表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国博物館の見習い学芸員  作者: ヤマガム
14/27

13話

ルイスに呼ばれて研究室に戻ると、休憩所で主任とお茶を飲んでるフィリさんが居た。

いつもなら戻ってくるのは就業時間直前だし、ラファエルやクリスが居ないという事は何か用事で戻って来たのだろうか。

「あれー? フィリさん教会に行ってたんじゃないの?」

「おぉ、ローズか。 すまんな、作業中に呼び出しちまって。」

「別にいいよ、掃除してただけだから。 で、どたしの?」

「お前とパティに頼みたい事が出来てな、ちと戻って来たんだよ。」


フィリさんの話を聞くために俺たちも休憩所のソファーに座る。

「で、俺とローズに頼みたい事って?」

「おう、今俺らは教会の調査をしているだろ? どんな内容かは知ってるか?」

「まぁ、この間主任に出していた定期報告書は読ませてもらってるから何となく、祭壇の下に移転魔法陣が見つかってその調査だろ?」


報告書を読んだところ、教会の改築を行い始めたら祭壇の下からかなり古い移転用の魔法陣が発見された。

古いとはいえ魔法の事なので最初は魔法院による調査が行われ、魔法陣の危険性や移転先が何処なのかの確認が行われ、術式が古いだけで特に害のある魔法陣でもなく、移転先も教会の地下に作られた有事の際の避難場所という事が判明された。

安全性が確認されたので、魔法院から博物館に調査の依頼が回ってきてフィリさん達が調査を開始したそうだ。


「それなら話が早い、移転先の避難場所なんだがな、魔法院から渡された引き継ぎ書通りの間取りなんだが、避難場所だっただけあって妙に物資が多くてな。

 俺たち三人じゃ手が足りなくて手伝って欲しいんだよ。」

「・・・めんどい。」

「そう言うなって、どうせ例の【黒い女の子】で煮詰まってんだろ?

 そういう時は、別の作業をやって一旦頭の中をリセットするのも良いもんだぞ。」


まぁ、煮詰まっていると言われれば、その通りだ。


俺は主任の方に向いてみると、主任も俺の視線に気づいたのか一つ頷いて指示を出してくる。


「まぁ、見習いのお前さんの作業に期限を決めている訳じゃないし、机に向かってうんうん考えているだけじゃ疲れちまうだろ。

 それに魔神族のシスターの話なんだ、案外思いがけない発見もあるかもしれんだろ?」


主任なりに見習いの俺に気を使ってくれているのか、その好意を今回は受け取っておこう。


「わかった、フィリさんの調査手伝うよ。 流石に今日これからってわけじゃないよな?」

「あぁ、流石に明日から頼むことになる。 ローズも良いか?」

「私もオッケーだよ。」


俺たちの返事を受け取り満足そうに頷いたフィリさんは、調査人数増員の申請書を提出して教会に戻っていった。

フィリさんが戻っても休憩所に残り、ルイスからのそろそろ仕事再開しませんかオーラを受け流し、お茶を飲みつつ話を続ける。


「主任、私たちの行く教会ってどんなとこ?」

「一般的なカシャミール教だね、建物自体はこの国が帝国になる前からっ建っているらしいから、1200年以上昔からあるって感じかね。」

「ずいぶん古い教会なんだね、あたし人族だから純黒の女神カシャミール様って今一よく解らないんだよねー」


『俺』が生きていた時代も魔神族の代表的な宗教はカシャミールだったが、今の時代もやっぱりカシャミールが信じられているのか。

しかし、『俺』の時代と一つ変わったことがあるな。


「なぁ、カシャミールの前に付いている純黒の女神ってなんだ? 闇の女神じゃないの?」

「闇の女神って、確かすっごい昔に呼ばれてたけど、近代は純黒の女神って呼ばれているんだよ。

 パティの中の『英雄』の記憶ではカシャミール様は、闇の女神なの?」

「そうなんだよ。 で、何で純黒?」

「えーっとねぇ・・・それは・・・」


しどろもどろになりつつ主任を見るローズ、さては知らないな。

しっかりしろ、学芸員。


「はぁ、ローズ、お前さんは興味がない事は本当にからっきしだね。

 せっかくだ、お前さんもしっかりお聞き。」


主任の教えてくれた内容は、『俺』の生きた時代の後、カシャミール教にも様々な宗派が生まれ、

元からあったカシャミールのみを神と崇める一神教派と、新しく派生した自然の神々も一緒に崇める多神教派の二大派閥ができたらしい。

お決まりの宗教対立が発生して、元からあった一神教派が勝ったそうだ。

で、一神教派は他の神々の色とは決して混ざらない、純粋な黒の女神・・・「純黒の女神」と呼ぶようになったとの事。


「さて、流石にルイスの視線がきつくなって来た事だし、あたしらも仕事に戻るよ。

 パティ、あんたは今日中に挿絵の写しの下書き、やれるところまでやっとくんだよ。

 ローズは掃除をっちゃっちゃと終わらせてきな。」


俺たちは各々の仕事に戻り一日が過ぎていく。


翌日


朝礼が終わり教会へ移動する前に軽いミーティングを行う。

「最初は俺、ラファエルとローズ、クリスとパティの三班に分かれて作業を開始しよう。

 慣れてきたらローズとパティにも個別で動いてもらう予定だ。」

「了解。」

「で、何か質問はあるか?」

「避難場所って事はさ、備蓄品の食い物があったりするのか?

