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魔女たちの小さな話  作者: 八十川小雪
1/1

魔女の話


この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

この作品はフリクションです。2つのなにかがぶつかり合う様をご覧ください。

この作品はコレクションです。なんだかんだで続きます。

 Prologue -とある本


 この世界には、「魔女」と呼ばれる種族が存在する。

 どこからともなく現れた1人の魔女は人間を滅ぼそうとした。しかし、それは失敗に終わった。

 ただ、残念なことに魔女は1人だけではなかった。そもそも魔女とはどんなものか、今だによくわかっていない。呪いや祝福の類、契約、憑依、あるものを食す等、説は様々だ。

 強大な力を有する魔女も、人間よりも長いものの命がある。だから、人間のなかには魔女を狩る集団がいる。

 人間は今日も戦う。魔女なき平和な世界のために。

 



 魔女の私 -便利屋「Willow」



「なーんか嫌ね、こんな書かれ方するなんてね。」

「わかる。まあでも、事実だよ。僕たちはこうやって隠れて過ごすぐらいがちょうどいいと思う。」

「ルーレス、もし私に何かあったら守ってくれる?」

「もちろん!けど、ちゃんと月に一回はシチュー作ってね。」

「はいはい、ありがとう。」


 昼の木漏れ日が綺麗な木の根元で読書をしていた私、メアリー・ネイト・ヌーンライトは、少し人間の書いた書物に異議を持った。まあ、人間が書いた本だから、人間中心に書かれるのは当然だけど、それでもなんか嫌だな。

 隣にいるのはウサギのルーレス。彼は私の使い、人間からは「魔女の使い」と呼ばれるものだ。いつも彼の身長よりも高いマスケット銃を持ち歩いている。

 私は彼とここ、森の中にある魔女の便利屋「Willow(ウィロー)」を営んでいる。便利屋というだけあって、やることは様々。買い出しや何かしら工作、頼まれたことはないけど、暗殺でもオッケーだよ。まあ、早い話が使いパシリ。まあ大体は暇女が立ち寄るただの店だ。



 ポストに入ってるいくつもの手紙。これが私宛の依頼。ふむふむ、結構買い出しの依頼が多いかな。まあ、明日に大規模な市場が催されるみたいだし、それを頼みたいのかな。

 店のドアを開ける。悪くない程度に香る紅茶の香りは私と客の心を癒してくれる。開店前は掃除をしないとね。

 ルーレスは裏の工房で面白いものを作っている。大体は自分が使う銃だけど、やることがちょっとユニーク。この前も、狙撃銃につける照準器を拳銃につけてたっけな… まあ、そんなまっすぐなルーレスが好き。別に銃が好きってわけじゃないけど、手に馴染んでいるみたい。

