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#10 ご飯と休憩 (前編)

「お母さんの様子はどうだった?」

「あぁ、元気だったな。カリダ姉の予想通り叱責された」

 あの後はサナティオ母さんに謝罪と感謝を言って出てきた。他の言葉は出てこなかった。フォスレスの言葉に浮かれて周りが見えなくなって、まだ始まってもいない先の事ばかりに思いを馳せ、そして現実を見せられた。

 それでも落ち込むことすらできず、ここで弱音を吐いて見せたらカリダ姉に尻を蹴られるだろう。まぁ、実際に蹴られることは無いのだが…。

 どのような態度をとればよいのか、分からなかったので務めて普段通りにしてみたが、カリダ姉は気づかなかったのか、それとも気づかぬふりをしてくれたのか。

「良かった」

 一言、微笑みながら告げただけであった。


「そろそろ暗くなるね。真っ暗になる前にご飯を食べてきてよ。みんな、もう帰ってきてるから、ご飯も出してくれるよ。あとは夜の仕事まで少し時間があるんだよね。あっちに兵隊さんたちが天幕を作ってくれたからそこを使って休んでくれていいよ。夜は子供たちを寝かせるけど、それまでにはお仕事でいくんでしょ」

 カリダ姉の指した先に大きめの天幕が張られており、少し窮屈ではあるだろうが子供たちを寝かせるには十分な大きさであった。

「カリダ姉は子供たちと寝るのか、母さんの方は誰が」

「そうだね。アグリコたちに子供たちを任せたら泣いちゃう子が出てくるかもしれないからね、私が一緒に寝るよ。その代わりにアグリコたちはお母さんの方を頼むつもり。だからこっちは心配しないで、お仕事頑張ってね」

 何やら逆に気を使わせてしまい申し訳ないが、これでこちらの心配はなくキメラに意識を向けることが出来る。守るものがあるのは人を強くさせるが、後ろを気にしていては出せる力も出せなくなってしまう。信頼し、任せるに足る人たちがいるのは心強い。後はキメラという憂いを断つのみになった。

「安心した。俺はキメラに集中するとしよう。すまないがこちらの事は頼りにする」

「うん、任せて。ってキメラってなに?」

 初めて聞く言葉に、笑顔を崩さず首をかしげて聞いてくる。心なしかその笑顔に困惑が混じっているようだった。

「あぁ、そうだな、俺も今日聞いたのだが、襲ってきたバケモノたちのことだな。総称としてキメラと、義援隊の副隊長が言っていた」

「へ、へぇ…、そうなんだ。よくわからないけど、キメラか…。すごいね?」

 説明を端折りすぎたのか、説明にもなっていない説明を聞いて、さらに混乱するカリダ姉ではあったが、一から説明しても、俺自身も聞いたばかりでよく理解できていないので詳しく説明することもできない。

「すまぬ、あまり説明になっていないな。フェンシオだったらもう少し詳しく説明できると思うのだが、今は義援隊と話中だからな」

「良いよ良いよ。詳しく聞いてもより分からなくなりそうだし。とりあえず、村を襲ったバケモノたちがキメラだったという事だよね」

「まぁ、そうだな。それで間違いない…」

「えっと…じゃぁ、私はお母さんにご飯もっていかないとだめだし、そろそろ行くよ」

 長話をしていてはカリダ姉に迷惑をかけ、仕事が差し支えてしまう。お腹を空かせたサナティオ母さんに怒られるのはネムロスではなく、遅れたカリダ姉なのだ。いくらネムロスのせいだとしても付き合わせてしまったカリダ姉も悪いという事になる。まぁ、カリダ姉は人のせいにすることもないだろうし、サナティオ母さんはカリダ姉に甘いところがある。怒られることは無いだろう。

 カリダ姉を見送った後は空腹感を覚えた。カリダ姉がサナティオ母さんへご飯を持ってゆくと聞いたからだろう。

 昼も少ししか食べておらず、睡眠に至っては明け方に仮眠をとったぐらいだ。腹いっぱい食べてしまっては、眠気に負け寝過ごしてしまうかもしれぬが、食べずにいると夜の仕事をこなすことが出来なくなる。

 程々に食べるのが良いのだろう、その後はフェンシオが来るまで寝て疲れを少しでも取っておいた方が良い。

 もうすぐ夜が来る。バケモノ達は夜に来た。子供たちは今は大丈夫と思っても、夜になり寝ようと目を瞑ると昨晩の事を思い出し、眠れなくなるどころか騒ぎ立てる子が出るかもしれない。心的障害(トラウマ)は突如と襲い掛かってくる。今晩は眠れないかもしれない。

