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#7 義援支援隊 副隊長ラウム 村を視察する。

 視察する箇所は主に二カ所。一つは焼け落ちた村の惨状と、もう一つは村を襲ってきたバケモノを見せること。

 村の視察には家屋の状況だけでなく、死者に重軽傷者の確認、負傷者を治療のための医療品。田畑の状況に農作物、収穫物と次に植えるための種と数えればきりがない。

 バケモノに関しては姿形に、どの方向から来たのかどのような経路をたどったのか、どこへ行ったのか。どれだけ来て、どれだけ倒し、どれだけ逃がしたのか。

 これら全てを把握するには一人では無理があろうというもの。ならばどれかに絞り重点的に見るのか。複数人で分担し確認するのか。今はラウム副隊長一人ではあるが後で他の者も見て回るかもしれない。やり方は一つではなのだから、兵たちの方針に従うだけである。

 ラウムが義援支援隊として兵として来たのならば、主にバケモノを見に来たのだろうが、こちらが見せたいものと、相手が知りたものに相違があっては話は進まない。まずは義援隊として何を視察するのか確認するのが先決だろう。

 それはついてはフェンシオも分かっていると言わんばかりに、何を知りたいのか尋ねる。

「ラウム副隊長殿、まずはどこを視察いたしますか。」

 副隊長と言葉を強める。ここから先は義援隊の副隊長と、村の代表の一人として対応を切り替えるためだろう。

「建物の惨状、それに伴うバケモノと侵入経路、逃走経路にバケモノの遺体です。」

 思案することもなく、それが当たり前と言わんばかりに返答する。彼らたちがここに来た理由、全ては街に被害が及んだ時に対応できるよう、バケモノの行動や特徴、その影響範囲など、それらを識り得るためにここに来ているのだ。その顔には先ほどまでの雰囲気から一転、副隊長としての顔があった。

 だが、それと同時に村の状況確認は後回しにされてしまっている事実があった。我々からしてみたら憤るところだろうが、フェンシオはおくびにも出さずラウム副隊長の言葉に従い行き先を決めてゆく。

「では、まずは侵入先であり、最も被害があった村長の家から参りましょうか。少々歩きますが、その間に村の様子も見られるでしょうし。ではこちらへ」

 フェンシオは、そう促して足を村長の家へと向け歩き出す。

 村の様子を歩き見ながらラウム副隊長は

「破壊されたのではなく、焼け落ちている家が目立ちますね。これは…」

「バケモノについてはどこまで聞いていますか?」

「バケモノ、としか聞いていません。知らせに来た人に仔細に聞こうとしたのですが要領を得なく、それで先遣隊として我々が来たわけです。」

 これでバケモノについての情報が欲しがっていた訳を理解した。彼らは村がまだバケモノに襲われている、もしくは占拠されていると予想したのだろう。そのバケモノたちに対応するため来たのだ。義援支援隊とはよく言ったものだ。つまりは村の生き残りと共にバケモノたちを退治するために結成された部隊という事であり、村の状況を確認するための部隊ではないという事だ。

 ならば村に着いたときは少々戸惑っただろう。村にはバケモノの姿はなく、村の人々も怪我を負ってはいるが襲われている感じはなく、焼けた家屋の撤去や荒れた田畑を手入れしていたのだから。

 それらをおくびに出さなかったのは常に変化し続ける状況に対し対応に慣れているからに他ならないからだろう。聞いていた状況と実際の状況が一致すことは稀なのだから。

「なるほど、そちらの状況は分かりました。バケモノの姿については話すより見てもらうほうが早いでしょう。倒したバケモノは村の外れに見張りをつけて置いています。後で案内をいたしますよ」

「…お願いしますね」

 聞きたかった事とは少々違ったのだろうか、何か言いたげであったがそれ以上の追及はしてこなかった。

 話しているうちに村長の家の跡地へとたどり着く。朝に村長の家へと足を運んだ時と変わらず、崩れたものもそのままにしてあり、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥ってしまう。

「ここが村長の家になります。その裏手からバケモノたちは侵入してきました」

「バケモノたちは全てここから来たのですか」

「そう伺っています。しかしあの混乱の中、全てそうだったかまでは確証持ちえません。ただ足跡から推察するにここから村中に散っていったのは確かです。」

「なるほど。では、この先の確認は致したでしょうか。」

 バケモノの来た方向を差し、ラウム副隊長は聞いてくる。今はまだ明るい時間帯だ。村長の家の裏は木々が生い茂っているものの、その先が見渡せぬほど暗くはない。しかし普段とは違いバケモノの足跡が付いているだけでその先が不気味なものにも思え、普段より薄暗く見えた。

