不老不死のエクスキューショナーさんも残業は嫌い
本編とは温度差のあるバイオレンスな内容となっております。
某コンテンツのリスペクトが含まれておりますが、感想等で名前を出すのは止めてくださいませ。
また、既知の有名作品を想起させる部分があります。しかし、決して当該作品を貶めるつもりはありません。
腰の鞘から引き抜いた脇差を横に振り、死体を積み上げる。
だらしなく膨らんだ腹から内臓が溢れ出すのを見るのが、たまらなく好きだった。
心の臓から腐臭を撒き散らしてくれるだけでも、気持ちが弾むほど愉快になれた。
首の半分くらいのところまで切り裂かれ、視線が定まらず慌てふためく姿が愛おしくさえあった。
「……ダーメだ、これ」
間延びした声音で呟いてしまう程度に、最近は飽きが来てしまっている。
もう少し前は、疎らに転がる屍達を作るのが楽しかった。生ける屍達であるため、気兼ねなくいくらでも殺せたからだ。
「そりゃ、同じオモチャでずっと遊んでたら飽きるよなぁ」
腐肉で汚れた黒髪を掻き、少女はため息を吐いた。
どれもこれも同じ反応しかしてくれない。今回など特に、死蝋化したミイラであるため余計につまらない。
他に、何か別の娯楽を見つけなければいけないようだ。
多様な遊戯が溢れた現代、直ぐに見つかるはずである。
しかし、今は考えている間も惜しく、振り返って地下深い氷室を立ち去る。フリルをあしらった黒い一色のドレスを夕暮れになびかせて。
さっさとタイムカードを押さなければ、電話がかかってきてしまう。
「……チッ」
上まで上がって廃屋を出たところで、タイミングを見計らったかのように着信音が響いてくる。
携帯電話にデフォルトで入っている電子音を聞けば、誰からの電話なのかくらい直ぐにわかった。
思わず、終了ボタンに指が滑っていくところだった。
「はい、もしもし……」
通話ボタンをタップした。
『もしもし、僕です』
聞こえてくるのは、局長の声。
少女は、この善人を取り繕ったような男の一言一句が嫌いなようだ
『不機嫌そうですね。そんなに僕と電話をするのが嫌ですか?』
「ご主人様から電話がかかってくると、良いことがないってジンクスがあるんだよ」
『それはまぁ、当然でしょう。対策課からの指示が、貴方達にとって本意なことなどほとんどありませんからね』
日本政府魔物対策課(通称:魔対)の連絡事項は、大抵が追加業務である。世間一般に言えば、残業だ。
雇われている魔物狩りの面々は、世間的には――効果が出ているかはさておき――秘匿されている。
故に、労働基準法などがないので労働組合に訴え出ることもできない。
『輝夜さんの位置から山を一つ迂回すると村があるはずです。そこの住民から、野菜泥棒の訴えが入っています』
案の定か、と輝夜なる少女はため息を吐いた。
徒歩でどれくらいかかると思っているのだろうか。
「ただの野生動物じゃねぇのか? 俺は、無駄足なんて踏みたくないからな」
『不確定な情報ですが、それを現地に赴き調べるのも貴女達の仕事でしょう?』
正論に愚痴を封殺される。こちらの疲労も考えない事務的な思考に膨れっ面を作る。
局長が淡々と状況説明を行った。
足跡らしきものは、何かが跳ねるか這いずった数本の線だけだとか。その場に食べさしは少しあっても、大半が収穫して持ち出されている。噛み傷も人間っぽい、とのことだ。
知性は少し感じられるものの、人間の仕業には思えない痕跡が見られるわけだ。
「はいはい、わかりました。調べて参りますよ、ご主人様」