 部屋の中が腐敗臭で大変なことになんて事には?」

「あぁ、それは大丈夫だ。 魔法院の諸兄の多大なる犠牲のおかげで我々は快適な環境で活動する事が出来る。」


そうか・・・

ありがとう魔法院、特別手当が出る事を切に願ってやるぞ。


「他はあるか?」

「はーい、今のところ何か面白い物って出て来た?」

「面白い物? 何をもって面白いとするかは分らんが、生活必需品が殆どだ。」

「そっかー、骨とかないの?」

「お前が望んでいるそこら辺の物は何一つないな。

 魔法院から提出された事前調査の結果報告書でもない。」


その後は質問らしい質問も無く、教会へ向かう。

到着すると、優しそうな微笑みを浮かべたこれぞThe神父と言えそうな老人が門前で出迎えてくれた。


「おぉ、学芸員の皆様、お待ちしておりました。」

「神父殿、本日も宜しくお願い致します。

 して、昨日の調査終了時にご説明申し上げた通り、本日より二人ほど人員を追加致します。

 年長の方がローズマリー、年少の方がパトリシアと申します。」


フィリさんが研究室では聞いた事の無い、丁寧な口調で俺たちを紹介する。

紹介を聞いた神父がローズに視線を向け、その後に俺に視線を向けると急に硬い表情に変わる。


「・・・? 俺の顔に何かついてる?」

「い、いえ、そう言う訳ではないのですが、お嬢さん、パトリシアさんと申しましたっけ?」

「パティでいいよ。」

「では、パティさん。 あなたも博物館の方でしょうか。」

「うん? そうだけど?」


神父が申し訳なさそうな顔をしてフィリさんに顔を戻し話を始める。


「フィリップさん、申し訳ないのですがパティさんを、調査に参加させるのを見合わせて頂く事は出来ないでしょうか?」

「神父殿? 彼女は年は幼いですが十分作業はこなせます。

 もちろん暫くの間は、クリスの補助として調査工程を学ばせますのでご安心ください。」


生まれ変わってから仕事が出来ると褒められるのは初めてじゃないか?

なんかむずがゆいな。


「フィリップさん、博物館から来ていただける以上、彼女の能力には疑問を持っておりません。」

「能力に疑問をお持ちでないとしたらどのような理由なのでしょうか?」

「その昔、この教会では少女がかどわかされる様な事があったという言い伝えが御座いまして、

 成人を迎える前の女性が教会に入る事をなるべく控えて頂いているのです。」

「様な事とは?」

「ええ、正確にはどわかされたというより瞬間移動と言った方が良いのでしょうか、

 少女が居なくなったと思ったら、いつの間にかこの正門の前に移動していたとの事で、

 数百年前から伝わっている言い伝えなので、実際に起こるかどうかはわからないのですが、

 しきたりとして今まで残っているのですよ。」


なるほど、この教会にはロリコン(霊)が居るのか。

しかし困ったな、俺自身としてはそんなおとぎ話のようなもん信じる気にもなれんが。

まぁ、控えろってことは別に入っても構わないってことだな。


「神父さん、もし実際に起きたとしても門の前に飛ばされるだけだろ?

 起きなければ問題ないし、起きたとしたって大した問題じゃないし気にする事は無いだろ?」

「伝わっている話では門の前に移動するだけで他に何かあったとは聞いておりませんし、

 入るのを控えて頂いているだけで禁止している訳では御座いません。

 しかし、教会としては何かあった時に責任を持つ事は出来ません。

 その事を理解したうえでしたら、教会はあなたの訪問を心より歓迎いたします。」


神父からの許可も出たし、行こう。

こんなところで押し問答なんかしてても、なんも始まらん。


「よし、行くか。」

「パティ、いいのか?」

「フィリさん、ビビってる?」

「そう言う訳じゃねぇが、一応ここを取り仕切ってるのは俺だからよ、

 安全第一を考えるのが最優先なんだよ。

 まぁ、お前がいいって言うなら行くか。」


神父の後ろに付いていくようにフィリさんを先頭に教会内に入っていく。

俺も正門を抜け教会内に入った瞬間、


・・・ゾワッ


誰かに執拗に見つめられている様な感覚に、背中に寒気が走る。

おいおい、本当にロリコン(霊)がいるのか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