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#6 義援支援隊到着


 指揮官と思しきその人は、一際仕立ての良い衛士服と衛士帽を着用し、馬上にて肥えた腹と胸を張りつつ、兵たちの中央を割って前に出てきた。

「アグリアネス領、オスティウム衛士隊所属、エファー村義援隊隊長のグレコリアである」

 ことさら大仰に名を上げる隊長にフェンシオは小声で呟く。

「なかなか大仰しいことで」

 それは意見には賛成するが、街を代表とする兵としては見栄えも大切なのだろう。下手に出ては相手を付けあがらせるだけで、部下にも示しがつかない。

「エファー村の代表者と面会を求める。救援要請に基づき支援に来たと伝えられたし」

 フェンシオが肩を手を置くと、一言告げる。

「行ってくる」

 本来なら村長のいる家まで案内するのだろうが、焼け落ち今はない。議談の場としては使えぬだろう。

 だからと言ってどこが良いのかとすぐには思いつかない。

 フェンシオたちは、その辺りの段取りはついているのだろうか。その姿勢に迷いは見当たらない。

「エファー村の見廻り組纏め役のフェンシオ。此度救援に駆けつけてくれたことを感謝します。村長はあちらに居りますが、見ての通り有様。議談の場としては不便をおかけすることを許していただければと」

「伺っていた話より、ずいぶんと酷いみたいだな。よい、我らは救援に来たのだ。開けた場所があれば議談の場はこちらで設置しよう」

 隊長と名乗るだけのことはあると、そして臆することなく話を進めるフェンシオ。俺とは一つしか違わぬのに堂に入った振る舞いは、どこで学ぶのか不思議に思うも頼もしくも思えた。

 これからの村長も交え、議談に臨むに良い手応えはあった。

「それは助かります。では、案内いたしますので、こちらへ。アミクス、村長へ伝言を頼む」

「了解した」

 村長の元へと駆け出すアミクスを見送り、フェンシオに場所のことを尋ねる。

「対談の場はどこに?」

「家屋を一つ潰した。まぁ元から焼け落ちてしまったからな。そこを少し整地したことろさ。広さはあるし、兵たちの拠点としても丁度良い場所として使えるしな」

 そう言って、案内を務めるべく歩き始める。

「気をつけろ、あの手合いは腹芸が上手い。ただ救援に来ただけではないだろうよ」

 同じくフェンシオの隣に並んで歩くと呟くように忠告してくる。

 注意深くグレコリア隊長を見てみるが、特に何が分かるわけでもなく心に留めておこうとしたところ、こちらに向く視線を感じそちらに振り向いた。隊長より一歩後ろを歩く、兵士……おそらくは義援隊の副隊長と思しき青年の兵士に。

 黒髪に何処か作っているような柔和な笑顔。視線は前にあるが、目の端で此方を観察している。

 見た目は特筆するところはなく、雑踏の中に入れば紛れてしまうかのような、その姿は意識的にしているのか。もしそうなら隊長より此方の兵士の方が油断できぬなと、隊長に対する忠告より青年兵士へ興味が移っていった。

 議談場所への案内は、村の惨状を見せるためか進む足は遅めだ。村の様子を横目で確認する兵たちはいるが、皆無駄話はせず静かだった。隊長でさえ視線を無表情に焼けた家に向けている中、あの青年兵だけ此方に意識を向けたままであった。


 兵の拠点および議談の場と予定されていた所は、焼け跡こそ残っていたが大まかには片付けられている。議談の場だけでなく、今いる兵たちの拠点を置いても十分な広さがあった。

 その場所にいくつかの人影が確認出来た。一人は村長であったが、あとは村長に伝令に走ったアミクス、そして補佐役の二人。

 しかし、その場にいなければならない人、村長の息子はその場にはいなかった。

「お待ちしておりました。救援要請にお応えいただき、感謝いたします。エファー村の代表を務めております、カンナビスと申します」

「アグリアネス領、オスティウム衛士隊所属、エファー村義援隊隊長のグレコリアである」

 フェンシオにした自己紹介をを再度村長に向けて名乗る。やはりというか大仰しいのは変わらない。

 対応する村長も堂々としたものだ

「家屋が全て焼けてしまい、このような場所しかなく不便をかくことをご了承いただきたい」

「ここに来るまでに村の様子は少し拝見いたしましたからな。状況は理解しました。さぞ大変だったでしょう。微力ではありますが村の復興に向けて尽力いたしますので、こちらこそ皆のご協力をお願いします」

