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075 貯蔵庫に例の腕輪が……?


 正面の扉よりは小さいごく普通の扉。実は開けた先に強大な敵が待っているだとか、そのようなシーンにも見える緊迫の一瞬。


 実際はドアノブを回すだけなのに、こんなにも緊張する事などそうそうない。


 エインズがそろりと手を添えあまり力を入れることなく掴むと、案の定ドアノブは指の形をくっきり残して変形していく。


 ほら言ったじゃないかと涙目になるエインズは、チャッキーに励まされながら渋々ノブを回した。



「うおっ!?」



 確かに手の動きを見る限りではドアノブを回したのだが、扉の留め具はおろか扉そのものが回転しながら割れてしまう。エインズの手元には元が何だったのか分からない金属の塊が残された。



「ドアノブどころの話じゃないぞ、一体何をやったんだ?」


「ど、ドアノブを回そうとしたんです……。5歳の時にはドアノブが千切れるだけで済んだのに、どうしよう、俺コントロールが下手になってるのかも」


「心配御座いません。あの時はきちんと加減をなさった結果なのですから」



 視線の先には鉄の扉だったものが外側に倒れている。10年ぶりのドアノブ回しは失敗に終わった。まあ当然である。



「ご覧いただけましたでしょうか。エインズ様はこのように日常で大変な苦労をなさっているのです」


「は、はははっ、そ、そのようだな……。ふむ、ちょっと失礼、ジタ、ガルグイ、話がある」



 魔王はエインズ達から距離を取って、ジタとガルグイへと手招きをする。



「ど、どうしよう、何あれ、何あれ! 正面の扉もひょっとして渾身の力で技か何か使って壊した訳じゃないってことか!? えー聞いてないよそこまで怪力だなんて!」


「魔王様、さっさと腕輪を渡して帰っていただく方が宜しいかと」


「オヤジ、腕輪に心当たりはあるのか? エインズから話を聞いたとき、そんなものあったかと考えてもみたんだけどよ、貯蔵庫の目録でもみねえとわからねえ」


「俺も困っているんだ。力を制御する腕輪があるなどと言った覚えもない」



 魔族側はその場で協議をはじめ、腕輪を渡すという事自体は同意したようだ。何なら無条件でもいいとさえ思っている。万が一条件を巡って争いになり、自身が負けるようなことがあれば魔族全体を巻き込む一大事だ。


 ただ、それもその腕輪があればの話。


 もし腕輪がなければ、やはり同じ結果になる事も考えられる。魔王は焦っていた。



「チャッキー、壊れてもいい頑丈なものって言ってもやっぱり壊しちゃ悪いし、そうだ! 魔王様と腕相撲とかどうかな」


「腕つながりとはいえ、魔王様が壊れてしまうのは、人族と魔族の関係からしてまずいと思うのですが」


「やだなチャッキー、魔王は強いんだよ? 怪我なんてするはずがないよ!」


「そうですね……確かにこれだけ人族に恐れられるという事は、それなりに何か根拠が……。魔王様に勝てたなら、それはそれでエインズ様の強さの証明になる……強ければ魔王様はエインズ様をお認めになる」



 エインズを全肯定してしまうチャッキーも、腕相撲案に同意してしまいそうだ。これは早く魔族側に動いてもらうしかない。それまで……もしくは世界が崩壊するまでの時間稼ぎができるのは、この場ではニーナしかいない。



「え、エインズ? この期に及んで勝負はまずいと思うの。もしエインズが負けちゃったら? 魔王が弱いソルジャーに従うはずないのよ? それにジタさんのお父さんと勝負だなんて」


「そっか、そうだよね。やっぱり魔王は強いんだから、俺なんかに負けるはずがないよね。ニーナもチャッキーも有難う、他の手段を考えよう」



 何でも言う事を聞く良い子に育って本当に良かった。そしてニーナは密かに魔王を救った。救世主はニーナかもしれない。


 そうこうしているうちに、魔王たちは話し合いの結果が出たようだ。落ち着きを装って咳ばらいをし、エインズへと澄ました顔で内容を告げる。



「う、腕輪……と言っても色々持っていてな。生憎どの腕輪の事を言っているのかが分からない。どのような見た目のものだろうか」


「え、見た目……見た事はないんです」


「どのようなものか聞いていないのか? そもそも誰に聞いたのだ」


「村のおじいさんが、かつて村を訪れた旅のソルジャーがそう聞いた事があるって話してたのを、聞いた昔の村長から、聞いた村人の話を教えてくれたんです。魔族との争いの時代に、捕まって拘束されて力が出せなかったって」


「おじ……どこまで本当の話か分からんが、あるとしたら呪いの類か」


「確かに、呪術を掛けた道具もその頃には多く作っていたはずですね。魔王様、貯蔵庫にもしかすると」



 ジタは知っていたにせよ、あるかないかも確かめず、まさか噂を信じてここまで来たとは魔王もビックリだ。心当たりが無いのも無理はない。



「そなたはここで待っていろ、壊されては困るものが色々とあってな。他の者は俺と一緒に貯蔵庫へ、それらしい腕輪を探す」


「エインズ、チャッキー、ちょっと待っててね。必ず見つけてくるわ」


「うん! 何個かあったら、ニーナも1つ貰えるといいね」


「えっ? あ、そうね」



 エインズはニーナも力をコントロールする必要がなくなり、楽になるだろうと気を使ったつもりなのだ。


 魔王たちは壊れた扉を踏みながら廊下へと出て、厳重に警備されている貯蔵庫へと向かう。もうすぐで腕輪が手に入ると信じてやまないエインズは、とても嬉しそうにチャッキーを撫でていた。





* * * * * * * * *





 魔王城の貯蔵庫。そこは古の頃から受け継いできた呪術の道具や心霊現象を見せる絵画、宝石や人族との争いの中で奪った金品財宝が眠っていた。


 人族には価値の分からない古木や、どう見てもゴミにしか見えない鉄くずなどが国宝として眠っている。腕輪の1つや2つくらい簡単に見つかりそうに思える。



「すごい……いっぱいある」


「すげえだろ。人族でここに入ったのはお前だけだ。ニーナ、ここにある宝の事を絶対に口外すんなよ」


「分かったわ。それにしても宝石の飾り方は雑なのに、この……何かの塊はケースに入れられて、とても厳重に保管されているのね」


「それは魔族をまとめた初代魔王、サタンが握りつぶした金属カップだ。いつ見ても感動するぜ。握りつぶし方にもこだわりを感じる」


「……へえ、そうなの。すごいわねー」



 その価値が全く分からないニーナは、感動のポイントも分からない。サタンの没後666周年に植えるはずだったけれど植えなかった種や、サタンの足の親指の爪の切りカスなど、どう感動したらいいのだろうか。

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