 特に精神が未発達な子供たちは強い心理的障害は後々まで残りやすい。早いうちに診なければ本人だけでなく、周りに伝播し被害が大きくなる可能性がある。最悪そうなる前に病気の子として捨てられる可能性もある。

 子供たちが心配なのは確かだが、カリダ姉に任した。だからここで口を出してしまえば、カリダ姉を信頼していないことになってしまう。

 だからと言ってこのままでは、カリダ姉ばかりに負担を負わせてばかりになる。平時では問題なくとも、今は非常時、思いもせぬことが負担となる。その重みで潰れぬうちに誰かに助けてもらうか、もしくは早々にこの一件を片付けて、心配事を取り除くか。

 ネムロスに出来ることは、早くこの騒ぎを終わらせる様。務めるだけである。

 カリダ姉が向かった先を見つめていたが、夜の役目に向けて腹ごしらえをするため、炊き出しを行っている場所へと足を向けた。


「やぁ、やっと帰ってきたな。晩御飯は食べるんだろ。少し待ってろな。すぐに用意するから」

 炊き出し場について早々、アグリコから声を掛けられる。その手にはお玉をもって炊き出し用の寸胴を静かにかき混ぜていた。

「夜の役目まで時間が出来たのでな。頂くとするよ」

 周りを見渡せば、廃材を利用して作ったと思われる椅子と長机があり、子供たちは騒ぎながらも炊き出しを食べている。

 いつ、だれが作ったのか、少し見ぬうちに色々と作られている様だ。

「あぁ、食べる場所がないね。でもまぁ、芋のごった煮だから立ってても食べれるよ。ほら少し多めに入れといたよ。昼は少ししか食べてなかったみたいだからな。いくら夜の警備だからと言ってここでしっかり食べておかないと、途中で倒れられても困る」

 食べる場所をを探していたわけではないのだが、差し出されたた少し大きめの椀には具材が多めに入れられていた。夜に備えてここでしっかりと食べておくのも仕事の内と気持ちを切り替え、一言礼を述べ椀を受け取る。

 具材は昼と同じく、芋のほかにキノコや山菜と言った野菜ばかりであったが、種類は変わっていた。

 山は秋になると冬に備えてに種を冬越しせんと実をつける野草が多く、人々にとってもその実は冬越しをするために大切な食べ物の一つだ。決してそれだけで越すことは出来ないが、厳しい冬を越すのに一役はかっている。

 ここで冬越しのための備蓄を使っても良いのかと思うも、食事だけでも美味しくそしてお腹を満たすことにより、子供たちはおろか自分たちも元気を出そうとしているのだろう。腹が膨れれば辛いことも耐えることが出来るうえ、美味い飯は心を満たす。

「いただきます」

 ここは修道院ではないので、神に祈る言葉はない。食べ物を恵んでくれた山に感謝の意を表し、ごった煮に口をつける。

 香辛料など今の状況では期待はしていないが、野菜の旨味だけしっかりとまとめている。

「昼も思ったが、美味い。さすがはカリダ姉と言ったところか」

「皮むきとかは子供たちが手伝っていたよ。今のところ問題はないかな。あの椅子や机だって姉さんと子供たちが作ってたからな。見本を作った本人はどこかへ行ったけどね」

「あやつか…、あやつはこんな時にも変わらぬか。とにかく無事で良かった」

「畑の方も収穫は少なくなるけど、なんとかなりそうかな。食い荒らされたのでなく、踏み荒らされただけだったからね。作物は結構頑丈で踏まれただけではそうそう枯れたりしないからさ」

「では今のところ、住まうところがないと言うだけか」

「まぁ、それが今のところ一番の問題なんだけどね。子供たちは街へ移ってもらって、しばらくはそこで働きながら世話になるよう話をつけてもらうことになってる。ここはこんな状態だしね。少しでも安心して過ごせるところが良いしね。母ちゃんと姉ちゃんもついて行くみたいだから安心かな」

「そうか、良い事ではあるが少し寂しくなるな。」

「冬が過ぎる辺りまでは街で過ごす見込みみたいだからね。帰ってくるまでには家を建て直しておかないとね」

「本格的に冬が訪れるまでにどれだけ建てることが出来るか…簡易的に大きな家を建てるのが良いのか、俺たちが決めれることではないが、難しいところだな」

「優先順位的に高いのは住む家だろうけど、広い部屋を作ればなんとかなるのでは。あとは収穫した野菜や小麦を備蓄する場所かな」

 アグリコと二人して復興に向けた空想を膨らませて行くが、予想がそのまま当たることは少ない。ただ住まう場所がない今は、空想でも話していると気がまぎれ自然と笑いがもれる。それは沈みかけている心に活力を与え前に進む力となる。