 フェンシオ曰く、双方とも腹に服すものはあろうが、その気配を一切見せずに挨拶は穏やに済んだとのことだった。

 二人の様子を見ながら、義援隊隊長と村長の双方の思惑がどこにあるのか、注意しつつ拝聴しなければと気を引き締めなおしたネムロスであった。

「まずは義援隊の先行隊として三小隊、12名と義援隊隊長および、後ろに控えるのが義援隊副隊長を務める、ラウム副隊長の計十四名、エファー村の復興のため協力をいたしますぞ」

 紹介されたラウム副隊長が一歩前に出て。

「義援隊副隊長を務めるのラウムと申します。よろしくお願いします」

 一言挨拶を済ませると、また後ろへ下がる。やはり副隊長かと改めるまでもなく意識を向けていると、ラウム副隊長もこちらに視線を向けてくる。お互いの視線が交差する中、村長の言葉で意識が二人へと向かった。

「こちらが、私の補佐を務めている、アルボルとインベル。見廻り組の纏め役を任せているフェンシオ。その横にいるのが同じ見廻り組のネムロス、アミクスと申す」

 アルボルとインベルはネムロスの名を聞き、何か言いたげにの睨んでくるが、兵士たちを前に平静を装い、言葉を飲み込んだ。

 村長にはネムロスと言う名は教えていない。それを知っているのは二人と…いや一人と一振りの剣だけだ。フェンシオが剣を持っていたこともところからも、フェンシオから聞いたのか、三人で密談でもしたのだろうか。少し気になることろではあるが、今は義援隊との議談が優先だと意識を切り替える。

「村の土地の管理を仰せ付かっているアルボルと申します。地理や村の者たちの事ならお尋ねください。」

「農地や農作物の管理をしています。インベルと申します。」

 二人はそっけなく挨拶を済ませる。その態度から街の兵士たちのことをどう思っているのかは伺うことは難しいが、広場で見せた復興へ向けた姿勢は潜み静かに立っていた。

「紹介にあずかりました、見廻り組纏め役のフェンシオと申します。此度の惨劇の元凶であるバケモノに対して事に当たっています。何かとご同行いたすと思いますが皆のお力添えになれる様、務めさせていただきますのでよろしくお願いします」

「普段は狩猟のやっているが、連絡役としてきたアミクスです。村の者たちに伝言があれば申してください」

「同じく見廻り組のネムロス。これからお世話になるかと思います」

 それぞれ皆して思惑があるのだろう、兵に対して様々な挨拶をしてゆくが、一つ共通しているのは皆、兵に対する態度を隠していないということろだった。

 隊長は気にした風もなく面白そうに笑っており、他の兵士たちは副隊長も含め慣れているのか、直立不動の姿勢のまま動きを見せなかった。

 ネムロスも挨拶を済ませたのだが、なにが可笑しかったのかフェンシオがこちらを見て誰に気づかれることもなく苦笑していた。

 挨拶における腹の探り合いは向こうが優勢と言った感じで進んだ。

「あと一人、不肖ながらわが息子の不在をお許し願いたい。別の大役を申し付け出払っているところですのでな」

「ふっはっは、良きかな。この状況下の中では色々とありましょう、構いませんよ。それになかなか良き補佐役に剣士がいるようですな。羨ましい限りです。しかし我が部下も負けていませんからな。では、まずは失礼して議談の場を設置させて頂いてもよろしいかな。議談は準備が整い次第ということで。その間にラウム副隊長は村の中の視察をお願いしますよ。こちらは儂が見ておこう。時間があれば拠点の設置をお願いします。」

