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#23 復興とその先 (後編)

「まだ確証に至ったわけではないんだが、今わかっていることだけでも話しておく。調べ始めたのが夕方近くだったんでな、調べ切らなかったのは痛いが……」

「それは仕方あるまい。裏切者……正確には間者の方か、いる可能性が分かったのが遅い時間だったからな」

「村長からも不安にさせるような行動は控えるよう釘を刺されたからな」

「今は復興への意欲を、ここで不安にさせて落としたくはないのであろう」

 キメラについては再度襲撃がある可能性はなくなったといっても良い。ならばその先を見なくてはならない。事を蒸し返し不安にさせてしまっては動きが鈍るだけでなく、再度気持ちを持ち直すには時間と労力が必要となる。

 それは看過できぬことであろうし、村のことを考えなければならない長の立場としては当然というべき選択である。

「ま、それはわかってはいるんだがな、だからと言って一人で調べるには無理があるだろう」

 人をかければそれだけで周囲の人たちは不安になる。一人だけであれば理由も胡麻化すことは容易だろう。それを見越して村長もフェンシオ一人だけに任せたのか。

「それだけフェンシオを信頼してのことであろう。で、どうであった?」

 これ以上無駄話で長引かせても、時間の無駄である。先を促すべく話を戻した。

「ま、結果は一組の夫婦が見当たらないな。まだ決まったわけではないが、俺としては限りなく黒に近いとみている」

「ない時間の中でよくそこまで突き止めたものだな」

「ま、苦労した甲斐はあると思っているが、確証がない分まだ何とも言えんがな。小さい村さ、隣どころかどこに誰が住んでいるなんて、大体知れ渡っている。ネムロスも全てではないにしてもある程度わかっているだろ」

「村長であれば、すべて知っている。そしてそれを元に駆け回ったわけか」

「で、一組の夫婦がいないことが分かったわけだ」

「それはどこかへ出かけているだけとうことは」

「キメラの襲撃後、朝には確認されている。その後から姿が確認できなかった。村を見限ったともとれるが、逃走したともとれる。さてネムロスはどちらと見る」

 情報量としては少ない。フェンシオも知りえた情報としては全てなのだろう。あえて隠している事はあるやもしれぬが、聞いて引き出すか、黙したままか。

 フェンシオは皮肉めいた笑みを浮かべ、こちらを睨んでいる。試しているのか、自分の考えに対し意見を求めているのか……。

 消えた夫婦の最後はどうだったのか。そもそも誰なのか。

 少し心がざわつく。苛立ちにも似たそれは、どのように処理をすればよいのか。

 今は姿をくらました夫婦について、思案しなければならない。

 落ち着きを取り戻すため、息を小さく吐く。

「その夫婦は朝の様子はどうだったのか、そもそもその夫婦は誰なのだ。俺でも知らぬ人ではなかろうに」

「そうだな、いなくなったのはコンスとキウスの二人だ」

 二人の名前を聞いて驚くと同時に納得する部分もある。

 昔からネムロスはおろかフェンシオや他の人たちにおいても世話になっていた。いや、小さな村では皆が協力しなければ生活はできぬが、それでも二人にはよく世話になった。

 村の外から来たと言っていたが、その言葉が示すとおりに村にはなかった知識を持ち、狩猟の仕方、農業のやり方、生活の知恵など村の人たちが生活をするうえで役に立つ知識を広めてくれた。

 画期的な方法ではなく、今までの方法にほんの少し手を加えただけであったが楽になったり、教える側としてまた、覚える側としても容易い様、改善には知恵を貸してくれていた。

「他の人たちと同様、俺とていろいろと世話になった人たちではある。何かあった時には頼ったり、何かある時には手を貸した。外から来たからと言っていたが、村に馴染んでいた。子供ができないと愚痴っていたが、夫婦仲は良く一緒にいる所を何度も見かけた。何かあってもまず疑うことはないだろうと思う」

「だな、俺も同意見だ。良い人だったなと思う。だがそれと同時にコンスの行動に不可解なところがあったのは確かさ。ま、それも自分の中で色々と理由を決めつけて気にしないようにしていたのだがな」

 街へ行く、森の中へ狩猟へ出かける、村の人たちとよく話している。それだけならば怪しいところはない。自分たちもしている。

「コンスやキウスのことを思い返しているが、怪しいと思える節は思い当たらぬ」

「長い間の成果ってやつかな。一つ一つの行動を考えても怪しいところはないだろう。だが街へ行くのによく変わってもらっていたり、コンスが狩猟場所に選んでいた場所は例の洞窟がある付近選んでいたりと、思い返してみれば思うところは無きにしも非ずだな」

