14話
教会内を見回すが特に怪しい感じがしない。
目に入るのは年季の入った建物と幾人かの修道士のみ。
今のは何だったんだ。
本当にかどわかしの元凶が存在するのだろうか?
肩を揺さぶられ我に返る。
「クリス?」
「大丈夫か? 急に立ち止まって。」
「あぁ、大分古い教会なんで周りを見てたんだ。」
「そうか、もし何かあったら直ぐに伝えてくれ。」
うーん。
あのゾクッとする感覚はもうないし、俺の勘違いだった・・・か?
見回したときに何人かの修道士と目が合ったが、その中の一人だったのだろうか。
修道士なんてもんは質素、倹約、禁欲を美徳としている奴らだが、全てを守れる奴なんてそんな居ない。
この中にロリコン(人)が居たっておかしくないか。
しまった、フィリさん達と距離が開いてしまったな、さっさと追いつこう。
「なぁ、パティ。」
「ん?」
「教会に来る途中で聞いたんだが、今度ローズに料理を教えるらしいな?」
「あぁ、俺も別に得意じゃないんだけどね。」
「その時、私も誘っては貰えないだろうか?」
「へ? クリスも料理苦手なの?」
「う・・・情けない話なんだが、私も料理は全くなんだ。」
「かまわないよ、次の休みの時に調理場を借りるか。」
そんな話をしていると魔法陣の前に到着した。
「ここが魔法陣だ、見ての通りサイズが小さいから一人ずつしか使用出来ん。
俺から移転するから後から順番に来てくれ。」
有事の際に避難場所へ移動する為の魔法陣のくせに一人ずつしか使えない欠陥魔法陣に、フィリさんから順番に使用していく。
「さて、最後は俺だな。」
「パティさん、お気を付けて。」
「神父さん、心配しすぎだって。」
「ですが・・・」
「何かあったって、門の前に飛ぶだけなんだろうし問題ないって、んじゃ。」
魔法陣の上に立ち、移転魔法が発動し光に包まれ目を閉じ軽い浮遊感を感じた瞬間・・・
頭の中に女の声が響く。
---見つけましたよ、純黒の乙女。
しまった。
これが、かどわかしの犯人か?
くそっ、移転魔法がもう発動しちまってる。
・・・浮遊感が消え転送魔法後の酩酊感と光でくらんだ眼が徐々に回復し、周りを見渡すと四方を石造りの壁の部屋の中で、俺一人だけいる事に気づく。
まさか、本当にかどわかしがあるとはな。
てか、門の前に飛ばされるんじゃないのか?
帰還用の魔法陣がどこかに・・・
それほど広くない部屋の中を見渡しても魔法陣が無く、中央に杖が一本刺さっているだけだった。
やばいな、魔法陣が無い。
だが、密室なのに普通に呼吸が出来るって事は換気系の魔法は発動しているに違いない。
換気系の魔法って事は外との空気の入れ替えを行っている訳だし、それを応用すれば外に出れるかもしれん。
問題は、魔法がどうやって発動しているかだ。
常に発動してなきゃいかんから魔法陣だと思うが、見回しても無い。
「あのー」
となると、石壁のブロックのどれかに陣が刻まれているのか?
めんどいが一つ一つ感知魔法を使って調べんといかんか。
「もしもーし」
まずは俺が立っている後ろの壁から調べよう。
「お嬢さーん、お話を聞いてくださいなー」
壁のブロックを順番に調べる事2時間、感知魔法に反応があるブロックを見つけた。
あった!
思った通り換気魔法だ。
「ヒック・・・お願いじまず・・・
グズッ・・・お話・・・ぎいでぐだざいぃぃ」
よし、魔力の流れが外まで感知できる。
外までの道が出来ているなら移転の上乗せは簡単だ。
この程度なら今の俺の力でもオーバーヒートの心配はない。
「あっあの、何なさってるんですか?
それっ、移転の魔法なんじゃないですかっ?」
移転の上乗せ完了。
さぁ、あとは俺が通れるサイズに展開。
「まって、待ってください。
あのっお話っ、お話を聞いてください。
お願いします。」
展開も完了。
いざ、自由の身へ!
「ダメーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
鼓膜に優しくないレベルの絶叫と共に杖から魔力が迸り、魔法陣に乗る為に片足を上げてた俺を折角展開した移転魔法の陣と共に吹き飛ばす。
「いってーな、なにすんだよ杖。」
「あ・・・私の声、やっと届いたんですね。」
「届くも何も、最初から聞こえてるよ。」
「ふぇ? じゃ、じゃあ何で今まで何も反応してくれなかったのですか?」
「いいか、杖。
この世界はな、喋る無機物ってのは間違いなく厄介事を抱えてんだ。」
「へ?」
「それに反応した奴は最後、厄介事を解決するまで無機物に付きまとわれたり、要らん敵作ったり、背負いたくもない宿命を背負ったりするんだ。」
「わ、私厄介事なんて・・・」
「わかった。
じゃあ、お前は厄介事を持ってない、清く正しい素晴らしい杖だ。
だから、俺が帰るのを邪魔するな。」
移転魔法の再展開を始める。
「ま、ままままま待ってください。
お話っ、お話を聞いてください。」
「無理、じゃっ!」
再展開完了!
今度こそ、俺は自由だ。
「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
狭い部屋では出しちゃいけない大絶叫と共に再び杖から魔力が迸り、今度は俺の意識ごと体が吹き飛ばされる。
だから嫌なんだよ、無機物と話すのは。