#84 新たな仲間と旅立ちと 後編
ラウムと向き合うネムロス。視線が交じり一瞬だったはずの、けれど間延びした時間の中に居たかのような、錯覚に襲われた。
心の中で息を吐き、落ち着かせ。
「あぁ、すまない。フォスレスと話していた様でな、挨拶が遅れてしまった」
「気を使わせてしまった様ですね、ありがとうございます。これ以上お時間を取らせる訳にもいきませんね。挨拶は省かせていただき、本題へ入りましょう」
懐から差し出された平たい箱。開かぬよう紐で縛られてはいるが、其れだけであり外観だけでは何か見当もつかない。
「開けても」
許可を求めると、何でもないように許可をくれた。
紐を解き開けると箱の中に入っていたのは封書。一瞬訝しげるも不思議に思う。
表には何も記載はない。裏には封蝋に印章とご丁寧に封緘されて居り中身までは確認できない。
つまり誰かに届けて欲しいと言う事だろうか。
「隣国アルティフィキウ厶王国へ向かうと聞きました、傭兵団を追うためにと。我々は領主の私兵となりますから、此の領地を出ればただの雑兵に成り果ててしまいす。しかしながら今まで積み重ねてきた伝手を失うわけではなく。少々難はありますが貴方がたの力になってくれると思います」
つまりは傭兵団を追うにあたって隣国での伝手。
ラウムからして難ありと言わしめる紹介先は不安もあるが、暗中模索かと思われた先に一つの光が灯された。
疑問はあるうえ、喜々と喜ぶことは出来ぬが、指針は示された。
伸るか反るか分からぬが、気になることはどの様な事が記載されているかだが。
「紹介状とは助かるが、内容を聞いておきたい。何に対しての紹介なのかを」
「宛先は隣国のとある雲上人。内容はマレウス傭兵団について助力のお願いと、大陸へ渡る為の支援の二つです。無論見返りの事も記載していますが、其の内容を貴方がたへ伝えるのは先方の判断へゆだねます」
後の続く話は街の名に貴族の情報に状況。手短に教えてくれた。
「そうか……傭兵団の事のみあらず、其処までとはな。此れはますます其方の仕事に手を抜けなくなった」
「えぇ、是非お願いします」
追い詰められた、そう思わされた。
彼にとっては冗談かもしれないが、いや彼の野望を考えると本気なのだろう。
此れで手を抜いてしまえば、後の支援を見限ると言わしめられる。
ラウムにとっては大した事ではないと、そう言うであろうが、ただ一介の村で過ごしていただけの、村人では太刀打ちできないか。
だからこそ見返してみたくもある。
「一つ、目標というか……俺にもやってみたいことが出来た」
「……お聞きしても?」
ラウムの仮面が僅かにはがれる。笑顔の、その瞳は笑ってはいない。だからこそ。
口の端を無理やり上げ、微笑むことなど器用な事は出来ないなら、獰猛に睨み返し。
「その仮面を剥がして驚く顔を見て見たくなった」
「是非」
其れは図らずも呵っていた。
あぁそうか、今分かった。俺は気に入らなかった、出会った時から。
ラウムの其の笑顔が。
今は丸め込まれ、意のままに道を示され歩かされている。利用し利用される状況では無く、一見恩恵が多いように思える今回の提案だが、見方を変えれば全て彼の思惑の中。
気に入らないが今は何も出来ない。示された道と言えと引き返すことも出来ない。
なら進むしかない。彼の思惑を上回る何かを以て。
お互い笑い合う。此方の挑戦を受け取ってくれた。
「あぁ、やっと終わったようですね。私も挨拶をしてよろしいですか」
話に割って入って来たのはウィリデ。
ラウムと話し中で遠慮していたのか、一段落ついたところで割って入って来た。
「最後のお節介ですが、其れはウィリデからお願いしますね」
「お節介とはまだあったのか」
「おや、良いモノを差し上げようと思ったのですが、要りませんか」
「副隊長……」
「あぁ、申し訳ない」
