6話
右腕(炭)が地面に落ちた後、親父やこっちに駆け寄ってくるオッサンたちの顔が真っ青になり、
「ぴっ」、お袋が謎の悲鳴を上げて気絶した。
誰かが息をのむ声が聞こえた後、訓練場はまるで火が付いたように大騒ぎになる。
まぁ、実際に火が付いちゃったんだけどな。
参ったな、大事になりすぎた。
家で雇ってる常駐の医師に応急処置を施されそのまま帝都最大の医療院へ連れ込まれて診断結果は・・・
「リハビリを含めて、全治8か月程度でしょうかね。
パトリシア様はまだ幼いですから、一気に再生させてしまうと障害が残ってしまう可能性が御座います。
毎日短時間の治療を根気よく行っていきましょう。」
診断結果に俺たち親子は三者三様の反応を浮かべる。
完治することに安堵する親父
愛娘が半年以上も不自由な生活を強いられることに涙するお袋
・・・満面の笑みを浮かべ、喜びをかみしめる俺
え? 何で喜んでいるかって?
診察を受けながら、医者と親父が今度の治療方針に話し合っているのを聞いたんだが、入院を勧める医者に対して親父は何とか家で治療をさせる事が出来ないかと尋ねると、値は張るが住み込みで医師を派遣する事が出来るとの返答を返してきた。
親父が二つ返事で派遣を頼み、診断を続けていると綺麗と言うより可愛いが似合うおねーさんが自分が派遣される医者だと伝えてきて・・・
で、今に至る。
おねーさんが親父に向かって挨拶を始める。
「改めてご挨拶させていただきます、ザイン様。
私は当医療院で魔法医療を専門としております医師、キャロリン・ガブリロワと申します。」
キャロリンちゃん、かわいいなぁ。
ほんわかと言うか、ふわふわと言うか、何と言うか、かわいいなぁ。
キャロリンちゃんに見惚れていると親父が返答を返す。
「突然の申し出にも関わらず、この様な依頼を受けて頂き大変感謝いたします。
必要なものは全て当家で揃えさせて頂きますのでご安心ください。
しかし、ガブリロワ殿にも準備と言うものが御座いましょうから、整うまでの間は、娘はこちらで入院させる予定です。」
親父の返答を聞いたキャロリンちゃんは、親父の方へ身を乗り出し、
「お心遣い感謝いたしますが、ザイン様!
私は医の道を志して以降、いかなる不足な事態にも対応出来る様、常に準備を怠っておりません。
ですので、ザイン様のお許しが頂けるのならば、直ぐにでもお屋敷に向かいます。」
ムフーっと鼻息高らかに、親父に詰め寄る。
・・・ん?
キャロリンちゃんの圧に押されつつ、
「そ、そうか、ガブリロワ殿が問題無いと仰るのならこちらとしてもありがたい限りだが。
では、手続きが終わり次第、屋敷に向かうが宜しいか?」
親父がキャロリンちゃんに確認を取る。
「問題ございません。」と返答をしたキャロリンちゃんが俺にも挨拶をしてくる。
「パトリシア様。
少し時間が掛かりますが、必ず治りますのでご安心ください。」
ほんわかとした微笑みを浮かべたキャロリンちゃんに、これから一緒に暮らすことになることを神に感謝しつつ、俺も挨拶を返す。
「うん、宜しく頼むよ。
それと、しばらく一緒に暮らすんだしパトリシア様じゃ堅苦しいから、パティって呼んで!」
俺の返答にキャロリンちゃんのほんわかとした微笑みがさらにパァッと花開いたようになり、
「で、では・・・パティちゃんと呼ばせて頂きますね。
それでしたら、わ・・・私の事を、ぜっ是非っキャロおねーちゃんって、呼んで頂けないでしょうかっ」
と若干声を詰まらせながら俺に迫ってくる。
・・・んん?
迫ってきたキャロリンちゃんに仰け反りながら、注文通りに呼んでみる。
「よ、宜しく。
キャロ・・・おねーちゃん?」
その瞬間ガバッとキャロリンちゃんが俺を抱きしめ、頬ずりしながら、
「おねーちゃんに任せてね。
必ずパティちゃんを元気にしてあげるからっ」
二度、三度と大きく頬を擦り付けながら決意を語ってくる。
・・・んんん?
準備をしてきますのでっと言い残し診察室から飛び出ていくキャロリンちゃんを、俺と親父は呆然としながら、お袋は希望に満ちた目で見送った。
俺の診察をした医者が派遣の為の書類を作成しつつキャロリンちゃんの紹介をしてくる。
「優秀な医者を輩出する名門ガブリロワ家の者でして、彼女の両親、兄弟も高名な医者なのですよ。
その中でも彼女は特に優秀で去年、19歳という若さで魔法医師の免許を取得し、
当院の期待の星でしてね、成人相手ですが、見習いの時期を含め既に7件も欠損の治療を行っているのですよ。」
親父が書類に必要事項を記載しながら、常に準備を怠らないと言ってもやはり女性なので時間が掛かるだろうと、先に俺とお袋だけは先に帰るように指示を出したところで、診察室の扉が豪快に開け放たれ、トランクを抱え、肩で息をしたキャロリンちゃんが入ってきた。
「はぁ・・・はぁ・・・お待たせしました!
準備完了です!」
全員の視線がキャロリンちゃんに集まっているところで医者がボソッと、
「少々、子供の治療に関しては熱心過ぎるのが玉に瑕ですがね・・・」
・・・この子、大丈夫だよね?
頭の中でイメージする事は出来ても、それを文章にする事はとても難しいですね。