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076 どれが例の腕輪でしょうか。


「あの、それで……腕輪はどこにあるんですか? 手分けして探しましょうよ」



 ニーナはどれか分からないのなら、手あたり次第確認しようと提案する。だが、目録を確認している魔王やジタはあまり乗り気ではない。



「あの、もしかしてあまり触っちゃいけない代物だったりとか」


「……違う。その、あの少年には悪いのだが」



 魔王はとても言いにくそうにして目録を棚に置く。もしかすると腕輪だけで何百とあるのか、それとも紛失してしまったのか……あまり良い言葉が続かない事を察して、ニーナの表情も曇る。



「……マジで心当たりがねえんだとさ」


「え?」


「力を抑えるだとか、封じるだとか、そういう呪いを込めた道具は確かに聞いたことがある。けど呪術道具の一覧には腕輪なんて載ってねえんだ」


「どういう事? じゃあエインズは? ここまで来てエインズがそれを知ったら……」


「可哀そうだが、その……怪力を抑える練習をしてもらうしかない」


「無理よ、だってエインズが力加減に成功した場面なんてなかったじゃない! ジタさんも知っているはずよ? 自暴自棄にでもなったら……」



 世界は破滅だ。



「分かってる、何か似たような効果がある呪術道具はねえのか? 呪符でもいい、何か……」



 蝋燭の明かりに灯された室内を進むと、呪われたアイテムが保管されている一角がある。その中から目録の説明書きに従い、似たような効果があるものを探し出そうとする。



「ああ、呪術に慣れてねえ奴が触るとお前が呪われるぞ」


「えっ!?」



 ニーナが何の気なしに壺に手を掛けようとすると、ジタが慌てて制止する。触れるだけで呪われる、しかもその効果をちゃんと確認していないとなれば、ニーナはその棚に安易に近づけない。


 一度はめたら最後、解呪できるまで外れないものまである。


 ジタと魔王とガルグイが目録に従い探して暫く経ち、魔王は腕輪、指輪、イヤリング、首輪など、とりあえず輪になったものを一通り持って戻って来た。



「腕輪が7点、指輪が46点、イヤリングが22点、首輪が4点、芸術品が23点、調理器具が6点……この中からそれらしい効果のものを選び出すしかないな」


「とりあえず輪っかになっているものを全部持ってきたぜ」


「私が目録にある特徴と、効果を読み上げましょう。一度少年が待つ玉座の間へと戻りましょうか」


「結構な数になっちゃったわね……どんだけ呪う気なのよ昔の魔族は。とりあえずそうしましょう。きっと楽しみに待っているわ」


「この中になかったら処刑と一緒だけどな……仕方ねえ」



ニーナたちは廊下を来た方へと戻る。玉座の間へと入る扉だった場所からは、エインズが顔を覗かせている。やはり気になって仕方がないようだ。



「ニーナ! 腕輪は? 腕輪は見つかった!?」


「え? ええ……腕輪はあったんだけど、どれがエインズの力を抑える呪……効果があるものなのか、分からないのよ。だから色々と持ってきたの」



 魔王とジタとガルグイがそれぞれ抱えていた分を床に置いて並べていく。腕輪以外にも色々あることに気づいたが、もうエインズはそのどれが腕輪か、そうでないかなどどうでもいい。



「そっか、片っ端から腕にはめて確かめればいいんだね!」



 エインズはそう言って、一番近いものをひょいっと手に取って腕にはめる。



「あああ何やってんの、何やってんの! あんた迂闊にはめたら呪われるのよ!?」


「えっ、呪い!? うわっ、怖っ」



 そう言ってエインズは革製の腕輪をすぐにむしり取る。



「あー危なかった、呪われるところだった。もう、最初に言ってよ!」


「まさか手に取るとは思わないじゃない! ……って、エインズ今自分で外した?」


「腕輪くらい自分で外せるよ、子供じゃないんだし」



 呪いの腕輪をまさか自身の物理的な力で剥ぎ取るとは。魔王たちも目が点になっている。



「あの……差し支えなければ今の腕輪はどのような呪いが掛かるのでしょうか。わたくし、エインズ様のお体が心配で」


「今の革の腕輪は、1日一回、血を浴びたい衝動に駆られるようです」


「……エインズから遠ざけて、早く!」



 ニーナに促され、ジタは慌てて脇へと放り投げる。するとその動きに本能が目覚めたのか、チャッキーがすぐ追いかける。



「ちょっとチャッキー、駄目だよ呪われちゃうよ」


「はっ、申し訳ございません。目の前を素早く動くものをどうにも追ってしまうクセがありまして」


「……よくもまあ猫扱いするななんて言えるわね。じゃあガルグイさん、特徴と効果の読み上げお願いします」



 魔王はひとまず玉座に戻り、その前でガルグイが目録を読み上げ、ジタとニーナとエインズが対象の腕輪を探す。もっとも、触れることが出来るのはジタだけだが。



「赤く、黄色い一本線が中央に入った腕輪」


「はい! あったわ!」


「はめて念じれば相手が死ぬ腕輪です」


「怖っ! 何で大事に取ってあるんですか! さっさと次に!」


「黒い金属の、翼が描かれた腕輪」


「あったぜ、効果は」


「はめてゲインゲインと唱えると、半径5メータ以内に死が訪れる」


「はい次ィィ!」



 死が訪れる、石化する、猛毒に侵される、殺戮衝動に駆られる……どれもこれも物騒な効果ばかりで、簡単な呪いでも眠り続ける、喋ることが出来なくなるなど、日常生活に支障をきたすものばかりだ。



「腕輪はこれで最後ですね。金色の……」


「とうとうこの腕輪が……夢にまで見たあの……!」


「こ、効果は? 力を奪うとか? 力を入れられなくなるとか?」



 エインズだけでなく、ついニーナも前のめりになる。しかしガルグイの口からはため息が漏れた。



「知能が下がる……です」


「えっ?」



 エインズは信じられないと言った表情で、笑顔とも困惑とも取れない顔のまま固まる。つまり、エインズが探している「腕輪」は、この城には無いという事だ。



「だって、腕輪が、腕輪が……」


「ま、まあ待て! 腕輪じゃなくて、語り継がれる間に誰かが言い間違って、本当は指輪だったかもしれねえだろ? そっちの芸術品みたいに、腕にも通るから間違った可能性もある」


「そ、そうよエインズ、まだこれだけ試せるものがあるんだから、大丈夫よ!」



 まさかこの城に腕輪がないとは思っていなかったエインズは、もしかするとこの中に無いのではと不安になる。唯一力加減なしで触れることが出来るチャッキーを抱きしめ、残りの鑑定を待っていた。





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