ウィリデが窘めるとラウムは謝罪をして一歩引いた。
力関係を示したものでは無く、ただ役割の問題なのだろう。
「副隊長からお渡しすれば、また副隊長個人からの贈り物と思われますから、私からの方が良いと判断いたしました」
かざした手の先に居たのは馬であった。
大型馬では無く少し小柄。足は太く、人を乗せる事を想定しては無く、物の運搬を主とした古馬。
子をなすことも難しく、飼い続けるには維持費に対し利が少なすぎる。価値としては最早低く、手放すに惜しく無いのだろう。
処分するに丁度良いと言った処か。
「この馬は、返せばよいのか」
「いえ、差し上げます」
つまり連れて行け無くなれば処分は好きなようにして良いと。
古馬であろうと必要とされている所はある。売るなり、最悪は非常食にも出来る。
「助かる。ありがたくいただいておくよ」
「此れは私たち警邏組合からの餞別です。そして此処から先は私個人の餞別として受け取っていただきたく」
見ている者を惹きつける様な笑顔。
その意味を一瞬考える隙を突いて蹴りが入った。
何が起きたのか理解するに時間を要するも、何故蹴られたのか疑問が頭を占める。
村を出てから着続けている一張羅、少々くたびれてはいるが今日旅立つ日に汚れたままではと思い洗って綺麗にはした。
其のズボンに足跡がくっきりと付いた。
「……理由を聞いても」
「此れから旅立つネムロスへ激励ですよ。此の街か蹴り出して帰ってこないようにね。後は羨望の気持ちです」
「そうか、羨望か。其れならば仕方がない」
ウィリデが何を羨ましがっているのかは分かるはずもなく、推測したところで正解ではないし、聞いたところで教えてはくれまい。
ならと、片手を上げる。意図に気付いてか、つられてか、ウィリデも片手を上げた所に力の限りを尽くし叩いた。
周りの目が一斉に集まるほどの乾いた音が響き渡る。
少々手が痛かったが覚悟していた分耐えられた。しかしウィリデはどうだ、分かってはいたろうが予想以上の力はかなり痛かっただろう。
笑ってはいるが、其の笑顔は少し引きつっている。
「なら俺に出来なかった事を託す」
「はい、託されました」
少々ぎこちない笑顔を浮かべ、同じく何も説明もない託し事に快諾してくれた。
さて、街ないし村で静かに暮らす先は叶う事なかったが、ウィリデに託すことにより露と消えずに済んだ。
冗談交じり、託すという一言だけで伝わるとは思ってはいないが、まぁそれも一興か。
半ば蹴られた事への意趣返しではあったが、理由としては上々。
「早速ではあるが、荷を馬へ積むとしよう」
「そろそろお時間の様ですね。荷物を積み終えましたら彼女らへの処遇を実行すると致しましょう」
「分かった。リア、リティス、荷物を。馬へ積んでこよう」
本来ならば今日まで街へといることは出来るが、日をまたぐと強制的に刑が有効化されてしまう。
次の街へと向かうにも夜に移動は危険であり、朝早い時間となった。
「姉さん、荷物を。手伝って来るよ」
リアがリティスの持つ荷物を受け取ると、並んで歩きだす。
「動物、近くで見るのは初めてなのです。触れ合うことも出来るのでしょうか」
「ん? 今までなかったのか」
「私が近づくと皆逃げてしまうのですよ。多分この目の所為かな」
魔眼。フォスレス曰く紛いものでは無く、成長前ではあるがその力は本物。
俺はまだ其の力を目にしたことは無く、話を聞いただけしかないがかなり強力であったと。
ただの獣では近寄る事は無いと。
「今は魔眼が封じられている為、怖がらすことは無かろう」
「だと良いのですが、もしかしたら触れ会えられるかと思うと楽しみなのです」
両の手の指を合わせ俯きながらも楽しそうに顔をほころばせる。
「触れ合える事が出来たのならば、此れから先楽しみが増えるか、出来なかった事が一杯出来る様になれば喜ばしい事だな」
