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その世界は残酷なれど、旅人は旅をする……  作者: がお!


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#49 救出作戦 捕らわれの人編

 リュカンの目的の物は半分だが手に入ったと言える。

 裏帳簿に奴隷売買録があればウィータドロル商会は組合から追放だけでは済まされないだろう。

 けれど、まだ捕まっている人たちがいるのならば今、助けなければどうなるか分からない。何処かの誰かに掠め取られ何処かで売られてゆくのならばまだ良い方だろう。最悪は逃走するに邪魔となるものは排除しようとする。それは殺されることとなるだろう。

 もう半分は攫われた人たちを救い出すこと。

 まだ他の場所に捕まっている人がいるかもしれないが、全てに手を伸ばすことは出来ない。

 だから捕まっている人たちを全て助けるのは二の次になる。一番の目的は彼女らにある。

 彼に付き合い違法行為の証拠を押さえはしたが、ここからが私の本当の目的となる。

 場所は地下。今は三階にいるので降りてゆくこととなるが、そもそも地下に監禁されていることを教えてくれたのも彼ならば、地下の場所を知っているのも彼なのである。

 私だけならば一つ一つ探してゆかなければならない分、時間がかかってしまうところであったが、前々から時間を掛け入念に準備していたと言う通り、彼は自身が望むものを手に入れることが出来た。

「貴方の担当は違法業務の取り締まりなのでしょうか」

 部屋を出て一階へ向かいながら訪ねてみる。敵は散発的に攻撃を仕掛けてくるだけで、失敗するや否やすぐに撤退を繰り返している。何やら企んでいるのは確かなのだが、その全容はまだ見えない。分かるときは罠にかかったときだろうか。

「それも一つって事だな。詳細は守秘義務がなかったとしても話す気はないが、荒事も多い部署だからこそ任されていることは多い。今回も本当はもう少し情報を集めてからだったんだがな、何処かの誰かさんが突っ込んでくれたため予定が大幅に狂ったが」

「それはそれは……ご愁傷さまです。困った人もいたものですね」

 一瞬、呆れたように睨まれはしたが、ため息をついただけで周囲を警戒しつつ歩みを進めた。

「でだ、その中には地下の場所とどれだけの人が捕まっているのかと謂うところまで手に入れたかったんだが、残念ながらできなかった。だから急遽、任意同行してもらっているわけだが」

「期待に応えらずに申し訳ありません。何せ初めての街で浮かれてしまったのです。少し羽目を外し過ぎただけですので」

「自覚はあるが気にしていないってことか、厄介なこと此の上無いな……。さて、一階に着いた訳だが地下に降りれる思われる場所はこっちだ。最奥の部屋となるが、まぁ多くの人が出入りする場所の近くには造らんわな」

 廊下の最奥にある扉に入る。小さくもなければ大きくもない。人が十数人入ることが出来る部屋ではあったが、衝立に隠れるように奥へ続く扉がある。その奥も小さな廊下。人が擦れ違うには肩がぶつかるやもしれないほどの狭さ。その奥には外へと通づるかと思われる扉。いわゆる裏口になるのだろう。

