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その世界は残酷なれど、旅人は旅をする……  作者: がお!


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58/122

#58 ラウムと、ウルラの話し合い

 兵が駆け込んできたと思うと思いがけない言葉を聞いた。

 心の何処かでこの様な事態が起こる事を分かっていた気がしてはいたのか、実際に聞いたときは心が何処かに沈んでゆくのを感じがした。

 今までは姉妹の事を優先していたが、助けれた今となっては商会の事など二の次の事と思ってしまっていたから。商会の事は兵たちに任せておけばと思い、ウルラの動向だけを気にしてはいたが。

 ウルラは商会の元、行動している。兵や私だけを狙うなら兵士たちに任せておくつもりではあったが、守る事出来ずこの様な事態になってしまったなら商会そのものを対処する必要がある。曖昧なまま終わらせることなどせず、全てを根本から終わらせるべく。

 私に戦う理由を与えてくれた彼らに感謝しつつも、知らずのうちに奥歯を嚙み手を握りしめ逸る気持ちを落ち着かせ、ラウムへと顔を向けると。

「場所を変えましょう。会議室を使用しますので関係者を皆、集めてください。フォスレス嬢は申し訳ありません状況を聴取する間、お待ちいただきたくお願いします」

 何ら情報もなく一人で動くより、多くの情報と手や耳を持つ彼らと行動した方が、事の把握や対応、解決策が一番良い方法なのは分かっている。だからこそ応じる以外に選択肢はない。

 応じる意を示すと。

「すぐに集まると思いますが、其れまで休憩をしていて下さい。状況を把握でき次第直ぐに参りますので」

 其の場に居た人たちへ指示を出し、姉妹らの病室から出て行った。

 私自身も伝令兵から案内人となった兵士と共に病室を後にした。


 案内されたのは兵士たちが休憩をとる部屋。「此方で少々お待ちください」とお茶を出されて案内してきた兵士は出て行った後は、一人取り残された気分にもなったが。

 ラウムらが報告を受けて方針を決定し、此方へやって来るまでに気持ちを落ち着かせるだけの時間を与えて貰ったわけだが、此れが気遣いなのかどうなのかは真意は不明だ。

 兵たちの……少なくともラウムの対応は丁寧であり此方の事を案じてくれている。

 中休憩を取った時に其れは現れていた。飲む事の出来ない飲み物を用意し、形だけでも良いだけなのにきちんとお茶を用意するあたりが、普段よりしていなければ身に付かないこと。

 その気持ちに少しでも軽んじるようであれば、出てくるのは空の湯飲みか水であっただろう。

 けれど兵としての顔も持ち合わせているのも確かであり、其の腹の中はどの様に思っているかまでは見る事は叶わなかった。

 そして姉妹の方。半獣に完全に人としか思えぬ姿。これは最早カムロイの魔眼が関係していると言わざるを得ないだろう。

 妹のアレスリアは魔眼が覚醒したからこそ獣の因子が抑えられた可能性が高い。姉も同じくその影響下であったために、半獣人などと何方とも取れない姿になったと推測される。

 魔眼が現れる事ですら可能性としては低いが、やはり獣人の方が現れやすい体質なのだろうか。

 人は環境の変化に適応能力は高い反面、自身の変化に対しては緩慢だ。進化する過程で大きく環境適応能力を手に入れたのは良いが、別の要因が入り込む入り口が狭くなったのか。

 人以外に現れやすく、発現すれば人の姿に近づく者もいれば、そうでない者もいる。

 前に二人ほど出会える機会があったが、どちらも人外であった。

 出会えた時から如何ほど過ぎたのか忘れるほど経った為、今はもういないだろうが其の子供ぐらいには会えるかもしれない。

 人の姿に近づくのは人へとその力を受け継がせるための工程かと、馬鹿げた妄想をしてしまうのも今まで何もなかった旅の暇つぶしか……。

 そして久しぶりに見ることが出来た。朱銀……我が主の部下が槍として所持していた隕鉄。彼女のものでは無いだろうが、懐かしいと言えど感傷などは湧いてこない。

 もはや会えることなど無い彼らに思いを馳せる必要もないが、人の世にとって朱銀はどの様な変化を齎すのか、少しぐらい興味はある。

 まぁ其れも長い時間が必要かもしれないが。

 後は商会について。会長については会ったことの無い為、此処で語ることは無い。在るのはウルラとマレウス傭兵団。

 ウルラについては今一つ掴みかねている。頭目らしい男と言葉を交わしはしたが、実直なぐらいしか知り得なかった。あれ以降動きは見受けられなかったが、例え商会の引いては商会長の命とは言え人質を攫うなどと最悪の手に出てきた。