 鼻歌混じりで掃除をしていたら、ルーレスが飛びついてきた。


「メアリー、今度は自動リボルバー作ってみたけどどうかな?」

「銃に詳しくないからあまり言えないけど、弾が少ないんじゃない?大体ダダダって撃つ銃は結構入ってるイメージがあるけど。」

「銃で大事なのは数じゃなくて威力だよ!これも威力をあまり落とさずに連射できるようにしたから。」

「ま、銃に詳しくないから詳しく言えないけど、いいんじゃないかな。」


 まあ、こんな感じだ。今日も面白い作品を見せてもらっている。


 それで、私のことだけど、魔女の間からは「溶影の魔女(ようえいのまじょ)」と呼ばれている。

 魔女は大抵、何かしら超能力的なものがある。私は「影に溶け込む」ことができる。月光は私の味方だね。

 私はこれっぽっちだけど、まあ人によっちゃエグいものもあるからね。そういう能力は活かしたもん勝ち。実際にこの能力は仕事に不可欠だもんね。


 掃除が終わるとほぼ同時にドアが開く。お客さんだ。



 常連客のハツハナ-ウィロー-



「おーいメアリー、いるかー?」

「あらハツハナさんいらっしゃい。また暇つぶし?」

「そうだ、意外と魔女というのは暇になるものかと知らんかった。」

「知らずになったの?呆れた。まあ、何か飲んで行きなよ。」

「おう、そうするぞ。」


 常連客だ。東の国とも呼ばれるイゴザムの国から来たハツハナはなぜかここによく来る。

 元貴族、後に魔女になった者だ。普段ならもう1人ここにいるんだけどね、彼女の隣にね。


「あのウサギはまた作業場に篭っておるのか?」

「ルーレスのこと?まあ、面白いものを作っているのでしょ。さっきも面白い銃を作ってたし。」

「お主は明日暇か?」

「どうしたの?暇つぶしに付き合ってもいいけど。」


 嬉しそうな笑顔を見せて1枚の紙切れを見せる。なんだろう、チラシっぽいね。「城下町にてマーケット開催」、なるほどね。


「ほら、明日城の下で市場があるそうではないか。それに行かんかと思ってな。」

「あ、これ明日仕事で行かないとな〜って思ってたの。一緒に行く?」

「行きたい、行きたいぞ!!」

「はいはい、それじゃ明日ね。」


 まあいつものことさ。彼女はお祭り好きなんだ。そういうわけでまた仕事が1つ増えた。楽しい楽しい仕事だ。

 まもなくハツハナさんは帰った。嬉しそうにスキップをしながらね。もうちょっとお茶飲んで行けばよかったのに。



 あばうとうぃっちーず -自室-


 店の奥はスタッフオンリー、私の部屋だ。別にヤバいものを作っているわけでもない、ただの部屋。狭いけど、狭さゆえに何か落ち着けるの。

 大きな本棚2つに囲まれて、間に机とベッド。ちょうど朝日が差し込むこの部屋はそんなに変わったものはない。強いて言うなら、私が知っている魔女の個人情報しか入っていない分厚い本が1冊あるだけ。それ以外は本当に平凡で一般的な部屋だよ。

 服の紐を緩めてベッドに突っ込む。あまり動いてなくても、ベッドに突っ込みたくなるの。わかってくれる人はあまりいないけどね。


 ところでここはある王国の城からそこそこ離れた森、そこにうちの店がある。ここの森は普通の森といえば普通の森だけど、私の店に来るにはちょっとした工夫が必要、具体的にはどうとも言わないけど、まあ入るまでにちょっと面倒なことをしないといけないわけ。森を抜ける程度なら誰でもできるけど、うちに来るのはノーヒントでは無理ね。だから、人間がここに来ることはまずない。

 唯一ここにノーヒントで来れたのはルーレスだけ。すごいね。

 さて、魔女というのは人間に忌み嫌われていて、それでいて特殊能力を持っているといった。具体的にどういう風に嫌われているかというと、なんだか目の敵にされているというか、見かけたらすぐ殺されそうになる。一応こっちの歴史では、「1人の魔女が世界を破滅に導こうとした。」というもので、その魔女がいつごろの者なのかはわかっていない、けど、かなり古い時代なんだろうね。うちのカサンドラっていう友達は実に1000年ほど生きているけど、彼女がかなり若かった頃から魔女はいたみたい。ついでに今は彼女も魔女。ま、彼女が来た時にまた話そう。


 魔女はちょっとした感覚で、目の前にいるのが人間なのか魔女なのかはわかる、けど、人間は区別することができない。ただ、やっぱり何かしら変な能力あるし、力を解放したらオーラ的なものが人間には見えるみたい。

 あと、魔女は魔女として生まれてくることもあれば、何かしら契約やらで人間やらが後天的に魔女になることもある。人間が魔女になることも、そこらの動物が魔女になることもある。

 あとこれは人間もそうなのだけど、基本的に動物を自分の使いとして使役することができる。私だったらルーレスかな。

 使役するのは魔法だったり契約だったり友情だったり。無生物を使役することはあまりないね。東の国は紙をある形に切ったものを使役しているらしいけど。

 悲しいことに私たち魔女が使役したものは「魔女の使い」なんて人間に呼ばれている。

 最後に知ってもらいたいのが魔女は決して不死ではない、けど、人間の数倍は長く生きる事かな。病にだってかかるし、怪我だってする、けど、健康的に生きていたら平均寿命は…まあ750年かな、知らない。私は200歳ぐらいだよ、若いね。



 あばうとるーれす ールーレスの工房ー


「ルーレス、まだやってる?」

「いや、今日はもう閉店かな。」

「その拳銃、あのカラスの?」

「うん、『もうちょっと半自動(セミオート)で早く打てるようにして欲しい』って言われたから、機構の改造とマガジンの着脱を簡単にして、あとストッパーの調節をしている感じかな。」

