老婆の陰謀
「よく来たな」
「遠いとこから来てやってんだ。茶菓子でも出せ」
「相も変わらすの無礼者め。少しは弁えることを覚えたかと思えば」
「言っても無駄だ。時間を無駄にするより用件を切り出したほうが早いであろう」
「わかっとる」
いかにも武人な雰囲気を見せるのは、剣において右に出るものなしと謳われるシンゲン。
日本古来の神としてとある村に崇められていた神を引きずり出してきたらしい。
契約の際にはなにやらとんでもないことがあったらしいが詳しくは知らない。
シンゲンはまるでエルとは対局を為すような性格をしている。
疑わしきは罰せよ。
そんな信条を持っており僅かな嘘も綻びもシンゲンの前では無意味。
備え持つ愛刀で一刀で斬り伏せられる。
「話というのは他でもない。実は式神を一つ上から賜ってな」
「上?」
「浮管からな。なんでも向こうじゃ手に負えん言うて泣きついてきおった」
浮管とは浮遊式神管理委員会の俗称のことだ。
簡単に言えば手に負えない式神を管理するバチ当たりな部署だ。
元来なら神たる式神を管理するなど不可能な話であるが、
あそこに収容される式神のほとんどは精神を犯しているか、何か目的がある式神だけだ。
あの部署は他には他言できない特殊な方法や手段を持っているらしく、
式神を無条件に従える術があるらしい。
しかし倫理の問題から神を従属させるなど言語同断。
結局のところ力を持て余した人間の咎が集約する場所でもある。
従えられぬ神は無い。
そんな触れ込みを持つ彼らではあるが現実ではまったくのガセである。
中にはその独自の手法をもってしても扱いきれない式神は存在しているわけであり、
公にその事実が広まってしまわぬように多額の報酬たる口封じと共に高名な式神使いに扱いを押し付けてくるのだ。
ばっちゃんも今回が初めてではなく、何度か預かっていたことがある。
契約を結ぶことはせず、あくまでも式神として扱わねばならず、目下悩みの種になっているらしい。
「向こうで手に負えん神を契約もなしに従えるなどとの道理が既におかしいっ」
「ごもっとも」
「過去の履歴があるからそうなる」
「・・・もしやその式神を俺にあてがう気じゃないだろうな」
「話を追えばそれ以外の選択肢はないじゃろ」
「ちょっと待てよばっちゃんっ、そんなもんとオレが契約を結べばどうなるかわかんだろっ」
「式神の魔力は主に比例することを忘れたわけじゃあるまい」
「その式神自体の魔力は?」
「はっきり言って異常じゃ」
「は?」
「本気で暴れればこの星を征服することも夢じゃないじゃろ」
「なんだそのハザードは!」
「かなり高位の神じゃ。姿こそあぁじゃがな。なんでも約束とやらがあるらしい」
「約束?」
「あぁ。それを果たすまでは暴れんから安心せいじゃと」
「ならなんで浮管の手に負えないんだよ」
「あそこの待遇は世辞にもいいとは言えんからな。気持ちはわからんでもない」
「それって爆弾抱えることに向こうが嫌気さしただけじゃんっ」
「言葉を変えればな」
「だからって俺に話が来るのはおかしい流れだろっ」
「すまんな。ワシが有名すぎるせいでブランドが荷勝ちしたらしい」
「そのブランドが式神使いでありながら式神の一つもロクに従えない出来損ないを覆い隠してしまったのだ、と」
「その通り」
「くたばればばあ」
長い会話を得てやっと話の全貌を掴んだ。
ような体のいい使いっ走りかよ。
「お前の未熟な魔力もここにきて役に立った」
「まだ受けるとは言ってねぇだろ」
「ほぅ?」
「何だよ」
「シンゲン」
主に名前を呼ばれたシンゲンはゆっくりと刀に手をかける。
「きょ、恐喝する気かよ」
「最近なまっていると愛理から聞いておるからの。少し鍛えてやろうというだけじゃ」
「き、汚ねぇぞ!選択支のない問いかけを世間じゃ恐喝とそう呼ぶんだっ」
「シンゲン」
「わぁったよ!やるよ!やりゃいいんだろ!」