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帝国博物館の見習い学芸員  作者: ヤマガム
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5話

今回、ちょっと痛々しい表現があります。

ご注意を。


「よい子のべんきょう」 初等部入学前から低学年向けの教材である。

シリーズは「さんすう」「こくご」などの基礎知識から、誰が買うのか首をかしげるような「ていおうがく」に至るまで多岐に渡り、

帝国国内にて貴族、平民問わず子供向け教材のベストセラーとなっている。


「よい子のべんきょう--はじめてのまほうへん--」

表紙を開くと以下の注意文が記載されている。

・保護者の方へ

魔法を覚えたてのお子様は魔法を覚えた喜びで、魔力が枯渇するまで魔法を使用してしまう場合が御座います。

また、魔力が非常に強いお子様は、お子様の体が耐えられない強さの魔法を使用してしまい大怪我をしてしまう場合が御座います。

お子様が魔法を使用する場合は必ず保護者の方がそばに待機し、安全に配慮し使用して下さい。


「俺」にとっては何にも関係のない話なので、すぐに記憶から消えて行った文面である。

今の俺には非常に重要な注意文だったのにも関わらず・・・




- - - - - - - - - - - - -


生まれ変わってから初めて魔法を使用する事に、柄にもなく少し緊張してしまう。

今の俺の体がどこまで出来るのかを知る絶好の機会。

「パティ、本に載っていた魔法の使い方を予習してきたかい?」


親父の質問に頷いて答えると、右手を前に向け、人差し指を突き出す形で拳を握る。

その動作を見たお袋はオロオロと落ち着きをなくし、

「パ、パティちゃん、苦しくなったらすぐに辞めるのよ。」

と引きつった声で俺に語り掛け、親父になだめられる。


本に載っていた魔法、一番最初に載っていた魔法は1秒にも満たない時間、小石程度の小さい火の玉を出す魔法だが、

幾ら威力が弱くても子供向けの最初が火を出す魔法とかで本当にいいのか? 大丈夫かあの本・・・

やっぱりいつの時代も火が出るとかインパクトの強い方が子供には受けが良いのだろうかと考えつつ、指先に魔力を込める。


---小石大の火の玉を一瞬だけ放つ イメージを頭に浮かべる。


それ以外の調整は何もない。

オーバーヒートの心配も全くない魔法。


ぽふっ。


何ともまぁ締まりのない音と共に俺の人差し指の先から、ちっこい火の玉が出た。

「俺」が魔法を使う感覚で、今の体でも魔法が使える。

ふむ、まずは一安心。


ぽふっ、ぽふっ、ぽふっ、ぽふっ・・・。


連続で使用しても眩暈もしない。


ぽんっ。


少し強めに魔力を込めても問題ない。


クルン


人差し指の先に火の玉を出し続けながら、体を時計回りに一周。

おぉ、いけるいける。

体の中の魔力も全く減っている感じがしない。

「俺」が5歳位だった頃は数秒魔法を使うだけで魔力が枯渇し立っていられなくなったものだが、

この体は結構容量がでかいのか?


俺は右手を開いたり閉じたりし、異常が無いかを確認しつつ親父たちの方に顔を向けると、

親父は目を見開き、お袋は口に手を当て、衛兵のオッサンたちも目を見開いたり口が開けっ放しになったりしたまま、固まってた。


は? え? 何これ?

いや、あんたらの方が遥かに凄い魔法使えるでしょ?

えっと、マジで意味が解らないんだけど・・・


予想外過ぎる反応に俺も固まり、この場に動いている者が誰も居ない時間がちょっぴり経過した後、

一番最初に親父が復活し、今まで聞いた事のない震える声で俺に質問する。

「パティ、詠唱は・・・詠唱はどうしたんだい?」


・・・?

・・・、・・・詠唱?

・・・、・・・、・・・あっ


完全に忘れてた。

そうだ、今の時代はどんな魔法でも詠唱が必要だったんだ。

止まってた時間が動き出したかのように訓練場の中が騒がしくなり、そこら中から「無詠唱」の言葉が飛び交う。

親父と一部の衛兵が場を鎮めるために大声を出している。


まぁ、やっちまったもんは仕方ない。

魔法が無事に使えると知った今、俺としてはこの体の使っても問題ない力のボーダーライン、

それとあんな手品みたいな魔法じゃなく、「俺」が使っていた魔法も使えるのかの確認が先だ。


ざわつく周りを無視して、こぶしを握ったまま右腕を前に出し、今度は右腕全体に魔力を込め、

今まで頭の中でシュミレートしてもオーバーヒートしなかったレベルの魔法をイメージする為に目を瞑る。


---火の魔法は使えた

---今、一番イメージしやすいのは「火」

---ならば発動する魔法は・・・「炎」

---「炎」の渦を・・・

---右腕に溜めた魔力を、掌から一気に噴き出すように・・・


軽く眩暈を覚えつつゆっくり目を開き、右腕に「熱」が篭り魔法が発動出来ることを確信し、掌を広げ・・・


ドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!


俺の「右腕」から炎の渦が巻き起こり立っている訓練場の一角から、数十メートル先の壁まで一気に吹き上がり大爆発が発生する。


あっれーーーーーーーーーーーーー?


俺、イメージしたの掌から炎の渦巻きが数メートル先まで「ゴッ」だよ?

何だよ「ドーン」って・・・

てか、射線上に誰も居なくてよかったー

5歳で人殺しとかシャレになんないもんなー


この体もしかして、「俺」の体より性能がいいのか?

「俺」の感覚で魔法を使うのはやばい気がする。


確かに俺は自称神様とか抜かしてるオッサンに死ぬ前の力を使える体に生まれ変わりたいって言ったが、

まさか、「俺」以上の力を持った体に生まれ変わった? まだ検証の余地ありだな。

再び発生した皆固まっちゃった時間が前回より長めに経過した後、引きつった声でお袋が声を上げる。

「パ・・・ティ・・・ちゃ、ん・・・手、手が・・・」


魔法を発動し突き出したままの右腕を見ると、指先から二の腕辺りまでコゲてた。

二の腕辺りのみに走る強烈な痛みと、全く動かない腕、指先。

炎や雷系の上級魔法を習得する者なら誰でも通る失敗の道、「炭化」だ。

「俺」だった頃は嫌って程味わってるから何も心配はない。


初めての魔法で耐性も何も無い体があれだけの奴を発動したんだ、当然と言えば当然の結果だな。

威力的にも、体の耐久度的にも「俺」の感覚で魔法を使ったのは失敗だったか。


ここまで炭になっていると原状回復系の魔法よりも、スパッと切り落として欠損部位回復系の方がいいかなんて考えてると、

腰が抜けて倒れかけたお袋を介抱した親父が大声で衛兵に指示を出し、衛兵のオッサンたちが凄い形相で俺に駆け寄ってくる。


問題ないから慌てるなと手で制しようと思って体を動かした瞬間に、肘の上あたりからポロッと・・・

欠損部位回復系で決まりだな。


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