25話
「……と、言う訳でこの国は大精霊の力を最大限に活用できる街作りになっている訳です。 以上で解説を終わらせて頂きます。」
案の定……案の定、俺に解説の仕事が回って来る。
研究室に戻り出迎えてくれたローズに抱き着く。
「おわっパティお疲れ様、完璧だったよ! これならあたしの代役もオッケーだね」
「……頑張る」
思い通りに行かないフラストレーションが溜まっているところに解説の仕事を上乗せされた日、自暴自棄になってローズに抱き着く暴挙に出たのだが、嫌がる処か「甘えん坊だねー」と抱きしめ返され戸惑う。
それ以来、事あるごとにローズに抱き着いてバインバインを堪能させてもらってる。
俺はもっとこの躰の強みを学んだ方が良い気がしてきた。
てか、何で早く抱き着かなかったんだよ俺のバカ。
「さて、仕事も無事引き継げたし、あとはのんびり出発する日を待つだけだねぇ」
「そっか、3日後だっけ?」
「うん、あたしが居ない間はクリスに甘えてね」
「おうっ」
ローズ、ナイスアシストだこれでクリスへの橋頭保が出来た。
クリスを見ると本人もまんざらでもない顔をしてるがこれはありか?
いや、ここは焦らずに攻めよう。
今後の戦略を組み立てていた所、扉の開く音が聞こえ振り向くと主任が立ってた。
「何やってんだいあんたらは」
「何って、活力の補給」
「はぁ……バカな事やってないで、パティ出かけるから準備をしな」
「どっか連れてかれるの?」
行き先を教えて貰えないまま博物館を出て主任の後ろを付いていく。
最初は何かの発注の手伝いかと思ったがギルドがある方向とは全く逆だしどこへ行くかが想像がつかない。
「これから行くところはどこだか分かるかい?」
「全く分からん」
「あたしがあんたを連れて行くって言ったら、一つしかないだろう」
「!!!」
まじか、まさか一か月ちょっとで連れて行ってもらえるとは思ってなかったぞ。
てか、事前に言っておいてくれよ、何の準備もしてないって。
「ずいぶん急だなぁ、出来れば前日にでも言ってくれると有り難かったんだけど」
「そりゃあすまなかったね、急に調べもんが出来たもんでね」
「まぁ、連れて行ってくれるのは有難い」
帝国図書館に到着し、禁書棟への入館申請の受理を待つ間、休憩場所で一息つく。
申請書を見ると希望時間が2時間と書かれていたから実際に自由に行動できる時間はもっと少ないだろう。
ならば効率的に動かなくてはならないが、何を優先すべきか。
ベストなのは『俺』の体になる事だがまず無理だろう、となれば性別を変更する方法。
魔法、薬、呪い、その他俺の想像できない方法……
考えればきりがない、もちろん全てを調べるどころかどれか一つでも調べ切れる気もしない。
入館許可が出て、許可証を首にかけ禁書棟の扉の前に立つ。
そこそこデカイが二階建ての建物、どのくらいの蔵書数があるか分からないがそこまで多くないだろう。
最悪何も見つけられなくても何かの役に立つかもしれないから蔵書の目録だけでも頭の中に突っ込みたい。
扉が開き、希望を胸に中に入り……目の前の光景を見て絶望した。
建物の中央に大きな穴が開いており、螺旋階段が遥か地下へ続いている。
覗き込むと階段の最中、至る所に扉がある。
あの扉一つ一つが書庫への扉なのだろう、一体いくつの扉があるのか想像が出来ない。
考えが甘かった、この規模の国でたった二階建て何てある訳ない。
「なぁ、ここの蔵書一覧を調べる方法ってあるか?」
「当然、そこの水晶球に手を当てて調べたいものを頭に浮かべるんだ、そうすれば水晶球に書庫の番号が出て来る。 それで出て来た番号を選択するとその書庫まで移転魔法が発動するんだよ」
「便利だな」
「それくらいしないとここでの調べもんなんてできないからねぇ さ、ここで喋ってても時間が過ぎて行くんだ、さっさと行くよ」
水晶球に手を当て検索したいワード「性別変更」と頭に浮かべるとその途端凄い量の数字が水晶球に現れ驚く。
試しに表示された数字を触ってみると移転魔法が発動し書庫に転送される。
周りを見ると屋敷の応接間くらいの大きさの部屋の中に所狭しと本棚が並んでいる。
その中で本棚が一つ光っており、そこに近づくと本棚の光が消え、代わりに一冊の本が光始める。
これが俺の探している本という事なのだろうか。
本を手に取ると光が消え、本を開き中身を確認してみるとかなり非人道的な矯正手術の内容だった。
そうか、俺は「性別変更」で検索したから性別変更に関わる本が全てリストアップされてしまったのか。
急いで本を棚に戻し、扉の入り口にある移転の魔法陣に飛び乗ると水晶球前に戻る。
水晶球に手を当てて今度は「性別変更魔法」で調べると今度は検索された数が一気に減る。
とにかく一つずつ調べてみよう。
2時間が経過し入り口に移動した俺は溜息を吐く。
「浮かない顔だねぇ、探し物は見つからなかったかい?」
「……まぁな」
「時間だし今回は諦めるこったね」
「性別変更魔法」で時間いっぱいまで調べたが結局見つかったのは、性別を変えるように見せる幻覚魔法の使い方やそれを使った犯罪の内容しかなかった。
内容自体も何でそんなのが禁書になってるのかが頭を傾げるレベルの物ばかり。
唯一の救いはまだ全部調べ切れてないことくらいか、次回に期待しよう。
「ま、お前さんがしっかりローズの代わりを務められたらまた近いうちに連れて来るさ」
「ああ、そん時はまた頼むよ」
解説や翻訳をやりつつあっという間に3日が経ちローズとウィルが応援に出発する日になる。
暫く味わえなくなるローズのバインバインをしっかり堪能し顔を上げる。
「んじゃ、行って来るね」
「気を付けてな、あとステファニーに宜しく」
「うん、パティが会うの楽しみにしてるって伝えておくね」
馬車に乗る二人を見送った後、研究室に戻りローズの机を見る。
普段はごちゃごちゃした机がしっかり纏められているのを見ると、本当に居なくなったと実感する。
ここに来てまだ短い時間だが、一番よく話した奴が居なくなると言うのは寂しい。
「パティ……」
「ん?クリスか。 戻ってくるとは言え寂しい物は寂しいな」
「そうだな、ローズ程の物を持ってはいないが寂しいなら、私の胸を貸すぞ」
ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 『俺』の躰だったら絶対にない事だ!
喜び勇んでクリスに飛び付きバインバインを堪能する。
確かにローズ程じゃないけどこれはこれで最高だ
ローズが居なくなったのは寂しさはクリスに慰めてもらおう。
祝! 1万PV
まさかこんな沢山アクセスして頂けるとは。
感謝!




