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空飛ぶカレー本舗  作者: カキヒト・シラズ
第1章 うちのカレーは辛口でねえ
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第6話

「今度の参議院選ですが」占部順二が言う。「これが今回の当選者リストです」

 占部は目の前の男にエクセルで作ったリストを渡す。

 目の前の男――トーマス・レッドは、熊のように顔中髯だらけの大男だった。

 米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級副所長を務め、”知日派”の政治学者として複数の大学で教鞭を執る他、公共政策コンサルタント会社『レッド・インターショナル』の代表を務める。

 これがレッドの肩書だった。しかし一言で彼の肩書を表現すると、いわゆる”ジャパン・ハンドラーズ”の一人だと占部は理解していた。

 ”ジャパン・ハンドラーズ”とは、日本の政治を裏で操る米国人たちの呼称だ。

 永田町の自由共和党本部ビルの幹事長室には、占部とレッドが向かい合ってソファーに腰掛けている。

「リストをご覧になればお分かりかと思いますが」占部が言う。「以前から先生がおっしゃっていた、TPPに強固に反対する例の十名の議員を落選させておきました。それから先生がおすすめする三人の新人議員を今回、当選させます」

 三人の議員はいずれも米国留学を経験し、大学ではレッドのゼミに所属していた。だから極端な親米派であり、レッドのネオコン思想を骨の髄まで叩き込まれている。

「すばらしい」レッドがたどたどしい日本語で言う。「この通りでお願いします」

「実はすでにコジロー社には同じリストを渡してあるんです。先生に反対されたらどうしようかと思っていたところです」

「いやいや、ミスターウラベが間違えることはないでしょう。あなたは日本の”クロマク”ですからね」

 世迷いごとを言うな。占部は胸の中で毒づいた。

 黒幕はお前さんの方じゃないか。おれはただお前さんに言われた通り、動いているだけだ。

 だがレッドとの人脈のおかげで、自分は幹事長のポストにありつけた。だからどんなときもレッドには愛想笑いをするしかない。

 世の中をよく知らないジャーナリストどもは、勝手におれをフィクサーだと主張する。

 確かに広域暴力団、林冲会と宗教団体、愛国宗はおれの言うことをよく訊く。

 だが彼らはそれ相当の見返りをおれに要求してくる。

 おれに子分がいるとしたら、現役総理大臣、村野凜太郎ぐらいなもんだ。彼は若いころ、おれの秘書をやっていた。だからおれの言うことを何でも訊く。

 しかし、それでもおれはフィクサーじゃない。それどころかおれは政界一のパシリだ。おれに命令するのは”ジャパン・ハンドラーズ”だけじゃないからだ。

 日米合同委員会、日本会議、経団連、日本医師会、農協、外交問題評議会、サイモン・ウィーゼンタール・センター......。

 国内外の圧力団体がおれに向けて”陳情”という名の”命令”を申し付ける。おれはどちらの連中に対しても愛想笑いをしては適当にお茶を濁す。これがおれのルーティンワークだ。

 おまけに官僚どもときたら、腰は低いが、毎日毎日、膨大な書類を持ってきては、捺印するよう政治家たちに”命令”する。政治家は何が何だかわからず、捺印するしかない。

 政治家と官僚。どちらがどちらを支配しているのか......。

 すると占部のスマホが鳴る。

「ちょっと失礼」

 占部はレッドにそう言い、胸ポケットからスマホを取る。

「コジローの沢崎です......」

「後にしろ。今、忙しいんだ」

「幹事長、実はコジローが乗っ取られそうなんです」

「何?」

「今朝のネットニュースで知ったんです。シンドバッド社がうちにTOBを仕掛けてきたんです。

 幹事長のお力で何とか助けてくださいよ。進藤という男をご存じでしょう。シンドバッドの社長ですが、あいつをバラしてもらえませんか」

「ばかっ、そんなことできるわけないだろう」

 占部は反射的にスマホを切った。

 進藤翔という男は占部もテレビで知っていた。

 ITバブル時代の勝ち組で、創業したベンチャー企業を上場させ、巨万の富を得た。

 最初はビジネス系マスコミだけが進藤を取り上げていたが、若くてイケメンで女癖が悪く、女性芸能人とよくスキャンダルを起こすようになると、今度は芸能マスコミが進藤を追いかけ始めた。

「どうしましたか」レッドが言う。

「いや、なんでもありません」

 占部は吐息を漏らし、煙草に火をつける。

 

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