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暇潰しで書いた作品です。続けるとしても10話か20話ですがお付き合いいただけたら幸いです。
異世界で真祖になるとか意味不すぐる…。
同族、同年代、同郷など。探せばいずれかの共通点など直ぐに見つかり会話が弾み瞬く間に仲良くなれるだろう。
だが、オレには無理っぽい。コミュニケーション能力とかそういうの以前に……共通点なんてそんなの異世界の道端に捨ててきたよ!状態なオレはどうしたらいいんでしょうか神様。
「せめて転生させるなら知り合いが作りやすい種族に転生させてくださいよ…知り合いが作りやすい種族ってなんじゃ」
あ、どうも吸血鬼です。あと何か異世界に居ます。しかも真祖の生き残りがどうとか仲間らしき吸血鬼さん達から毎晩手厚い歓迎を受けてます。
「死ねぇ!」
「我らの王はザナード様だけで十分なのだ!悪しき紛い物は消え失せろ!」
……えぇ本当に手厚い歓迎を受けてます(白目)
だいたいザナードさんって誰ぞ?もうここ半年はその名前を聞きまくってるんだが…一度も会ったことない人だけどお歳暮送った方がいいのかな?
「何故貴様はダメージを受けてない!?」
「……さぁ?」
吸血鬼さん達から攻撃を受けてたけど傷ひとつ出来ないこのチートボデェ。何か半年以上欠かさず攻撃食らってると焦りもなくなるもんですなぁ…最初は泣きわめきながら森のなか走り回ってたけど。
そうこうしているとお天道様が徐々に顔を出す時間帯になってきた。森の中に朝が侵食してくる。
「ちっ!引くぞ日が出てきた!」
「クソ!この人数でも駄目だったか!」
まぁ一般的に吸血鬼は太陽が天敵だ。何処の世界も吸血鬼は日陰者の存在らしい。オレは真祖という個体らしく殺すことは不可能な存在だとか…四日前にアホそうな吸血鬼の嬢ちゃんがペラペラ喋ってた。
「あ、日に当たらないように気を付けてねぇ!」
今日は張り切ってたのかいつもの数倍、500人ぐらいの集団でオレをボコすつもりだったらしく引き際はゴタゴタして締まらなかった。あ、端の吸血鬼さんが陽光当たって砂になった…砂!?
「おい!?大丈夫ですか!?」
運良く、吸血鬼特有のコウモリの羽が片方砂になっただけで消えたりはしなかったが飛行中に制御不能になって樹の幹に頭からぶつすんごい音したけど大丈夫?記憶とか失ってない?
樹の幹に頭を打ち付けて目を回すマント吸血鬼を背中に担ぐとオレの根城へと連れ帰ることにした。だってこんな死に方されると寝覚め悪いからねぇ…良くみると綺麗な顔してるなこの吸血鬼。
「や、吸血鬼ってだいたい綺麗な顔してるよな」
たしか人間から好かれるように端正な作りをしてるとか何とか昔テレビか何かでやってたような…なるほどゴキブリホイホイと同じ原理か。それで惹き付けて干からびるまで血を吸われると、吸血鬼怖い。
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オレは究極的なドジを踏んだどじっ子吸血鬼さんを担いで光が当たるよりも早く森の中を移動する。この力に慣れるまで苦労したよ、走り出せば木を凪ぎ払うし物を掴めば木っ端微塵。介護が必要なレベルだったね。介護をしてもらえる伝がなかったから自力で克服したけども。
さぁ我が家に到着した。吸血鬼さん達は完全な夜型なので朝から夕方までは襲われる心配はない。その夜型集団に襲われてるオレも否応なしに夜型になってしまうのが最近の悩みではあるが。
その安全な時間帯に睡魔を我慢して作り上げたマイホーム。森の中に建っているログハウスだ。我ながらいい塩梅の雰囲気を醸し出してると言っても過言ではない。最初は業者さんに頼もうかと思ったが如何せんオレの容姿が17、8才ぐらいなもんだから依頼を受けてもらえないだろうと推測。未成年は何にも出来ないからな。
どじっ子吸血鬼さんを布団に寝かせるとログハウスの窓を全て布で覆う。寝てるうちに光が差して砂になられたらオレが気張って連れてきた意味がなくなる。
布で覆い隠して家の中が程よい暗さになるオレの睡魔を刺激しやがって…寝ちゃうぞ?看病とかその他諸々を放り投げて寝ちまうぞ?
「ふぁぁあ…まぁ飯の準備でもして気を紛らわそう。そうでもしないと寝てしまう」
それからじっくりコトコトカレーを作ってたんだが、こいつの分も用意したけど人用の飯食えるんですかねぇ?
オレはたぶん大丈夫。半年ずっとカレーを作って食ってたオレ自身が証明できる。カレーそんな好きじゃないけど。というか色々な木の実とかゴリゴリして混ぜたらカレー風味になったからカレーっぽいなにかなんだけど。
…日に当たっても大丈夫で吸血衝動もなし。
「これは実は人間でしたフラグ!?」
でもなーめっちゃ八重歯長いし、長すぎてたまにベロに刺さるぐらいだしやっぱ吸血鬼かなー
「あーあ。異世界の学園生活とかやってみたかったんだけどな」
美少女とフラグたてたかったなー。でも異世界ものって転移した瞬間から美少女とかと出会えるんだろ?オレ出会えてないんですよねー。むしろ人間とかチラッとも会えてないんですよねー。
「ここは実は異世界じゃないとか?アマゾンとかそこら辺に飛ばされたのかオレんごっ!ギャー目がぁぁ!」
鍋をかき混ぜながら考え事してたら急に衝撃が。カレーの鍋にダンクさせられたでござる。てか痛い、カレーめっちゃ痛い。
「こ、ここはどこだ!?」
「それはオレの台詞!ここどこ!?カレーの中!?」
顔上げたけど目にカレーがこべりついてる。週に3日のどろどろカレーの日が仇になったか。
「ッ!?翼が…貴様!」
それオレじゃない。自分でやったんですよお嬢さん。だから部屋のなかで暴れないで、
家だから。オレの憩いの空間だから。
「…あれ?そういえば動けるな私。ふ、ふん拘束もせずに私もなめられたものだな!」
「あーまだ違和感あるよ…これもしかして眼球一回溶けてジャガイモかニンジンまきこんで再生したの?嘘だろおい」
片や布団の上で仁王立ちしてドヤ顔の吸血鬼、片や眼球を取り出して水洗いしてる吸血鬼(仮)のオレ。控えめに言ってカオスであった。
「動けるならこのまま逃げるのみ!」
「眼球溶けるまで火力上げとくんじゃなかったわ…あ、おい!」
オレが水洗いしてる隙に、布団の近くにある壁を破壊した女吸血鬼さん。
「……」
目の前でジュッ!って消えてしまわれたんですが。えっ?ちょっ、えっ?
「…いやー今日もいい天気ですなぁ。はぁ…木ぃ切って壁直さねぇと」
心の片隅でこの娘助けてフラグ建てようと考えてたのに、消えちゃいましたよ。飯ダメにされて目にカレー入れられて壁壊されたオレに救いはないのでしょうか?