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帝国博物館の見習い学芸員  作者: ヤマガム
11/27

10話

初めての出勤の日研究室へ向かう通路で前を歩いていたバァさんが俺の方へ向き、話しかけて来る。

「そういや、宿題はやって来たんだろうね?」


課外授業の申請が通り、バァさんに挨拶に行ったときに宿題を出された。

「~さん」とか「~先輩」等の敬称を付けて呼び合う事をしないのが、バァさんが決めた研究室のルールらしい。

だから気軽に呼び合えるあだ名を考えて来い。

それが、バァさんから出された宿題。

・・・大体は自分の名前か名前の略称らしいので俺もそれに倣う事にした。


バァさんの質問に頷き、応える。

「あぁ、考えて来たよ。

 名前の略称でも良いんだよな?」


俺の返答に「自分の好きなのでいいさ」と呟き前を向き歩き始める。


研究室に到着し、中に入ると書類に目を通していたり、何か書き物をしていた上司や先輩になる奴らが、一斉に俺に視線を向ける。


緊張するものは緊張する。

平常心だ、しんこきゅー


バァさんの机と思われる他より一回り大きい机の前に連れて行かれ、俺の背中をポンと叩き、バァさんが口を開く。

「今日から見習いで入ってもらうパトリシアだ。

 さ、挨拶しな。」


・・・え? 俺の紹介それだけ?

もっと何かないの?


背中を押され一歩前に出された俺はバァさんに言われた通り自己紹介を始める。

「今日からお世話になります、パトリシア・ザインです。

 名字や、俺の髪や目の色でわかる人もいるかもしれませんが、『英雄』の血を引いてます。

 そのせいか『英雄』の時代の記憶みたいなのが少しわかるっぽいのでそれを役立てる事が出来ればいいな と思います。

 あと、あだ名はパティで。

 これからよろしく。」


俺はバァさんに使ったその場凌ぎと同じ説明使い挨拶をする。

俺の挨拶が終わると、バァさんが最初に話し始める。

「ん。

 じゃあ、あたしらの紹介だね。

 まずはあたし、もう知ってるだろうけど名前は、ミレーヌ・ガブリロワ。

 ここ、第8研究室の室長を務めさせてもらっている。

 主任と呼んどくれ。

 まぁ、今更だがウチは古代の遺物の調査や鑑定、古文書の解読をメインにやっている。

 あと、ここに運ぶ事の出来ない物は現地に行って調査をする部署だ。」


バァさんの自己紹介が終わると同時に俺が質問をする。

「室長なのに何で主任って呼ぶの?

 室長じゃないの?」


俺の質問にバァさんがふんっと鼻で一息吐くと答えてきた。

「別にあだ名は何でも良いって言っただろ。

 あたしが、主任が良いって言ったら主任なんだよ。」


俺が「あそっか」と呟いて納得すると、室内にいたメンバーの自己紹介が始まる。

が、男の自己紹介はどうしても右から左に流れていくのは仕方のない事だ。

記憶出来た自分を褒めてあげたい。


一人目はウィルフィード・シモン

軽く白髪が混じり始めた初老の物腰が柔らかいジェントルメン。

副室長であだ名はウィルと呼んで欲しいそうだ。


二人目はフィリップ・ベッカー

学芸員よりも冒険者の方が似合うんじゃないかと思うほどのしっかりとした体格。

声がでかい、近くに居たら耳がキーンってなりそう。

あだ名は無かったらしいが、周りがフィリさんと呼んでいるのでフィリさんらしい。


三人目はルイス・ペレイロ

小太りで・・・何だろう、普通としか感想が出ないくらい普通だ。

あだ名は名前のまんま、ルイス。 ・・・普通だ。


四人目はピエール・マルティン

細身の体で、常に体重を後ろに掛けたように立ち、腕を組んだり指先を額に当てたり芝居じみている。

喋り方も演劇のような喋り方だが妙に格好いい。

あだ名はラファエル、本当は漆黒のラファエルらしいが周りからラファエルだけでいいと言われた。

そう言えば中等部の二年生にこんな姿勢や喋り方をしている奴らが多かったけど、流行っているの?



男達の自己紹介の後、女性陣の自己紹介。

博物館なんて仕事柄、女なんて主任の様にしわ枯れているか、根暗しかいないと思っていたのだが、

目の前の二人を見て、俺は久しぶりに(オッサン)に感謝した。


一人目は長い黒髪の凛としたクールビューティー。

「初めまして、パティ。

 私はクリスティナ・ピーターソンだ。

 クリスと呼んでくれ。」

凛とした感じの中に、大人の女性の色気もある。

最高じゃないか。


二人目はピンク色の少しくせっ毛なショートヘアーの色っぽいおねーさん。

「私の名前はローズマリー・スティーブンスだよ。

 気軽にローズって呼んでね。

 しかし、パティは可愛いねぇ、おねーさん思わず抱っこしたくなっちゃう。」

自己紹介しながら近づき、俺の顔を胸に挟み込むように抱きしめて来る。

あぁ、天国はこんなにも身近な処にあったのか。



俺を抱きしめながら頭ではなく、尻を撫でて来たローズから解放され一息ついた後、

席が一つ空いて居る事に気が付く。

視線の先には綺麗に整頓され、白を基調とした文房具が載っている席がある。

「あれ? バァさ・・・じゃない、主任。

 この席の人は休み?」


俺の質問に座って居た席から立ち上がり主任が答える。

「あぁ、そこはステファニーの席だね。

 今は、聖人族の国との国境近くの遺跡に調査に行っているんだ。

 戻ってくるのはまだ暫く掛かるから、帰って来た時に紹介するさ。

 さて、自己紹介も終わったことだし朝礼だ。

 パティ、あんたの席はクリスの横、時間も押しているしちゃちゃっと終わらせるよ。」


・・・ステファニーか、白の似合う几帳面なおねーさん系かな?

・・・いつ帰ってくるんだろう、楽しみだ。


主任に急かされ用意された席に座ると、朝礼が開始される。

本日の作業や、連絡事項を一人ずつ報告していく。

「・・・と言う訳で本日よりフィリさん、ラファエル、私の3人で依頼のあった魔神族地区の教会へ調査を行う予定です。

 一応、二週間を予定してますが、実際に現場を確認してみないと何とも言えません。

 以上です。」


俺の隣にいるクリスの報告が終わり、俺の番になり立ち上がる。

「えっと、今日はバァさん・・・じゃなかった、主任の後ろについて色々説明を受ける予定だ。」


全員の報告が終わり、各々が作業を開始する。

俺も主任に連れられ説明を受けながら、館内を回り最後に倉庫にたどり着く。

「さて、パティ。

 あんたに頼みたい仕事はこの棚の本の解読の手伝いだ。

 『英雄』の記憶がどれ程の物か分からないが、まずはこの間のタペストリーと同じ文字で書かれたこの二冊の解読から頼むよ。」


渡された本を抱え研究室に戻り席に着き、作業に必要な筆記用具やレポート用紙を取り出す。


もしかしたらこの中に俺の「目標」にかかわる文献があるかもしれないと希望に胸をふくらましつつ、金色の刺繍を施された一際豪華な一冊を手に取り、表紙を開く。

すると、タペストリーに刻まれていたのと同じ文字で本のタイトルが書いてあった。



 美味しいパンの作り方

      ~必要なのは愛情よりも良い素材~



記念すべき最初の一冊目は、料理本だった・・・

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