1話
暗い何もない空間
どれだけ時間が経ったんだろう
あのオッサン曰く、条件が合うまでここから出ることは出来ない、合うものが居なければ永遠に闇の中
そんなことを思いながら、徐々にしぼみ始めた希望を胸に何もない時間を過ごしていた
あーこりゃもう無理かなー、何で2年後に転生しなかったんだろー
なんて自暴自棄に始めたころ、はるか遠くに光の点が見えた
時間の経過とともに光の点が大きくなり、俺の希望が膨らんでいく
そして視界一面が光に包まれたころ、「俺」は生まれた。 オギャーってね!
うむ、オッサンが最後に何に生まれ変われるかわからんとか不安なことを言ってたが、
無事に「人族」に生れ落ちる事が出来た。
良かった・・・本当に良かった・・・生まれ変わったらカマドウマでしたなんてシャレにならんからな
生まれて2年位は頭がボーっとして何も考えられなかったが、俺の思考に耐えられるだけ脳が成長してくるころには、「俺」の自我がはっきりしてきた。
「俺」の記憶を思い出しているとこの頭はすぐに処理できる情報量が超えてしまい、
めまいがしてぶっ倒れてしまう(俺談:オーバーヒート)のがまだまだ難点だが、
少しづつ今の体でも耐えられる情報量の魔法やスキルを思い出す努力はしてみよう。
兎にも角にも、もっと成長するまでは何も出来んな・・・
まだ体も出来てないし、情報量の多い魔法やスキルはまだ思い出し始めた瞬間にオーバーヒートしちまうが、新しい俺は始まったばかりだ、まだまだこれから!
新しく生れ落ち2年、自我を取り戻しバインバインの女を侍らせうまい酒を浴びる未来のハッピーライフを夢に見つつ、ふと冷静になった俺は今の俺がどんな環境に置かれているかを確認し、
地獄のどん底に叩き落され、パニックになった俺はオーバーヒートして気を失った・・・
- - - - - - - - - - - - -
「はぁ・・・」
もう何度目の溜息だろう。
自我を取り戻し、夢と希望と女と酒の輝かしい未来を夢に見て有頂天になっていた俺が地獄の底に叩き落されオーバーヒートした事件(結局3日間生死の境を彷徨った)から4年、
この地獄から脱出できる術を考え、そしてオーバーヒートを繰り返す日々を過ごし、今の親父やお袋にはすっかり病弱な子のレッテルを張られてしまった。
流石に6歳の誕生日が近づいて来る頃には、初めてオーバーヒートしたあの時より処理できる情報量も増えてきたが、まだまだ足りない。
4年間味わっている地獄から助かる為にはまだまだ俺の記憶を思い出す必要がある。
「はぁ・・・」
また溜息を吐き、現実逃避をする様に部屋に掛けられているカレンダーを見上げる。
「統一歴 1782年 10月 8日」
これが今日の日付、そして新しい俺の6回目の誕生日でもある。
俺が死んだのは「統一歴 3年」。
まさか1800年近く闇の中で過ごしていたとはね。
初めて見たときは速攻オーバーヒートしたものだ。
「1800年」言葉じゃ簡単に言えるが色々あったらしい。
だって今の世に『平和都市』って国無くなっちゃってるし。
何だよ「ベルバード帝国」って、平和の象徴があった国の場所に帝国出来ちゃってるよ。
親父に買って貰った「よい子のべんきょう-れきしへん-」曰く、
平和や商売のチャンスを求め人口がどんどん増え、いつの間にやら経済の中心になる『平和都市』
育つ平和都市に反比例するように衰退していく各種族の支配地
このままではまずいと危機感を感じた三種族が連合を組み、そして始まる戦争
劣勢の平和都市の戦局をひっくり返した『英雄』の子孫の活躍で勝利 (ビバッ俺の遺伝子)
もう、戦争しちゃったし『平和都市』って名前変えよう運動が始まる
→戦争の指揮を執った一族(平和都市の顔役を担ってた)「アインツ家」の家紋が「ベル」
→戦争で頑張った「俺」の子孫「ザイン家」の家紋が「鳥」
「ベル」と「鳥」が手を取り合って繁栄してほしい。
で、「ベルバード」に新国名決定(安直じゃね?)
平和なひと時が過ぎ、「ベルバード」の内乱が勃発
結局顔役を担ってた「アインツ家」が平定し皇帝を名乗り「ベルバード」を「ベルバード帝国」に変更
「アインツ家」を支えた「ザイン家」は公爵の爵位を拝命
そして今に至る・・・
そんなザイン公爵家当主の4番目の子供・・・それが俺だ。
ビックリだよ、自分の子孫に生まれ変われるとか考えてもいなかったよ。
世界最大の帝国の最有力貴族の子供、しかもおとぎ話にまでなっている『英雄』の血まで引いてる。
もうこの条件だけでどれだけの女を落とせるのか想像もつかねーって。
なのに・・・なぜ・・・なんで・・・こんな事に・・・
改めて残酷な現実に打ちひしがれている俺の耳にドアがノックされた音が聞こえる。
俺が返事を返すと、ドアが開きメイド(兼護衛)のマリーが入ってくる。
・・・良いよねメイド。
しかもマリーは厚手のメイド服の上からでもわかるくらいバインバインなんだ。
この小さな手じゃ今はまだ堪能しきれないが、いずれば欲望のままに揉みまくってやる。
俺がマリーのバインバインを凝視しているとマリーが「コホン」と一つ咳払いし、
「そろそろお誕生パーティーのお時間です。
さ、大広間に向かいましょう。」
マリーに会場に向かうように促されるが、
「やだ。 行きたくない。」
俺は無理だとわかりつつも抵抗の意思を見せるとマリーがため息をついて、
「ベルバードの貴族にとって6歳の誕生日会は他の貴族の方々へのお披露目の場でもございます。
その大切な場所にお披露目するべき主役が出席しないなんて許されませんよ。
奥様から最悪の場合、簀巻きにしても連れて来いと仰せつかっております。
時間も差し迫っておりますので、抵抗なさるのでしたら・・・巻きますよ?」
マリーが不審な事を言いながら俺に向かってにじり寄り始める。
くそっ今までありとあらゆる手を使って逃げてきたせいで隙を見せない・・・
こうなりゃ、強行突破あああぁぁぁ・・・あふん。
6才の子供が護衛も兼任している20代のメイドに突っ込んでいったところで、どうなるかなんて説明の必要もないよね。
俺はマリーの脇に抱えられ部屋から連れ出されていく。
「一言二言ご挨拶して、あとは愛想笑いでもしていれば終わります。
いい加減諦めてください。」
マリーに小言を言われながら、俺は無駄な反論を始める。
「い、嫌だっ。
やらないぞ、俺はあんな女々しい挨拶や愛想笑いなんて絶対にやらないぞ」
俺が反論すると、マリーは俺を抱えている腕を「ぎゅッ」って締め、俺がグエッてなり大人しくなった事を確認すると、
「女々しくて結構です。
それに何度言ったら直して頂けるのでしょうか。
ご自分の事を俺と呼ぶのはおやめ下さい。」
マリーが一呼吸置き、
「ご自分の事を呼ぶときは、『私』ですよ・・・お嬢様。」
グエッてなって以降マリーに抱えられながら頭を垂れていた俺は、改めてこの地獄を思い出す。
俺、女に生まれ変わっちゃったんだよなぁ・・・