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#4 家族と負い目

 フォスレスはまたどこかへ姿を晦ました。目を離すとすぐにいなくなるのは、なんだか猫に似ているなと思いもしたが、旅立つのはまだ少し先の話なのだから、それまで一緒にいるという事はない。其の評価に性格は気まぐれと追加したのは本人には内緒と言えよう。

 フェンシオとはあの後すぐに別れた。今は見廻り組の皆と街の兵たちの事や、バケモノたちの対応を決めるべく奔走していることだろう。

 俺自身も参加せねばならないのだが、先に確認しておきたいことがあった。皆には申し訳ないと思いつつ無理を聞いてもらい、とある場所に向かって歩いている。

 先ほど村の人たちが集まった広場を通り過ぎて、幾度か道を曲がったその先にある、自分の住んでいる家に向かって。

 家、と言っても孤児たちが共同で暮らしている家であり、そこでは皆が家族となっている。そこはアロの家と言った。

 建てられた当初、アロと言う人が最初の役目に着いたことから付けられたらしい。

 アロの家、そこは焼けて落ちて何も残ってないと聞いていた。分かっていたし理解もしていたが、やはり人伝に聞くのと、自分の目で確かめるのとでは違ってくる。

 アロの家に住まう子供たちとは言わず、村の子供たちは一通りの読み書きに簡単な算術などは街の近くにある学び舎へ歩いて通い、農作における育て方や収穫などに関すことや、狩猟や防衛の為の弓術、剣術などはそれぞれの村の先達者に教わる。

 村の子供たちは12になったときに道を選び、14で独り立ちをする。

 村の食用肉を採るために狩猟兼、村の警護をする見廻り組の役目を選んで7年、独り立ちしてから5年立つが、孤児たちの住まう家は14になったと言っても必ずしも出る必要はない。

 それでも必要に迫られたり、街へ行ったり、20を過ぎると嫁を見つけてそちらに住まいを移すものもいる。

 俺自身は孤児であったが、いまだ独り身であったため住まう家を考えたことはなく、怠惰に居続けた。まあ、家に肉を持って帰るために狩人兼見廻りの役目を引き受けたのだが、意外と合っていたことは確かだろう。

 今回の惨劇において家の家族たちは皆、無事と聞いている。怪我などしている者たちがいるとは言えど、亡くなった者がいないのは僥倖と言えよう。

 住まう家がなくなっただけなのはまだ良かったのか複雑な所ではあるが、死なずにいるならどうとでも出来よう。小さな子供たちは村の将来を担う大切な子らだ。その子らを守るためにも住む場所、そして食べ物の確保しなければなないだろう。


 そのような考え事をしていると家に着いた。家が建っていた場所は焼け落ちて何もないと思っていたが、焼け崩れているのは半分ほどであった。しかし建て直さなければならないのは確かであった。