「この辺り何処かに隠し部屋か階段があるはずなんだがな。何処だか分かるか」

「狭い部屋に裏口へ通じる廊下ですか」

 裏口の場所的には、町の外へと通じている地下通路の入り口近く。人を搬送するに良い位置と言えよう。

 裏口に通じているだけで普段は使用する人はいないはず。部屋に入る扉には関係者でも入れないよう注意書きをし、鍵でも掛けておけば誰かに見られる可能性は低くなる。

 実質搬送するのは夜ともなれば、見つかることもなくなる。防音処理をしておけば地下からの声などほとんど聞こえないであろう。

「それでも人の声が何処からともなく聞こえそうで、噂になってもおかしくは無さそうなのですが」

「人の呻き声が聞こえると、一時期噂になったこともあったが、すぐに立ち消えたな。対策はしたんだろうが、その対策は考えたくはなかったがな」

「状況証拠だけでは動く事叶わず、ですかね」

「そう言う事だ。それからこの商会を調べる事となったんだが」

「なるほど、それでこの念入りな準備だったわけですね」

「今回は準備が少々不足してはいたが、被害が少なくなるならばそれも有りとした。時間を掛ければそれだけ被害が増えるからな」

「ならその気持ちに応えるべく、使いましょうか。元々少し本気になる予定でしたからね」

 怪訝な表情になるリュカンを無視し、目を閉じる。

 心の中でかつての主の言葉を思い出す。そして『頂いた技を使用します』と報告し、胸の前で柏手を一つ、鳴らした。

 音とは波。波は物質に当たると跳ね返るが、ぶつかった物質の素材、密度、厚みによって変化してくる。

 波は物質の中にまで伝播し、その波形を変化させながら周囲へと広がってゆく。

 その広がった波を、帰ってきた波を再度捉え音の反響速度と経験則に基づいて再構築。周囲にあるすべての状況を把握する。

 カズサの、上総流の技。

 フォスレス自身は使えるだけで、使いこなせてはいないが隠された何かを知る分には十分。

 裏口の横、その壁の奥に隠し部屋があることを知ることが出来た。

「その壁の奥にまだ空間、部屋か通路があります」

 何か言いたげではあったが、すぐに壁を調べにかかる。程なくして壁が動き地下へと通じる階段が現れた。

「さて、ここから先は俺じゃねぇ、あんたが欲していたものがあるはずだ。俺は前の部屋で警戒待機だな」

「それは頼もしい言葉、お願いいたすとします。後はランプを借用いたしたいのですがよろしいですか」

 先ほどのランプを借りると火を着け階段を下りて行った。


 壁に隠された地下へ降りる階段は暗い。

 手にする小さな灯りだけでは足元を灯すことすらできない。

 それを見越した上でのことなのだろう。いくつかの罠が仕掛けられている。けれど新しく仕掛けたものではなく、侵入者用に元々仕掛けられていたのだろう。

 単純な糸を使用した罠ではなく、階段の石段が外れるようになっており、踏み抜いたときに仕込んだ罠が動くものである。

 足の置き場に注意しつつ、つい手を壁に着きたくなるが此方にも罠がある可能性はある。

 下手に触るのは控え、足元を一つ一つ確かめるように足を進める。

 階段を降りるとすぐに曲がって奥へと続いている。少し広く取られた部屋。天井は高くない。手を伸ばせば触れれるかどうか。そしてさらに奥へと続く扉。

 鍵は掛かっていたが、すぐそばに掛けてある。この扉は中から出られないようにするためらしい。

 鍵を回すと意外に大きな音が響き渡った。本当にここに人が捕まっているのかと思うぐらいに静寂が漂っている。

 けれど分かる。暗闇と静寂の中だからこそ感じ取れる。

 右側に並ぶ鉄格子。その中から気配と微かな息する音。

 どのように忍ばせようと響く足音に、警戒を露わにその身を震わせるものもいる。

 一つ一つは小さく区切られ不快な臭いが漂う中、一人ないし二人閉じ込められていた。

 奥より二つ目。ようやく見つけた。

 暗くて分かりにくいが、半端者と呼ばれ蔑まれて来たであろう特徴的な人ではない獣の耳。

 人としての顔立ちのなか、その耳だけが他の獣人や人と画していた。

 そしてその隣にもう一人、お互い寄り添うように横になっていた。この子が同じく攫われた片割れなのだろう。髪質的に似ていることから姉妹と思われる。

 光が当たっても身動き一つせず横たわったまま。もう手遅れかと頭を横切ったが、僅かに胸が動いているのが確認できた。

 少々衰弱しているのが見受けられるが、生きているだけで僥倖。

 ここまで来た甲斐があったと言うもの。

 決して無事ではないがそれでも生きていてくれたことに少し安堵する。まだ助けたわけではないし、ここから無事出られると決まったわけでもない。今はまだ生きていただけなのかもしれない。

 それでも可能性が得られた。

 今までは安否すら確認できなかったゆえに、すでに街から連れ去らわれていたかもしない、もう殺されているのかもしれないと懸念もしたが杞憂に終わった。だから。

 「あぁ生きていますね、まだ死なないで下さいね。ここまで来た意味がなくなりますから。とりあえずはここに居る皆を助けるとして、その方法は彼に考えてもらいましょう」 

 二人の身体がわずかに震えた。声に反応したのならば意識がある。衰弱はしているのだろうがまだもう少しは持ちこたえられるだろう。十分に助けられる。

 けれど一人だけならば担いで行けば良いだろう。二人も担げる訳にもいかないし衰弱している今、それは厳しい。

 せめて二人だけでもと思ったが、他の出入り口は無さそうなので含めて何とかしてもらう必要があるようだ。

「助けに来たのですが、返事は出来ますか」

 返答はない。そして蹲り屍のように横たわる彼女らからは、助けすらも懐疑的な拒絶を感じた。

 ならば考え方を変えるまで。出入口は一か所だけ。扉が付いており鍵も付いている。そして彼女らは動けずにいる。

 方法は一番単純ですが、少々難易度が高め。けれど他に思いつくことはなし。

 と突然に扉が叩かれる音。ここに攻め込まれたかと思ったが。

「ねぇ、助けに来たの? ならここを開けてよ! 早く開けてよ! お願いお願いおねがいオネガイオネガイ! 早く開けて、助けに来たんでしょ! ああぁぁぁl」

 どうやら元気な子が一人いたようだ。ひとしきり叫んだかと思えば最後の力を振り絞ったのか泣き崩れて床へ倒れこんでしまった。

 その子の下へ行き。

「助けに来ましたが、予想以上に捕まっている子が多いのです。入り口には脱獄防止用の罠も仕掛けられていますので、応援を呼んできますね。あと少しですので頑張ってください」

