#25 皆の気持ちと後発隊
旅支度と言って、フェンシオと別れたのは良いが問題は多くある。
その一つにカリダ姉に何と言えばよいのか、旅に出ることは有耶無耶のうちに伝えてはいるが、面を向っては伝えていない。
今更ながら伝えなければならないのは、気恥ずかしい思いはあるものの、それでも伝えなければならないのは確かである。
後はどこまで伝えればよいのか、ただ旅に出るだけでは納得してはくれないだろう。
息を大きく吐き少し肌寒く感じる風に、秋も半ばに少し早い冬の到来の兆しを感じながら、アロの家へと向かう。
これ以上旅立ちが遅れれば冬が到来し、雪が積もれば旅路は困難なものとなろう。
南に下れば冬の期間も短いと聞くが、それでも雪で足止めされるのは確実なのだろう。
春まで待てば違うものになっては来るだろうが、今度は決心が鈍る。そうなれば村長だけでなくフェンシオや他の人々も呆れるだろう。
どのように考えても碌な結末しか思い浮かばないのならば正直に話すだけであるが、フォスレスのことをどのように話すか頭を悩ませる。
考えもまとまらないうちにアロの家が見え、その分足が重くなる。
願わくばカリダ姉が留守であるようにと思いもよぎるが、それは逃避や問題の先送りともいえるだろう。
そのような思いも、姿を見つけ泡へと消えるのだが。
「早目のご帰還だね。用事は終わったの」
ネムロスの姿を見かけると笑顔で迎えてくれる。昔から変わらない、これからも変わらないのだろうか。
「何かあったの?」
「明日、葬儀が行われる」
心配をしてくれるカリダ姉の心遣いに心もとない言葉を告げてしまう。
心情を誤魔化す為であるが、偽りは言っていない。そう自身に言い聞かせるが、胸が詰まるのは決して葬儀の話だけではないだろう。
「そっか、突然だけどやっぱりきちんと見送ってあげないとかわいそうだからね」
「後は義援隊の後発隊が今日の夕方ぐらいに到着する予定だ。そして、葬儀の翌日に俺はここを出る」
旅に出ることは伝えてはいるが、はっきりと伝えたのはこれが初めてになろう。
カリダ姉は驚いた顔をしたももの、すぐに笑顔に戻るもどこかぎこちない。
「そっか、それでか……。旅に出るとは言っていたけど、こっちも突然だね」
「本格的に冬が到来する前に少しは進んでおきたくてな。突然になって済まない」
「大丈夫だよ。それより旅するのは大変だろうから、こっちのことは気にしないでね。それまでには預かっているマントの手直しを終わらせておくよ」
「それも、急かしてすまない」
「もともと頼まれていたしね。気にしなくていいよ」
その後は子供たちの元へと戻るよと言って、カリダ姉は行ってしまった。
ただそれだけであった。
もっと聞いてくるかと覚悟していたが、ただ受け入れてくれただけであり何も聞いてこなかった。
それは信用しているから、それとも……。
さて、旅の準備と言っても何をすればよいのか。目の前に置かれている自分の荷物を見つつため息をつく。
もともと私物など少ない方だ。生活する上での道具は全てアロの家のものであってネムロスの物ではない。
衣服などは今着ているものを除けば、キメラに踏み荒らされがれきの下敷きになった時点で雑巾にしかならない。
街へ赴いた際に買い足さなければならないだろう。
狩猟の道具として、弓に矢に整備用の道具。ナイフが数点、罠用の道具、釣り用具にその他少々。元もと持っていた剣は折れて使い物にならない。
今持っているものとしては小盾に、その裏につけている手裏剣。
使えなくなった金属類は鋳つぶして生活用品へ変えるべく、ファキオが持って行った。
全て持って行っても大した荷物にはならぬが、それらを入れる荷袋もない。
荷物の取捨選択する以前の問題であった。
もはやため息しかでないのは道理である。
「そこのお兄さんや、大きなため息ついていると幸せが逃げるぜぇ。相談があったら乗るので話してみることを提案するよ」
振り返るとアミクスが締まりのない笑い顔で手を振っていた。
「俺の周りにはいろいろとお節介やきたちがいるみたいだな」
「ま、気にしない方が無理でしょ」
「アミクスは聞かないのか」
「んー……、気にならないわけじゃないけど、その剣かな。話したいなら聞くけど、無理に聞くつもりはないかな」
「話すには少し難しいな」
「そっか、アグリコは聞きたがるだろうけどね。帰ってきたら旅の話を聞かせてよ、俺はそれでいい」
「分かった、約束しよう」
これでまた一つ、理由ができた。果たせるかどうかは分からぬが、果たせるよう努力はせねばなるまい。
「じゃ、これ。必要かなって思ってね。餞別にあげるよ」
差し出されたのは背負っていた荷袋であった。
形は円筒状であり取り出し口に紐がついてあり下側に繋がっていて肩掛けできるようになっている。紐を引っ張れば口が閉まる仕様となっており、革で外側は補強されていた。
