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#19 探索後の休憩とこれからのこと

 洞窟の外へ出るが、日はまだ傾いてきたばかりで明るい。

 けれど再度洞窟へ探索するには時間的に無理ではないが、村へ往路は暗闇の中での行軍となるだろう。

 押すにせよ引くにせよ、すべてが中途半端な時間帯である。

「では少し長めの休憩をしてから戻るとしましょう」

 そう告げてラウムが向かった先には巨猿が横たわっている荷車の方であった。

 明るい今のうちに巨猿を確認したかったのだろう。休む素振りは無く仕事熱心の様だ。

 フェンシオもまた興味があるのだろう、ラウムの横に並び一緒に向かっていた。

 暗闇の中ではよく見えなかったのだから、その姿には興味はある。ネムロスも二人の後を追い、巨猿の元へと向かって行った。


 荷車の上で横たわる巨猿はやはり通常ではありえない程、大きかった。体長は人より二回りほど大きく、体重は大人の四、五倍ほどだろうか。毛色は黒に近い茶色、正しくその顔は猿であったが、その巨躯ゆえ突然変異種か判別するに難しいだろう。

 これが村を襲ったキメラと何ら関係性があるのは明白だが、この巨猿自体がキメラなのかそうでないのかは分からないゆえに調べなければならないが、それは俺たち村の者たちがする仕事ではない。街の兵士、もしくは衛士隊の仕事である。

「この洞窟がキメラに関わっていたのは分かりましたが、すでに破棄されたいたようですね。破棄された理由までは分かりませんでしたが、この巨猿に関しては洞窟を調べに来る者らを消すためか他意があるのか、さらに調査をしなければ判断できかねますが、危害要因は排除できたと判断しても良いでしょう。他にもあるかもしれませんが、それも詳しく調べてみる必要がありますが」

「まぁ、少し腑に落ちないがそう考えるしかないか」

「ここの他にあると言う可能性もありますので、明日以降はこの洞窟の再探索と、周囲の探索ですね」

「他にあると?」

「その可能性は無いとも言えませんからね、念のためです。確信もなしに一つだけと決めつけるのは危ういですから」

「という訳だ。ネムロス、明日も周囲の探索をすることになった」

「それは問題ない。森の中に仕掛けた罠の様子も見なくてはならないのでな、丁度良い」

 罠も仕掛けてから数日たっている。罠の確認や再設置などを探索と同時にこなして行けばよい。

 キメラについても、ないことに越したことは無いが万が一のことはあるかもしれぬ。用心に越したことはない。

「我々の方は明日もこちらの洞窟を探索するので、周辺の探索はそちらにお任せになってしまいますが、よろしいですか」

「それは構わねえ、見つかったときに力添えを頼むぜ」

「えぇ、その時はよろしくお願いします」


「だが、これは……改めて見るとでかいとしか言いようがないな。」

 フェンシオが巨猿の体躯を見ながら呟く。

「外見がかなり変わっていますから、調べるにしても難しいですが、調査部に頑張ってもらうしかないですね」

「ほほぅ……、調査部とは」

「街の支部に様々な部署があり、その一つにこういった遺骸の解剖を行い調査する部署があります。秘匿されているわけではないですが、内部事情を広大に公表はしませんから、関係者ぐらいしか認識がないわけですし、結構優秀なのですよ」

「他にどのような部署があるのか気になるところだな」

 街を守る兵と言っても、そこに関わる全ての人たちが兵士では無い。だが街で暮らす人々が一番接するのは、街を守る衛士であり、何かあったときに遠征し対応するのが兵士である。

 知ろうとしなければ、営舎に関わる全ての人々が衛士ないし兵士と混同し、勘違いするのは仕方ないかもしれない。

 けれどそこに務めている人は、把握していなければ業務をこなすことは出来ぬだろう。

「そうですね、私たちの様に緊急事態に対応できる部署の他には、貴族など来賓時にそばで守護する部署もあります。遠征し各地の情報を確認、収集する部署もあります」

「なかなか興味深いところばかりで、楽しそうではあるな」

「話はそれましたが、街へ移送し詳しく調べてもらう必要はあるという事です。村の中にあるキメラも含めて」

「それでこいつらのことがどれぐらいまで分かると?」

「……さて、難しいところです。鑑識といっても技術はまだまだ拙いですから、どれほどまで分かるか」

「その様子だと、お手上げって感じだな」

「手厳しいご意見ですが、今回の件については今までにない例ですからね。正直どのように処理をすればよいのか困っているところです。上へもただ報告するだけでは信じてくれはしないでしょうし、今回は物証があるだけ良かったです。でなければ我々が非難されるだけですからね」