「申し訳ないですが、人手がなく確認するに至っていませんね。本当はすぐにでも確認しに行きたいと思うのですが。なりより今から行くにしても難しいでしょう。森の中は思いのほか暗くなるのが早いですからね。暗い森の中ほど危険なものはありませんから、二次災害は避けたいところです。」

「なるほど、足跡から村の様子を見る限り、どうも村を襲うというより、通り道に村があったというほうがしっくりきますね。侵入後の行動としてバラバラに散ったという事は纏まりはなかったとも言えますし、バケモノたちは本能で動いたと思われます。そして元凶が遠いところにあったのならば多方向から来てもおかしくないというのに、その侵入経路は一カ所であり、かなりの数が来ている。ならば元凶は近くにあるかもしれません。本格的な捜索は明日からでしょうが、足跡が消えては探すのが困難になるでしょう。この足跡が消えないことを祈るばかりですね。」

 ラムス副隊長はバケモノたちの足跡を屈み観察しながら答えてくる。足跡からバケモノの数や体長、特徴を読み解こうとしているのだろう。

 足跡から相手の情報を読み取る技術はネムロスは持ち合わせていない。ラウム副隊長の姿を見ているとその技術を教えてもらえないかと、興味が出てくる。教えてくれるかどうかはわからぬが、機会があれば聞いてみるのも良いかもしれない。

「ラウム副隊長殿、なにか分かりましたか?」

 フェンシオも興味があるのかその姿を後ろから覗き込んでいる。

「ははっ…なかなか難しいですね。これだけ足跡が付いていては」

「バケモノだけでなく、その後に俺たちの足跡も付けてしまったからな。消えては無いだろうか。」

「消えてはないですが、数が多すぎますね。やはり実際に見てみる方が早いでしょう。しかしこれだけの惨状を作ったのです。数だけではないのは確かですね。バケモノはどの様にしてこれほどの事を行えたのでしょうか。我々は知っておかなければなりませんので、全てお聞かせ頂きたくお願いしますね」

 バケモノたちが襲来してきたと思われる森の奥を見つめながら、バケモノの姿を、その数を頭の中で組み上げてゆくが、どうして家屋が焼け落ちているのかという事に合点がいかず、疑問を持っているのだろう。

 それを見極めないと、これから先、バケモノと相対したときに後れを取ってしまうかもしれない。これから戦う可能性がある相手の情報はどんな小さなことでも聞き、知っておく必要があると暗に告げていた。

「我々としても、知り得ていることはすべてお話しするつもりではあります。その上でそちらには原因調査における森への同行もお願いしたいのですがね」

「それに関してはこちらからもお願いいたすところでした。我々はこちらの地理には疎いですからね。貴方方の力添えがなければ、時間を無駄に消費するだけです。それだけではなく、バケモノの行方も調査しなければなりません。全て見つけだして適切に対応せねばなりませんが時間が経てば経つ程、難しくなります。本当は今からでも調査に乗り出したいと思うところではありますが、情報の共有化が先ですね」

 念を押してかバケモノのことに関しての情報を得るため話してしてくるよに遠回しに追及してくる。

 フェンシオは恍けている訳でも、言いたくないわけでもないのだろう、ラウム副隊長との言葉のやり取りを楽しんでいるように見える。ラウム副隊長の方も不快な顔をするどころか、同じように楽しんでいるような表情であった。

 ネムロス自身、少々除け者とされている感じではあるが、二人の間に入る言葉を持ち合わせていなければ、その言葉のやり取りに参加できるだけの意思疎通能力を、持ち合わせていないため割って入る勇気などでるはずがなく、一歩引いた後ろから静かに聞き手に回るしかなかった。少し居づらくも、何とも言えない侘しさがあった。

「ここまでに他に何かありますか? 無ければ次へ行きたいと思いますが。と言ってもまずは村の中を回り最後にバケモノのところに行こうと思いますが」

「えぇ、大丈夫ですよ。次へよろしくお願いしますね」


 改めて村の中を伺うが、村長の報告があった通りに無事な家が一つもない。これでは今日寝る場所にすら困るだろう。アロの家へ戻ってもカリダ姉さんを困らせるだけだろうが、戻らぬのも困らせるだけだろう。

 カリダ姉さんに子供たちの世話を任せてばかりでは、申し訳ない思いばかりが募る。事が一段落すれば姿を見せ相談するのが一番良いだろう。寝床がないなら外で火を焚き眠るのも良い。今の季節は夜にな手も冷えるわけではない。それに狩りをするにあったって野宿は慣れているのだから。

「しかしこれでは持ってきた物資では事足りませんね。追加で要求するよう進言する必要があるようです。その他に何かあれば報告をお願いします。出来る限りではありますが調達いたしますので。」

「今はどのようなことでも助かります。食料の被害は少ないほうですから数日は持つでしょう。冬の気配はまだやってきてませんが、寝るところは早めに整備したい所です。家が焼けたことで服や布、そして寝るための毛布が焼けてしまいました。一日や二日は気力で持つでしょうが、安心して寝れなくては、不安が募ります。不安は精神を蝕みますので」