魔物の可能性がわずかに感じられるため、輝夜は仕方なく折れることにした。
拒否しようとしても、義務を盾に酷使されるのだが。
『では、よろしくお願いします。しかし、先程からその呼び方はなんなんです?』
漸く気づいたのか、と電話越しではわからないよう嘲笑を浮かべる輝夜。
「幼気な少女に首輪を付けて、ヒィヒィ言わせるのが好きなようだからね。こっちの呼び方の方がお好みかと、配慮させていただきました。ねぇ、ご主人様?」
『なッ! 何を言っているんですか!? 誤解を招くような物言いは止めてください!』
電話先で、いつものメガネの澄まし顔を赤くして慌てふためく姿が目に浮かぶ。
愉快だ。
「クククッ」
『貴女と言うひ――』
説教臭い言葉を並べられる前に、さっさと通話を切る。
廃村の死者達の弔いと処理は魔対の人達に任せるつもりで、そのままにして立ち去る。
§
里山一つを迂回して、ほぼ日が沈んだころに目的地へ到着した。
道を探して走ってくるだけで疲労困憊である。
「ここか、局長の言ってた畑ってぇのは」
山肌を拓いて作られた簡素な畑には、夏野菜が多く見られた。
まだ初夏の頃ではあるが、氷室の中が心地よく思える程度には夏が来ていたのである。
「ゴミがコソコソやるには格好の場所だな」
周囲を見渡しても、民家は疎らで木々が多い。食べ物も誰かが作ってくれるのだから、少し頭が回れば過ごしやすいと直ぐにわかる。
畑を囲うための柵も、幼児ぐらいの脳味噌があればくぐり抜けられる。
スチール製の格子型をした柵など、支柱とを止める針金が外れて開けられるようにされている。
さて、開かれたところを見ると、直ぐに何かの這いずった痕跡を見つけることができた。
「痕跡を消す頭はなしか。猿より少し賢いけど、後先を考えないアホ?」
道具の理屈がわかる知能があるなら、自身の存在を隠蔽するくらいは考えるはずだ。少し齧っただけのクズとも呼べない野菜を残していくのだって、腑に落ちない。
一度きりの盗みならば、荒らして逃げるだけでも構わないだろう。
春から夏にかけて三度目らしいのだ。
「ま、考えるのは俺の仕事じゃねぇや」
とりあえず、這いずったいくつかの痕跡を追うことにした。
大中小と大きさは様々だ。親子連れらしい。
追跡すること10分くらいだろうか。
「これは……?」
思ったより近くに対象がいてくれたので、ドレス姿で森を歩き回らずに済んだ。
それは良いのだが、目の前に居るそいつらが何なのかを思考する。
某国民的テレビゲームに登場する青い生物をご存知だろうか。滴るようなジェルのようなフォルムに目口を付けた魔物である。
頭の部分が、ニュルンって具合の奴もいれば星型や花型、色々とレパートリーがある。色も青色だけにとどまらないようだ。
「不定形生物種なのは確かなんだろうが……。マジで、アレのモデルっていやがったのか」
少し驚きながらも、輝夜のやることは変わらない。
「なぁ」
「ピギュッ!?」
「うわッ?」
話しかけた瞬間に、一番大きいのが反応する。
食べ途中のキュウリを口から溢す驚き様に、輝夜もちょっとだけ身を引いた。警戒心はそこそこにあるが、非常に鈍い様子だ。
「プ、プルン、プルンッ。僕達、悪い魔物じゃないよ!」
言葉を交わそうとしておいて失礼な話だが、そいつらも口が利けることに感心する。
セリフさえもかなり似通っている。だが、断じて言うが、似ているというだけで件のゲームキャラクターほど可愛げがない。
