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046 魔王、例の準備を進める。


 もうバレていると思っていたのに、斜め上の思い込みで同情されたジタ。しかもソルジャーから魔族を庇う発言をされたことで、魔族としてどう接したらいいのか分からない。


 もしかしたら、魔族だと明かしてもエインズとニーナは敵意を見せずに接してくれるのではないかという気がしてくる。けれどジタの脳裏にはショックを受け、憎むような2人の顔も浮かんでしまう。


 人族の憎しみはご馳走だ。けれどこの2人から嫌われる事は、ジタの望むところではなくなっていた。



「ジタさん、俺たちが魔物や魔族を倒すの、本当は許せない立場なんですよね」


「へっ? あ、いや……」


「そりゃあそうよ。だって、魔権を認めて平和に暮らすことを目指しているのに……私たちソルジャーはきっと邪魔な存在よ。本当にジタさんには何と言っていいのか……」



 ニーナも合点がいくと頷く。ジタが魔族を宥め、約束という言葉も持ち出した状況を、それ以外では説明できないと思ったようだ。


 ジタは確信した。目の前にいるソルジャーは魔族からも全く憎むべき相手ではない。それどころか、2人とも魔族は怖いが、怖いからと言って理由が無ければ無差別に殺戮を行うつもりもない。


 ジタは1つ確認したくなった。



「お前たち、俺が魔族と繋がってると知って、それでも魔族は怖いか?」


「どうなんだろう、仲良く出来るのは良い事だけど、魔族の方が俺たちを怖がらせるのなら、やっぱり俺たちは怖いと思います」


「怖がらせるのなら……か」


「この先に魔族がいますよって前もって教えられていても怖いわよね」


「うん、ジュナイダ特別自治区に向かうの、ジタさんがいなかったら無理だったかもしれないもん」



 それを聞いてジタは少し考え込む。



「……人族から見た魔族がどのようなものなのか、人族の一部のお偉いさんではなく一般人はどう思っているのか、生の声を聞くいい機会だな」



 チャッキーが起きるまで寝るつもりのないエインズに合わせ、ジタはホテルに戻らず部屋で一緒に過ごすことに決めた。その間、魔族への考えを聞きたいと言って2人へと質問を始める。



「なあ、お前らが魔族を倒すってのは何でだ? 魔族が現れたら問答無用っつう感じか?」


「ん~どうかしら。以前エーゲ村を襲いに来た魔族たちは、結局畑の作物を少し盗んだだけだったわよね。その程度で退治はしないわ、追い払うだけ」


「そうだね、悪い事をされなかったら、こっちから魔族を見つけて片っ端から退治しようとは思わないです。さっきのドワーフはやっぱり許せない」



 エインズとニーナは魔族だから退治するというつもりではなく、あくまでも悪事の度合いで決めると主張する。その考えはジタも共感できるところがあった。



「ま、魔族との対話で耳に挟んだ話なんだけどよ、魔族の中でも人を襲う奴と襲わねえ奴がいるらしい」


「じゃあ、その襲う魔族だけを退治できたらいいってことですよね? でもそれを魔族に訊くわけにもいかないし」


「エインズ、魔王を倒さないとあなたがソルジャーになった意味がないじゃない。ねえジタさん、魔王の事を何か知ってますか? 魔王さえ倒せば魔族は統率を失うとか」


「と、統率を失ったら一層無差別に襲いだすぜ?」



 ジタは魔王がいて統率が取れているからこそ、悪事を働くのがはぐれ魔族だけで済んでいる事を知っている。


 その魔王を倒してしまえば人族との協定が守られるとは限らない。しかも、次に魔王になるのはジタだ。対立は避けたい所だった。



「なあ、エインズが魔王を討伐したい理由って何だ?」



 ジタはそれを阻止したいため、エインズの目的を訊ねる。2人はジタにならそれを教えてもいいんじゃないかとヒソヒソ相談し始めたが、チャッキーがまだ目覚めない中、エインズが勝手に教える訳にもいかない。



「それは、チャッキーが起きるまで待ってもらえませんか?」


「魔王討伐と何か関係があるのか? ……まあいいや。俺もチャッキーに訊きたい事があるからな」


「あの、私からもお聞きしたいことがあるんです。ジタさん、ジタさんは魔族の何を知っているんですか?」








 * * * * * * * * *





 魔族と人族がまさかの大接近をしている中、魔王城はにわかに騒がしくなっていた。


 ソルジャーが魔王城へと向かっているという話が入り、既に魔王城は大掃除を始めている所だったが、どうやらそのせいではないらしい。



「ジタ様がソルジャーと共に魔王城を目指しているだと?」


「どうして? どういう事よ! ソルジャーは魔物や魔族を討伐する奴らでしょ? 絶対に会ってはいけない存在ナンバー1じゃない!」


「まさか、魔王様をソルジャーに討伐させて、ジタ様が椅子に座ろうと……」


「そんな事をする子じゃなかろうて。ジタ様は魔族らしい誠実で魔情に溢れるお方じゃ」



 魔王城には、人族からジタがソルジャーを2人連れてジュナイダ共和国に入ったという知らせが入っていた。ジタが一体どういうつもりで行動しているのか分からず混乱していたのだ。


 人族からの情報では、国境の砦がソルジャーの足止めをする際、ジタからソルジャーの2人に声を掛けたと伝わっている。しかも初対面とは思えなかったという。



「ま、魔王様はこの事を?」


「ああ、もちろん耳に入れておられる。魔王様はとてもショックを受け、部屋で塞ぎこんで……」



 そうして城内の魔族たちが心配している中、ファンシーな魔王の自室では魔王がどこかに電話を掛けていた。


 その表情はとても悲しそうで、恐らくジタの事が影響しているのだろう。



「そう、羊肉の燻製とヘビ肉のジェラート、それに人族から教えてもらったあの肉の……そう! すき焼きとやら! あとは魔族が人族を恐怖に陥れる……そう、エクソシスト系の演劇も用意してくれ! ジタの大好物を全部揃えるのだ!」



 ジタが父である魔王を討ち、自ら魔王になるつもりではないのかという噂が耳に入ると、魔王は今まで自分がジタに対し厳しすぎたのかと激しく後悔していた。



「ああ、俺の教育の仕方が間違っていたのだろうか。ジタは人族をおびき出し、魔族と人族でいざこざを起こして魔人戦争でも仕掛けるつもりなのか。赤ん坊の頃、恐ろしい泣き声があんなに愛らしかった俺のジタが……」



 何とかジタを思いとどまらせようと、魔王はソルジャー対策などそっちのけでジタの大好物の準備を始める。


 どいつもこいつも勘違いをし、その勘違いの中で最善策を模索する非常事態。タイミングが悪いのか、他の何かが悪いのか。あと一歩のところで噛み合わない彼らは、一体いつになったら真実にたどり着くのか。


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