 焼け跡を片付けていたひとりの男が、こちらの姿に気づき駆け寄ってくる。

 少し日に焼けた肌、茶色がかった髪を短めに切りそろえ、長そで長ズボンと手袋と、農夫の恰好していた。

「よっ、遅かったな。村長との話が長引いたのか? こっちはもう一通り漁り終わった後だな」

 さして大きくない家は、当然一人部屋ではなく同室者がいる。狭い部屋に2段のベットを壁際に2つ置いた4人部屋であった。その同室者の一人でアグリコだ。

 私物はそのベットの上に乗る分だけ許されている。ゆえに皆、自分の荷物は少くなるわけなのだが。

 周りを見てみると、焼け跡から捜索するような人はおらず、片づけをしているように見える。

「みたいだな。何か焼け残ったのはあるのか?」

「ほとんどないというのが現状だが、少しばかりはあったな。あっちに置いてあるから見て来るが良いよ」

 そう言いながら親指を立て肩越しに指さす先には、大雑把にかき集めたと言わんばかりに山の様に焼け残った物が積まれていた。

 ここから自分の物を探し出すのは億劫だと思ったのが、顔に出ていたのか笑われてしまった。

「まぁ、もともと荷物が少ない同士、俺の荷物と共にお前たちの荷物かと思われるのは横に取ってるぞ」

 人の顔を見てニマニマとするこの男は、俺の憂鬱な表情を見て楽しんでいたらしい。

「あまり、からかわんでくれ。あの山から探さねばならないのかと思うと、探す気がなくなりかけた」

「いやー、大変だったからな。これぐらいは許してほしいぜ」

 確かにあの焼け跡から、あれだけの荷物を掘り当てたのだ。大変だっただろう。気晴らしに人をからかうのもわからなくでもない。

「すまんな、手伝うことが出来ぬままで」

「良いってことよ。それより腹も減ってるだろ。自分の荷物を見たら裏へ行こう。今、炊き出しをしているから、飯でも食ってこや」

 色々とあり飯のことなど忘れていたが、炊き出しと聞いてお腹の虫が騒ぎ始めた。自分の荷物を見たら、飯をいただくのも良いかと思いつつ。

「そうだな、荷物を見終えたら頂こう。まぁ、すぐに見終えるだろうがな」

「待っててやるよ。一緒に食おうや。荷物はこっちだから」

 そう言って前を歩き始め案内してくれた先には、少し離されて他と区別できるよう置かれていた。

「まぁ、自分のは分かるんだけどね。他の三人のはよくわからなくて、俺たちの部屋らへんにあった俺以外の焼け残りをそこに集めただなんだけどね」

 腰に手を当て苦笑いしながら、すまんと謝って来るが、あの焼け跡からここまで掘り起こしてくれただけでもありがたい。探す手間が省けるのだ、感謝すれども文句を言っては罰があるというもの。

「これだけでも助かる。もとより着替え程度しか持ち合わせていないので、焼けてしまえばほぼ残らぬだろうがな。」

「納屋にあったのは無事なのが多かったんだがな。さすがにここまで焼け落ちてしまうと、被害は免れんよな」

 見慣れぬ荷物の中を探りながら、自分の物が何か焼け残っていないか確認してゆく。案の定、めぼしいものは見つけれなかったが、念のためと思い他の荷物を探したときにそれは見つけた。そしてそれを見つけた時は思わず笑ってしまった。

「ん? 何かいい物でも残っていたか?」

「あぁ、なぜだろうな、不思議とこれが残っていたよ。尤もこのまま使うには支障はあるだろうがな」

 見つけ出してきたのは外套であった。狩りを行うにあたって外套は必須である。獲物を捕るとき、動かずに待つこともある、その時には雨風を防ぎ、時には周囲に溶け込為に、色が黒ければ闇夜に紛れ込める。野外で寝るときにも防寒具に虫よけと必要だ。それはもちろん旅人にも必要な物である。

 しかし、とも思う。全てがそうではないにせよ、唯一残ったのが外套とは、何か廻り合わせがあるのかと勘ぐってしまう。

 運命、奇縁、そのようなものは信じていない。

 自分に都合が良い事なら受け入れたり、悪い事ならば拒否したりと運命とはそういうものではないのだから。

「外套か、見廻り組には必須だからな。それだけでも出てきただけ良かったな」

「そうだな、これは……少しばかり値が張ったからな」

 誤魔化さなくても良いのだが、咄嗟に誤魔化してしまった。決して安くなかったのは確かだが、少し後ろ暗かったのかもしれない。アグリコはこちらの様子に気づかぬかのように。

「姉さんに言って直してもらえばいいよ。でないと役目に不便するだろ」

 役目のことを気遣ってくるが、空笑いをしつつ頷いただけであった。


 荷物も見終わり、アグリコと二人して家の裏手に回ると、子供たち一緒に立ちまわっている女性がいた。

 年のころは俺たちより10も上であり、幼いころより世話をしてくれていたカリダ姉だ。

 赤みがかった髪を肩ぐらいまで伸ばし、紺に染めた長袖、長いスカート姿に白いエプロンを着用していた。子供たちは寝間着姿も見受けられたが皆元気なようであった。

「お、最後の悪餓鬼のご帰還かな。あとの二人はご飯を食べ終え、それぞれ役目に当たっているよ」

 後の二人とは同室者の事だろう。どうも仮眠したのが悪かったのかだろうか、どこに行っても一足遅れている。

「カリダ姉もお疲れだ。そちらの様子はいかがなものでしょうか」

「家はなくなってしまったけど、あんたたちのおかげで子供たちは無事さ」

 無事だと言う、カリダ姉の顔に陰りが見える。避難時には見廻り組の誰かが助けに来たはず、だからこそ無事に避難できたのだろうが、避難する際に身を持ってバケモノから子供たちを守ったのだろう。少ない人で村中を駆け巡るため、ここに来たのは一人が精々と思われる。皆を逃すために一人でバケモノに立ち向かったことはどう言う事かは容易に想像がつく。そう考えるとカリダ姉さんの気持ちの理由が分かってくる。

「子供たちが無事だっただけでも幸いだ」

「うん、そうだね。さてと、食べに来たんでしょ。すぐに用意するから少し待っててね」

「少しだけでいい。あまり腹に入れると眠気が襲ってくるのでな」

「だけど、しっかり食べないと体、持たないよ」

「分かっている、もうすぐ街より兵が来るはずだからな。兵との話し合いが終われば、落ち着けよう。その時にはまた頂きに来る」

「んー、兵隊さんねぇ。ほんとに来るのか怪しいやね」

 アグリコが疑問に思っていることを素直に吐露する。フェンシオも同じように思ってはいるが誰もそのことについて言い出せずにいた。アグリコは農業に従事している。村の脅威はそのまま自身に振ってくるのだから、脅威に対して何もできない分、その不安は俺たち以上だろう。そのことを咎めるつもりはない。だがアグリコの不安はそのまま村の皆の不安と言ってもよいだろう。