使い勝手は決して良いとは言い難いが、長旅であっても耐えれるようになっている。
長旅を見据えた、今の俺に必要な荷袋であった。
思わず笑いが漏れる。
突然に伝えられ、詳しい話もなしに同じ家で過ごし、同じ釜の飯を共にした家族ともいえる友人がいなくなるというのだ、本当ならば問いただしたいところなのだろうが、黙って餞別品まで用意してくれた。
心配ばかりかけてしまっている、心が痛むが応えることは出来るだろうか。
たとえ返すことが出来ぬとて、好意を無碍にすることない。
差し出された荷袋を受け取り。
「いずれ話す機会があれば、全てを話そう」
「楽しみに待ってるよ」
その時が来ることがあるのかはわからないが、今は可能性を考えても意味はない。
帰るべき理由がまた一つ出来たという訳であるが、これでは旅に出る前に重荷で動けなくなってしまいそうだ。
「さて、渡す物も渡したし、お仕事に戻るとするよ」
「これはありがたく使わさせていただく。そして、すまない」
「旅、楽しんで行きな」
見送る背に礼を述べ、語らぬ自分が情けなく思う。
村を出る。ただそれだけのことなのに、自分と家族や友では違うものなのだと思い知らされた。
アミクスより貰った荷袋に、荷物入れてゆく。ナイフ類は見えぬように服の内へ着けてゆく。
荷造りというには些か言えはしないが、持てる物は全て持った。
旅に出るには心もとないどころの話ではないが、今用意できる全てであるので不足している物については誰かに相談するか、街で買い足す必要があるだろう。
先立つものは心もとないが。
必要と思われるのは、洞窟を探索する時にウィリデに聞いた事が参考に出来るだろう。
あとは、旅をするにやはり自分は素人だという事であろう。
主に小さな村の狩人として過ごしてきた。狩猟の装備は熟知しているつもりではあるが、旅となればやはり素人であると言える。
街へと足を向けたことはあるが、出かけたというだけで旅とは全く異なる。
何が必要で何がいらないのか、判断をするに材料が不足していると言えよう。
手詰まり……と言えようか。手足を投げ出しむき出しの土の上に倒れる。
夕刻ままだ少し時間はあるが 秋の風に晒され少し冷たくなった土が体に伝わってくる。
見上げる空は高く、かかる雲は疎らであった。
この分であれば明日の天気は葬儀を行うに問題はなさそうである。
「こんなところで倒れていると踏んずけてしまっても文句はないよな」
「今度はアグリコか」
「今度って、どういう意味だよ。人使いの荒い上司の使いで呼びに来たのに、その言い草とは……」
人使いが荒い上司など一人しか思い浮かばない。呼びに来たという事は何かしら事態が動いたという事、それは後発隊が到着、もしくはすぐそこまで来たという事だろう。
土の冷たさに少し名残惜しみつつ体を起こすと。
「後発隊が来たのか」
「まだ到着はしてないけどね、あと半刻もすれば来るようだね」
「予定より少し早いか……いや、予定通りか」
「で、呼びに寄こされたわけだ。ほんと人使い荒いよね」
「荷物をカリダ姉に預けてくる。悠長に構えてしまえば、からかうための理由を与えてしまう」
急ぎ荷物を抱えカリダ姉のところへ向かうと、二人の慌てた姿を見て碌な説明もしていないのに頷いて荷物を預かってくれた。
その信頼に応えるべく、アグリコの後ろについてフェンシオの元へと急いだ。
「まだ後発隊が到着してないからそこまで急がなくてもよかったのだけどな」
「これ以上遅れたら、文句の荒しであろう」
「いやいや、そこまで文句言うつもりはないんだが」
呼び出した本人の元へと辿り着きはしたが予想より早かったのであろう、考えていた文句が言えなかったことを噯にも出さず皮肉めいた笑みを浮かべていた。
アグリコに至っては、そのようなフェンシオを見てニヤニヤと笑っていた。
「後発隊はどうなっている」
「予定より少々早目の到着となるのは分かる通り、今はまだ到着してない。そりより、あまり良くはないみたいだな。もしかしたらネムロスは会わない方がいいかもしれん」
何にと思いもするが、珍しいとも思う。フェンシオがここまで言い淀むとは。
ここまで警戒する後発隊とは一体……。
「同行者が先に帰ってきて知らせてくれたんだが、後発隊は少し大きな部隊となっているみたいで、その部隊の隊長が少しお堅いらしい」
「だからと言ってそれが」
「街の長は一人でもそこに携わり任を受けている兵たちは一枚岩ではないってことだな」
この小さな村を治めるうえでも村長がいて、その下に狩猟に農業、街との折衝や商隊との交渉の他、あげればきりがない。
村では兼任していることが多いが、街という規模になれば兼任など出来る規模ではないゆえに、専任となるだろうが、そうなると自身が受け持つ部署を優先するのは自然な事であり、それぞれの考えが異なる事は当然の事であろう。
