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帝国博物館の見習い学芸員  作者: ヤマガム
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15話

おでこが痛い。

多分、吹き飛ばされた時に壁にぶつけたんだろう。

体が動かない。

魔法で拘束されているからだ。


「ついに本性を現したな、ロリコン幽霊め。」

「ロリコン? ち、違います。私そんな趣味ありません。」

「じゃあこの状況はどういう事なんだよ。」

「ごめんなさい、こうでもしないとお話を聞いてくれないと思いまして。」


拘束魔法を解除しようとしても全く反応が無い。

綻びすら見つからないとかどんな魔力しているんだこの杖。


「あの、すみません。 私、こう見えてもアーティファクトなので、魔力には自信あるんです。

 ですから、解除魔法は聞かないと思います・・・多分。」

「話を聞けば、俺はここから出れるのか?」

「はい、あっいえ、出来ればお願いを聞いて頂ければ・・・」


ほら来た、これだから喋る無機物は嫌なんだ、

話だけとか言っときながら、聞いたら最後、あれこれくっつけて来るんだ。


「なぁ、さっきも言ったけどさ、厄介事は聞きたくないんだよ。」

「あの、私のお願いを聞いて頂いても決して敵を作ったり、宿命なんて背負いませんからまずはお話を聞いてください。」

「おい、今さらっと付きまといは省いたよな。」

「うっ・・・」

「敵も作らないし、宿命も背負わせないけど、付きまとうんだな?」

「・・・はい。」


厄介事持ってんじゃん、只でさえ目標の手がかりすらつかめていないのに、

こんなのに付きまとわれたらたまったもんじゃないぞ。


「それって、俺じゃないとだめなの?」

「ダメってわけではないのですが、200年ぶりに現れた純黒の乙女でしたので、これを逃したら次はいつになるかわからなくて。」


純黒の乙女? そう言えば俺がここに飛ばされるときに聞こえた声もそんなこと言ってたな。


「なぁ、純黒の乙女ってなんだよ? 俺、そんなのじゃないぞ。」

「お嬢さんはカシャミール教をご存知でしょうか?」

「カシャミール教? あれだろ、闇の・・・じゃなかった純黒の女神のやつだろ?」

「よかった、ご存知でしたね。

 純黒とは他の色と交わっていない黒の意味です、ですから純黒の乙女とは、あのっ誰とも・・・そのっ」


急にしどろもどろになったな。

他の色と交わっていない黒の乙女・・・あぁ。


「処女って事か。」

「はひっ、そ、そうです・・・」

「なぁ、ここに来たのって俺が初めてじゃないよな?」

「はい、何名か招待したのですが、みんな泣き叫んで私の話を聞く処ではなくて・・・」


当たり前だ、こんな石壁の部屋にいきなり飛ばされて杖が喋ってきたらガキは間違いなく泣くだろ。


「で、泣き止まないで話が出来ないと教会の前に飛ばしたと。」

「はい、大変怖い思いをさせてしまいましたので、ここの記憶は消して戻しましたよ。

 それにこの部屋は私がここを出て行くまでは時間の流れが無いので、時間にしては1秒も経っていないんです。」


人の記憶を消す事が出来て、場所限定だけど時間停止だとっ

アーティファクトの中でも神話レベルじゃねぇかよ。

何でロリコンの魂が宿ってんだ、勿体ない・・・


「お嬢さんが初めてなんです。 この部屋に招待しても泣き叫ばなかったのは。」

「だろうな。

 で、俺につきまっとって何をさせたいんだよ。 処女を散らすところでも観察したいのか?」

「そっそのような事ちょっとしか考えてません、私は外の世界が見たいのです。」


ちょっとは考えているのかよ・・・


「外の世界?」

「はい、私は元は人間で修道女でした。

 本当は修道院の中で一生を終える予定でしたが、訳あって杖になり世界を見る機会を得たのです。」


ん?

杖になった修道女が世界を見たい・・・

って、俺が翻訳しているおとぎ話の内容と似てるな。


「なぁ、あんたって」

「カシヤです。 私の名前はカシヤです。」

「じゃあ、カシヤ。

 もしかして、人間だったときって魔神族で、死因はドラゴンに食われたから?」

「何で知っているんですか?」


おとぎ話じゃなかったのかよ、あれ。

一応こいつに教えておくか。


・・・


「私の事がそんなお話になっていたんですね。 なんかビックリです。」

「ビックリなのはこっちの方だ。」

「それで、私の所有者になって頂けませんか?」

「所有者?」

「アーティファクトは所有者が居なくては持ち運べません。

 逆に言うと所有者が決まって居れば、どんなに離れていても所有者が求めれば直ぐに手の中に移動できるんですよ。」

「んー・・・俺はほとんど同じ場所でしか生活してないし、カシエが求めるような世界中を見るようなことは多分出来ないと思うぞ。」

「それで構いません。 もう、この部屋で一人でいるのは耐えられません・・・」


まいったな、ここまで聞いておいてやだって言うのは流石に俺も良心が痛むし、

言おうものなら今度は気絶どころではすまなさそうだし・・・


「それに、私はアーティファクトです。

 私の所有者になれば身体的にも、魔力的にも強力な力を手に入れる事が出来ますよ。」

「俺が悪用すると思わないのか?」

「一応、元は修道女です。

 これだけお話すれば、あなたがどのような人かは分かります。」

「そか。」

「どうでしょうか・・・私をここから連れ出して頂けないでしょうか。」

「本当に俺で良いんだな?」

「はい。」

「俺の名前はパトリシア、パティって呼んでくれ。」


俺を拘束していた魔法が解かれ体が自由になる。

立ち上がりカシヤの前まで移動し、掴む。

その瞬間、カシヤの中から俺の中に力が流れ込んできて何かがカチリとかみ合う感触が感じられる。

これがアーティファクトの所有者になった感覚なのだろうか?

『俺』だった頃でも、見る事はあれど手にする事が出来なかったものを、

まさかこんなところで手に入れる事が出来るとは・・・


『私の声が聞こえるかしら?』

「おぉ、頭の中でカシヤの声が聞こえるぞ。」

『所有者とは声に出さなくてもお話が出来るようになるのよ。』

『こんな感じ?』

『えぇ、私にもパティの声が聞こえるわ。 これからよろしくね、パティ。』

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