 この村は人たちは外から入ってきた者たちもいる。彼らが珍しいわけでもない。

 新しく入ってきた人たちを受け入れもせずに、いわゆる村八分にすることにより結束を強めようとするところもあるが、それでは個で凝り固まり発展など望めるわけでもなく、最終的に廃れるだけである。

 村長はそれよりも、新しい人たちを受け入れることによって村にはなかった知識や知恵を得て、村の規模を少しづつ大きくして行く方法を取っていた。

 ゆえに彼らの行動は少々違ったとしても、気に留めることはなかった。

「そして、それらの行動は妻、キウスによって胡麻化されてきたところもある」

「村の中でよく話しているのを見ていた。それに俺自身も話をしていた」

「だな、ネムロスだけでなく俺も他の人達ともよく話していたな。それはつまり、情報収集と意識誘導と思うだが…」

 言葉が出なく思考がまとまらないでいると、フェンシオが続いて繋げる

「コンスは狩りに行くときはいつも獲物をどこで見ただの居場所を教えてくれていた、森の中を見回るときは例の洞窟付近を受け持っていた。大変と思うところは率先してくれていたが、それらすべて例の洞窟を隠す為と思えば、あいつの言動に不審な点がいくつも出てくる。ネムロスはどうだ。」

 前を歩いている為、フェンシオの顔は見えない。淡々と語るその声からは感情も読めない。

 今、フェンシオは何を考えているのか、何を思っているのか……。

 コンスについて思い返すと、思い当たる節はある。だからと言って決めつけてしまえば他の可能性が見えなくなってしまう。

 今は推論でしかなく、確証はないのだから。

「思うところはある。が、推論でしかない今は他にいるやもしれぬ。コンスとキウスが関わっているであろう方向で事を進めるのは賛成するが……やはり分からぬな」

「ま、突然言われてもそうなるわな。気にするな、今どうこうしたところで何もならんし、今から追っても捕まえることは無理だろうしな。もし帰ってくるようならば、二人は共犯者の可能性は低いだろう」

 首だけ振り向き、そう笑いかけるフェンシオの笑みはやはりどこか皮肉めいていた。

 疑われているところに帰ってくるということは、そもそも二人は自分たちが疑われているなどと思ってはいないだろうから帰ってくるのだ。失踪したのが二人のうち一人だけであったならば疑いの目は向けれなかったはず。

 時期を見るに、二人同時にいなくなるのはそういうことなのだろう。

 悪魔は笑ってやってくる……。

 ラウムが言っていた言葉が頭を横切る。

 俺は考えが甘いのだろうか。可能性ばかり追っては真実を見逃してしまうことも多々ある。

 迷ってばかりでは何も得ることはない。焦りは真実を曇らす。

 真実はあるのだろうが、そこに至る道に正解はない。

 信念や矜持といった確固たる覚悟があれば、違った答えを出せるのだろうが今の俺では断言することはできない。

 フェンシオはあるのだろうか。

 一つの疑問は次の疑問を導き、一つも解けぬうちに思考の渦の中に埋もれてしまう。

「ほら、呆けてると先に行くぞ」

 フェンシオの言葉に、思考の渦より抜け出し自分が何しに来たのかを思います。

 息を大きく静かに吸い、ゆっくりと吐き出す。少し冴えた頭で。

「すまぬ、今行く」

 今は二人のことは頭の片隅に置き、自分がここへ来たことをするためフェンシオの後を追う。

 自分に出来ることではなく、やるべきことを考えながら。


 ガランと獣除けの鐘を鳴らし森に入る。

 いつもならば獣除けの鐘など鳴らさずに入るのだが、今回は騒動の原因になった要因が他にもないか確認をしなければならない。いくら優先順位が狩猟と言っても、村の安全を怠ることも出来ない。

 フェンシオは渋々と獣除けの鐘を使うと言った。

 フェンシオの気持ちは十分に理解できる。時間が限られているからと言って、これでは狩猟と探索、どちらとも就かず、両方とも中途半端になってしまうのだから。

 獣は一様に臆病だ。草食の獣は言わずもがな、肉食の獣ですら臆病である。

 余程空腹な獣でなければ、見境なしに襲ってくることはない。しかしその行動すらも生存本能の観点からみれば十分に理解できるものであり、注意もできる。

 獣が他の獣を襲うのは腹を満たす為であり、決して快楽狂気からくるものではない。

 獣たちは生きるために、危険を負うことを避ける。傷を負ってしまえば、狩りをするに支障が出る。成功率が下がれば自分たちの食べれるものが取れなくなり、餓死するしかない。