 気力がもっている間は耐えれるが、少しづつ蝕まれた精神は気力が切れたとたんに崩壊する。一人騒ぎ出すと堰を切ったように皆が騒ぎ出す。騒ぎが混乱を呼び収集がつかなくなる。そうなる前に少しでも安心して眠れる場所の確保が必要だろう。睡眠は精神を安定させる方法の一つなのだから。

「急ぎ人手の手配が必要なのは理解しています。しかし…」

「急いだとしてもすぐに集まるわけではないでしょうしね。下手に急いで集めても脛に傷を持っていては、こちらにどの様な被害が出るか。これ以上の騒ぎは避けたいところですからね」

「だからと言ってゆっくり時間を掛けては、村の復興が遅れるだけです。我々衛士隊としても迅速な対応が問われてきてますから、どこかで妥協をせねばならないでしょうが、素性調査をしない訳には行けませんからね。早くて二、三日は掛かります。」

「それで集まればよいのでしょうが、寝る場所も困窮している村へ復興の手助けに来てくる方々果たしているかどうか…」

「寝る場所の確保に食料の調達、復旧作業をする道具類の手配。そしてそれらの陣頭指揮する人。それでも人が集まらなければ褒賞の検討を視野に入れて…。これだけの被害であればどれだけの物資と人がいるか、衛士隊としても頭の痛いところです。」

「だが力の見せ所とも言えるのではないのでしょうか」

 二人の間にわずかな沈黙が訪れるが、どちらともなく含み笑いがもれ出してくる。

「さて、どういった意味なのか分かり兼ねますが、我々の方針としては冬が到来する前には一段落付けたいところですね。」

「獣が冬眠前に食いだめする季節、道程の警護も必要になってくるわけですね。」

「家を建てるには専門的な知識や経験、技術が必要になってきます。街から来てもらうにしても、街で請け負った仕事を放りださせるわけにも行けませんからね。各組合との話し合いを持たなければなりません。問題なく進めばよいのですが、反対意見とまでは言いませんが反発する人はいるでしょう。それらを納得していただくための下準備に…」

「弱り目に祟り目、これを機に悪だくみをする者が現れるだろうから、その対策と対応と…」

 フェンシオとラウム、二人して眉間にしわを寄せ頭を悩ませる。

 話の趣旨がズレ行く中、会話も途切れたのを見計らって。

「二人とも、気が合うのはよくわかった。愚痴は後で聞くので今はバケモノの視察を終えよう。」

 ネムロスが話を戻そうと口を挟むもまだ言い足りなかったのか、二人に睨まれるが毅然とした態度を貫く。

 お互い似た立場にあるのか、悩み事は一緒の様だ。ややあって、自分たちの行動を恥じたのか、ラウムは小さく息を吐き。

「そうですね。少々話が逸脱したようです。今はバケモノ達の事が先でしたね」

「バケモノの襲来があってからそろそろ丸一日が経ちます。再度の襲撃がないのは僥倖とも言えますが、今晩が山場とも言えるでしょう」

「今夜の見張りは我々義援支援隊が受け持つつもりです。フェンシオたちは明日に備え休んでいただきたいのですが」

「明日は夜が明け次第、原因調査にゆきたいと思います。こちらからは俺とネムロスが同行する予定です。」

「我々からは、私と後二名ほど予定しています。ただ、これからバケモノの遺体を確認次第ですが、変更もあり得ますので、そのつもりでお願いします。」

「こちらとしては異論ありませんね。後は村長次第と言うところでしょうか」

「えぇ、では、そのように。よろしくお願いします」

 大筋で話が纏まった様だ。後は人を割り当てて動くだけになった。

 少々話が長くなりはしたが、村の様子は見せた。次の目的地である、バケモノの安置所は村の外にある。

 ここから少々歩くことになるが、この二人なら指して問題ないだろう。お互い話は尽き無さそうだ。

 問題なのは、俺自身がいなくても良かったのではと、思う自分がいることであり、後ろからついて行くだけで、居た堪れない気持であっただけである。

 もうすぐ、バケモノの遺体の安置場所へと辿り着く。それまでの辛抱だと、自分に言い聞かせておくしかなかった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。少しずつ読んでくださる方が増えてゆくのを見ると嬉しく思う反面、もっと早く書けないかと紋々としています。

さて今回は、二人がすごく気が合うことになってしまいました。それでかわかりませんが主人公のセリフが一言だけになってしまう羽目に…。フェンシオとラウムの話ばかりはずみ、長くなってしまいましたので、村の視察だけで区切らせていただきました。申し訳ない。


次回も頑張りますのでよろしくお願いします。


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