例のビジュアルよりも薄汚れていて、表情が豊か過ぎる所為だろう。
「会話は、可能か……。なんとなく殴りたくなる姿だが。えっと、お前ら野菜を盗るのはやめろ」
食べ物を盗むことと、柵の破壊を除けば獣害と変わらない。ならば、ゾンビ共とは違って言葉が通じるため、説得から入る。
魔物狩りをしている者が標的に対して無条件で殺害するかと言えば、そうではない。
その魔物達も含めて自然環境が成り立っている可能性もあるためだ。
輝夜からしてみれば、まだるっこしいこと上ないのだが。
(こんな奴ら、さっさと叩き潰しちまえば良いんだよ)
毒づいてみたところで、一応規則なので致し方なし。
「プルン。何を言ってるの? お野菜さんは僕達のために作られてくれてるんだよ?」
「そーだよ。にんげんはおやさいさんをひとりじめしちゃーダメだよー。ピュルン」
「……」
しかし、そいつらの言い様に、交渉の余地がないことを悟る。中サイズ程度の子供らしきまでこのザマである。
最初から分かっていたことだったのだ。こいつらに知能こそあれども、非常なほど馬鹿であることは。
「ゴミ……ゴミムで良いか。てめぇら、除去決定だ」
呼称を考えたところで、携帯電話を取り出して魔対の支局に連絡を入れる。
さすがにゴミム共も『除去』の意味を大凡理解していたのだろう。
「や、止めてよッ! 除去なんてされたくないよ!」
皆殺しにされると勘違いしたのだろう。
この場から取り除いて、沙汰は後回しにする魔対任せの解決方法だった。それを知らずに、親ゴミムが輝夜の携帯電話をはたき落とした。
「痛ッ」
頭の部分が手を殴打し、痛みと衝撃で端末を落としてしまう。不運にも、足元の木の根にぶつかって半壊した。
それは同時に、人間を傷つけたという死刑判決の印を自身で捺したのと同義だった。
人を死傷させる魔物は、魔物狩りの独断で駆除しても構わない。そういう取り決めだ。
打たれた傷ぐらい、不老不死の身体である輝夜ならば数秒も経たずに治癒するのだが。
そんなことは輝夜に関係なく、ただ腹立ち紛れに脇差を振った。
「フッ!」
「ピキッ?」
この鈍そうな生物共に、輝夜の動きはどう映っただろう。
振り向いた瞬間の輝夜の表情は見ていないだろう。抜刀に反応した様子もない。
横一閃に両断されてから三秒ほど数えるまで、ゴミムは自身の状況に気づきさえしなかった。
「な、なんで、僕二つに割れてるのぉ!? これじゃあ、プルプルできないじゃないかぁッ!」
「おとーさんがふたりになってるー!? こわいーッ! おかーさーん!」
口の下で二つにされてもなお生きている辺り、不定形生物種の謎生命力はゴミムにも健在らしい。
ただ、心身ともに脆弱で鈍感な点は、まるでカトゥーンアニメを見ているような様相だ。
父親を放って逃げていく仔ゴミムさえ、どこかコメディのように思えた。
「ギャァァァァァ――ッ! くっついて! 僕の身体、くっついてぇッ!
舌まで使って、自分の身体を治そうとしている。
「滑稽だな。でも、これまでのどんな魔物よりも反応が良くて、切り心地が楽かな」
そんなことを思ってしまった。
快感を覚えてしまった。
「何を言ってるのッ? 早く僕の身体を元に戻してよぉ! 痛いぃッ!」
「何って、お前らをどう殺すかってことだよ。なぁ、ぁ?」
二つに割れた身体の内、上側と掴み上げた瞬間にウニョンの部分が取れた。
だからどうだ、というわけでもない。ただ、父ゴミムが意外な反応をしてくれた。
「僕の角ぉ! 返してぇッ! 大事なぁ、角返してぇー!
