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帝国博物館の見習い学芸員  作者: ヤマガム
22/27

21話

「いやー、悪いねー。 せっかくのお休みの日なのに手伝って貰っちゃって」

「いや……良いんだ……家に居たくない」

「どうしたの? お母さんと喧嘩でもした?」


お袋の新たな一面を知った日から次の休み、休日出勤をするローズの手伝いをするので博物館に居た。

いよいよローズ達がステファニーの応援に出発する日も近付いて来たので、その前に受け持っている仕事に目処を付けたいそうだ。


「なんか死んだような魚の様な目をしてるんだけど…… まぁ、大丈夫って言うならいっか」

「あぁ、早速仕事をしよう。 今は家の事は考えたくない……」


仕立て屋を呼ぶと躍起になっていたお袋を宥め、何とか休日出勤の許可を得たが次の休みはどのような理由を付ければいいのかが思い浮かばない。

もうあれだ、ここの奴らの仕事をすべて奪って博物館に住もう、それが良い。


「さて、パティにお願いしたいのは来館者に読んでもらう説明文の看板を作ってもらいたいの」

「看板? そんなの作った事も無いし何を書けばいいかなんて分からないぞ」

「文面は全部あたしが作ってあるから、それを書き写してほしいの。 それにパティって絵上手いじゃん、この前の絵本の挿絵見てびっくりしたよ」


二冊目の翻訳も無事に完了し主任に提出した際、見習いの作業だったので研究室のメンバーにも目を通して貰って評価をしてもらう事になったのが、思い掛けない所で高評価を貰った。


---絵が上手い


『俺』だった頃は傭兵ギルドで偵察の依頼を受けた時に、砦だの要人の顔だのを絵で書いて報告書にする必要があり早く的確に書いて纏める自信があるが、上手いと思えるほどではなかった。


「上手いとは思えないんだけどなぁ、美術エリアにある裸婦像とかの方が遥かに上手いぞ。 あの丸みとか最高だと思う」

「ああ言うのは別格だよ。 パティの絵って必要な要点をしっかり描きつつ可愛らしくアレンジされているじゃん、そこがいいのよ」


俺に看板の資料を渡し、倉庫整理に向かうローズの背中を見ながら何とも言えない気持ちになる。


アレンジ? そんなの何もしてない、今の時代は俺の書いたあれが可愛く感じられるのだろうか。

想像していたのとは違う方向で褒められた事に驚いたが、さっさと与えられた仕事を開始しよう。

走り書きの箇所もあるが簡単にまとめられる程度の内容の既に用意されている文章と、指示された書いて欲しい絵を描くだけなのでとても簡単。


ノルマとして渡された10枚分の資料のうち、8枚目の終わりが見えて来た頃、ローズが倉庫から帰って来た。


「ただいまー、パティちょっと早いけどお昼行かない? 食堂も開いてるけど今日はお手伝いのお礼として外で何か美味しいの奢るよ」

「んー、ちょっと待って。 もう少しでひと段落するから」

「お、そろそろ下書きが終わるかな? 早いねー」

「下書き? してないけど?」

「ありゃ」


俺の返答に困った顔をしつつ作成中の看板を見た後、挿絵の絵の具を乾かす為にそこら中に並べていた作成済みの看板を見つけたローズの顔に表情が無くなる。


こういうのやったこと無いから手順とか知らないんだよな、やり方きいときゃ良かった。

時間も資材も無駄にしちまったか。


「ローズ、ごめん。 こう言うのやった事なくてもっとしっかり指示を聞いておけば良かった」

「パティ、あたしの居ない間、代役をやってみる気ない?」

「代役?」

「うん、正直ここまで綺麗に見やすいのを書いてもらえるとは思ってなかったの、だからあたしの代わりをお願いしたいの」


ローズの説明を聞いたところ、初めてだろうから特に指示も出さずに自由に書かせて、一緒に修正して今日中に1枚できればと言う予定していて、応援に出発するまでに10枚をという考えだったらしい。

ところが修正の必要が無いレベルの完成度で午前中に7枚も終わらせてしまっていた事に驚いたそうだ。


「ローズの仕事って骨いじりだっけ?」

「それは今やってる仕事なだけだしクリスに引継ぎする予定、やって貰いたいのは今やって貰ってる看板作りと来館者への解説よ」

「解説って、展示品の前でご高説垂れる奴? 無理だよ」

「そんな事ないわ、看板の資料もしっかり纏めて書き写してくれているしこの内容を説明するだけで問題ないのよ、それにパティは大人と話しても物怖じしないうえに声もきれいだからきっと人気者になれるわよ」


正直嫌だ、この見てくれのせいで無駄に視線を集めて生きてきた身としては、これ以上視線を集める事なんてしたくない。

しかし、ローズにも世話になってるしどうしたら良い物だろう。


「出来れば遠慮したい。」

「うっ。 じゃあさ、別の研究室の友達何人かに声を掛けているんだけど、それがダメだったらお願い!」


これは確実に俺に回ってくるパターンだろうなぁ。

そんな長い期間じゃないから腹を括るしかないのだろうか。

帰ってきたら絶対にステファニーとお近づきになるチャンスを作ってもらおう。


「んじゃ、その人たちがダメだったらやるよ。」

「パティ! ありがとー」


面倒事を引き受けてしまったと言うちょっとした後悔は、お礼と一緒に抱き着いて来たローズのバインバインの感触の海に一瞬で沈んで行った。

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