「大変そうね。」


 ルーレスの工房は正直いつも散らかっている、けど、それは彼が頑張っている証でもある。

 机にある工具、道具類はそのカラス(まあ、えのっていうここの常連さんなんだけど)が譲ってくれたものだ。元々は軽く銃の改造を教えられていたルーレスだけど、いつのまにか教えていた本人を超えた、以来、よく改造を任されている。

 銃の改造で培った器用な手先は銃以外にもたくさん依頼が来る。本当に頼もしい。

 一息つくと、すぐにまた手を動かす。まるで止まるのが嫌みたい。


「それでメアリー、ちょっと頼みたいんだけど。」

「なあに?」

「明日、シチューにしてくれない?もちろん、にんじんたっぷりの。」

「はいはい、本当に好きね。」


 手で丸を作ると彼は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。本当に可愛らしいわ。


 ところで銃は最近作られたもので、ここらではあまり普及していない。うちの大陸の西にある機械の(アラドニスっていうけどね)が作った武器で実に二十年前に出来てから今日まで結構な成長を続けている。弓矢なんて古いとか言われてる。悲しいけど、コスト以外は全て銃が優っているのよね。

 それでルーレスは銃を主に使う(というか銃しか使っていない。ウサギが使うなんてちゃんちゃらおかしいとか言われそうだけど)。こればかりはどうして的に当てられるのかが不思議で、初めて銃を使ってみたときからすごくうまかった。それはプロさえも舌を巻くほどね。


 壁に飾られているのは彼の作品。どれもこれも、何かしらの改造が施されている。1回引き金を引いたら3発分発射する散弾銃(もちろん弾薬の交換も大変)とか、拳銃に見せかけたただのおもちゃだったり、そういえば銃の形をした魔法力衝撃波発射装置なんてものもあったっけ。まあそんな感じだ。私は魔法と打撃専門だけど。


「それじゃルーレス、今日は早く寝るのよ。明日に備えて、ちゃんと早起きしてね。」

「遅くまで起きているのはメアリーのほうじゃない?まあ、今日はこの弾丸に薬を入れたら終わりかな。」

「ああ、それね。液は足りてる?」

「大丈夫。足りなくなったらまた頼むよ。」

「そう、その液を入れるときは換気をしっかりとね。それじゃあ。」

「メアリーもはやく寝るんだよ。」


 工房で頑張っているルーレスはかわいいというよりカッコいい。努力の天才の彼を見習わないとな〜…


 この後は適当に馬車を友達から借りたり、私は私なりに準備して。毎回同じ服装はできないからね、行くたびに新しい服を作っては着ている。今回はハツハナと、彼女の付き添いの分も必要だ。

 買うものはメモした、服は作った、お金も持ったし、ちょっと伸びすぎた髪もほんの少し切った。今日はこれでいいかな、おやすみなさい。


 市場当日-便利屋ウィロー-


「おいメアリー、起きろ!」


 待って、あと30分寝させて…昨日すごく疲れたの、わかって…?


「ハニートーストがどうなってもいいのか!?儂がお主の分まで食べるぞ?」


 ハニートーストも大事だけど〜…寝るのも大事なの…

 2つを心の中の天秤にかけても、釣り合っているのよ。


「おいルーレス、お前の主人はまだ起きないぞ。」

「メアリーは本当に寝るときは寝るからね。一応メアリーを起こす用の銃を作ったけど、怒られるのかな?」

「構わん、儂が許すからやれ。」

「了解。それじゃ部屋を出て、耳を塞いでてね。」


 バアン!と轟音が響く。慌ててベッドから飛び起き、目をこする。何も…起きてない…?

 窓を見る。まだ夜は明けていないっぽい…?なら、遅刻じゃないよね。


「やっと起きた、ねぼすけさんなんだから。」

「ちょっと、あなたなの?」

「そう、銃の部品に『消音器(サプレッサー)』っていうものがあるけど、その逆を作ってみたんだ。どう?」

「お陰で最悪の目覚めよ、ありがとう。」


 照れ笑うルーレス。いつのまにそんなものを開発してたの?