馬の下へと来ると首に振れる。古馬だけに落ち着いており、嬉しそうに嘶く。
恐る恐る手を伸ばすリア。その指先が馬へと触れるとすぐに引っ込める。
「恐れながら触れば馬も怯える。此れでも馬の扱いについては心得ている。首をゆっくりとなでてやると良い」
頷くと再度手を伸ばし馬の首へと触れる。指先で触れ、次第に手のひらで撫で驚きから喜ばしい顔へ。
「簡単であろう」
此方に振り替える、その眼は布で覆われ表情は分かり難いが口元がほころんでいる。
「この子、何て名前なのでしょう」
「そうだな、しばし旅を共にする仲間だ、名を知らないのは不便か。荷を積んだ後、聞きに行くとしようか。無いのであれば名をつけてやればいい」
「はい、楽しみです」
「油を売るのも此れぐらいにして、怒られる前に荷を積むとしよう」
馬の背には厚手の布と荷を括り付ける為の鞍、その鞍がずれぬよう帯径で止められている。
本当にここまでくると、期待の表れというより怠けず仕事をしろと、圧力をかけてきているように思える。
今は其れ等を頭から追い出す。
考えなければならぬことが多すぎる。まだ旅に出たとは言えぬ今の時点で、背負うものがあり過ぎる。
此の先どれほど背負うか分からぬが、牧師の言わんとしたことがよく分かる。
どの様にすればよいのか、捨てるか……何を捨てる?
全て置いて来た俺が、新しく持ち得たものを直ぐに捨てるのか。あまりに在り得ないだろう。
取捨選択するにはまだ早すぎる。其れに背負ったのはフォスレスであり、俺は其の手伝いをしているだけにしか過ぎない。
責任転換、放棄など謂われるやもしれないが、特別訓練から帰って来た処に彼女らを連れて行くなどと言われて、どの様に距離感を取ればよいのか教えてくれる者もいない状況では仕方ないであろう。
時間が必要だからこそ、臆病なぐらい慎重に事を運びたい処だ。
頭で考え事をしながらも、手は荷袋の口を縄で括り付けると馬の背に乗せてゆく。
重量の重い物はなるべく下へとなるよう積むのが定石ではあるが、一番重いのは俺の荷物。
少ないが野営の道具が入っている分、彼女らの荷物より重い。
荷を馬の左右へと括り付けるも、重量を考えると姉妹の荷物を左右に一番重い荷物を背に。
歩く時に荷が揺れないよう、しっかりと括り付けと、荷を揺らし外れないか確認してゆく。
重心が下の方が良いのだが、まぁ走る訳でもないし問題は無かろう。
「さて、此れで大丈夫だろう。待たせたな……」
リアの方へと振り向くと、目が合った。
言葉通り、魔眼封じの布を取り外したリアの黒い瞳。その瞳が此方を見つめ、そして慌てて顔を逸らすと急ぎ布を目に当てつける。
かなり慌てたのか、少々不格好ではあった。
「ごめんなさい。何処かで引っ掛けたのかズレたので直そうと」
「いや、大丈夫だ。しかし姉妹か、よく似ている。姉と同じ黒い瞳は人と違い、黒曜の様で」
伏せた顔が此方へと。右に左に忙しく動く。見ていて楽しいと思うのは、彼女らに悪いと思うか。
「俺の村を襲ったバケモノが魔眼を使っていたが、紛い物であったからか使っていたものがバケモノだったのか分からぬが禍々しかった。道具とて担い手によって変わると謂う、ならば魔眼もそうであるやもしれぬ、リアの魔眼は優しそうであった」
褒められ慣れてないのか、顔を朱色へ染め言葉をつめる。
「あ、ありがとぅ……」
最後の言葉は小さく辛うじて聞き取れたが、其れだけ告げるとまた俯いた。
「さて、戻ろうか」
手綱を手に馬と共に歩きだす。その後ろをリアが付いてきているのを確認しつつ。
ネムロスとアレスリアの様子を見守っていたフォスレスにリュカンから声が掛けられる。
「世話になったな、師匠」
「……貴方の師匠になった覚えはありませんが」
首を少し傾げながら否定したものの。
「時間は短かったとはいえ、多くを教えて貰えたのは事実だ。師と呼んで差し支えないだろうよ」
