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071 例の少年、まだ玉座の間の前にいます。




* * * * * * * * *






「魔王様、そろそろ玉座の間へ……」


「何、本当に来たのか。城内の演出は大丈夫か」


「はい、無意味に霧がかったような門前、無意味に黒い装飾品、無意味に暗い照明、すべて滞りなく準備できております!」



 魔王城、いや、人族向けの演出がかった区域ではなく本来の魔王城。そこでは魔王が魔王っぽい黒い鎧に、魔王っぽい赤いマント、魔王っぽいステッキを持って最終チェックを行っていた。


 何故か若いソルジャーたちは出会う魔族を皆味方につけ、邪魔をしてもするりと抜けて来てしまう。人族側の妨害もほとんど役に立たず、魔族側もお手上げ状態。魔王自らが出迎えなければならない時が来てしまった。



「なあ、問答無用で斬りかかってきたりはしないんだろうな? この服装では重くて動きづらいのだ」


「基本的には反撃しかしないおどおどした少年と、威勢だけでガチガチに震え上がった少女だと聞いております」


「なんでそんな奴らがとんでもなく強いのだ。全く、ジタはあの調子だし訳が分からん」


「報告によれば、少年の方は魔獣様に仕える身だとか」


「……ほう? 魔獣か。久しぶりに聞いた」



 もう魔族の間で、チャッキーは魔獣という事になっている。精霊だとは誰も言ってくれず、エインズはチャッキーが使役する奴隷くらいにしか思われていない。



「魔王様、ジタ様は如何なさいますか。洗脳を解除するように要求しなければ」


「そうだな。だがその話だと洗脳したのは魔獣という事にならないか」


「……はっ、そういえば。まさかジタ様は魔獣様の目に留まったのでしょうか」


「魔獣の機嫌を損ねたなら、周囲にどんな災いが起こるかわからない。お、俺は大丈夫だけどな、皆が、皆が危険な目に遭うのを黙って見てはおれん」


「魔王様、なんとお優しい……」



 エインズを褒めるチャッキー、魔王を褒めるガルグイ。精霊だか魔獣だか魔族だか知らないが、主をあまりに強く信じるあまり、どんな事でもプラスに考えてしまう様子は良く似ている。


 ガルグイは自身も鎧を身に着け、魔王と共に玉座の間へと歩き始めた。



「ジタの姿が無ければ魔獣の機嫌を損ねるかもしれん。ジタを連れてくるように伝えろ」


「はっ! 魔王様、くれぐれも魔獣様と下僕の人族に、お1人で対峙されませんよう」



 ガルグイはジタを監禁している棟へと向かい、魔王はため息をつきながら脇に抱えた台本をチェックする。



「フハハハ、よく来たな人族の子らよ。わたしが魔王……いや、魔獣もいるのだから、無視はいかんな。魔獣殿、どのような用件で……そうだな。下僕の人族などどうでもいいわ」



 魔王の中では完全に魔獣が会いに来たことになっていた。エインズが強いのではなく、魔獣が自身を守らせ、魔王城に行こうとするのを邪魔する者は全て排除した……そう考えると辻褄が合うなどと1人納得している。



「して、魔獣殿は何用でこの城に来られたのか。ん~いや、いくら魔獣に仕えていると言っても、人族の前で魔王が魔獣に丁寧だと威厳が……帰ってから何を言うか分からん」



 そこで魔王は勘違いを勘違いした結果、とんでもない迷案を思いついてしまう。



「そうだ、人族などよりもジタの方が優秀に決まっている。魔獣はジタを自分の付き人にしたいと言いに来ているのではないか? だとしたら今いる人族は不要! 魔獣にもこの城に住んで貰えば……ふむ。外に秘密が漏れる事もないな」



 魔王が玉座の間の裏の扉から、舞台袖のような空間に入る。チラリと覗き見ると、まだ訪問者は到着していないようだ。


 魔王が無意味にドクロや蝋燭が飾られた玉座に腰かけ、辛気臭い空間にため息をつく。魔王はもっと華やかで、ピンクや黄色、白いふわふわや澄み渡った青空が好きなのだ。


 しかし人族と魔族の争いがあった頃から、人族の魔族へのイメージは暗く、汚く、黒く、怖いものになっていた。その恐怖心に応えるために、魔族は今なお、わざわざこのような造りを受け継いでいた。


 しばらくすると、魔王が通ってきた扉から、ジタが抵抗する声が聞こえてくる。



「1人で歩けるって言ってるだろ! 玉座の間? 何で俺がこんな所に」


「ジタ様、このような仕打ちを申し訳なく思っておりますので、どうか暴れないで下さい。魔王様も既に準備されております」


「準備? まさかお前、エインズたちを捕えて処刑なんて考えてねえよな!」



 大丈夫なのだろうか。


 勘違いしているエインズ、勘違いされているチャッキー、何が勘違いか分からなくなってきたニーナ。


 エインズたちを勘違いしている魔王に、魔王の思惑を勘違いしているジタ。正解がどこにあるのか、分からなくなってくる。



「ジタ、落ち着いて俺の横に来るんだ。今から魔獣が人族を連れてやって来る。くれぐれも魔獣の機嫌を損ねるでないぞ」


「は? 魔獣? もしかして……チャッキーの事を言ってんのか」


「なんだ? そのチャッキーってのは」






* * * * * * * * *





 玉座の間。


 その扉を開けば魔王がいる。


 すなわち、まだエインズたちは開けていない。


 エインズとニーナはチャッキーが扉をノックするのを薄目を開いて見守っていた。



「コホン、ではわたくしが」



 チャッキーは扉へと前足……いや、前手だろうか? とにかくふさふさの毛がなるべく少ない部分で扉を……ノックするように触った。


 その場だけにペタッという間の抜けた音がし、チャッキーはおや? と首を傾げる。



「チャッキー、肉球でペタッて触ってもノックにならないよ」


「わたくし、今日は緊張からか肉球が少々固くなっておりまして。いけるかなと思ったのですが」


「そっか、チャッキーって一応家猫だもんね、肉球が柔らかいのよ……じゃないってば! ノックよノック!」



 ニーナの緊張の糸は解けてしまったようで、とても深くため息をついた彼女は、次には思いきり息を吸い込み、扉をやや頼りなくノックした。



「ご、ごめんくださ~い、あの、魔王様は……いらっしゃいますか……あれ? 扉が動かないわ」



 ニーナは取っ手を持ったまま扉を押すが、鍵が掛かっているかのようにビクともしない。



「鍵が掛かってる? もしかして、押さずに手前に引くのかな」


「駄目、開かないわ」


「引き戸だったりして」


「そんなまさか」



 ニーナがそんな筈はと言って、冗談半分で右の扉を左へとスライドさせてみる。すると扉は左へと簡単に動き、玉座が隙間から見えた。



「うっそ、ここは重たい扉をギイイって押し開くんじゃないの……」


「へっくし!」


「ちょっ……!?」



 ニーナが躊躇っていると、エインズがふいにくしゃみをした。不可抗力……と思われるが、咄嗟に扉に手を掛けたエインズ。すると、引き戸だった扉はたちまち押し開かれてしまった。


 ……ようするに壊れ、扉は内側に大きな音を立てて倒れてしまったのだ。



「ちょっとエインズー!」


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