2話
「誕生日」、普通の子供なら家族や付き合いのある学友を招き細やかに行われるものだ。
しかし、貴族の子女の誕生日ともなるとそうともいかない。
子供のお祝いよりも別の思惑もある。
そう、貴族同士の繋がりの場になるのである。
今まで交流がなかった家同士でも「○○家のパーティーに呼ばれた者同士・・・」等の様に、
些細な繋がりではあるが、有ると無いとでは天と地ほどの差がある。
「統一歴 1782年 10月 8日」
世界最大の帝国であるベルバードの、『英雄』の子孫でもある公爵令嬢の誕生日。
それも初めて公式に紹介される6歳の誕生日。
親友の娘が晴れのデビューの日という事でベルバード皇帝がノリノリで出席予定というおまけすら付く。
些細な繋がりすら求めている者たちには夢のような日であり、
「女」として人前に立ちたくない一人の少女にとっては悪夢の日であった。
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---荷馬車に乗せられ市場へ向かっていく子牛の気分
今の俺の気分を表すならこれが一番しっくりくるだろう。
まぁ、実際はマリーに抱えられ会場横の控室に連れて行かれているだけだが。
何度か脱出を試みるも俺を抱えている腕を「ぎゅッ」とされ、全て失敗に終わる。
今の俺に抗う術はないと諦め、大人しく背中に当たるマリーのバインバインの触感を堪能する事にする。
・・・バインバインさいこー
俺が現実逃避してバインバインを堪能しているとマリーにお袋からの言伝を聞かされた。
「本日は来賓客は勿論、パーティーの設営関係者など普段家にいない人たちが多くいるので、
凛とした公爵夫人として振舞うので、普段の態度と違うのは許して欲しいだそうです。」
そうか、だからって実の娘を呼びに行かせるときに簀巻きにしても良いから連れて来いって指示を出すのは何か違うと思うぞ、お袋よ・・・
既に凛とした公爵夫人に限界が来ているかと疑い始めてたら控室に到着。
「やっと来たのね、パトリシア
さっ、あなた達、時間が無いから手短にお願いね」
部屋の中には、マリーに抱えられてプラプラしてる俺を見て溜息を吐いているお袋が居ました。
おー、普段俺を呼ぶときは「パティちゃん」なのに今日は公爵夫人っぽく凛としてるぞー
姿見の前でマリーに降ろされ、鏡をのぞき込む。
ウェーブが軽くかかった腰まで伸びる艶のある銀髪、整った顔立ち、やや釣り目がちだがぱっちりとした金色の瞳・・・
我ながら10年後が楽しみな容姿だと自画自賛してるとメイドたちが一斉に俺を取り囲む。
囲まれたメイドたちに翻弄されながら、「ぬわー」と悶えているうちに、
ドレスを着替えさせられ、髪を整えられ、メイクをされ・・・10分そこいらで変身完了。
手際よすぎるだろお前ら。
姿見を改めて確認すると、フリルをふんだんにあしらった年相応なピンクのドレス、
銀髪に合う淡い青いリボンでまとめ上げられたツインテール。
ヒラヒラのドレスにツインテール・・・俺・・・何してんだろう・・・
ドレスは着るものじゃない脱がすものだ、と思いながらせめてツインテールはやめようとリボンに手を伸ばし、
スパーーンッ
お袋に頭を扇子ではたかれた。
リボンに手を伸ばしたまま固まってる俺に、お袋はジト目で見降ろし、
「せっかく整えたのに何をしようとしているのっ
もう式の始まる時間だというのに」
え・・・?
何でそんなフワフワの飾りの付いた柔らかそうな扇子でそこまで爽快な音が出せるの?
しかもあんな音が出てるのに全く痛くないし。
お袋の思いもよらぬ特技に硬直してるとメイドが俺の後ろに立ち、髪とほつれたリボンとさっと直していく。
扇子テクニックに驚愕して固まっている俺を、叩かれた事にショックを受けてしまったと勘違いしたっぽいお袋は慌てた様子で俺を抱きしめ、
「いっいくら急いでいたとは言え、今のは母が間違ってました。」
凛とした母親の言葉を放ってるが、お袋よそんな涙目になってプルプルしながら言っても威厳も何もないぞ。
「大丈夫ですよ、おふ・・・お母様。
ちょっといきなりでしたのでビックリしてしまっただけです。」
人目もある以上俺も公爵令嬢っぽく返事をすると「ほんと? ほんとにホント?」と小声で訪ねてくるお袋に、俺は「大丈夫」と小声で答えていると控室のドアがノックされ、外から声を掛けられる。
「母様、アルフです。
そろそろ開始の時間ですが、パティの準備は整いましたでしょうか。」
一番上の兄ちゃんが俺の誕生日の開始を告げてきた。
家族構成は次のお話の冒頭で書きます