ウニョンが角なのだという事も意外だったが、半分の身体であっても取り返そうと必死になる姿は良い。
涙目になって、舌を千切れんばかりに伸ばしてくる。
控えめに言っても、感動的だ。
トカゲの尻尾切りではなく、戻してみればちゃんとくっつくところも面白い。
「ハハハッ! そんなに大事なのかい、この角は?」
「そうだよぉッ! それが無いとプルプルできないじゃないかぁ!」
プルプルというのが何なのかはわからないが、ゴミムどもにとって精神安定に関わることのようだ。
さておき、輝夜の享楽はそれだけで終わらない。
丁度、仔ゴミムが母と赤仔を連れてきたのだ。
この番と仔らは、どんな反応をしてくれるのだろう。逆に、父ゴミムがどんな反応をしてくれるのか。
「もぉ、どうしたの? うるさいわよ」
母ゴミムが気怠げにやってきて、しばし父ゴミムの状態を見つめる。
「何があったのー!? お父さんが二つになってるじゃないぃッ! プルプルできないわぁーッ!」
「ぅわぁぁぁん! ぉとーちゃん!」
「……お前らもうるせぇ!」
正直、喧しいのもあって母ゴミムを蹴り飛ばしてしまう。
「ふべばッ!」
ゴムボールくらいの感触だろうか。気持ち良い。
ここ最近、感じていなかった快感が背筋を突き抜けていく。
(でも、まだ……まだ、楽しみがあるじゃない……)
残業のストレスなんてどこかへ吹き飛んで行ってしまった。それどころか、この仕事を回してくれた局長に感謝さえするのである。
「お母さん! ひ、酷いよ、人間さん!?」
樹にぶつかって半リング状になった母ゴミムを、二つに切られたままでも心配する父ゴミム。
「ほらッ! ほら! ほらホラホラホラァッ!」
「フギッ! ゴフ! ブベウべウベウべェッ!」
母ゴミムを蹴り上げ、殴る。上手い具合に、樹とぶつかってバウンドしてくるのだから律儀な体質だ。
殴る殴る殴る殴る――。
ハートの角が千切れ、身体も少しずつ弾け、見るも無残に引き裂かれていく。
「止めてぇッ! 人間さん、お願いだから止めて!」
「おかーさん! おかーさんッ! おかぁぁぁさぁぁぁぁん!」
「ぉかーちゃんんんんんッ!」
良い反応だ。
「……」
「ありゃ? やりすぎたか?」
手応えがなくなったので殴るのを止めた。どうやら、相当の肉体を失い瀕死状態までなってしまったらしい。
ピクピクと痙攣しているのが素敵だ。
輝夜の記憶にある限り、不定形生物種の再生は動植物を食べてマナを生成する方法が主流だったはず。
「こんな状態でも食えるのかね?」
別にゴミムに訊いたわけでもないのだが、独り言がそう聞こえたのだろう。
「そうだよ! お肉さんとかが良いよ! 早くお母さんを治してよねッ!」
「ぅん? その言い方だと、別に生きてなくても良いのか?」
「そうだよ! なんでも消化して栄養にできるよ!」
ということらしい。
かなり特殊な不定形生物である様子だ。
だからと言って、与えられそうな食べ物は周囲に見当たらない。盗んできた野菜はほぼ食べてしまっている様子で、畑まで穫りに行けば同じ穴のムジナだ。
だから、輝夜はもっと手軽で残虐な手段を実行する。
母ゴミムにではなく、父ゴミムに対して。
「お母さんはこのまま死んで貰う。お父さんの方には、もっと良いものを上げようじゃん」
言って、輝夜は脇差で自身の手の平を傷つける。流れ出る血を、父ゴミムに浴びせた。
するとどうだろう。二つに切られていた身体が元通りになったではないか。
「私ほどの不死性は無いだろうけど、再生力は今までの比じゃなくなるぜ?」
不定形生物の生命力と不老不死の血を混ぜた。
どれほどの耐久性能になるかはわからないが、容易く死んでくれたは困るだろう。
「な、直ったぁッ! プルン! ありがとう人間さん! お母さんも治してよ!」
父ゴミムのセリフを聞いて、笑いたくなる。
自分がどうして治療されたのか、理解していない。さっき断ったことさえ忘れている始末だった。
「このにんげんさん、プルプルできない……プルン」
まだ、危険を察知して逃げ出そうとする仔ゴミムの方が賢いかもしれない。
「ぉかーちゃんをなおせぇーッ。とろとろしなでよ、にんげんしゃん!」