「だな。当事者である俺たちですら、聞いただけでは信じられんかっただろうよ」

「やはり不思議なのが、この洞窟の存在です。村の狩猟範囲だったのにもかかわらず、見つからずにいた。それも内部を見た限り、数日どころか数年、数十年単位かもしれません。いくら入り口を細工していたとしても、隠し通すには無理があります。誰かの手引きがない限りは」

「村の中に手引きした者がいるか……無くはないな。だがそれだと、そいつらもずっと村に住んでいたことになるな。独り身では無理か、なら二人…夫婦あたりか」

「かもしれません、違うかもしれません。複数人だと私も思いますが、いずれ調べれば分かることではあります。今頃、手引きしていた人達は村を出ているでしょうから」

「今ならどさくさに紛れて、誰にも見つからずに逃げ出せるからな。追いかけるのは無理だな。村へ戻ったら村長に話して対応するとするか」

 あからさまに肩を落とし、ため息をつくフェンシオに。

「話は纏まったか。ならば村へ戻るが問題は無いか」

 ようやく話が一区切りついたところへネムロスが割り込み、村へ戻るよう促す。

 二人は周りを見回すも、誰もが帰還するための準備を終え、二人に注目していた。

「ようやく周りを見てくれたか。話し込むのは悪くないが、もう少々周囲を気にかけてくれると嬉しいがな」

「これはこれは、申し訳ない。つい話し込んでしまいましたね」

 ラウムは悪びれた様子もなく、微笑みながら村へ帰還するための準備を進めてゆく。

 フェンシオは特にすることもなく、腰に手を当て思案している。村へ戻ればやらなければならない事柄が出来たからだろう。

 もっとっも、フェンシオにおいては元々何も持ってきていないのだから、片付けるような物も持ち合わせていないのだろう。それどころか村へ戻るとやらなければならないことが増えている。どのように進めてゆくか、村長に相談するのだろうが今後のことを考えなければならないからだろう。

「さて、準備も出来ましたし、戻りましょうか」

 帰還の合図を待っている兵達へ、声をかけると巨猿を乗せた荷車を引き村へ向かって歩きはじめる。

「フェンシオ、悩むのは村へ戻りながらでも出来る。来なければ置いて行くぞ」

「あぁ、分かっている」

 ラウムはフェンシオが付いてきているのを確認すると、そのまま村へと戻る道を歩きはじめる。

 村へと戻る道程は驚くほど静かであった。荷車の車輪が地を転がる音だけが、やけに耳に響いた。


 村へとは問題なくつくことが出来た。村へと入ったところで。

「では我々は戻ります。明日はまたよろしくお願いします。巨猿の遺体はこちらで預からせていただきますがよろしいですね」

「それはかまわない。街へはいつ持って行くんだ?」

「受け入れの体制を整える必要はあるでしょうが、腐敗する前に移送したいと考えています。キメラの件について報告していますので、返答があり次第ですね。明日辺りには返答があるかと思いますので、早ければ明日、移送するかと思います」

「全てを持ってゆくことは無いのだろ、保存状態はあまりよくないのでな、早めに処分したい」

「それらを含め、おって連絡いたします」

「あぁ、よろしく頼む」

 兵たちを伴い、駐屯している点とへと戻ろうとしているその後ろ姿へネムロスが戸惑いながらも呼び止める

「……ラウムよ」

「何か問題でもありましたか」

 振り返ったのは半身だけではあるが、その視線はまっすぐにネムロスに向いていた。

 その顔には変わりなく微笑みがあり、ネムロスの次の言葉をゆっくりと待っていた。

 フォスレスから聞いた龍脈口のことをラウムに告げるべきか、聞くべきか迷う。今回の騒動の原因の一端になるのだろうから、きちんと話しておくべきだろう。ここで黙ってしまっていては、そして後になればなるほど話しにくくなってしまう。意を決し言葉を出すが。