 手に持っている銃も、きっちりと「メアリーを起こす用」とかいうラベルが貼られている。

 軽く髪を適当に整える。とりあえず朝ごはんを食べなきゃ…


「おう、おはよう。」

「ハツハナさんもう来てたの?というより、料理作ってくれたの?」

「料理はソウヒョウだ。儂は下手くそだからな。この前なんか、肉を真っ黒に焦がしていたぞ。」

「あらあら、ダークマターを作れるなんて羨ましい。」

「だーくまたーとはなんぞや?」

「知らなくていいわ。」


 ハツハナさんは(勝手に)店でくつろいでいた。小さな調理器の前には、カッポウギを着たソウヒョウ——ハツハナのいつもの付き添いがいた。狐の耳は結構可愛いけど、白い狐なんてあまりみないね。

 挨拶をすると少し遅れて返して来た。どうやら丁寧に全員分作っていたようで、私が最後みたい。


 今日のご飯は味噌汁とそこらの川で釣って来たという魚の塩焼き、そして卵焼き。「真夜中に外で魚を釣るのは大変なんだぞ。」とハツハナさんは話してくれた。

 素朴だけど、結構好きな味だった。これが東の国の基本的な朝ごはんらしい。


「ご馳走さま。美味しかったわソウヒョウさん。」

「そこのウサギに聞いたが、お前はほぼ毎日同じものを食べているようだな。」

「ちょっとルーレス!!」

「好きなものを食べるのはいいが、何日も同じものを食うのは決して体に良くない。1週間に2回程度にとどめておくべきだ。」

「それはどうも。」


 後片付けが終わるとソウヒョウは着替えに外に出た。続けてルーレスが馬車の点検をしに、ハツハナは荷物に隠れるように入った。私は昨日作った服を着て鏡の前に立つ。そこらの庶民っぽい服だけど、いいよね。あとは伊達眼鏡(だてめがね)をつけて、声を軽く調節する。おしとやかな感じでいいかな。

 メモを取って、金貨を取って。店の戸締りよし、工房の戸締りよし、と。私がいないことはみんなも知っているだろうけど、一応ブラックボードに書いておいて。いいんじゃない?


「はあ、待たせおって…」

「『待たせたな』って言いたいね。言わないけど。…待たせちゃったけど、怒ってる?」

「いや、儂は寛容だからな。『アイツ』なら、怒っているかもしれんがな。」

「もう出発してオーケー?」

「いいぞ。いざ、城下町へ!」



 城下町へ-喫茶「Lotus」


 城の前は商人でいっぱい。当然のごとく、検問している。このまま突っ込んだらアレね。別に塀を登ってもいいけど、そんなことはしなくていい。魔女はクレバー、(ずる)賢くいないと。

 東側のある壁を軽く叩く。壁の一部から、彼女の目が見える。


「…メアリーか。」

「お久しぶりね、サナミさん。開けてもらえる?」

「いいが、今客が来ている。面倒ごとを起こしたくなければ、静かに入ることだな。」

「いつも静かに入っているじゃない。」


 話し終えると、壁の一部が開く。ここに車を置くわけだ。大丈夫、この周辺は誰かさんの魔法のせいでただの壁にしか見えないから、人間に悟られる心配もない。馬も近くの杭に手綱をくくっておいて、と。何の問題もないね。


