18話
夜、屋敷に戻り食事を取り一息ついた後、屋根に登りカシヤを両手に握り目を閉じ意識を集中する。
初めての時のような戸惑いは無く力を受け入れ、目を開け無事にバトルドレスに変わったことを確認した。
人目に付きたくないのと、強化された身体能力の確認の為、屋根伝いに動き回る事をカシヤに伝えた所、不満が帰って来る。
『ねぇ、それは私の想像した散歩と違うんだけど?』
『ん? 違う?』
『うん、ゆっくりウィンドウショッピングとかすると思ってたんだけど。』
『それじゃあ、訓練にならんだろ。
それに、高いところから見る街並みもきれいだと思うぞ、多分。』
『うーん、確かにそうだけど・・・
なら、あっちのイルミネーションがきれいな方へ向かいましょ。』
流石に屋根伝いに散歩するにしても、イルミネーションで大分明るくなっているのでばれそうな気がする。
隠ぺいの魔法と、一応顔を隠せるものが欲しいな。
『今日の訓練の目的は身体能力のチェックと、カシヤの魔法の発動補助って奴の確認だ。
身体能力は分かるが、発動補助ってのは魔法発動時の負荷をカシヤが肩代わりしてくれるって事でいいか?』
『ええ、あとは長時間効果を持続させるタイプの魔法も私が肩代わりできるわ。』
『おし、それじゃあ隠ぺいの魔法を使うから、発動と持続の手伝いを頼む。』
さて、試すか。
俺は目を閉じイメージを始める。
隠ぺい魔法は光の屈折と風の共鳴で姿と音を消す魔法。
二つの属性を組み合わせる以上、負荷も大きくなるはずだが発動させても何ともない。
『カシヤ、魔法の維持を頼む。』
『任せて。』
『あとさ、バトルドレスのデザインを変える事が出来るって事は、覆面とかを作る事も出来たりする?』
『覆面? 何に使うの?』
『万が一があった時に、顔がばれたくないんだよ。
一応、こう見えても貴族の令嬢だからな、変な噂は立てたくない。』
『このコスチュームに覆面はだめよ。 ヴェールにしましょ、秘密を抱えた魔法少女っぽくてそそるわ。』
『・・・そか。 でもヴェールって動いたらまくれるんじゃねぇの?』
『問題ないわ、ヒラヒラするだけでどんなに動いてもまくれなくなる魔法を掛けて作るから。
本来はスカートに掛ける魔法なんだけどね、ヴェールにも応用できるの。』
『その魔法って、このデザインに代わる前のバトルドレスにも掛けてあったんだよな?』
『・・・、頑張ってヴェールを作るね、すぐ終わるからちょっと待ってて。』
杖の今後の扱いに対して考えていたところ、『できたわ』と声が聞こえると同時に顔の周りに魔力を感じヴェールが掛かる。
『どう? 視界は大丈夫だと思うけど。』
『問題ない。 それじゃ散歩に出発するか。』
屋敷外の街灯の上、そこからが街灯伝いに飛び跳ねて少し高い共同住宅の屋根まで移動する。
本来なら出来るはずもない跳躍に驚愕しつつ一息吐く。
『これは慣れるまで時間が掛かるな。』
『慌てる必要はないと思うわ、それより見て、夜景が綺麗だね。』
『まぁ、確かに。』
『さぁ、次はあっちに行きましょ。』
カシヤの希望に沿ってあちこち見回り、一時間程度で初めての屋根散歩を終える。
訓練にもなるしカシヤの暴走を抑える事も出来るので、しばらく続けよう。
教会の避難場所の調査の手伝いも終わり、翻訳の作業に戻り夜の散歩も日課になり始め、夜景を堪能しつつ散歩をしていると、暗闇から矢を仕掛けられた。
隠ぺいを見破られた事に驚きつつ、夜の屋根に居る奴なんて後ろ暗い奴に目でもつけられたかと思っていたのだが、矢を射った奴の身に纏っている物を見て、更に驚愕する。
---帝国第四騎士団
一般の騎士や兵士では手には負えない魔獣等を討伐するエリート部隊
そんなのが何で・・・
一射目を回避したところ、二射、三射と矢継ぎ早に仕掛けて来る。
事を構えたくない俺としては、逃げに徹する事にしたのだが、至る所から矢や魔法が飛んで来る。
『パティ、右3人!』
『分かってる、くそっしつこい奴らだ。』
「居たぞ! 商業地区の方へ向かってるぞっ。」
「三小隊は捕縛魔法準備!」
「だめだ、さっき七小隊が使ったがかき消された、魔法で威嚇して追い込めっ。」
『隠ぺい魔法は発動していたのに何で見つかっちゃうのよっ』
『知るかっ』
『魔法で黙らせちゃう?』
『だめだ、こんなせわしなく動いているときに使ったら手加減が出来ねぇ、死人が出る。』
『じゃあ、どうするのよ?』
まずい、完全に追い込むように配置されているな。
この先は広場・・・待ち伏せかっ。
「死ねぇ、化け物ぉ!」
道路に着地した瞬間、死角になっていた路地から兵士が迫って来る。
降り降ろされた刃をカシヤで払い、体勢を崩した兵士のわき腹に回し蹴りを入れ、後ろの兵士達ごと吹き飛ばす。
・・・手加減したけど、死んでないよね?