「いやだ! そう言ってもう帰ってこないだ! 本当に助けに来たんだったらここを開けてよ。ねぇお願い……」

 叫ぶ力も残されていないのだろう最後は小さく聞き取るのが困難だったぐらいに。

 後ろ髪惹かれる思いではあるが、そろそろ彼の下へと向かわなければ、彼一人では少々心配な面もある。

 罠は解除していない。突発的な罠ならば解除は容易なれど、ここの罠は入念に設置されている。解除するにはそれなりの技術と時間がいる。来るときに辿った足跡をなぞりながら足早に地下から出る。

 そこには裏口の扉。開けようと試みるも外から打ち付けられているのか開くことはなかった。

「やっと出て来たか。お目当ては見つかったか」

 彼の下へ足を進めつつ。

「えぇ、見つかりましたが捕まっていた子は他にも居ましたし、皆衰弱が激しく連れ出すことは危ぶまれますので出来ませんでした」

「……となると此処の掃除を終わらせてしまう方が早いか」

「この部屋には誰もいませんし、降りた先は扉が付いており鍵も掛けられましたからね。これが扉の鍵です。お渡ししておきますね。これで合鍵でもない限りは危害を加えることは出来ないでしょう」

 思案するリュカンに鍵を渡し、あとはお願いしますとの意を示す。

 少し逡巡したが特に文句を言うことなく受け取ってくれた。

「やることは決まりました。傭兵団は存分に叩ける建物の入り口に集まっているようですから、後は難しくはないです。存分に暴れるだけです」

「待て。暴れるのはまだ良いが殺すなよ。そして何故、其処に集まっていると分かる」

「もうここまで来たらそれぐらいしかないでしょう。彼らは狭い場所では不利な長物を持っていますからね」

「狭い場所より広い狩場か。傭兵らしい考え方だ。奴らにとって雇い主は仕事の上でのことで、自分らのやり方で出来ればそれで良いと考えているのか」

「それは尋ねてみればわかること。最もお話しできる方々であればのお話ですが」

「此方としては攫われた奴らが見つかったのだから最良の結果だ。後は此処を出られたの話しだな」

「何か策でも」

 少し苦々しく睨まれるも、ため息をつかれた。少々態度が明け透け過ぎたか。

「……分かった。もう色々と投げているだろ」

「その様なことはありません。色々と考えていますよ」

「なら教えてくれるか」

「それは……乙女の秘密です」

「それはもういい」

「それは残念です」

「まぁ、実際ここから先は相手の出方次第なんだが」

「攫った人の始末ならば私たちが来る前に実行しておけばよいだけの話。彼らからしたら、まず何処が狙われるか考えたときに、監禁場所か会長自身か予想したとして傭兵団を配置したのでしょう。そして私たちはこちらに来た。狙いは攫った人たちと。そして此処までに時間を掛けていますからね、向こうに配置していた人員も此方へ駆けつけているでしょう」

「そいつらが広い受付で待機している訳か」

「小出しに守って頭数を減らすより、時間を稼いでいる間に仲間を集めて戦いやすい場所で迎える。って処でしょうか」

「人質を連れていたら盾にされることもあったろうが、連れてこなくて正解だったか」

「まぁ、それもこの扉の向こうに答えがあります」

 話しながらも足を進め、たどり着いたのは広間へとつながる扉。

 物音ひとつしないその先に、二人してその扉を凝視する。

 感じられない熱を感じる。この向こう側に、今か今かと待ち受けるケダモノたちが虎視眈々と狙いを定めているのが分かる。

 さて、どうするか。扉を蹴り破って向かうか、胸を張って出て行くか。それとも静かに様子を見つつ出て行くか。

 開けたとたんに矢が雨霰の如く降り注ぐのか。槍が幾重も突き刺さるのか、剣で切りかかられるか。

 不謹慎だが楽しい。次の瞬間何が来るか思索しその対策を考え、どのように実行するのか。

 そして今は二人。彼がどのように動くのかも考える。

 自分にはない手札を持ち、力業でことを進めるかと思うも意外に小技を使ってくる。

 人は見かけによらないと言うが、やはり兵隊は全と謂う事か。個では持てない力があるのは、出来ることの幅が広がり不可能を可能にしてしまう。

 まだ何を隠し持っているのか、素直に聞いても教えてくれるとは思えず、それを知りえる術はやはりこの先を進むしかないだろう。

 私と違って矢を受ければ傷も負うし悪ければ死ぬというのに、不敵に笑い泰然とたたずむ野性の雰囲気を纏う男。

 彼はこの窮地をどのように抜けるのか、見ものではある。



いつも読んでいただきありがとうございます。

考えていたより長くなってしまいました。なのにあまり進まないという事態に。

救出作戦は次で終わる予定です。

面白いと思ってくれた方は是非ブックマークからよろしくお願いします。

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