 車を入れ終わると壁が元に戻る。魔女専用の裏口は一度もばれたことがない。これは特許取って金儲けできそうだ。しないけどね。

 ここはカフェ兼パブLotus(ロータス)。酒類の貯蔵庫を軽く改造してもらってこうやって入れるようにしている。

 ここの店主はもちろん人間、だけど私達魔女の味方だから問題はない。そして…


「儂は酒の匂いが嫌いだというのに…」

「ハツハナか。よく来たな。」

「えーと、お主は確か…」

「妾のことは覚えなくていい。まあ、覚えたかったらサナミで覚えてもらえぬかのう…」


 ハツハナ、というよりもう1人の彼女、ユウラの友達のサナミだ。料理の味は絶品、私も雇いたいわ。

 壁のわずかな隙間から店の中を覗く。剣に鎧、胸元には騎士団のバッジ…ね。よりにもよって面倒な相手だ。



 さて、買い物に行こう-Lotus-


 先客がモーニングを食べ終わるまでじっくり観察しながら待った。途中、こっちに気づいたようなそぶりを見せたけど、まあバレなかったよ。よかったよかった。


「ごちそうさまでした。」

「またいつでも来てね。

 ふう、やっと一息つける…って、マリー?」

「メアリーよ。久しぶりねアイザック。」

「久しぶり。君も市場目当てなのかい?」

「そうよ。」


 人の名前を覚えるスキルが低めな彼はアイザック。人間だけど、魔女(こっち)の味方だ。その話は別の時にね。

 普通、人間が魔女が関係を持つ事は、人間の決まりでは殺人より重罪、だけど、バレなきゃ問題ないよ。証拠がなければでっち上げだ。


「それで、またここは荷物置き場になるのかい?」

「大丈夫、お客さんの迷惑にならないように裏にまとめるわ。」

「なるほど。で、そこの見慣れない2人は?」

「儂か?儂はハツハナと申す。隣はソウヒョウ。」

「どうも。」


 2人の挨拶を済ませ、店のドアを開ける。市場の空気が一気に体に流れ込む。


 街は全国の商人と客で賑わっている。こういう、大きい市場は大好き。

 さて、買い物しますか。



 買い物、そして厄介な相手。-マーケット会場-


 んー、それにしても頼まれているものが多いこと多いこと。異国の茶葉によくわからないスクラップに。大きな謎置物もあれば純ガラスでかなり割れやすい球。食料品は腐るから後回しとして、他に…えーと…ああ、いい感じの薬草でも買って久しぶりに薬でも作ろうか。

 マーケット会場をウロウロしている騎士が面倒ね。念のためにルーレスは私から離れて、何かあった時に対処できるようにしている。何も起こらなければいいのだけどね。


 路地裏の少し暗い場所でメモをつけていく。次に行く場所を効率を考えながら決めていく。


「あのー、すみません。」


 声をかけられ、頭をあげる。オイオイ、騎士じゃん。


「何かお困りですか?」

「何でもないわ。ただ、ちょっとメモを取っていただけよ。」

「そうですか。何かあれば私に声をかけていただければお手伝いしますよ。」

「余計なお世話だよ。」


 面倒な相手だよホント。人によっては職務質問されたりするからこの場から早く去らなければ——


「ちょっと待って、もしかして魔女?」



 魔女 -路地裏-


 普通だと思ってた、けど何かが違う。根拠は勘だけど、話しかけた人から何かを感じる。

 そして何だろう、昔の記憶がフラッシュバックする。そして魔女に会ったあの感覚、それがどことなく似ている…


「ちょっと待って、もしかして魔女?」


 心の声がつい口から出てしまう。慌てて口を塞いだ。


「お、大当たりでーす!」


 しかし、返ってきたのは意外な返事だった。何も隠す気がないような、そんな顔で。

 私は剣を抜いた。


「お前みたいな魔女がどうしてここにいる?答えろ!!」

「いや、別にいいじゃん、私だって買い物したいんだからさ、それは個人の自由ってやつよ。侵害されちゃ困るな〜。」

「あなたたち魔女に生きる資格はないわ。消え失せなさい。」

「んー、なんだろう。元々は同じ世界にいるはずなんだけど、人間が出しゃばって自分だけの世界と勘違いしているみたいね。んで、邪魔者は消す、と。」

「何が言いたい?」

「分からない?まあお子ちゃまにはわからないか。

 それじゃ、もっと優しく言おうか。あなたの言っていることは、少し変えたら独裁者よ。自分に楯突く奴は消す、みたいな。」


 何を言っているんだこいつは!早く消さねば…!!


「あ、そうそう。あなた私を消そうとしているかもだけど、無理だね。少なくとも今日は諦めて?」

「なぜ無理なんだ?」

「あなたに私は倒せないから。じゃあね。」


 一つ一つの発言に腹が立つ。今から叩き…きって…や…



 回避 -路地裏-


 …ふう、うるさい奴は嫌いよ。ま、私は非殺傷(ノンリーサル)主義なんでね、あとまあ、殺傷したら色々と描写が面倒だし。

 ごめんね、と心のない謝罪をして、彼女の体のそばに散らばったガラス片を集める。まだ、薬の匂いは残っているね。空中で気化すると軽度の麻酔と記憶の錯乱を引き起こす花の抽出液、これでさっきのことは忘れてもらおう。

