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【CHUCKY】―弱くなりたい最強少年と、忠実で役に立たない猫型精霊の話―  作者: 桜良 壽ノ丞
【6】ごめんください、魔王様はいらっしゃいますか?
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059 例の魔王子との別れ。



 ジタとニーナが駆け出し、ガルグがその後を追うように部屋を後にする。


 扉が閉まり1人と1匹だけになると、エインズはチャッキーを抱き上げて剣を背負った。そして気を引き締め、ヨシと気合を入れると扉の前に立つ。



「チャッキー、ドアノブ回して!」





* * * * * * * * *





 21時を過ぎ、村の北の入り口が俄かに騒がしくなる。エインズが向かった出来るだけ人族が泊まる宿から遠い門だ。


 ガルグの言う通り、魔王軍は1時間後にやって来た。もしタレ込みが無ければ村人たちも、エインズたちだって特に気にせず接したかもしれない。だが今は村人の数十人と、魔族が数十体で集まり、魔王軍と対峙している。


 その先頭にいるのはエインズたちだ。



「やはり報告の通りだったか。ジタ様を解放しろソルジャー共! それに後ろのお前らは何だ!」


「ジタ様が捕えられ、魔質になっているというのに何をしている!」



 魔王軍の戦闘にいるのはガルグイではなく別の魔族だ。その姿はガーゴイルではなく、逞しく人族の倍ほどもある背丈に牛の頭がついたミノタウロスだ。赤黒い体毛に覆われ、角も牙も鋭い。


 もしもこれがジタと示し合わせた作戦でなければ、エインズもニーナも泣いて逃げている事だろう。



「そのまま話を聞け! えっと……」


「最後まで話を聞かなければ、ジタ様の命はありませんよ、ですエインズ様」


「あ、あの、最後まで話を聞かなければ、ジタさんの命はありません!」


「何が望みだ!」


「えっ、だから最後まで話を聞いて欲しいんですけど……だって聞いてくれないとジタさんを叩くなんて俺出来ないもん、困るよ聞いてくれないと」



 エインズは嘘が付けない。いや、自分ではちゃんと演技しているつもりだ。ニーナとジタは今更ながらエインズがこのような場に不向きであることを思い出していた。



「説明しないと……あっ、ごめん。木刀握りしめちゃった」


「あーもうエインズ代わって! あなた達、魔族の王子の命が惜しくないの?」



 特に拘束もしていないのだが、エインズに交渉役は任せられない。かといってこの状態でジタに説明させても、脅されていると思われる。ニーナは後ろに控えている魔族たちに目配せした。



「あなたは魔王様側近のメヌエム様では?」


「そうだ! お前らはまさかそのソルジャーに脅されているのか? まさか何か怪しい術で操られているのか?」


「そうではありません! 私はガルグイの弟、ガルグです! 兄がいつもお世話になっております!」


「ガルグイの? 何故ここに」


「恐怖ツアーの最中で、ジタ様たちとお会いしたのです!」



 ミノタウロスのメヌエムと話が出来るガルグが、このような状況になった説明を行う。ジタとエインズたちは本当は仲良しである事、魔王城に行きたいが魔王を倒すつもりもない事……。


 けれどメヌエムはガルグである事は理解しても、その言動が操られていると思ってまともに聞こうとしない。



「話は聞いた! さあジタ様を返してもらおう」


「えっ!? ちょっと、信じないし分かってもくれないのに聞いたから返せ? 何それ!」


「話を聞けとは言われて聞いただけだ!」


「ぐぬぬ……」



 エインズとニーナは確かに話を聞いてくれとしか言っていない。メヌエムの言う事はご尤もだ。ソルジャーと言ってもエインズとニーナはまだ10代の若者。そんなに計算高い交渉スキルはない。



「なあ魔族のみなさんよ、この村の住民がこのソルジャーの子供らと一緒にいる意味は分かるはずだ。ジタさんに悪さするような奴らなら我らが許さねえ」


「そうだそうだ! この子たちはこの村の実態を知っている、魔族を倒すことなんか考えてないんだ!」



 ジタとエインズたちが友人であることを説明すると言われ、付いてきただけの村人や観光の魔族たち。彼らは一応の援護をしてくれる。



「ソルジャー相手ならこちらも攻撃を仕掛ける事が出来る。お前らいると邪魔だ」


「そ、そんな事言うと、人族の宿に泊まってる人たちにこの村のカラクリを喋っちゃうわよ! いいの!?」


「おいおい嬢ちゃん、それはやめてくれ、この村が廃れる!」


「あ、ごめんなさい……」



 ニーナは村人に制止され、慌てて謝る。



「こうなったら仕方ない、エインズ、ニーナ。俺が城に戻るしかない。帰ったら俺が親父に腕輪の事を聞いてやるから」


「そんな……ジタさん本当に大丈夫?」


「ああ、家に帰るだけだからな。この村で待っててくれ、また連絡する」



 魔族と人族、それも事情を分かっている人族との対立は避けたい。魔王軍もジタを連れて帰りたいだけなのだ。


 ジタが解放されたことで、魔王軍の者たちはジタをエインズたちから隠すように保護する。村人や観光の魔族たちはエインズたちに気を落とすなと声を掛けて解散していく。



「また会えるよ、ジタちゃんはよく来てくれるからね」


「魔王様も悪い魔じゃないんだ。ジタちゃんの事を本当に可愛がってるからね、心配なのよ」


「ジタ様の友人なら、俺たちも歓迎するよ。じゃあ俺たちはツアーに戻るよ。まだ怖がらせ足りないからね」



 その場に残されたエインズたちは、魔王軍に連れていかれるジタを門の外まで見送ろうと、距離を取って追っていく。村の門の外まで出て、最後にジタの名を呼ぶと、ジタから返事があった。


 だが、その内容は呑気な挨拶とは程遠かった。



「エインズ、ニーナ、チャッキー! 逃げろ!」


「えっ!?」



 逃げろと言われて驚き、エインズはチャッキーを抱え、ニーナと共に村の中へと慌てて引き返す。



「な、何? どういう事?」


「分かんないよ、でも逃げろって……走った事うちの親に言わないでよ! ……あっ!」



 だが、訳も分からず宿へと引き返す2人の前に、翼を持った魔族が数体舞い降りる。鷲の頭と翼を持つ人型のガルーダ、人族に翼が生えたようなグルルなど、空から追跡することが出来る種族だ。



「あっ、ずるい! 門から入らないなんて行儀悪い!」


「そ、そうよそうよ! 魔族は礼儀正しくて間違ったことが大嫌いってジタさんが言ってたわよ!」


「という事は、このようなお行儀の悪い方々は、魔族ではないということではありませんか?」


「なーにを訳の分からない事を! ジタ様を攫った罪は消えたわけじゃないぞ」



 グルルがニヤリと笑い、その場の魔族に目配せをする。



「ここで始末する!」


「えっ、えっ!?」


「ソルジャーに実態を知られたなら生かしてはおけん!」



 空から舞い降りた魔族だけでなく、背後からは走って追いついた魔族たちがジリジリと近づいていくる。



「ど、どうしよう、ジタさんの仲間と戦うなんて」


「つ、強そうだよニーナ! 全速力で逃げてもきっと追いつかれる……」


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