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069 例の猫のような何かの力。



【7】呪われたエインズ、あるいは他の何か。




「ぐっ……こいつ、強い……」



 魔王城の門前。


 厳戒態勢を敷く場内からは、例のソルジャーがやって来たと知った魔族兵が続々と集まっていた。


 魔王の命を狙い、ジタをも惑わしたとなれば、当然のように魔族たちはエインズたちを討ち取ろうと攻撃を仕掛けてくる。居合わせたハーフリングが説得を試みるも、あまり効果は無い。


 先程までは冷静に話を聞いていたデュラハンも、ケンタウロスも、その他城から続々と現れる魔族たちも、持てる全ての力を発揮しているようだ。


 だが、エインズには全く敵わない。



「あ、危ないですって! あの、話を聞いて下さい! あの、魔王さんから腕輪、腕輪貰いたいんです!」


「ぐっ……! うおぁぁ足が、足がァァァ!」



 エインズを蹴った魔物は骨が折れてその場に転げまわり、エインズを殴った者は折れた指を元に戻そうと指を引っ張っている。勝手に襲い掛かり、勝手に痛がって、それはそれは滑稽なのだが……魔族たちは必死だ。


 エインズは決して攻撃している訳でもなく、反撃している訳でもない。止めて下さいと言いながら攻撃を払いのけているだけである。


 ただニーナはエインズに守られ、なんとか無傷のようだが……チャッキーはそろそろ限界のようだ。



「おのれ、エインズ様が魔族との友好を示さんとしているのに、そのエインズ様を攻撃するなど……」



 チャッキーは勿論分かっている。魔族がどれだけ攻撃をしようと、エインズはたいしたダメージを受ける事はない。けれど、主に襲い掛かる者を黙って見ていられるような「精霊でなし」ではないのだ。


 チャッキーの怒りが頂点に達しつつある事に気付き、ニーナは慌ててチャッキーを抱きかかえる。



「駄目よチャッキー! あなたの怒りにエインズが反応したら、魔族がみんな死んでしまうわ! 仲良くするって決めたじゃない! エインズが決めたのよ?」


「し……かし! このような無礼な行為をわたくしが黙って見ていられるとでも!?」


「エインズが耐えているのよ? あなたが耐えなきゃ!」



 チャッキーを腕に抱き、何とか押さえ込もうとするニーナ。チャッキーは牙をむき、唸り声をあげて今にもその腕の中から飛び出しそうだ。


 その様子に気付いたのはハーフリングだった。彼はニーナの傍に近寄ってそっと耳打ちをする。



「おい、魔獣さんを解放しろ!」


「だ、駄目よ! みんな無事では済まないわ、あなたも見たでしょ!?」


「人族を従える魔獣は超一流だぞ? 魔獣様だぞ? どんなに否定しようと、その力を示せばここの全員が平伏す! ほんの一瞬だけ少年を操らせるんだ!」


「そんな加減出来る訳ないじゃない! 出来ないわ、絶対出来ない!」



 エインズはドアノブすら回すことが出来ず、未だに普段の生活で分厚い布で巻かれた小手を外す事が出来ない。操られた状態で手加減など出来るはずがない。


 けれど、ハーフリングにはこの場を収める為の勝算があった。



「魔獣様を抱いて少年の前に! いいか、下僕は絶対に主を傷つける事は出来ない」


「はぁ!?」


「いいからやれ!」



 確かに、このままでは魔族全員が骨を折って戦えなくなるのを待つくらいしか成す術がない。こちらから攻撃をしないと決めた以上、エインズが耐えているのならニーナもまた台無しに出来ない。



「あーもう! チャッキー、いいわよ、程ほどに怒って!」



 ニーナは魔族が襲い掛かってくるのも省みずエインズの前に出て、チャッキーを両手で掴んでエインズに差しだすように腕を伸ばした。


 チャッキーの目が、殴打に耐えるエインズの姿を捉える。


 その瞬間、エインズを中心として爆風のように空気が流れ、魔族達は一瞬怯んだ。



「な、何だ!?」


「おのれ、魔法とは卑怯な!」


「だが近寄らずとも攻撃する手段はあ……る」



 先程までエインズを全力で攻撃していた者達は、エインズから湧き上がるドス黒いオーラに気付いて攻撃の構えのまま止まった。


 その気迫は明らかにその場にいる魔族を遥かに凌ぎ、魔王ですら見せた事のない程だった。先程までの困ったような泣きそうな顔とは全く違う鬼の形相。


 それに誰もが唾を飲み込んだ時、ハーフリングがその場にいる皆に叫んだ。



「見ろ! これがその猫の姿を借りた魔獣様の力だ! 魔獣様のお顔を見ろ、大変お怒りのご様子だ!」


「魔獣だって?」



 ニーナはすかさずチャッキーの頭や顎の下を撫で、みんな攻撃を止めたと言って聞かせる。まだ怒りは収まっていないようだが、オーラを放つだけで次の行動に移さないエインズを見る限り、ニーナの声は聞こえているらしい。


 魔族兵たちはチャッキーの様子を覗きこみ、そしてエインズの顔へと視線を移す。



「あ、あぁ……魔獣だ、間違いない、魔獣様だ!」


「魔獣様だ、真の魔獣様が人族を操り、ここまで会いに来て下さったのだ!」


「俺たちは魔獣様の使いになんという事を……申し訳ございません! どうか、お許しを!」



 皆が一斉に地に平伏し、デュラハンも馬から下りてかしずいている。下半身が馬であるため土下座の体勢を取れないケンタウロスも、その場に座りって頭を低く下げていた。



「チャッキー、ほらみんな分かってくれたわ。ごめんなさいって、勘違いしてましたって、ね? ほらエインズもしっかりして!」



 ニーナはチャッキーをエインズの腕に抱かせ、エインズとチャッキーの頬を交互に軽く叩く。数秒ほどしてエインズの体からふとオーラが消え去り、逆立っていたチャッキーの毛も元の艶やかな様子に戻る。



「あ……れ、みんなどうしたの? お祈りの時間?」


「みなさま、エインズ様を崇めておられるようですが……」


「ああ良かった、いつものエインズとチャッキーだわ。みんな、勘違いして襲い掛かってごめんなさいって」


「あっ、そういう事……防御に必死で気付かなかった、いつの間に……あの、みなさん顔を上げてくれませんか?」



 エインズが恐る恐る声を掛けるも、みな顔を上げようとはしない。



「あの、エインズ様もそう言っておられることですし、わたくしたちは魔王様にお会いしなければなりませんので、あまりここで時間を取られる訳にはいかないのです」



 そうチャッキーが告げた途端、皆が1秒とせずに立ち上がり、気をつけの姿勢になる。骨が折れているにも関わらず、脂汗を流しながらの者もいた。



「し、失礼いたしました! 魔王様の所までご案内致します!」


「強いソルジャーとは、魔獣様の使いのことだったのですね、それならば当然の事、納得です!」



 そう言いながら、数十はいるであろう魔族兵がひしめき合うように案内を始める。しかしこんなにいれば、正直な所、邪魔だ。



「あの、失礼ですがわたくしたちを案内して頂ける方を数名に絞って下さると……」


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