 後ろを振り返るとルーレスが手を振っている。さすが狙撃手、1発で決めるね。


 さてはて、このまま放っておいたらまた事件やらで面倒だから、ベンチに寝らせて…とと、団員の手帳は彼女らの誇り、捨てたら怒られそうだからそっと戻しておこうね。

 …ちょっと覗いてもバレないでしょ。こういうことに抵抗が全くない私は軽く覗いた。


「『メア・ヘンリー・フランチェル』。うわ、一番偉い役職なんだ、てっきりムービー中に吹っ飛ばされるモブ程度かと思ってた。」

「…メアリー?」

「あらルーレス、あなたが倒したこの子のプロフ覗いてただけよ。」

「変なことするね。」

「情報屋だもの、しょうがないね。」


 手帳の中はもう戦術的な何かでびっしり。魔女の殺し方とか、結構書いてくれているじゃん。努力は褒めてあげたい。

 とりあえず、名前とそこらの個人情報を別の手帳に写して、元の手帳はスッと戻す。


「それじゃ、買い物に戻りましょうか。」



 一方その頃 -ハツハナ-


 異国の城は大きいもんだ。その上城の下の町もなかなか大きい。儂の住んでおった国は縦に長い城だったが、こっちは結構バランスが取れておる。これもいいのう。


「ハツハナ、お前これを飲みたかったんじゃないか?」

「おお、このコーヒーとやらだ、間違いない。一見泥水のようなのだが、砂糖を入れたら美味いのだろう?」

「泥水とは酷い言われ方だな。あと、それは砂糖が入っているから甘いのだ。」

「むむ…」


 昔から落ち着きのないやつだと言われてきた。それもそうだ、家から出ることは一切許されなかった。今思えば、狭い世界であったな。あんな環境で満足していた儂は何者なんだ?

 んで、どこぞの魔女のちょっとした口約束で儂は魔女になり、自由を手にした。魔女になったのは…暇なこと以外特に後悔はない。


「ソウヒョウ、あれも欲しいぞ!」

「はいはい、了解。変わったもの欲しがるな。」

「そんなに変か?儂はそう思わないが。」

「否定はしていない。だがな——」

「お、あれもいいぞ!!」

「…」


 メアリーとは少ししたら合流することになっておるが、大丈夫だろうか?まあ、あいつは強いからな。少し前も、あんな見た目していて実は平気でベンケイの泣き所をトンカチでゴンっと…おお痛そうだったなあの兵士は…そういうやつだから問題ないだろう。



 その後


 あの後は特に何もなかった。強いていうなら、兵士の1人がハツハナにナンパしてただけ。人間と魔女が何か関係を持つことは大罪だってこと、知らないのかしら?まあ、そもそも魔女かどうかもわからないだろうけど。

 荷物は全て馬車に積み、これでいつでも出る準備は出来ている。…にしても、荷物が多いこと多いこと。こりゃ複数回に分けなきゃね。とりあえず、ハツハナのところに渡せるものから運んで行きましょうか。


「メリー、もう行っちゃうのかい?」

「私はメアリー、本当に名前を覚えるの苦手ね。」

「なんだろう、昔からこうなんだよ。…それで、行くのかい?」

「何度か戻るわよ。」


 アイザックは本当に物覚えが悪い…というより、人の名前を覚えるのが苦手。私とメアの名前を間違えたら…まあ、そうはならないか。


「おおサナミ、別れるのは寂しいぞ…」

「いつでも来ればいいというのに…」

「ほらハツハナ、もうそろそろ時間だ。乗るぞ。」

「うう…またな…」


 狐同士で仲がいいこと。サナミってちょっと変わっているけど、ちょっと抜けているアイザックを補助してくれる。昔からハツハナ…というよりハツハナの「中にいる」魔女と面識があったみたいだけど。その話はまた別の機会にでも。


 荷物を整理し、馬車を出す。なんだろう、とても疲れた。けど、これが仕事なの。



 帰宅-ウィロー-


 ほどなく帰宅、何事もなくて嬉しい。なんだかんだで、最近族がいるらしいからね、ハツハナが帰る時に気をつけてもらいたい。

 ハツハナのところ宛の荷物を整理し、彼女らと別れる。私は私のところに直接取りに来る魔女たちの荷物を少しルーレスの工房に避難させて、さあ、ディナーにしようか。


 ルーレスのリクエストの通り、今日はにんじんたっぷりのシチュー。作っている間もルーレスはチラチラと見ていた。よっぽど好きみたいね。


「それじゃルーレス、今日はお疲れ様。」

「お疲れ様〜。乾杯。」


 酒はお互い飲めないのでジュースを飲み交わし、暖かいホワイトシチューを食べる。自分ながらいい出来だと思う。栄養満点、全部自然の味です。これには私も満足満足。小さな鶏肉はとても柔らかくなって美味しくなっている。あとは秘密の旨味を入れたこれはとても美味しい。

