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072 例の腕輪を下さい。


 巨大な扉は上部が折れて倒れ、床が大きく揺れたと同時に視界がゼロになるほど扉の破片が埃となって舞う。ごめん下さいどころではない。きっと第一声がごめんなさいだったとしても済まされない。



「ここに来るまで、あんなにさじ加減が大事って言ってたのに、一番粗相しちゃダメなところでこれ?」


「だっ、だって、くしゃみする時なんて加減できないよ、こんなつもりなかったし……」


「ニーナ様。例えばお食事中であっても、くしゃみや咳をする時はお行儀よくさじを置くものですよ。エインズ様はくしゃみをなさるため、おさじを置かれたのです」


「そ、そうだよ! さじ加減はノーカンだよ」


「置くどころか盛大にぶん投げておいて何言ってんのよ」



 呆然とその様子を見ていたエインズとニーナ、そしてまさか自分のせいではと両手の肉球を確かめるチャッキー。そんな3人を魔王もまた、呆然と眺めていた。



「ええー……、何あれ、もしかして扉を壊したってこと? えー嘘だろあんな頑丈な扉が壊されるなんてどんな怪力なの……どうしよういざ勝負なんて言われたら」



 重機でもなければ壊されるはずがない扉。もちろん、魔王だってそんな力はない。魔王は魔王らしく振舞う事も忘れ、想定以上の強さのソルジャーが魔獣に連れられて乗り込んできた(という勘違いをしている)現実に戸惑っている。


 その横では鮮明になる人影を見て、途端に笑顔になるジタの姿があった。ガルグイに肩を掴まれ、念のためと言われ手枷をされているせいで駆け寄る事は出来ない。それでもジタは今の状況を喜んでいた。



「エインズ、ニーナ、チャッキー! ここだ!」



 50メータ四方はありそうな玉座の間は天井も高い。薄暗いその空間にジタの声が良く響く。



「ジタさん!? ジタさんそこにいるの!?」


「ごめんなさいお家壊しちゃいました! 魔王さま、ジタさん、べ、弁償するので怒らないで下さい……」


「建付けがあまりよろしくなかったようで申し訳ございません、わたくしのノックがどうやらまずかったようです!」


「いいっていいって! ほら、早く入って来いよ!」



 ジタの明るい声に、エインズとニーナは少し緊張と申し訳なさが薄らいだのか、忍び足で倒れた扉の上を歩き、誰にも聞こえない程度の声でおじゃましますと口にした。



「おいジタ、お前は魔獣に支配されていても傷つけられる事は無いんだよな? な?」


「はぁ? おめえエインズに洗脳されたとか何とか言って俺を監禁したくせに、今度は魔獣に支配されてるだと? てめえ自分の子供を侮るのもたいがいにしろ!」


「ジタ様、魔王様へそのような口の利き方……」


「てめえもだガルグイ! これで俺が操られてなかった時、覚悟は出来てんだろうな? あ?」



 ジタはエインズ達がやって来たことで態度も大きくなる。エインズなら魔王よりも強い。何ならジタだって敵わない。


 ちっとも話を聞いてくれず、洗脳されていると決めつける魔王やガルグイより、エインズたちの方がよほど頼りになると考えているようだ。


 そう言い合いをしているうちに、エインズたちがビクビクしながら入って来る。本当はもっと恐ろしさを演出するために、レイスやその他魔族が部屋の両脇からわらわらと出てくる筈だったが……


 重たい鉄の扉を簡単に壊すようなソルジャーが現れて、なお呑気に出て来れる魔族などいない。



「じ、ジタさん!」


「連れて行かれちゃって心配していたんです! ねえ、聞いてジタさん! 魔王軍ったら酷いの!」


「ジタ様が去った後、ミノタウロス、サイクロプス、その他の軍の魔族たちが、魔王様の存在もジタ様の存在も蔑ろにし、わたくしたちを襲ったのです」


「あ、それよりあの、あの! ま、魔王さま! は、初めまして、え、ええ……エインズ・ガディアックです、あのその……」


「あ、そうだったわ、わ、私、ニーナ・ナナスカです! 一応、エインズの付き添いで……」



 魔王らしい甲冑、魔王らしいマント、魔王らしいステッキ……いかつい顔に、ジタに似た肌の色。扉を壊したこともあって、2人とも魔王との対面に緊張している。


 どんなにエインズが強いと分かっていても、流石に魔王の方が弱いとは思っていないようだ。



「わたくし、エインズ様の忠実なる精霊、チャッキーでございます。この度は我が主、エインズ様と共にお願いに上がった次第でして」



 チャッキーがエインズの腕の中から飛び降り、2本足で立ち上がって自慢のふらふらとしたお辞儀をする。流石に物怖じしない訳ではないのか、チャッキーはお辞儀を終えるとすぐにエインズの腕の中に戻った。


 魔王はもう台本の中身などすっかり頭から飛び、この状況ではチラ見する事も出来ない。出来るだけ威厳を保とうと表情だけはキリっとさせ、魔王はエインズたちを1度睨んだ。



「お前たちが噂されているソルジャーだな。魔獣に連れられいい気になっているようだが」


「う、噂?」


「ほら、ジュナイダに入る時も、特別自治区に入る時も、結構強引だったじゃない? 私たち。噂になってるのよ」


「そんな! 噂届けるくらいなら、腕輪下さいって誰か言ってくれても良かったのに! 腕輪が欲しいって言ってましたよって、10万とか、20万とか、お金払ってでも欲しいと言ってましたよって」


「あの、わたくしを魔獣とおっしゃるのはやめていただきたいのですが」


「そんな事よりお前ら、オヤジに説明してくれよ、洗脳なんかしてねえって」


「えっ? 洗脳? あー何か魔王軍の誰かも言ってた気がするわ。あとエインズ、腕輪の件は秘密だったでしょ? 噂としては届かないわ」


「あの、だから腕輪貰えると聞いてやって来ました! お金も少しありますから!」


「わたくし、エインズ様の精霊として参ったのです、いくら魔王様といえど、魔獣呼ばわりは無礼にも程があります」


「だー! やかましい!」



 それぞれが全く違う事を好き勝手に話し始める。ただ問答無用で斬りかかって来ないと分かり、魔王はまずニーナから話を聞くことにした。この中で一番話をよく聞いていたからだ。



「貴様、ここに何をしに来たのかを問おう。魔獣に導かれ、しかし従者と呼ぶにはいささか忠誠心が足りない。お前らはいったい何だ」


「あっ、えっと……私とエインズはソルジャーで、その、てか用があるのはエインズなんですけど」


「エインズ? その少年のことか」



 魔王はギロリとエインズを睨む。エインズはビクッとし、思わずチャッキーを抱きしめる。薄暗い室内は誰かが柱の燭台に明かりを灯したのか、次第に明るくなっていく。



「魔獣の従者は貴様だけか」


「えっ? あの、チャッキーは俺の精霊で、あの、話を聞いて下さい!」



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