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帝国博物館の見習い学芸員  作者: ヤマガム
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23話

営業中の食堂と言うのは常に誰かが動いていて、何かしらの音や話し声がある。

しかし、今の食堂はしんと静まり返り、食材を洗う為に出している水の音しかしない。

別に誰も居ない訳じゃない、休館日でも営業している食堂は調理のおばちゃんは勿論、一部の職員、食事や休憩の為に来た外部からの客、そして料理の練習をする為に集まったローズとクリス。

その誰もが喋る事を忘れ一点を注目している。


全員の視線の先には死んだ魚の目から、全てを諦めた目にクラスアップした俺が立っていた。



二回目の仕立て屋を呼ぶ気配のあったお袋に先手を打ち、次の休日は同僚に料理を教えるから出かける旨の説明をした。

そして今日、朝にお勧めと言われて装飾の多い調理に適していない服を渡され拒絶したところ、調理をする際に適していると別の服が入った袋を渡され、料理をするのだからと言われて普段結ばない髪をポニーテールにまとめられた。

今思うと、なぜあの時に袋の中身を確認しなかったのだろう、後悔しか出て来ない。


三人で集まり食堂に移動し、場所を貸してくれるおばちゃんに礼を言う。

エプロンをするだけで準備が整うローズとクリスを待たせて、更衣室に移動し渡された袋の中身を確認して硬直する。


俺の視線の先にはピンクのメイド服。

これを、俺は身に付けなくてはならないのか……いや、延期するか?

今着ている服では調理に支障が出る、ローズだって出発前の最後の休日を使ってまでここに居る。

発注した食材だって勿体ないし、折角時間を作ってくれた試食係にも申し訳ない。

冷静に考えれば考える程、退路が立たれて行き俺は考えるのをやめた。


そして、お袋から渡された調理をする際に適している服に着替え、待ってくれている二人の元へ行くと二人どころか食堂中の人間が凍り付いた。


「ポニーテールでピンクのメイド服なんて本来なら狙いすぎてドン引きなのに、しっかり着こなせて似合ってるパティって何者?」

「さっ練習始めるよー……」


ローズと俺の会話をきっかけにそこら中から「メイド」の声が上がる。

へー、メイドさんが居るんだー 俺も見たいなー


借りた調理場の一角に移動すると三人ではとても食べきれない量の食材が積み上げられている。

お、ちゃんと注文したの届いてるー


「パティ、この量は何だ! こんなの私達だけで処理出来ないぞ! と言うか、いい加減呆けるのをやめろ!」

「はへ? ……あ、あれ? 俺何やってたんだっけ?」

「おい、大丈夫か?」


クリスに肩を揺さぶられ我に返る。

何か大切なものを捨てる決断をしてからの記憶が無い。

俺はさっき何を捨てたんだろう、心にもの凄い喪失感がある。


「クリス、すまん。 ちょとボーっとしてた。 食材だったな、今日は量を作る為の方法を教えるからこれだけ必要だったんだ」

「だからってこれは多すぎだ、余ったものはどうするんだ」

「問題ない、全部処理してくれる胃袋達を呼んである。 お、噂をすれば!」


食堂の入り口を見るとガタイの良い男達が10人ほど中を覗き込んでいる。

俺が呼んだ胃袋、そう帝国第四騎士団の面々だ。


「ニック、悪いな! わざわざ来てもらって。 これから調理だからまだしばらく時間が掛かっちまう。」

「パトリシア様、本日はご招待有難うございます。 我々が招待頂いた時間より早く来てしまっただけですのでお気になさらずに。」


ニックの挨拶に合わせ他の奴らも頭を下げて来るが、妙に俺を見てそわそわしている。

腹いっぱい食わせてやるから朝飯は少な目でと言ったが、もしかして飯食ってないのか?

ま、悪い事しちまったがそこまで待たせるつもりは無いから我慢してもらうか。


「パトリシア様、申し訳ないのですがもう一人どうしても付いて来たいと仰る方がいらっしゃいまして」

「ん? 別に構わないよ、一人ならどうとでもなる」

「有難う御座います、そのー……」

「さっきから何畏まってんだ?」


ニックの視線の先に目を向けるとスキンヘッドの髭が居た。


「おい、皇帝(ひげ)! 何でここに居るんだよ」

「勤務中に一度に10人の騎士から外出届を申請されてな! 面白そうだから会議を抜け出して来たぞ!」

「ふざけんな、仕事しろ!」


この間話して分かったが、こいつ直感で動いてないか?

こんなのがトップで大丈夫なのかこの国。


「もういいや、食うもの食ったらさっさと会議戻れよ」

「おう!」

「席は奥の一角だから付いて来てくれ」


席に案内する俺の後ろに皇帝(ひげ)、ニック、俺を見てそわそわしている奴らの順について来る。


「メイド姿のパトリシア様の破壊力、半端じゃないな!」

「「「ああ!」」」

「俺、あんな可愛いメイドさんの手料理を食べるチャンス、これから先一生無いと思うんだ……」

「「「ああ……」」」


そわそわしている奴らが何かを呟き一喜一憂しているようだが、料理の工程を考えていた俺の耳には届かなかった。

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