「まぁ、私とて教えた時間で師弟関係が決まるなどとほざくつもりは無いですが、けれど貴方を弟子として取ったつもりはありませんよ」
「だろうよ。俺も弟子と認められるとは思ってはいない。勝手に思う分はよかろう」
「……それなら良いですが。良いの……か」
少し思案し返答したが、違うだろうと思う。何が如何違うのか言葉にすることは出来ないが、
教えたのは上総の技のみ。最早滅びた流儀の技など名乗った所で苦情など無いが、中途半端な技で名乗られても死者を冒涜するような行為か。
「上総の名を名乗らなければ、教えを存分に振るってください。知り得る全てとまでは言えませんが、時間が許す限り教えれることは教えたつもりです」
「この恩は必ず返そう」
「次会えるかどうかも分からないのに、無理に気にする必要はありません」
「いや、弟子とししっかり返さねば俺の気が済まん」
何を向きになっているのか首を傾げる。
旅立てば二度と戻らない事は無い。時がたてば懐かしくまたは、別の用事が出来て再度来訪することは十分に考えられるが、其れが明日なのか十年後なのか。時がたっても帰って来るという保証があれば良いのだが、その保証がない。
ネムロスについては何時か返って来るだろうが、私が隣にいるとは限らない。
「さて、そう頑なまでにどうやって返そうというのか……」
心の中で溜息を吐き、どう答えるべきか頭を巡らしてみる。
「忘れたか、足跡を残すのだろ。あと追う事などさして難しい事ではない」
必要とあらばあらゆる手を使って探し出すと暗に言う。彼なら難しくは無いのだろう。
成程と思う。
「そして弟子が師に返せる恩は一つしかない」
興味は無かった、旅をつづけるに必要ではないだろうから。適当にあしらうつもりでいた。
けれど其の言葉は思いもよらぬ言葉であった。
「弟子が師をボコボコにする事。だろ」
リュカンを睨む。やっと見たなと目が語っていた。思わず握ってしまった手。
そして一瞬目を瞑ったかと思うと、再度映る彼の眼を見ながら優しく楽しそうに微笑み。
「そこまでおっしゃるのであれば、師らしく一つ口伝を教えましょう」
周りに居たのはリュカンだけではない。
リュカンとの会話に静かに耳を傾けていたのはラウムにルミナリスの二人。その二人の意識が此方へと動く。動きや表情を出さなかった流石と言えようが、意識だけは明らかに周囲への警戒心から此方へと向いている。
其の様な些末な事関係なしに、私の手は自分の頭を差し。
「頭は冷たく」
次にリュカンの胸を拳で叩き。
「心は熱くです」
眉根に皺をよせ、小難しい顔。目を閉じて言われたことを頭の中で反芻しているのか、返答はない。
リュカンが口を開く、言葉を発するよりも先に割り込んでくる声。
どうやらネムロスが荷物を積み終わったようだ。
リュカンが私を見つけるのが先か、私が此処を再度来訪するのが先か。どちらにせよリュカンともう一度会わないと駄目な理由が出来た。
リュカンが言葉をかけるより先にネムロスを出迎えた。
「やっと戻ってきましたね。待ちわびました」
「荷を結ぶのに難儀してな、待たせて悪かった」
戻って開口一番、フォスレスが不満を漏らすが、その顔は明らかに笑っている。
笑うと謂うより、口元が緩んでいる。何か良い事があったのか。
笑っていると言う事は良い事が在ったのだろうと予測出来様が、応えてくれるかは相手次第なる。
ただ聞かないというのは無いだろう。
「何か嬉しい事でもあったのか」
フォスレスはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに含み笑いをしだすと。
「今日は良い物を手に入れましたので、二人に渡そうと待っていたのです。是非受け取ってください」
出して来たのは平たい木の箱。開けて中を見せてくると、首飾りが二つ。