 隊長は部下へ指示を飛ばしてゆく。村長もそれに倣い、インベルをはじめ他の者たちへ指示を出してくる。

「ふむ…、村の現状を視察いただいた方が話も早くなるでしょう。フェンシオにネムロス、村の案内をして差し上げよ」

 村長は少し思案したようだが、フェンシオと二人、ラウム副隊長の案内をするよう言ってくる。

「良いのか?」

「かまわん、案内を差し上げよ」

 フェンシオは何か言いたげに村長に詰め寄ったように見えたが、村長は問題ないと一蹴する。

 その様子はアルボルもインベルも見ていただろうが、特に気にした様子はない。どうやら村の上役同士での事だと推測できるが、ネムロスには関係ない事の様に進めている。

 アミクスは関心などないかのように、そっぽを向いていた。

「分かった。ではラウム副隊長殿、ご案内いたしますのでわからないことや、聞きたいことがあれば気軽いお尋ねください。」

「フェンシオ殿、お手数をお掛けいたしますがよろしくお願いします。」

 続けて村長は補佐役の二人に指示を飛ばしてゆく。

「アルボルとインベルは義援隊の拠点を建てる手伝いに向かえ」

 アルボルがグレコリア隊長の前でる。

「分かりました。グレコリア隊長殿、よろしくお願いします。」

 インベルも後に続き「よろしくお願いします」と一言だけ告げる。

「おぉ、よろしいのですかな。お手伝いしていただけるなら助かりますぞ。ならば、こちらの一小隊は村の見張りに出させましょう。残り二小隊をもって議談の場と拠点の設置に当たられよ」

「アミクスよ、小隊の人たちを見張り台まで案内するが良い。議談がはじまる前には人を寄こすので戻って来るが良い」

 それは意図してしているのか、この場に残るのは隊長と村長だけになるという事になる。あらか様な人払いであった。

 これから村長と隊長だけで話される内容は、外どころか内にも漏れることはない。そしてそれを知る人はごく限られた人たちだけになり、村を出てゆく俺には知る機会が訪れることはないと、そう直感が告げた。

 村長の命に反対する事はなく、ラウム副隊長殿に村を視察してもらうべく動く。まずはフェンシオに声をかけようとしたが、言葉を発することははばかられた。フェンシオの顔からはいつもの軽薄な表情は消え失せ、無表情に村長を睨んでいたから。そのような顔は今まで見たこともなく、村長とフェンシオの間には何があるのかを確信するが、問いただしても素直に話すことは無いだろう。

 言葉に詰まったネムロスにフェンシオは気づくと、いつもの様に口元に軽薄な笑みを浮かべて。

「さ、お仕事、おしごと。ネムロス、行こうか。ラウム殿がお待ちかねだ」

 誤魔化すように話の向け先を変えようとするフェンシオに村長とのやり取りを見なかったことにする。ラウム副隊長を案内するため、ただその言葉に頷くだけであった。

 いつか話してくれる時が来るかもしれない。旅立つまでの間に話してくれるかは分からなぬが、それでも可能性がないわけではない。その時に力になれれば良いのだが、と思うことにする。

 全てはバケモノについて一段落付けてからだと、ラウム副隊長を視察案内するために、気持ちを切り替える。

 ラウム副隊長を連れフェンシオとその場を離れようとしたとき、インベルから声を掛けられ足を止める。

「フェンシオ、少し良いか。話がある」

 空を仰ぎ、嘆息を突くとラウム副隊長へ。

「申し訳ありません。仲間が話があるそうなので少しだけ外します。よろしいですかな」

「構いませんよ。私のことはお気になさらずに」

 フェンシオは頭を下げると、インベルの元へと駆けて行く。

 その姿を見ながら、ラウム副隊長は楽しそうに笑っていた。

「どうやら私たちはかなり嫌われているようですね。」

 その一言をなぜ話すのか、不思議に思いつつ聞き返してしまう。

「…俺も村の一員ですが」

 それをこの場で言ってどうするのかと、続け真意を聞こうかとしたが。

「あなたは私たちに対して敵愾心を露わにしていませんからね。どうしてでしょうか、皆と少々違う様に感じるのですが」

 嘘か誠か、その本心は見せぬままこちらを見つめてくる。まるでこちらをすべて見透かそうとしているのか、いや、実際には一挙手一投足からこちらの心情を読み取ろうとしているのだろう。ネムロスのその沈黙からも何か察するものがあるのか。