だからこそラウムのような民間よりの考え方をする者もいれば、街を守ることを優先する部署もあるという事。
そして先発隊は村の事情を優先して考えてくれて、後発隊は街のことを優先して動くようである。
それ自体は決して悪いことではなく、むしろ当然の事と言えるのだろうが、当事者同士になればどうしてもその考え方に不満を持ってしまうものであろう。
それすらも当事者にとっては想定内の話になってくるのやもしれぬが。
ここから先は狐と狸の化かし合いになるのだろう。
最もその話し合いにネムロス自身は出られはしないのだが。
「状況は分かった。ならばどうする」
「しばらくは様子見か、話の流れからは……どうなるかだな」
「それでは、分からないことばかりではないか」
「だな。ま、だから面白いのだが」
「この状況を楽しめるその気持ちが俺には分からぬよ」
相も変わらず皮肉めいた笑みを浮かべているが、いつか消してやろうと思うすぐ後に、その時が来ることがあるのか、あるとすればかなり先になるだろうなと自嘲気味に笑うしかなかった。
「ま、それがわかればムロス、お前の旅も少しは面白くなるかもよ」
そのようなネムロスをしり目にフェンシオの言葉は、届かぬ小さなつぶやきであった。
「すまぬが聞こえなかった、何か言ったか」
「いや、そろそろ来るみたいだな」
フェンシオの視線の先にはまだ何も見えもしないが、遠くでガラガラと荷車を引く音が聞こえてきた。
まだ耳を澄まさねばならぬほど小さかったが、音からして一台ではなく複数台と思われる。
街へ税として農作物を収めるために村から荷車を出すことはあっても、今の時期に辺境にある村へ荷車など来るはずもなく、自ずと街からの後発の支援部隊と推測できる。
山間にある道は整備など陸に整備などされておらず、歩く分には支障はないだろうが、荷車など引くには適してはおらず少々労を要するだろうに、仕事と言えばそれでお終いだが支援はありがたい。
音に気付いたのか村の人々が徐々に広場へと姿を現し混雑してゆく中、誰かが知らせに行ったのだろう、村長のほかに先発隊である隊長の姿を現した。
人が増え場が混乱する前に村長が一喝、後発隊を迎える準備が進められる。
広場の隅へと移動し成り行きを見守るしかないネムロスと違い、フェンシオはやること等いくらでもはあるだろうに隣に立ち静観していた。
「加わらなくても良いのか」
「ん? 俺がいてもいなくても同じさ。それにこの舞台は村長や補佐役が主役だ、頑張ってもらわないとな」
一瞬、補佐役の二人がこちらを、主にフェンシオを見た気がしたが特に何か言う訳でもなく、周りに指示を飛ばしてゆく。
先発隊が来た時とは違い、後発隊への歓待ぶりはそのまま村全体の期待の表れなのだろう。
それを築いた先発隊が有能だったか。
これで後発隊が下手を打たぬ限りは、問題ないという事か。
フェンシオの話を聞いたせいか少し捻くれたことを考えてしまったが、忠告は無視できまい。
明後日にはここを出てゆく身、深くかかわらぬ方が無難というもの。
ならば、ここは言うとおりに静観し見守るとしよう。
しばらくして後発の支援隊が村に入ってきた。
整備されていない山道でも通れるよう、大きくはないが荷馬車を3台ほど引いており、支援物資が搭載されていると思われる。
人数で言えば先発隊の倍近くおり、若年層で構成されていた先発隊と異なり後発隊は戦歴の兵というべきか老齢の兵が多く見受けられた。兵服を着ていなければただの強盗団に見えなくもない。
実際に接してみたら違うのだろうが、望んで関わり合いになりたいと思わぬ風体である。
うち一人が先発隊の隊長や村長のところへと挨拶に向かおうとしている兵士は隊長各なのだろう。三十後半ぐらいであろうか髭を切りそろえ、後ろへ流した髪に小さな子供ならばすぐに泣き出しそうな厳ついまなざし、その姿はどの兵士よりも威風堂堂としていた。
「再興扶翼隊の隊長ディスケ。エファー村における議会代行者を受命し馳せ参じた」
低い声ではあったが朗々と響き、少し離れているネムロスの元にも届いた。
議会の代行者、つまり彼の言葉は議会の言葉であり、思惑一つでどうとでもなると言う事。
小さな村に街の代表者が来ることはないのだろうが、代行として彼はそれだけの信頼を得ているのだろう。
村の事からのことを考えると、期待をせずにはいられないが楽観視も出来まい。
良くも悪くも彼は街側の人なんだから。
お待たせして申し訳ない。
そしてここまで読んでくださりありがとうございます。
忙しくなりすぎて執筆する時間が取れませんでした。
マイペースで申し訳ないですが、頑張ってゆく来ます。
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