほどもある火球が生まれるが、以前草原で披露した威力の半分程に思えた。



「という事は、ドワーフやサイクロプスの時のようにチャッキーが操ったら、弱体化したチャッキーの力であっても、今までのエインズの全力くらいは出せそうね」


「操ると言われましても……」


「チャッキー、今まで全力を出したいなんて思ったことなかったけど……チャッキーが頼りなんだ。俺を操って見てよ」


「え、エインズ様が……これからもわたくしを頼って下さる?」


「そうだぜチャッキー、これからはエインズの力になりたい時になれるんだぜ?」



 チャッキーの普段から丸い目が一段と大きくなり、その瞳がキラキラと輝く。魔獣らしさなど微塵も感じさせないが、チャッキーはやる気になったようだ。



「承知いたしました。わたくしとエインズ様が共に戦えば、ソルジャー共など一瞬で焼き尽くして見せますよ!」


「なんだかいきなり発言が魔獣っぽくなったけど。焼き尽くしたらそれはそれで後々問題だから焦がすだけよ」


「いや、焦がすのもまずいだろ。人族の仲間意識どうなってんだ」


「今度こそ、さじ加減を発揮する番だね!」


「エインズ様、『お・さ・じ』の法則をどうぞお忘れなきよう」


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