「俺は街の上役とは関わっては無い故にな、そなたたちのことは助けに応じてくれたとそれだけだ。だが村長をはじめあの場にいた者たちは街の利権者と折衝している。なまじ関わっている分、善意だけで動くことは無いと分かっているのだろう。その裏にある思惑はどういたものなのか、考えずにはいられないのだろうし、村の行く末を考えれば当たり前なのかも知れぬが。」

「確かにそうかもしれませんね。しかしこの村を助けたいと思っていることも確かのですが。」

「明け透けな物言いだな。副隊長と言う立場ならもう少し…いやなんでもない。忘れてくれ。」

「いえ、私も失礼しました。お互いの立場を考えれば控えるべきことでしたね。ネムロス殿、しばしこちらでお世話になります。本来なら堅苦しい呼び名は遠慮いたすところですが、残念ながらそれでは下の者たちに示しがつきませんからね。ですが、せめて副隊長は外していただけると嬉しいのですが」

 断る理由はいくらでも出来る。だがここで距離をおいても何も進まぬだろう。人を騙すものは笑顔で近づくと言うが、人を疑ってばかりでは得られるものも得られなくなる。信用とは小さな積重ねが大事なのだから、ここで受け入れることは信用の積み重ねの一歩目と言えよう。騙されたときは己に人を見る目がなかっただけの事。手痛い思いはすれども命さえあればやり直しは出来る。それを反省して次に生かせばよい。

「俺のことはネムロスで良い。ラウム殿、しばらくの間ですがご助力お願いします」

 頭を下げるネムロスに、ラウムは微笑みで返事を返してくる。

「すまない、ラウム副隊長殿。お待たせいたしました。…って、ふむ……二人して何を話していたのか気になりますね」

 場の雰囲気を察してか、何があったのか気になるようだ。相変わらず鋭いと思う。

「ラウム殿と世間話をしていただけだ」

「ほう…殿、とな。私も良いかな、ラウム殿と呼ばせて頂いても」

「えぇ、構いませんよ。私もよろしくお願いしますね、フェンシオ殿」

「殿はいらない。堅っぐるしいのは嫌いなので」

 どうやら、三人とも気が合う様に思えたのはフェンシオやラウム殿も同じらしい。しかしまだ気が抜けない相手であることは確かであるが、これから行動を共にするにつれお互いを知ってゆくだろう。

「では案内をお願いします、フェンシオにネムロス。」

 頭を軽く下げてくるラウムに、フェンシオはその口元には相も変わらず軽薄な笑みを浮かべながら、手を差し出す。

 ラウムも微笑みながら手を握り返してくる。

 後からやってきたフェンシオに主導権を見事にとられ、少し呆気に取られていたネムロスにラウムは手を差し出してくる。

 慌てて握り返すも、フェンシオに笑われる。いつかフェンシオを見返してやろうと心に誓うことにした。

「さて、では視察の方へまいりましょうか。ラウム殿」

 颯爽と前を歩くフェンシオに、ラウムが続く。嘆息を一つ小さくつき、後に続いてネムロスも歩き出した。



予定より一日遅れました。

ようやく街から兵士たちが到着し、本格的に村の復興のため動き出そうとしています。

話が進むにつれ、新しい人たちが登場してきます。主人公の影が少し薄いような気もしますが気のせいでしょう。

というか、フォスレスが全然出てきません。本始動までまだ少し先とはいえ少々出なさすぎかなと思うところですが、次は副隊長と村の視察、やはりフォスレスの出番はまだ先になりそうです。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

執筆は遅いですが、お時間があればブックマークに評価をよろしくお願いします。

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