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001 プロローグ・例の少年から魔王を守りたい人族の談義。



 動物、魔物、人族、魔族。


 この世界には成り立ちの異なる生命が数多く存在する。


 魔物、魔族というのは、恐怖、憎悪といった負の感情が生み出した存在だ。


 彼らは動物や人族の「負の感情」を吸い取る事で存在する生き物である。



「こりゃあ……まずいことになったのう」


「下手したら魔王まで倒しちまうかもしれねえ、大変だ」


「ああ、そうなりゃ人族の危機だぞ……何とかして『普通の少年』として暮らして貰わにゃ」



 150年前、互いに疲弊した人族と魔族はひそかに協定を結んだ。


 魔物や魔族はむしろ恐怖や憎悪の感情を吸い取ってくれるのだから、本来は有益な存在ではないかと考えた人族。


 人間の恐怖や憎悪の感情さえあればいいのだから、無駄な事はしたくないと考えた魔族。


 双方の利害が一致したのだ。


「もっとこう、他に興味を持たせる事は出来んのか」


「田舎者の顔の良し悪しがどうであれ、好色家にでも育ってくれたなら安心だったんだが……」


 魔族側は人間が怯えてくれなければ困る。


 人族にとっても、魔族は精神面での不安を吸い取ってくれる有益な存在である。


 従って、表向きは対立していることにし、人族の上層部と魔族の間では、極秘で協力関係を結んでおくという手段を講じた。


 過度な争いには人族と魔族が極秘で仲裁に入り、世間的には「膠着状態にある」と発表しているのが今日の現状である。


 ところが最近、どうにも人族側の上層部が騒がしい。


 どこかの村に、規格外の身体能力を持つ少年が現れたのだという。


「こんな化け物のような子が出て来ると困るのだ。どうしてソルジャーになる道を選ばせた! なぜ試験を受けさせた!」


「この事を早く魔族側に知らせなければ、不意打ちなどしてしまえば大変だ!」


「ダミーの城を用意しろ! ダミーの魔王は作れんのか!」


「くれぐれも魔王を倒すような事がないように、徹底して妨害しろ!」


 これまでもあまりに優秀過ぎる若者には、裏から手を回してソルジャーになれないようにしていたらしいのだが……。その少年は思惑通りにいかず、ソルジャーになってしまったらしい。


 ソルジャーとは、武器の携帯や使用を許可され、魔族や魔物討伐の国家資格を持つ旅人、冒険者の事である。


「何かこう、悪事を働いていて、資格を剥奪できるなどというのは」


「残念ながら規格外の子供とあって、それはもう両親が慎重に慎重に、素直で素行の良い純粋な子に育ててしまい……」


「まったく、なんて親だ! 少しくらい非の打ち所がある子供に育てる器量がないのか!」


 人族の各国や魔族との調整役が揃う会議の場で、理不尽な怒号が飛ぶ。


 ソルジャーという職業に就く者だけでなく、世間一般の人族は、魔物や魔族は悪であり排除すべき存在だと信じ、それを疑ったことすらない。


 つまり、人族と魔族が実は協定を結んでいるなんて事は、全く知らないのだ。


「エメンダ村? どうしてこんな何もない辺境の村に、とんでもない子が生まれとるんだ」


「だいたいソルジャーなんてもんは、弱い奴が強さに憧れてなる職業だろうが」


「元々強い子が何を今更、何の為に傭兵崩れのソルジャーなんて。サーカスにでも出て怪力を披露していればいいものを」


 魔族側は、魔王から「人間の命に関わるような攻撃をするな」という命令が出ている。


 人族側は、ソルジャーによる魔族討伐を徹底的に邪魔する。魔物は動物と同じく討伐しても良い事になっている。


「だいたい、魔王討伐なんて絵本のような事を言っとらんで、堅実に働く気はないのか、まったく」


「それよりも来週の魔族襲来日の打ち合わせ、魔族側と調整ついたのか」


「ああ、ソルジャーが立ち入らないように街道を封鎖する準備もしている。魔族側に危害は及ばない。ちょっと通り過ぎるだけだが村人なら怖がるさ」


 魔物や魔族という共通の敵を憎むことで、人族同士の争いは減った。


 適度に恨まれ、恐れられている事で、魔族たちも余裕をもって生きていられる。


 実に平和な世の中だ。


 そんなご時勢だというのに魔族の王を倒せばこの均衡は崩れる。


 つまり、無駄な正義感を持つ者、そして強過ぎる者は邪魔なのだ。


「しっかし、今年も受験者が多いんだな。傭兵なんてそんなにいいもんかねえ?」


「まさか、本当に魔王討伐を考えているなんてことは……」


「念のため魔王にはどこかに逃げてもらった方が……しかしあまり魔族を侮ったような助言は不興を買ってしまう」


 そう、これは世界の存続が危ぶまれる一大事。


 その話を最初から確認するには……少しだけ時間を巻き戻す必要がある。




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