 元々裏で動く部隊故その存在は極めて悟らせぬよう動く必要があったのにもかかわらずにだ。

 マレウス傭兵団が前へ出てきている以上、殊更前へ出てくることは無いだろう。

 もしかしたら誘拐したのは傭兵団やもしれないが、大雑把な彼らに街へ潜入し、街の警備を搔い潜り誘拐出来る程なのか。そう考えれば傭兵団よりウルラの方が向いている。

 最悪の手と言えと、親に至っては窮地に立たされている。国外に逃げようにも、兵士が国境を押さえている様子。他領へと逃げようにも同じく警戒網が敷かれているはず。判断を誤ったところで不思議ではない。

 早々逃げる事はしないだろうが、腕輪の事を諦めることあらばどう転ぶか予測がつかない。

 やはり情報不足は否めない処だ。

 此処に来れば多くの情報を得られるかと思ったが、なかなか口が堅くまた口が上手くはぐらかしてくる。

 約束こそ取りつけることは出来たが、商会についての有益な情報は得ることはならず。動くとなると彼らの言を待たなくてはならなくなった。

 けれど予想もしえなかった情報を得ることは出来た訳だが。

 此れから先、ウルラが前に現れたならば罠に掛かっていると思っていた方が良いだろう。

 回避する方法を考えるか喰い破るか……どちらにせよ厄介にしかならないのは確かだ。


 思考の渦へと没頭していたときに、休憩室の扉が開きラウムが入室してくると。

「お待たせして申し訳ありません。此方の状況を把握するのに時間を要しました」

「いえ、此方も状況を整理してましから大丈夫です。それでは色々と教えてもらいましょうか」

「あぁ、その前に替えのお茶を用意します」

 すっかり冷めたお茶を回収すると奥にある給仕場へと消えて行った。

 次に現れた時には盆に湯気が立ち込めるお茶を載せて、手前に差し出して来た。

 本当に律儀である。意味の無い事と分かっていても、自身を貫くか。

 その思いが何処まで行けるか、身近で見ていたかったがそういう訳にもいかず。

 彼の成長より、主の願いが優先。

「さて、孤児院の方もご心配なされているでしょうから手短にお話いたします。攫われたのは村から来ていたカリダと子供が三名の四人。どうやら街へ出かけていた時に攫われたようです」

「此方に来てから孤児院より出かける事は無かったですから、街へ出かける機会を伺っていたのでしょう。小さな村から街へと出てきたのです、出かけたくなる気持ちは分かります。街へ行くに用事を申し付け邪魔する私に監視の兵と、直ぐ其処にあるのにお出かけ出来ませんでしたからね。其れに此方の事情は何一つ話していませんでしたから仕方ない事やもしれません」

「彼女らの事は心配でしょうが……」

「心配はしていますが、安否に関しては誘拐犯の紳士的な対応に期待するしかありません。それに此処で慌てた所で私一人では如何する事も出来ませんからね、右往左往するだけで時間を無駄にするだけです。犯人はウルラか傭兵団か……何にせよ私か貴方たちに接触してくるでしょう。そうでなければ人質を取った意味がないですからね」

 その時二人の話を遮るように扉が叩かれた。

 此処は休憩室であり、誰でも自由に出入りできるものと思っていた為に少し驚いた。

 ラウムは知っていたのか。

「あぁ、丁度良い時に来ましたね。少々お待ちください」

 そう断ると扉に向かって入室の許可をすると、荷物を抱えた兵士が入って来た。

「副隊長、荷物をお持ちいたしました」

 入り口近くで少し話したかと思うと、荷物を抱えて戻って来た。

「さて、本事件において情報規制を敷こうと思いますが、その対象に貴方も含まれていたのです。けれど状況から貴方には全てお話ししておいた方が良いと判断いたしました」

「その決断をした理由がその荷物と言う訳ですね」

 ラウムは頷いてその中身を出してゆく。一つは女ものの上着。厚手白地で使い込まれてはいるが平民が持つに上質な部類に入る服。

 そしてもう一つが鉄の棒、手程の長さではあるが片方だけ刃の付いた、斬るには適さないが投げにおいては十二分に力を発揮する。袖口などに隠すことが出来、隠剣としても使用できる武器、棒手裏剣。

 形は簡単であり使い捨てる事を前提に作られている為、真似て作ることは容易である。けどれ其の様な事をする意味は無く、此れを置き土産とする理由は考えるまでもない。

「彼らもかなり追い込まれているという事でしょう。彼らにとって人質などと謂う手段は本来取るべき手段ではないのですから、どれほどの覚悟を持って実行したのか推して知る術もなく」

「なるほど、主犯は傭兵団ではないと言う事ですね、そしてルトゥム会長はよほど腕輪に執着している様ですね。ならば接触してくるのはフォスレス嬢の方でしょう。此方としては指示をしたいところですが……」