リアとリティスへと差し出される。
リティスは警戒を露わに、リアは驚いた様子に。
「此れは?」
「頂き物です。少々気が気ない殿方から頂きました。私見になりますが良い物ですよ」
「フォスレス嬢、言い方が悪いと思います。ネムロスも含め困惑しています」
事情を知っていそうなラウムへと目を向け、無言で説明を求めた。
「旅の成就を祈願致しまして、お二人に送ろうとしたのですが、二つしかご用意できなくフォスレス嬢がお二人に送るとの事です。餞別も送れない薄情者と罵られたくはありませんから急遽馬をご用意した所存です」
屈託なく微笑むラウムに、裏があるのではないかと訝しぶるも事情を知っていそうなフォスレスは何も言わない。
むしろ姉妹たちに積極的に付けさせようとしている。この状況で一人反論したところで通る訳でもなく、諦めて口を紡ぐしかない。
ただ問いただした所ではぐらかされるか、嘘ではない別の答えが返って来るだけ。
無理に聞いたところで言葉を変えただけの答えが返って来るだけだろう。
諦めと降参の意味を込めてため息を吐く。その姿にラウムは微笑むも気付く事は無かった。
「どの様な意が込められているかは知らぬが、物に悪意はない。二人とも貰ってやってくれ」
「其れが気味悪いのだけど」
リティスの言う通りだと思う。けれど……。
「あの二人を前に要らぬと言えるか」
腹の中で何を企んでいるのか分からぬ二人、天使の様な悪魔の微笑みを前に、リティスは目を逸らしながら。
「うわぁ、どっち選んでも呪われそう」
そう言いながらも首飾りに手を伸ばし手に取る。
鎖は銀か。銀はとても脆い、生成するときに僅かに混ぜ物をして強度を高める。
純度が高いだけでは実用性は低い。宝飾品や延べ棒であれば純度や重量が重要になるが、実用性を重視するのであれば強度や加工など問題点から他の金属と混ぜるのは必定。
見た目で判断するのは難しいが、細工としては趣が良いと言えなくもない。
リアにも半ば強引に渡すと、「着けてあげます」と一言、戸惑っているリティスの後ろへと回り断られる前に着けて行った。
渋々と言って具合に二人ともどこか満更でもない様子。
リアが此方へと来ると。
「こういったものは男の人に付けてもらうのが作法と聞きました」
周りの笑い声が聞こえる中、はにかみながら首飾りを差し出してくるリア。
少し驚きながら如何したものかと思案するも、気恥ずかしく断るよりも、堂々と行動した方が良いと結論に至る。
差し出された首飾りを受け取るとリアは後ろを向き背中まで届く髪をかき寄せる。
ほっそりとしたうなじ。掴めば折れそうな首筋に小さな肩幅。まだまだ子供なのだなと思う体形も、しっかりと女性と自覚させられる。
なるべく体に振れぬよう首飾りを付けると、リティスはその場で一回転し。
「似合いますか」
「周りの男どもが放っておかぬだろうな」
リティスが周りを見渡すと、屈強なはずの兵士が頷き微笑んでいた。
「ウィリデが犯罪に走りそうなぐらいですね」
「待ってください。何故私なのです。確かに可愛いのは認めますが、分別ぐらいは尽きます」
「リティスも似合っているぞ」
「一応、ありがとうだけど、なんだかついでみたいに聞こえるのは何故かしら」
「自慢したい所残念ですが、街を出る前に服の中へと入れて下さいね。目立つ貴重品は盗賊に狙われやすくなりますから」
盗られぬようラウムからの忠告の一言。
盗賊だけでなく、何処かで引っ掛ければなくす心配も出てくる。余計な厄介事は避けるに越したことは無い。
「さて、そろそろ良いですか」
其の一言が場を一気に引き締めた。
笑い声が潜み、皆の顔は真剣なものに。
「現時刻を以てアレスリア、リティスの二名をアゲウルブスより追放と致します。以後この街での人権はなく其の身柄は保障されません。宜しいですね」
アレスリアとリティスが揃って頷く。