 今後は街へ避難するものが多くいるだろう。寂しくはなるが、一時の事。冬を越し、草木芽吹く春先には人は戻り、また同じように過ごせるであろう。決してこのまま人が戻らず廃村へ追い込まれることがないように、復興に尽力を尽くすだけである。

 そのために村長をはじめ、多くの人たちが動いているのだ。自分たちに出来ることをして、いつもの日常を取り戻さんと頑張っている。自分に出来ることは小さい事と言えど、多くの人が集まればその小さなことが積み重なり大きな一つを作れる。その一石に自分も慣れればよいのだが。無理かもしれぬなと、思うところもあり一人置いて行かれるような寂しさがあった。

 昼はやることが多くゆっくりと雑談も出来なかったが、一段落ついた今は皆の近状を聞くことが出来た。


「さて、そろそろ休ませてもらうと思う」

「夜のお仕事、ご苦労様です。」

 そう言うと、右手の上げ肘を曲げ手のひらを頭の前部、目の少し上あたりに当てがいながら、言ってくる。

 騎士の挙手敬礼を真似ているのだろう。甲冑を着た騎士が目上に挨拶する際に目の部分を持ち上げて、顔を見せる動作ではあるが、何かしら意味があり行ているのか、わずかに考えたがこれはただ雰囲気でやっているだけであろうと、結論付けた。

「カリダ姉によろしく言っててくれ。すまんが天幕を借りる」

 天幕に向かいながら、ふと振り返る。伝言を残しておかなければ、困るやつが一人いた。

「アグリコ、すまぬがフェンシオが来たら、俺が天幕で休んでいることを伝えておいてくれ」

「フェンシオが来るのか」

「あぁ、議談が終わったら来るそうだ。カリダ姉やサナティオ母さんをを尋ねるついでに、夜の警備の呼び出しに来るそうだ」

「了解した。フェンシオが来たら伝えておくよ。それまでゆっくり休んでおきなよ」

 今度こそ、後ろ手を振りながら天幕に入り横になる。土の冷たさが伝わってこない様、木を組み工夫を凝らしているように思えるが微妙な所ではある。それより土の上に直接寝るのに比べたらかなり良いと言えよう。寝ている際は体が冷えるし、土は熱を吸収するためさらに冷える。冷えた体は十分に疲れはとれない。

 これならば布をかぶれば、体を冷やさずに休めそうだ。横になるとすぐに意識が遠のいて行く。

 昨日より動いてばかりでゆっくり休む暇がなく、体は疲れていたのだろう。抗うことなく意識を手放した。


 目が覚めたはあたりは暗闇に覆われており、天幕の入り口から漏れる明かりで内側を照らしていた。

 体の疲れは取れたとは言い難いが、天幕に近づいてくる足音に目が覚めた。

 別段、今まで天幕に近づいてくる足音や気配はあったが、天幕の様子を見に来ただけであろうと気にすることはなく、疲れを癒すために起きることは無かったが、その足音は誰より静かであり独特であったが聞きなれた足音であり、そしてよく知る気配であった。

 天幕の入り口を覆う布を勢いよく跳ね上げ、中を覗き込んでくるその口元には笑みを浮かべており、そしてどこか皮肉気に。

「よぉ! 起きてるな。なら、覗きに行こうか」

 顔を見せるなり、退っ引きならない事を言いのけてくる。

 上体を起こしフェンシオより借り受けた剣に凭れ掛かりながら、どのように反応して良いのか頭に手をあてて、思案している。

「いや、まずは先に飯か。一緒に食うって約束したからな。」

「すまんが飯は先に頂いた。が、かなり早いが夜食として付き合おう。」

「やはり飯は誰かと一緒に食った方が美味いからな。じゃ、行こうか」

 先ほどの言葉はひとまずは置いて後で聞くとしよう。まずは約束通り飯に付き合うため天幕より出てゆく。

 妙に明るいと思ったが、今日は満月とは行かずとも宵月であった。わずかに欠けたその姿も風情があり悪くないと思うのだが。

「ネムロス、早く来ないと全部食っちまうぞ!」

 フェンシオにとっては今は飯の方が優先らしい。

 小さく嘆息をつくも。フェンシオの後を追い炊き出ししているアグリコの元へ向かう。

 そこにはカリダ姉の姿もあった。


ようやく10話目です。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

ようやく二桁台にたどり着けました。が、あまりお話し的に進んでないような気がします。

もしよろしければブックマークや評価いただけると嬉しいです。

これからもよろしくです。

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