17話
しばしの沈黙の後、カシヤがポツリとつぶやく。
「若い子はもっと派手で挑戦的な衣装の方が好きなのは分かるの。
でもね私も元は修道女、これ以上の露出は認めないわっ」
何をトチ狂ったことを言っているんだろうこの杖は。
「カシヤ、お前の時代はピンク色でフリルが付いてて、こんな胸元が開いて、短いスカートが修道着だったのか?」
「何を言っているの? 修道着がそんなわけないじゃない。
全身を包み込む感じで、スカートだって足元までの長さよ。」
「なら、これはお前の趣味か?」
「だから魔法少女の衣装と修道着を混ぜたデザインよ。」
「そうか・・・、短い付き合いだったな・・・」
カシヤの刺さっていた場所に移動し、勢いよくカシヤを突き刺す。
「きゃ、パティさっきからどうしたの?
もしかして、マジカルシスターのコスチュームが気に入らなかったの?」
「ああ、そうだよ!」
「なっ、どこがだめなの? 魔法少女は女の子の夢でしょ!」
「じゃあ、お前がこの衣装を着て人前に出る事が出来るか?
人前でハイキックする事が出来るか?
高台の上に立ったり、飛び降りたりできるか?」
「うっ・・・出来る・・・かもしれない。」
「無理だな?」
「・・・はい。
それなら、パティの意見を聞いて手直しするわ、それでいいでしょ?」
「あぁ・・・」
極力露出の少ない黒をベースにしたズボンタイプを希望する俺と、現状維持をしたがるカシヤの非常に無駄な論争が始まる。
・・・
「パティ・・・いくら私でもこれ以上は譲れないわ・・・」
「スカートは妥協しよう。せめて、色を黒にしてくれ・・・」
「なら、スカートはそんな足元までじゃなくて、膝上まで上げる約束をして!」
「ぐっ・・・色は・・・諦めよう・・・」
「なら、これで私達の妥協点としましょう。」
「・・・分かった。」
結局、修道着をベースとした首元や手首までしっかりと生地が覆い、足元までの長さのスカートというバトルドレスに落ち着いた。
露出とゴテゴテのフリルは回避出来たが、スカートとピンクはどうにもならなかった。
「そろそろここから出るか。」
「うん。」
「このバトルドレスってどうやったら元に戻るんだ?」
「着た時と逆の手順で出来るわ。
パティの中から私へコアを移すイメージをするの。」
一度着る事が出来たので脱ぐ事も問題なく、元の制服に着替え終わると魔法陣が現れた。
「ここ、乗ったら避難場所に移動するんだよな?」
「そうよ。」
「てか、かさばるな、いきなりこんな長い杖をもって現れたらなんて説明すりゃいいんだ。」
「短くなれるけど、なる?」
「そんな事も出来るのか・・・30センチくらいになれるか?」
「なんかそこまで短いと杖としてのアイデンティティが無くなるんですけど。」
文句を言いつつ柄の部分を縮めてくれたカシヤを腰に掛ける。
「まぁ、これなら目立たないか。 んじゃ、行くぞ。」
「えぇ、いざ外の世界へ。」
魔法陣に乗ると陣が光始め移転魔法が発動する。
浮遊感が収まり目を開けるとクリスが居た。
「大丈夫か? なんか疲れているようだが移転魔法に酔ったか?」
「あー・・・うん。 問題ないよ。」
「なら良いんだが、作業を説明するぞ。」
「おう。」
クリスから作業の指示を仰ぎ作業を開始し一日が過ぎて行く。
翌日に引き続き今日も教会の避難場所の調査。
『リンゴ』
『・・・ゴリラ』
『ラッパ』
『・・・』
『どうした? カシヤの番だぞ?』
『パティ、どうしよう。 私とっても退屈なの。』
『は?』
『博物館から教会までの道のりとか、パティのお屋敷とかはとっても感動したわ。
でもね、折角お日様が出ている時間なのに、何で今まで居た所と大して変わらない場所に居なきゃいけないの?』
『そりゃ、仕事だから。』
『パティは13歳でしょ、13歳と言えば学生でしょ、学校に行きましょうよ。
こんな穴倉の中で埃をかぶった物とにらめっこなんて、間違っているわ。』
『それは説明しただろ、これも学校の授業の内だって。』
『分かっているの、でもね頭で理解しても心が納得しないのよ。』
めんどくさい、てか頭ってどこだよ。
あの部屋でもそうだったが自分の思い通りにならないと暴発しそうだな。
流石にそこら中に衝撃波とか出さないだろうが、まさか二日目でガス抜きを考える事になるとは。
『それならあれだ。 今日帰ったらバトルドレスの訓練がてら街を散歩するぞ。
それで我慢しろ。』
『ホント!? でも女の子が夜出歩くのは良くないと思うの・・・』
『じゃ、無しな。』
『思うだけで、否定はしてないのよ! 私とパティが組めば敵無しよ。』
『じゃあ夜まで黙っててくれ。』
ガス抜きがメインだが、カシヤの力に慣れるには丁度いい機会だな。
さて、夜までもうひと頑張りするか。