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038 例のパーティー、魔王子に案内される。

 

 ジタは当然といった顔で堂々と手続きの列を無視し、警備の者に「おい、開けろ」と指示している。


 開けろというのは入出国用のゲートではなく、警備用の非常扉だ。その様子にエインズもニーナも、チャッキーまでもが驚いていた。



「え、ジタさんってもしかして軍の偉い人の親族……とか?」


「もしかして実は凄い人!? 言われてみると凛々しいというか、堂々としていてカッコいいよね。統治者側というか」


「そのような身分に在りながら、わたくしたちのように困っている者を見捨てない姿勢……なんと素晴らしいのでしょう。畏れすら抱いてしまいます」



 ジタはエインズたちの賞賛の声にニヤケ顔が止まらない。人族が認め、畏れ、敬服する。それは魔族にとって実に極上のものだ。


 調子に乗ったジタは、躊躇う兵の事などお構いなしで、自分の権利を主張する。


 ジタが魔王の子供である事は一部の軍人に知られている。


 もちろん知らない者に口外することはないとしても、大抵の国において国境を警備するのは超エリート。内勤者でなければジタの事は知っている。


 だがそこで問題があるとすれば……それはエインズたちの事だ。


 このソルジャー足止め作戦はエインズたちがターゲットなのであって、すんなりと通してしまえば途端に意味がなくなる。商人やソルジャーたちへの単なる嫌がらせにしかならない。



「じ、ジタ様。あの者たちを連れていかれるのは……」


「あ? お前らが雇われたソルジャーを同行させるのはいいって決まりを作ったんだろうが。俺様を前にして自分たちの決め事を反故にするって言うなら……分かっているよな」


「ひっ……! し、しかし!」


「魔族が嫌いなもん、お前知らねえのか。無秩序、不敬、そして嘘だ!」



 ジタは金色の瞳で睨みつけ、兵士を震え上がらせた。


 魔族は一方的に協定を破るような真似はしない。そんな野蛮な種族ではないと分かっているからこその協定だ。


 人族も約束をする意味がない相手と約束を交わしたりはしない。魔族はそのような点においては信用できる存在だった。


 したがって、ここの兵士たちもジタに何かをされるという心配はない。


 けれどこの場において、まさに今警備兵は何かを「する側」に立っている。


 ルールを守っているのに通してくれないとなれば、ジタに対して、魔王の息子に対しての不義理となってしまう。


 そうなった時に困るのは人族であり、責任を負うことが出来ないこの者たちだ。



「こ、この者たちはその、魔王に……」


「俺はこの状況の話をしてんだよ! 雇い主と、雇われたソルジャーが一緒に入国するのなら許可する、それは嘘かどうかだ」


「う、嘘ではございません! もちろんそれがこの場の決まりです!」


「じゃあ俺とこいつらが一緒に通るのは許可されるんだよな?」



 エインズとニーナをチラリとみて、ジタは片目でウインクをする。俺に任せろとでも言うかのような振る舞いに、もうエインズとニーナは尊敬の眼差ししかない。



「すごい……きっとどこかの王子様なんだよ! ああ、カッコイイなあ……」


「あの褐色というより色黒の肌に珍しい金色の瞳、どこの国の王子様か分からないけど惚れちゃいそう! う~んジュナイダ共和国って王政じゃないし……何はともあれ権力のある優しくて頼りになるカッコイイ男の人って素敵よね!」


「俺も王子様には憧れるなあ。王子様かあ、ソルジャーじゃなくてもあわよくば魔王の腕輪を入手出来そう」


「エインズ様のご両親は王ではないのでエインズ様は王子にはなれませんが……おっしゃりたいことは理解できますね」


「そっか、親に王様になってもらえば俺も王子様になれるんだ」



 エインズは結構真面目にどうやったら自分の親が王になれるのかを考え始める。農作物を売り、儲けて金持ちになればなどと貧相な想像力でその道筋を立てていく。


 親を王様にするよりはどこぞの王族に取り入った方が早いのだが……どうにも発想が短絡的だ。



「おい、許可が出たぜ」



 ジタが自慢げな表情で戻ってきて、2人を手招きする。ジタの睨みは魔王ほどではないが迫力がある。


 先程までは厚い雲も風もなかったというのに、いつの間にか不穏な空気が漂いだしたことで、警備兵たちはとうとう恐怖に耐えられず白旗を挙げたのだ。



「ジタさん、有難うございます! 本当に俺たち困っていたんです」


「さっき警備の人に抗議してくれてた時、迫力というか怖かったけど……頼もしかったです!」


「え、そ、そうか? そうかな、ははははっ!」



 感謝され、迫力と怖さまで褒められてジタはとても気分が良かった。


 魔王の息子が魔王討伐に向かうソルジャーを案内し、褒められて喜んでいるという状況をどう言えばいいのか分からないが。



「睨みつけるような表情とか、なんだか周囲の空気がサーっと冷えていく感じとか、ジタさんのオーラにこっちまで背筋がピシッとなるよね」


「悪いことをして怖がられるっていう恐れじゃなくて、正しいことを堂々と行う畏れってやつよね。わかるわ」


「ほ、褒めても何も出ねえぞ、まったく。よっしゃ! このまま特別自治区まで向かうぜ、案内は任せろ!」



 ジタの正体を聞くこともなく、エインズたちは心配そうに見守る警備兵たちに「イーッ!」としながら非常扉を抜けてジュナイダ共和国に入国した。


 先頭を歩くジタの表情は人族に畏れられたという満足感で晴れ晴れとしていた。



「お前ら、ところでジュナイダ特別自治区に何か用があんのか?」


「えっと……魔……」


「エインズ、駄目よ。私たちソルジャーだし、一応は魔族からの防衛や魔物退治を生業にしてるんです。だから、魔族が棲むと言われている場所とか、魔王城がどんなところかを知りたいと思って」


「エインズ様はそのためにソルジャーになったのです」


「へえ……。めちゃくちゃ強いソルジャーが現れて魔王討伐を企んでるって事だったけど、俺の方はあんまり収穫がなくてな。暇だから行きたいところがあったらどこでも連れてってやるぜ。俺はお前らを気に入った!」



 エインズとニーナは心強い申し出に感謝し、ジュナイダ特別自治区の事が分かるような場所を希望した。ジタは自分が魔族だと思われていない事はもちろん分かっていた。


 黒い肌はともかく見た目は人族と変わらず、名乗らなければまさか魔族だとは思われない。ソルジャーが魔族を敵だと認識している事も分かっている。


 ここで実は魔族だ、魔王子だと名乗って怖がらせたい気もあったが、もう少しこの人族の若者と行動を共にしたい。


 そこでジタは少し考えた後、自信満々で提案をした。



「じゃあ……魔王城の近くまで行ってみるか!」


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