「腕輪が其方にあると知れば、貴方がたと連絡を取ろうとするでしょうが現状では私の方が高いでしょうね。私を通しても良いですが、どう動くかはウルラ次第です」

「相手が傭兵団だけでしたら交渉の余地なく突撃すれば早かったのですが、ウルラ相手では失敗しか思い浮かびませんね。逆にウルラであればこそ交渉が出来ると見ています。だからこその此れなのでしょう」

 ラウムの視線の先は棒手裏剣に注がれる。

 ただ攫うだけならば売買目的と言えようが、街中で攫うには危険が大きすぎる。遺留品を残す必要もない。

 残されたものに思いがあるからこそ、応えるのだから。

 しかし残念ながら此方から連絡を取る手段は無い。故に向こうから接触してくるのを待つしかないが、その心配はしていない。彼らとて最後の手段へと手を出したのだから、すぐに接触してくる。

「其方の方針としてはどの様に考えていますか。まさかまだ無策ではないでしょう」

「此処で実行犯共々傭兵団も検挙したいと考えています。ルトゥム会長の居場所は把握していますから、腕輪にご執着の様子から其処から離れる可能性は低いと見ています。傭兵団が集まるのを待って一気に仕留めに行きたいと考えています。そのための策は実行中です。内容はついては機密扱いになっていますのでお話しすることが出来ないことをご了承いただきたい」

 考えずとも当然の処置。事の当事者とはいえど部外者、信用や信頼以前に部外者たる私に話すことを許可される訳なく。それとも情報を洩れるのを恐れたか。

 その中でも出来る限り情報は話してくれたことに、彼らなりの誠意の現れなのだろう。

「なら時間を稼ぐ必要はありますか。ウルラたちが接触してきましたら交渉してみましょう。ところで棒手裏剣は頂けるのでしょうか」

「時間を頂けるのならば越したことに在りませんが、難しい所もあるでしょう。検証は済んでいます。服もご一緒に持って帰られても構いません」

 これで戻ってきたのは二本。残りはまだウルラの手の中か……。

 全て無くしたところで怒られるような事もないし、笑って許してくれるだろうが私自身が其れでは許さない。相方が帰って来るまでには全て取り戻しておきたいところであるが、どうなる事やら。

 受け取った棒手裏剣を仕舞おうと手にしたが今は孤児院の服。仕舞う所が無く心の中で唸っていると、差し出されたのは小さな手鞄。

「服は入らなくとも小物を入れるには十分かと」

 狼兵士もそうであったが、兵士と言うものは一体処から取り出すのだろうか。一度聞いてみたい気がするが、話してくれなさそうなので黙って受け取るだけにした。

「また返しに来ますね」

「いえ、其れは差し上げます。邪魔になるようでしたら捨てて下されば結構ですから」

「そうですか? では遠慮なく頂きますね」

 折角貰ったものを捨てるには少々心苦しいが、旅に持っていくには役に立たず、修道女が受け取ってくれなければ捨てるに捨てられず荷物になってしまう。

 そうなる前に押し付けるしかない。

 取りあえずは鞄の中へ棒手裏剣を仕舞い、上着を持って席を立つ。

 さて……図らずとも目印を貰ったわけだが、此れもラウムの手の内なのだろう。実に親切に見せかけた腹黒さである。

 餌になるべく街のどの経路を辿ろうかと扉に向かいながら頭を悩ましていたが、ふと思い出したことがあり彼らは知っているかもしれないが一応教えておくことにした。

「あぁ、もう知っているかと思いますが一応言っておきますね。ウルラ達の事ですが……」

「えぇ、どの様な事でしょう」

「皆……とは言えませんが彼らは耳を鍛えていますよ。多分ですがあなた方の連絡手段の一つ、可聴域外の犬笛も聞けるほどに」

 其の言葉を聞いて勢いよく立ち上がるラウムの、その慌てた姿はどうやら知らなかったようである。

「っと、申し訳ない。お恥ずかしい姿をお見せしました」

「良い情報だったようですね。役に立てたならば良かったです。あぁ、其れとお茶、ありがとうございました」

 そうして休憩室を出て、兵舎を後にした。


 カリダの上着と左腕に手鞄を右手に抱え、兵舎から孤児院までの道のりをゆっくりと歩く。

 街の大通りは人が多く、安全性は高いが逆に言えばウルラが接触してくるには難しい。

 けれど逆に考えるならば、大通りを行く人々は自身の事で手一杯であり前しか見ていない。周りを見る余裕がないのであれば邪魔されることは無いかもしれない。

 それでも接触がなければ少しだけ街を歩くことになる。それで確実にあるかと言われれば、無いのだが……。

 兵舎から街の大通りへ足を進める。

 多くの人が忙しなく行き来する中、当たり前だが誰一人も私に目を向ける人はいない。

 大通りには多くの店が立ち並ぶ中には、店頭で軽食を売る店もある。当然座って食べられるよう、道の所々に椅子が用意されており、昼近くにもなると食事をする人が散見される。