「あいよ。もともと何もないからね、大した物は出せないけど遠慮せずに食べな」

 そう言ってアグリコの分と共に椀とスプーンを差し出してくる。スープの香りが鼻を刺激し一層腹の虫が騒ぎ出す。礼を言い受け取る椀を見るも肉は入っていなかった。あれだけのことがあた後に、肉を見るのははばかれるのだろう、野菜を主に使ったスープであった。

 スープの香りが全てにおいて勝ったと言えよう。その香りは何においても耐え難く食欲を刺激した。昨夜から動き詰めで何も食べてない体にはこれ以上我慢することは無理であった。食事前のいただきますとの一言すら言うことを忘れ、スープを一口啜る。香辛料などは使われていないが、野菜の甘みが良く出ている。疲れている体には丁度良い食べ物と言えよう。

「うまい」

 そこ一言だけであった。空腹に勝る調味料はなしという言葉がある。確かにその通りだと思った。

「ありがとうね。そんなにもおいしそうに食べるのは、あんただけだよ。それでこそ作り甲斐があるっても物だね」

 満面の笑みを浮かべるカリダ姉さん。この人が作ったスープの味を噛み締めながら、今まで過ごしてきたこの村を守らねばと思う片隅で、旅に出なければならい自分がいることに、負い目を感じてしまった。だからか俺は少しでも不安を払拭するために。

「街より兵が来る来ないにせよ、俺たちのやることは変わらぬよ。村を守る、それだけだ。それにバケモノたちの対策も立てている。次はこの様な無様な事にはならぬ」

 せめてこの村にいる間だけでもと思ったが…それこそ驕りというものであろう。言葉にすればするほど、滑稽に思えてくる。

「頼もしいね。子供たちのことは私が守るから安心していいよ」

「畑のことはの方は任せておけ。なんとでもしてやるよ」

 二人の頼もしい言葉をいただく。周りを見渡せば子供たちからも元気な声が聞こえる。皆前向きに村を立て直そうと奮闘しているのが伝わってくる。それだけに自責の念が募ってゆくばかりであった。

 スープを一息で飲むと椀をカリダ姉へ返し、立ち去ろうかとしたときに。

「そういえば、それ、カリダ姉に手直してもらうのでは?」

 手に持つ外套を指さしながらアグリコが聞いてくる。今の心情で頼むのは気が引けていたので後日にでも頼もうかと思っていたのだが、そのように聞かれたら断るのは憚れる。だが今だろうが後日だろうが、いつかは頼まなければならないのだから、早い事に越したことはないだろう。

「そうだな、カリダ姉に、頼みがある」

「ん? 頼みとは珍しいね。それって外套、よく燃えずに残ったね」

「あぁ、これを手直してほしいのだが、頼めるか」

 持っていた外套を、控えめにカリダ姉へ差し出す。自分でも出来なくはないのだが、縫った後が目立ち、みすぼらしくなってしまうのであまりやりたくはなかった。その点カリダ姉は上手である。家の子供たち服はカリダ姉のお手製ばかりだ。もっとも裁縫など得意とする一つにしか過ぎないのであるが、そうでなければアロの家を任されはしないだろう。

「あぁ、大丈夫だよ。すぐって訳にはいかないけど、2,3日中には直しておくよ。それでいい?」

「十分だ」

 そう言ってカリダ姉は外套を受け取ってくれる。少し胸のあたりに痛みが走ったが、気のせいではないのだろうと思い、心の中で感謝する。

「よかったな。さて、俺はそろそろ役目に戻るとするよ。また夜には帰ってくるから。カリダ姉、ごっそさんです。うまかったよ」

「俺もそろそろフェンシオと落ち合わなければない。役目に戻るとする」

「ん、二人とも頑張っておいで」

 そう言って笑顔で見送ってくれた。カリダ姉と別れを告げ、アグリコと二人それぞれの場所に向かって歩き出す。

 ついに最後まで二人に告げれなかった。自分のこれからの事を、そして名のことを。一度逃した機会は次にあるのか、どうあっても怒られるのだけは決定だろうなと、心が重くのしかかったが、フェンシオの待つ場所へと向かう。

 街の兵も早ければ今日明日には到着するころだろう。人も来れば復興も早くなるが、そもそも兵も人も出してくれるのかが心配だ。


 見廻り組の詰所に近づくにつれ、にわかに騒がしくなってくる。その中にフェンシオの姿を見つけ彼の元へと駆け寄った。

 何か進展でもあったのか、人が忙しなかった。


いつも読んでくださり、ありがとうございます。

家族が出てきました。一つの物語を書くにあたって、その中でも多くの人たちとかかわりになってきますね。

まだまだ広げてないのですが、思った以上に考えてなかった人が出てきてます。

何故だろうと、なんだか勢いで書いているだけの気もしますが、ここまで読んでくださりありがとうございます。

次も早めに書きたく思いますのでよろしくです。

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