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077 例の少年に絶望を。



* * * * * * * * *







「はい次」


「身に着けると腹痛がおきる、外せない」


「はい次」


「身に着けると死の宣告がかかる。24時間で外せないと死ぬ」


「はい次」


「身に着けると魔物になる、元には戻れない」


「外せないというか、そうなると自分で外すことはなくなるな」


「はい次!」



 2時間が経ち、殆どのアイテムを調べ終わった。結局似たような効果のものはあったが、力を抑えるという条件のものは見つかっていない。


エインズは今にも泣きそうだ。



「えっと……効果はじわじわと毒が回り死ぬ……。人族や魔族用のものはこれで終わりだ」


「え、あとはもうモンスター用の捕獲道具だけよね? 首輪が4つ……」


「人族が使えるものは無いな」


「ちゃ、ちゃんと目録で確認しましょう? エインズを落ち込ませるような事は言わないで!」



 エインズはもう希望を持っていないのか、膝を抱えて座っている。その横ではチャッキーが心配そうに体を擦り付け、頬を舐めていた。



「エインズ様、わたくしがいつでもお手伝いいたしますから。それが精霊の役目なのです、わたくしはエインズ様のお役に立ちたいのです」


「……チャッキー、エインズはチャッキーに頼らなくてもいいようになりたいのよ」


「そういえばチャッキーが魔獣かもしれないって話はどうなった?」


「今はそれどころじゃないと思うんですけど。残りの効果は?」


「……体力を奪って殺す、麻痺させる、毒を与える、弱らせる……」



 魔王たちは最後の4つの効果を確認し、少し悩むような素振りを見せる。けれど最後の効果を聞いたニーナは、どうやら試す価値があると判断したようだ。



「ねえ、最後の首輪って、首にはめないと駄目な訳じゃないのよね」


「部位を限るようなことはないはずだ。そうだな、弱らせるというのがどの程度かは分からんが、エインズに覚悟があるのなら……」


「だ、駄目です! エインズ様にそのように危険なものを渡す訳にはいきません!」



 膝を抱えたままのエインズは動かない。希望している呪いではないのなら、流石にエインズが望まない限り渡せない。



「エインズ、どうする? えっと……首輪だけど、手首や足首なら大丈夫かな」


「エインズ様にそんな、ペットのような道具を身に着けさせるなど! わたくしはどうしても許すことが出来ません!」


「いいんだ、チャッキー。俺が言い出した事なんだから、俺が決めるよ。みんな俺の為にこうして集めてくれたんだよ」


「ですが……」



 エインズは心配するチャッキーを撫でてから立ち上がる。魔王の手には弱体化のこうかがあるという赤い革製の指輪。取り外し不可とは書かれていないものの、その効果の程度は全く分からない。



「エインズ様、一度村に持って帰り、ご両親に相談なさってからでも」


「ううん、今やってみよう。ちゃんと覚悟なら決めたよ」



 エインズは小手を外し、腕を魔王へと差し出す。先程は思わず革の腕輪をはめてしまったが、今度は自分ではめようとして壊すのを気にしているようだ。



「お願いします」


「……分かった。一応確認をしておくが、このことで人魔の戦いが勃発するような事になると困る。人族の代表に連絡を取っておく」


「分かりました。どんな結果になっても、俺は魔王様を恨んだりはしません」



ガルグイが連絡をとるため玉座の間から出ていく。エインズたちが魔族の秘密を知った事も、おそらくは伝わる事だろう。



「はめるぞ、一応は横になっていた方がいい。急に脱力して倒れる可能性もある」


「分かりました」



 エインズは床に寝そべって、体の力を抜く。その左腕には赤い革の首輪がはめられた。黒い革紐を編むように端の穴に通して結ぶと、エインズに確認を促す。



「どうだ。嵌めてみたが、体の具合は」


「具合……特に何も変わりません」


「試しに何かを掴んでみたら? えっと、じゃあ試しにこれ」



 ニーナはそう言って、自分のカバンの中から使い終わった回復薬の小瓶を取り出す。分厚い青色の小瓶にはコルクの栓が付いている。エインズがそれを粉々にせずに外せるのなら、力を制御できるという事だ。



「体が重くなっていたり、起き上がれないなんて事はない?


「うん、それは大丈夫。動けない程弱くはなっていないんだと思う。むしろそれくらい効果があってくれた方が助かるんだけど」



 エインズは体を起こし、ニーナから小瓶を受け取る。コルクを外せるのか……。弱体化の効果があるのだから、弱くなっているのは確かだが、思ったほどの効果がないかもしれない。


 元の力をどれくらい削るのかまでは分からないのだ。



「じゃあ、やってみます」



エインズが手の平に乗せた小瓶を慎重に握り、コルクをつまもうとする。


 が。



「えっ」



 小瓶が鈍い音を立てて割れ、エインズの手の平から破片が零れ落ちる。全く怪我をしないというのも驚きだが、小瓶を握り潰してしまったことに、その場の全員がショックを受けていた。



「え、エインズ? 今、思いきり力を入れたのよね、そうよね?」


「まさか、効果なしということは……。失礼ですが、呪いには有効期限があるのでしょうか」


「そんな筈はねえよ、エインズの力を抑えるには効果が足りなかったか……」



 小瓶を握り潰してしまったエインズは、その手の中の破片を見ながら、少しずつ涙が零れてくる。確かにあるのかないのかを確認しないままやって来て、先程は存在しない可能性も考えていた。


 けれどこうして実際に腕輪はおろか、指輪も首輪も存在しなかったと分かると絶望しかない。


 普通であれば誰もが憧れる力、頑丈過ぎる体。それはエインズには不要なものだ。夢が目の前で消えてしまった悲しみは涙となってあふれ出てくる。



「う、うう……うわぁぁ!」


「エインズ様、エインズ様! 少なくとも今までより悪くはならないのです」


「そ、そうよエインズ。もしかしたらこの城に無いだけで、他の場所にあるのかも。そうでしょ?」



 皆で必死にエインズを宥め、数分ほど声を掛け続けて落ち着くのを待った。落ち込んではいたものの、エインズは次第に落ち着きを取り戻しはじめ、ジタに腕輪を外してほしいと頼んだ。



「いいのか?」


「……うん。全然変わってなかった。ねえ、ニーナは? ニーナはこの小瓶を割れる? 失敗することはある?」


「えっ、私? 私は……」


「ねえ、小手をしたままでいいからニーナも、みんなも小瓶を割って見せてよ。俺だけじゃないんだって、今は……俺だけじゃないんだって慰めでも安心したいんだ、だから本当の力を出して見せてよ」


「えっ……ええー……」



 困った展開になってしまい、ニーナは困って考え込む。回復薬の空小瓶は、飲み干せば幾つも用意できる。けれど問題はそこではない。


 エインズの信じている嘘を、証明してあげることが出来ない。要するに割る事が出来ないのだ。


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