 今は昼を大きく過ぎ、多くは無いが休憩を取っているのか椅子に座っている人が見られる。

 私もその一つに腰を下ろし、街の大通りへと目を向けた。

 広い大通りには何台もの馬車や多くの人々が行き来し、辺境にあると街と言えと商業の流通路にある街ゆえの活気が見受けられる。

 二つの国に挟まれ、行き来するに利便性が高く大森林にも程近い。人によって良し悪しは変わって来るとは言え、流通路としては有用だろう。

 色々なものが出入りするからこそ、その中には当然ながら良いものあれば、彼らのような犯罪者も入って来る。

「さて、そちらの要求をお聞きしましょうか」

 人質を取られている以上、まずは彼らの要求を聞くべく後ろに座る、ウルラの首領と思しき男へと言葉をかけた。

「俺を見たのは暗闇の中であったはず、よく分かったものだ」

「中々熱い視線を頂いていたのですから、気づかぬ方が無理ですね」

「そうか、見ていないつもりだったのだが、思ったより意識していたのだな」

「貴方のような静かな気配はあまり居ませんから、普段の癖が仇になっただけですね」

「なるほど、今後の課題としよう」

「招待状、確かに受け取りました。貴方がたの要求をお聞きしましょうか」

 空気の質が変わる。周りから人の気配が遠ざかってゆき、二人の周りだけが人が避けて行く。

 人の無意識に影響を及ぼし、周囲から人が離れて行く。

 結界。

 最早二人の空間に入れるのは二人に気付いたものだけであり、そうでないものは声さえ気に留めることなく通り過ぎてしまう。

「これは……」

「ただの氣術の応用です。此れで少しは話しやすいでしょう」

 彼に逡巡が滲み出た。表情を表に出さぬよう鍛錬を積んでいるのだろうが、それ以上の事態が起こっているという事か。

「……故にこそ我々が人質などと手段に出ねばならなくなった訳だが、要求は一つ。腕輪と交換だ」

「狙いは賢者の石、と言う訳ですね」

「やはり知り得たか。して返事は」

「人質の無事を保証してくださるならば」

「我々とてこれ以上、事を荒立てる気はない。素直に渡してくれるのならば保証しよう」

 さて此処からが交渉の要。渡すのは良いが時間を稼がねばならない。

「渡すのは構いませんが、今は持っていません。兵の手にありますので時間を頂きたいです」

「三日」

「さて、彼らが其れで応じてくれるかは不明ですので了承しかねます。十日頂けるのならば確実に」

「其れまで彼女らの命が持てば良いのだがな。其れを考えて何日だ」

「其れはそれは……あれが如何様な力を秘めているか、その力に興味はありませんが詳しいと自負しています。扱い一つで失われることもありますが、止めることも出来るのも私だけと思っています」

「保証は出来なくなるが良いと」

「そうですね、いっそ殺してくださるのならば、貴方がたを殺す大義名分を得られるのですが」

 息を飲み奥歯を噛むのがよく分かる。彼の頭の中はどのような考えが巡っているのか知り得ることは出来ないが、次の手を探しているのだけはよく分かる。

「五日」

「七日。必ず其方へ渡すことをお約束いたします」

「七日後、また近々連絡するとしよう。約束を違えるなよ」

 言い残して席を立つ彼に向かって。

「二つほどお聞きしたいのですが、貴方が残りの棒手裏剣を持っていると思ってよいのでしょうか」

「あぁ、俺が預かっている。今は持ってきてはいないが……なるほど其方側から攻めた方が良かったか」

「ならば大切に持っておきなさい。必ず取り戻しに行きますので」

「取り戻すか……ならばまた交わるだろう。お互い逃げられぬ身、次は大事なものを賭けて殺り合うしかないようだ」

「貴方の其の望みについては応じかねますが、素直に返して頂けないみたいですね。あと一つ、名前を聞いてよろしいか」

「名か……ニール。もとより名は無くてな『無い(ニヒル)』と呼ばれている」

 何かの偶然か、失ったものと無くしたもの、そして無いものとは、一体何の因果が運命か。

「私はフォスレス。またお会いできることを楽しみにしていますね」

 フォスレスも席を立つと二人同時に歩き出す。フォスレスは孤児院への道を、ニールは人々の雑踏の中へと消えて行った。


此処まで読んでいたっだき、ありがとうございます。

評価やブックマークありがとございます。

これからもよろしくお願いします。

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