赤仔ゴミムに関して言えば、人間に楯突いてくる。
愉快過ぎてたまらない。
プルンプルンと、逃げているのか地面に身体を擦り付けているのか、良くわからない動作をする仔ゴミムを掴み上げる。
「ピィッ!?」
「そう遠慮、しなさんなッ」
「わぁ、あいきゃんふらい!」
気まぐれにサッカーボールくらいのそれを投げ上げる。
落ちてきたものをただ縦に両断する。
ベチャッと気持ち悪い音を立てて地面に広がった。
「ウワァァァァァァァッ! 可愛い僕の仔がぁッ!」
星型の角を持った仔ゴミムは、星になれず地面の藻屑だ。
「この! 人間め!」
さすがに親ゴミムがブチ切れた。
「おとーちゃんやっちゃえ!」
「ウオォォォォォォォ――!」
裂帛の気合を込めてはいるものの、非常にゆっくりした体当たりだ。軽くいなして、角を掴んだ。
グニョンッと伸びて、ブチンッと千切れた。
「この角って、何に使うんだよ……。ただの飾り?」
使い道のわからない角を軽く揺すって考える。
まさか、着せ替え人形よろしく付け替えて遊べると言うわけではないだろう。
赤仔ゴミムの花型角に寄せて見ても、ちょっと大きさが違いすぎる。
「僕の角さーん! 返してぇ! 早く返してよぉッ! ピュギャッ!」
「おとーちゃんのつのしゃーん!」
喚く親ゴミムを足で抑える。鬱陶しい。
健気にも角を舐めて治そうとする赤仔ゴミム。
頭を叩こうと思って角を振るった瞬間だった。赤仔ゴミムの花型角にぶつかって、両者がお餅よろしくひっついたのである。
「にゅふぅぅぅぅッ!」
その表情をどう表現すれば良いだろう。
酷く醜悪で変態的。涎を垂らしながら白目を剥いて、かつ笑おうとする。1000年以上前、輝夜を嬲った金持ちの奴らと何ら変わりない。
「だめにゃのぉぉぉぉぉ――ッ!」
次の瞬間、花型の角の花弁が変化を見せた。
五弁の花びらは総じて小さなゴミムに変化したのである。
「可愛い赤ちゃんの赤ちゃんだよ。プルプルだよ」
父ゴミムが言う通り、とてもプリプリッとした生き物だ。
それが、逆に輝夜の加虐性に火をつける。
そいつらの言う角が、輝夜を無遠慮に刺し貫いた生殖器と変わることのない物だとわかったからだ。
その時も、手にした刃物でソレを切り落とした。殺した。
「死ね!」
「ピギッ!?」
「死ね! 死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ねしねシネェッ!」
雌雄両立するということも嫌悪感を冗長させた。
「や、止めて人間さん! 可愛い赤ちゃんになんの罪もないよぉッ!」
「喧しい!」
止めようと食らいついてくる父ゴミムを掴み、赤仔ゴミムに叩きつけた。
プチプチプチッと小気味良い音を立てて赤仔達が潰れた。
「あ、あ……アァァァァァベッ!?」
「狂ってくれるな――」
家族を失ったショックで精神に異常をきたしそうだった父ゴミムに、脇差を突き刺して正気を保たせる。
柔らかい身体を持ち上げて、輝夜がニッコリと笑いかけた。
「――もっと楽しもうぜ」
§
それから三日ほどが経過したある日、輝夜は再び残業を課せられていた。
「先の報告を考慮するに、この不定形生物種は脆弱であるものの非常に繁殖能力が高いです。まだ山中に潜んでいる可能性を考え、駆除を任せてよろしいですか?」
局長の言は理不尽なものだったが、輝夜は笑みを崩さない。
「わかったよ。ちゃちゃっと1グループぐらい狩ってくる」
二つ返事で引き受けた。
それを聞いていた局員達は、目を丸くしてヒソヒソと話し合う。
「あの“エクスキューショナー”八百比丘尼 輝夜が大人しく言うことを訊いたわよ……」
「嘘だろ。槍の雨でも降るんじゃねぇのか?」
局が飼っている魔物狩りの中でも、容姿に似合わない異名を付けられた少女。その心境の変化に、誰もが驚きを隠せないのだ。
何があったのか、誰も知るところではない。
しかし、一つだけ言えることがある。
(前の奴はもうボロボロで反応が薄くなっちまったし、新しいのを手に入れるチャンスだもんな)
ストレスはあまりためすぎない方が良い、ということだ。
最スパ本編の打ち切りに伴って、オマージュを一つ。