 ルーレスはバゲットをスライスしたものと一緒に食べている。よっぽど美味しいのか、耳をぴょこぴょこ動かしている。とても可愛らしい。ルーレスの笑顔を見るとほっとする。

 私は、こういう平和な日がずっと続くことを願っている。魔女である私が平和を望むなんてちゃんちゃらおかしなはなしだけどね。


 さて、明日は何を頼まれるのかしら?ちょっと期待をしながら、私とルーレスはベッドに潜った。






 ユウラ


 帰り道、なんだかんだでここから自宅までは長い。そして暗い。それは今も変わらん。

 メアリーは…「賊に気をつけて」なんて言ってたか。

 はあ、ハツハナと面倒な契約をしてしまったものだ。出まかせ口任せの口約束のはずだったが、色々と勝手なことをして困る。まあ、それでこの体を手に入れることができたわけだが。


「ソウヒョウ、ハツハナはどうしてこんなものを買ったのだ?我には理解できんぞ。」

「私に聞かないでくれ、だが買わせなかったらまた騒ぐだろ。」

「…だろうな。」


 ソウヒョウはよくできた奴だ。ハツハナの面倒見なんて我は絶対ごめんだ。もっとも、我がいるということは、ハツハナはいないのだが。



 馬車は進む。ある時、何かを感じて周りを見渡す。ああ、賊が来たのか。一丁前の棍棒なんか持ちおって、相手にもならんわ。


「おうおうおう、待ちな。悪いが命か荷物、どちらか置いてきな。」

「それとも、どっちも置いていってくれるか?」

「どっちにしろ、お前らは死ぬ運命だろうけどな。」


 威勢のいい言葉は褒めてやろう。だがな、やる気だけでは事は成せないのだ。



「オラァ、くたばれ!!」

「くたばるのはお前の方だ、ほれ。」


 まずは1人の目を潰す。指で十分だ。男は大声で叫ぶ、やかましいわ。


「くっ…コノヤロ!!」

「遅い。まるで止まっているようだ。」


 もう1人はナイフを我に投げつけてきた。だがナイフは直線にしか飛ばないのだ。そのことをよく理解してから投げるべきだ。落ちたナイフを拾い、男に突き刺す。


「ほれ、痛いか?」

「いいいったぁ!!!ひぃ…ひぃ…」

「ほれほれ、もう少し貰っていくぞ。敗北者に異論は認めない。」


 お主のナイフは自身を留める楔になったのだ。手のひらに刺さっているが、大丈夫か?


「よくも…よくも俺の仲間…むぐっ!!」

「黙れ。耳が痛くなるから静かにしろ。」

「離せ…離せ!!ぐおっ…」

「まあ、こんなものか。」


 最後の1人…は、さすがソウヒョウ、もう片付けてくれたらしい。その紙人形の術、我は好きだぞ。


 無様だな、人間。3人が2人に勝てるわけなかろう。


「た…助けて…」

「相手を選んで襲うべきだったな。ほれ、ナイフ1本追加。」

「ぎぃぃぃぃ…」

「まあ喜べ、我は寛容だ。お主らの荷物を少しいただくだけで許してやろう。」

「ひいっ…ひいっ…」


 身ぐるみ剥いでは寒かろう。男から金貨を少しだけ譲ってもらい、旅の資金にしよう。

 人間とは愚かだ。だからこそ、誑かし(たぶらかし)がいがある。

はろー、あんどあげいん。久しぶりです、八十川小雪です。

ちょっとした企画でここに投稿させていただきました。結構急ぎ足で書いたので変な部分があるかもですが、それがあったら随時訂正しますね。


さて、銃も剣も魔法も存在し、人間も魔物も存在するこの世界のがん細胞的な存在、「魔女」。魔女と人間は対立しているという感じですかね。まあ、そこもガバガバのガバメントです。

さてはて、この世界はどうなるのでしょうか。次は、人間目線で書いていきますね。


そうそう、この話のキャラは元ネタがあったりなかったり。有名な説話だったり、私が数多くのゲームで作ったキャラだったり。キャラメイクできるゲーム、そのキャラに何かしらの設定を持たせるのが好きだったりします。あまり本名を使いたくないんでね、恥ずかしいし自分が死ぬのはゲームでもちょっと変だし。

ま、元ネタがどうとかって話はおいおいしていくかもです。

それでは。


そうそう、私も魔女です。この世界を創造した…なんてね。

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