 少しの傷や怪我ならば、行動するに支障は出ないであろうが、大きな怪我をしてしまえば動けなくなってしまう。

 運よく怪我が癒えるまで襲われなくとも、大きな怪我は後遺症をして残してしまうものである。治療と言う概念がない獣たちは、癒えるまで時間がかかる。例え治るまで襲われなくとも、歪な形で治ることなど珍しくはない。

 他の獣たちが助けてくれる訳でもなく、弱ってものから襲われ食うものから喰われるものへ変貌する。

 それは獣であろうと、人であろうと同じである。

 ゆえに獣たちは臆病であり、警戒心も強い。目の前に現れなければ、無為に襲ってくることはない。

 大きな音など聞こえようものならば、警戒しその場を離れてゆくのが生きるための、彼らが培ってきた生き方と言えよう。

 逆に自分たちに有利と分かってしまえば、彼らは何の迷いもなく襲ってくるのだが。


 そうして、森に棲む獣たちに警告音を鳴らし、フェンシオと二人、奥へと進んでゆく。

 残念ながら大きな獣はかかっていなかったが、中型の獣が一匹だけ罠にかかっており、手ぶらでの帰還は避けられた。

 村中へ配ることはできはしないが、アロの家で少し贅沢することは出来よう。

 探索については、例の洞窟より少し森の奥へと進み調べることはしたが、こちらに関しては得られるものは何もなかった。

 フェンシオはこれ以上、奥へと進んだところで無駄だろうと判断し、村へと引き返すこととなった。

 罠を使った狩りでは大きな獣など捕れることなどそうあることではないので、これはこれで狩りの成果としては十分である。

 大物を狙うならば弓をもって山の中に隠れ待ち続けるか、罠ならば時間がなければ難しい。奥へ行けば遭遇率も上がるだろうが、大人の三、四倍はあろうかと思われるほど重い獣を背負い運ぶのは無理がある。

 今はフェンシオと二人ではあるが、それでも辛いだろう。今は無理して大物を捕る必要はない。

「これでネムロスもカリダには怒られることはないだろ」

「すまぬな、そちらも必要であったろうが、本当に全てこちらで貰ってよいのか?」

「アロの家は今はネムロスぐらいだからな。こっちは乾物とはいえ兵隊からもらっている。それにそっちと違って他にも狩りに出かけている奴はいる。だから気にするな」

「ならば、遠慮なく頂くことにしよう」

「さて、もう昼も近い。血抜きは終わっているんだろ、ならば村長のところへ寄ってから、アロの家へと帰ればいいさ」

 いうや否や、来た道を引き返すフェンシオ。

 その後を追うが、いつもその後ろ姿を見ているような気がしてネムロスは、言葉にならない気持ちにとらわれるが、ぐっと心の奥へと追いやる。

 深呼吸にも似たため息を一つとともに歩き出した。


「で、いつになったら出てゆくつもりだ」

 開口一番、村長の一言目がそれであった。

 探索も狩りも半端に切り上げ、予定通りに村長のところへ赴いたところである。

 他とは違い少しばかりか立派と言えるようなテントであったが、傍から見るとどこぞの遊牧民のテントのようであった。

 外から声を掛け、中に入るもネムロスの姿を確認するや否や、先制の一言であった。

 簡素ではあるが板張りの床に寒さ対策なのだろう、わずかな厚手の布を敷いた上にテーブルを置きその奥に村長がそこかしこと散らばる羊皮紙と向かい合っていた。

「キメラに関しては随時報告は聞いている。その顔から予想するに進展はなかったのだろ。キメラの襲撃の後に獣なんぞ逃げてるだろうからな、どれだけ捕れたかはわからんが、捕れただけで運が良かったのだろうて」

 取れた獲物は外に置いてある。テントの中にまでもっと入り血生臭くする必要はないと判断してのことであったが、現状を把握している村長からしてみれば色々と予想通りなのであろう。

「時間がないのは分かるが、慌てることはないだろ。これからのことを含め話するために来たんだから」

「ま、いいだろ。まずは報告から聞こうか」

 ようやくこれまでのことを報告することと、これからの事を話し合う場がもたれた。



いつも不定期に更新、すいません。

そして、ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

まずはブックマークや評価、よろしければお願いします。



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