「意義は無いわ。ありがとう」
「ご迷惑をお掛けしました」
二人に恨み言は無く、感謝と謝罪。その二つだけ。
ラウムも力強く頷くのみ。
期限を言われないのは無期限であること。此れで二人は最後になると実感する。
俺も次に此処に返って来るのは何時になるのか、二人同様此れで最後になるやもしれない。
「ネムロス殿にフォスレス嬢は先に街の外へと向かってくださっても買いませんが」
「その場合彼女らは何処から来るのですか」
「犯罪者は正規の門を通る事は許されていません。相応の道を通って外へと出されます」
フォスレスが興味を引いたのが分かった。だからと言って止める訳でもなく、共に行くのが正解だろう。
「では私たちも同行いたします」
お願いでは無く許可を求める訳でもなく、決定事項を告げる。
兵たちが苦笑するのは分かっていたからか。
「では街の外へと案内致します」
特に拒否する事もなく、ウィリデが案内役となり先頭に立つ。
次に姉妹が続き、ラウムとアクィルスに挟まれるようにネムロスとフォスレスが続く。
荷を括り付けた馬はルミナリスが街の外まで連れて行くと、別行動中。
街壁の検問所すぐ隣にある警邏隊専用の扉から中へと入る。
本来入れぬはずの場所へと足を踏み入れ、沈黙がさらに不安を増長させる。
街へ入るときは想像しえなかった、此の様な旅立ちになるなど。周りを見渡す余裕すらなく、何処に続いているのか何と無く知って入るが、もしかしたら見知らぬ場所へと繋がっているかのような錯覚に陥る。
街壁の中を通っていた距離は短い。先頭を行くウィリデが先の扉を開くと光が入って来る。
外へと繋がる扉。暗闇の中に差し込む光。少しの不安と一杯の期待、その他様々な感情が生まれ足が止まる。
しかし其れ以上呑まれる前に前に、背中を叩かれる。振り向くとフォスレスが笑い。
「いきましょうか」
立ち止まった足が動き出す。叩かれた背中を暖かく感じながら。
「よろしく頼む」
光差す扉の外へと踏み出した。
街壁の中は狭い。業務の効率を優先し街を守る壁が薄くて役割を果たさなければ意味がない。厚い壁で敵が壊せぬように、攻め込まれたとしても狭い通路は列をなすことが出来ず一人ずつ対応できる。例え倒れた兵士がいたとしても通路の障害物として敵の侵入を拒むように造られていた。
城壁において敵をいかに侵入させないか、または侵入した敵をいかに打ち取るかだけを考えた仕様である。
中を通って出てきたのは検問所の通路。其の脇扉。
普通ならば此処から民間人が出てくることは無い。あるとしたら犯罪者か其れに類する者。
つまり此処から出てくること自体、罪を犯したものであり、処遇されたものが最後に通る道。
正規の通路すら使わせない犯罪者の末路。
真っ当に生きる者達からは囁かれるのは、「あの扉から出てくる様な事はするな」と。
人は人と関わりなくば生きては行けない。あの扉から出てきたものでその先にある道はただの「死路」であると。
其処から出てきた者へ人々は侮蔑の言葉を投げかけるが、決して目を向ける事は無い。
けれど検問所に集まった人々は一様に自身の眼を疑う光景に出くわした。
犯罪者と思しき目深く被った頭巾からは顔を伺う事は出来ないが、明らかに街から追放されようとしている。
その後ろに付いていた二人が並ぶと兵士たちが揃って敬礼をし、そして馬を与えると彼らは礼をし、西に向かって歩き出した。
その姿を崩すことなく見送る警邏組合の兵士たち。
木々に見えなくなるまで見送った兵士たちは街の中へと消えていったと謂う。
まるで白昼夢でも見ていた様な、人々が様々な憶測が飛び交ったが真実に辿り着く事は無かった。
此処まで読んで下さりありがとうございます。
ようやく一区切りつきました。本当はもう少し早めに終わる予定でしたが……。
閑話を挟みたいと思います。
これからもよろしくです。