くそ、ワラワラとどこから湧いてくんだよ、地上はやばいな。
「また屋根に飛び乗った!」
「いまだっ」
俺が屋根に飛び上がったタイミングと同時に、強力な魔力の衝撃を受け吹き飛ばされる。
「よし、直撃! 化け物は広場に落ちたぞ。」
「気を付けろ、まだ死んでいないかもしれん、さっさと首を切り落とせ!」
近くまで駆け寄って来た兵士を足払いで倒しながら起き上がり、カシヤで後ろの奴らを張り倒す。
一息吐いて、俺は吹き飛ばされた方向から駆けつけて来る兵士達の先頭に向かって飛び掛かる。
『パ、パティッ 落ち着いて、落ち着きなさい。』
『うるせぇ、ここまでやられて黙ってられっか!
殺しはしねぇ、やられた分はやり返すだけだ!』
飛び掛かって来た俺に、慌てたたたらを踏む先頭の兵士の腹に向かってカシヤを薙ぐ。
先頭の一人が盛大に吹き飛び呆然としている後続をカシヤを振り、蹴りを浴びせ倒していく。
『パティ、いい加減になさいっ!』
『うっ、悪かったよ。 頭に血が上りすぎた。 もう逃げるよ。』
今まで聞いた事の無いカシヤの怒気を含んだ声に我に返り周りを見る。
手足が曲がらない方に曲がっている奴や、口や鼻から血を流している奴がそこら中に転がっている。
まぁ、死なないだろう。
『パティ、私はマジカルステッキなのよ。』
『え?』
『それなのに、さっきからパティは私を鈍器としてばっかり使って・・・』
『そこに怒ってたの?』
『当り前じゃない、何に怒ってると思ってたの?』
『俺があいつらをボコボコにした事。』
『そんなことある訳ないじゃない、あいつらは私のパティに攻撃をしたのよ、万死に値するわ!
この程度じゃ物足りない、燃やすのよ!』
怖い・・・
『もう周りの奴らも恐慌状態だし、今が逃げ時だ。
お前も今日は頑張ったし、風呂でゆっくり洗ってやるから落ち着けよ。』
『あらっ一緒にお風呂?
もー、それならいつまでもこんなところに居る必要ないわ、さっ帰りましょ!』
『風呂場で洗うだけで一緒に入るとは言ってないぞ。』
ぶれないなぁ・・・こいつ。
何で俺が落ち着かせる方に回ってんだろ。
気が抜けた瞬間を狙ったように、周りの被害を考えない衝撃波が俺の方に向かって走る。
難なく避け、攻撃してきた方に目を向け気合を入れ直す。
目の前には、今までの様なその他大勢にまとめられる奴や下級騎士じゃない、一目で他の奴らより格が上と分かる騎士が立っていた。
「この惨状、貴様がやったのか!」
「えっと兵士は俺だけど、この地面はあんただよね?
てか、あんたの一撃で結構巻き込まれてるし、応急措置しないとやばいのもいるぞ。」
「ほう、人の言葉を理解できるのか、化け物。 仲間の敵は私が討つ!」
人の話を聞かないうえに、頭に血が上ってるのは相手にしたくないなぁ。
『2、3打ち合ってそのまま逃げるぞ、カシヤ。』
『パティ、一緒にお風呂は後回しね。 まずはあいつを燃やすわよ。』
人の話を聞かないうえに、頭?に血が上ってるのが俺の左手にも居た・・・