「……いや、何でもない」

 ネムロスの口から出た言葉は、意思とは反対の言葉であった。

 何故だかは分からなかった。黙っていても良い事は無いのは分かっているはずなのに。

 いつの間にか剣を強く握っていたネムロスを、ラウムは見ながら。

「街の人々の声を聞くのも我々の務めの一つです。出来ないことは多々あれども、出来ることも同じだけあります。いつでも相談は受け付けていますよ。もちろん匿名でもです」

 最後にお疲れ様ですと告げ、去っていったが微笑みは絶えることは無かった。

「絶賛悩み中のところ悪いが、今夜の見張りを頼みたいのだが良いか」

 肩の力が緩み、油断していた事へフェンシオから頼み事に思わずため息が出ていた。

「分かった。まだ少し早い故に一度戻り腹ごしらえをしてから向かうとする。」

「今日は色々とあり疲れているところ悪いが、人が足りてなく頼むしかなくてな。ついでに仮眠もとってきてくれ」

「人がいないのは理解している。今は非常事態なのもな」

「兵隊さんたちにも手伝ってもらっているから、一度テントへ来てくれ。日が沈むころぐらいでいい」

 今の時期は秋口に差し掛かっている。山間にあるこの村においては、日が沈むのは思いのほか早い。

 今からだと仮眠をとれる時間はそうないだろう。もう少し早めに行ってほしいと思うのだが。

「仮眠をとっている時間はなさそうだが」

「ん? 何とかなるだろ」

 無茶を言う。いや、無茶を言うのは今に始まったわけではない。頭の中で何をしてゆくのか組み立ててゆく。

 どう考えても、今から日が沈むまでの時間は中途半端すぎる。ならば見張りの途中で仮眠をとらせてもらうしかない。

 探索のために今までが見廻りを免除されたいたのだから、一段落着いたからこそ見廻りへ回される。

 見回りをしている者たちの中には連日連夜、就いている人もいるだろう。その人たち休ませようとしているのは分かるが、なかなかに厳しいものがある。

 さりとて文句を言う訳にもいかず。

「……カリダ姉のところへ戻り、飯を取ってから向かうので、先に行っててくれ」

 半場諦めて、力なく頷くしかなかった。

「明日もまだまだ働いてもらわないと困るからな。ちゃんと飯を食って休んでおけよ」

 そう言って、颯爽と去ってゆくフェンシオの後ろ姿に向かって。

「周りの心配も良いが、自分のことも心配しろ。フェンシオが倒れられたら、色々と回らなくなるのでな」

 フェンシオは手を上げて応え村の中へと姿を消して行く。

 容量の良いフェンシオについては、心配するだけ無駄であろうなと思う。今までもこれからもきっと、うまく立ち回ってゆくのだろう。

 フェンシオの言う通り、まずは自分の心配をするべく、アロの家へと足を向けた。

 皆に報告しなければならないことや、ファキオに折れた剣のことを謝らなければならない。

 アロの家へとついたならば、まずは休憩だなと思いつつ。


「んー…、少し早いお帰りかな?」

 帰ってきてそうそう、随分な言われ方と思うが、文句を言う気力も今はない。

 落胆している姿を見るに、追い打ちをかけるようなことはなく、少しはにかみながらもすぐに謝ってきた。

「ごめん、ごめん。こういうのって結構時間かかったりするでしょ、今回もそんな感じかなって勝手に思ってただけで、他意はないから」

「確かにそうかもしれぬが、原因と思われる場所は広い場所であったのが、こちらが予想していたより広くは無くてな。それに何かもなくなっていたので、探すところもなかった。本格的に探索するのは明日以降という事だ」

「そっか、何もなかったのは残念だけど、皆は無事なんだよね。だったらそれが一番だよ。で、ご飯を食べに来たのかな」

「今夜の見回りを言われてな、日入りぐらいに兵の屯所へと顔出す予定なので、休憩もかねてだな」

「了解、ご飯の用意にはもう少しかかるから、出来たら呼ぶよ。それまであっちをお願いできるかな」

 そうカリダ姉が指さした先には夕食の用意をしている子供たちがいた。

 フェンシオと言いカリダ姉と言い、人使いが荒い。

 カリダ姉は人手が増えたことに喜んでいるのを見ると、最早ゆっくりと休憩などできる雰囲気ではなくなった。

 ため息をつきつつ、ご飯の用意をしている子供たちの輪の中に混ざっていった。


いつも遅くなり申し訳ないです。

そしてここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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