24話
ローズに仕事を押し付けられる確信をした俺は些細な反撃として、実際に作った料理を大勢に味見させてやろうと思い味見役を招待したところ、おまけ(ひげ)がついて来た。
皇帝達を席に案内し、調理場に戻り梱包された食材を開封しながら教える手順を頭の中でシュミレートする。
「さ、始めるか。 麺は最後の方に茹でるからまずはソースから作っていくぞ」
「待って、こ……これってどういう事?」
「大人数向けの料理の作り方だからな、実際に一度に大量に作った方が覚えやすいぞ」
「そこじゃないの、何で皇帝陛下や騎士様がいらっしゃるの? あたし達の作った料理を陛下が食べるの?」
「皇帝は勝手に付いてきやがったが、騎士は頼んだら良いよって言われてな。 事前に味はあんまり保証しないって言ってるから問題ないって」
青ざめた顔で食って掛かってくるローズを宥めつつ説明しながら、クリスに助け舟を出してもらおうと顔を向けると床に座り込んでた。
「クリス、大丈夫か?」
「ああ、いや駄目だ。 腰が抜けた、皇帝陛下が目の前に……」
普段男っぽい口調で話すわりに、案外メンタルが弱い子なのかもしれない。
あの皇帝のせいで予定が狂ったな、この状態じゃ危なっかしくて刃物を持たせられないな。
「ちと、今の二人には刃物はやばそうだから、刃物が必要な下拵えは俺がやるから手順を見ててくれ。 その後の工程は一緒にやろう」
「「無理、全部見てるだけでお願いします……」」
「はい?」
顔面蒼白で震えあがってるローズと、腰が抜けてまともに立てないクリスが皇帝の食事を作れるはずが無いと駄々をこねるせいで、結局俺が作りそれを見て覚えるという形に落ち着くが納得がいかん。
あの皇帝め、散歩の時と言い迷惑な事ばかりしてくるな。
三人でやるはずの作業を全部俺がやる事になり、皇帝達の腹を満たす頃には完全にへばった。
くそぅ、自分がお膳立てしたとはいえまさかこんな事になるとは。
最近、自分が想定した通りに行かない事が多くて微妙にフラストレーションが溜まるな。
なぜか一部涙を流して礼を言って帰っていく騎士たちを見送り、片づけをローズとクリスに任せテーブルに伏していると対面に誰かが座る音が聞こえる。
「まだ帰ってなかったのかよ」
「ちと、話したい事があってな 少し調べさせて貰ったんだが、『英雄』の記憶があるのは本当か?」
「へ? 記憶? あ、ああ……でそれがどうした?」
「ここでは話しにくい事なんでな、今日は疲れているだろうから後日、どこかで時間を作らせてくれ」
「面倒事は勘弁してほしいんだが」
「……すまんが頼む」
普段は常ににやけている皇帝が真顔になり、頭を下げて来た事に驚き目を剥いて固まる。
おいおい、お前の頭はこんな小娘に下げて良いもんじゃ無いだろ、なにしてんだよ。
それほどの問題をこの国は抱えてるのか?
「わかった、頭を上げてくれ。 こんなところ人に見られたら変な噂が立つ。 ……聞かれたくない事ならこっちから出向いた方が良いか?」
「重ね重ねすまん」
「気にすんな、じゃあ近いうちに宮廷に行くよ」
帰っていく皇帝の背中を見ながら体の力を抜く。
何か本当に思い通りに行かないな、こうなったら徹底的に貸しを作ってやる。
ふぅ、作るのに忙しかったから昼めし食いそびれてたな、殆ど素材が残ってないが何かあり合わせで飯でも作るか。
あり合わせで飯を作り三人で啄んでいるとローズ達のテンションも戻ってきていつも通りのような会話が出来るようになって来た。
「いやー、びっくりしたよ。 まさか皇帝陛下がいらっしゃるなんて」
「そうだな、情けない話だが人生で初めて腰を抜かしたよ」
「あたしなんて、ついさっきまでの記憶が無いよ」
なんだって、俺が教えた調理方法、頭に入ってないの?
てか、俺の昼飯をそんなに食うな、調理中にさんざん試食させてたんだから腹膨らんでるだろ。
「しっかし、パティの作るごはんは美味しいねぇ」
「あぁ、これは店を開けるレベルだと思うぞ」
「だよねー、さっきもおばちゃんがレシピ聞きに来ていた位だし」
作った料理を褒められるのは悪くない。
「とにかくそんなにパクパク食わないでくれ、俺の食う物が無くなっちまうだろ」
「そう言われてもねー、美味しくて止まらないって感じ? パティってさ可愛いし、料理も上手いし、面倒見も良いし将来絶対にいいお嫁さんになるよね」
「ぶっ」
最近色々忙しくて、この躰の事をすっかり忘れてた。
そうだ、目標の為にあの皇帝も使ってやろう。




