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空飛ぶカレー本舗  作者: カキヒト・シラズ
第1章 うちのカレーは辛口でねえ
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第5話

 大宮のシンドバッド・ビルの二階には大ホールがあり、シンドバッド・グループ各社が広報発表に利用していた。

「本日は、弊社、株式会社シンドバッド・ドットコムの記者発表に、多数ご参集いただきまして、まことにありごとうございます。

 申し遅れましたが、私は弊社、社長秘書兼広報部長の蘭明日香と申します。よろしくお願いいたします」

 マイクを持った蘭明日香は頭を下げる。

 会場のテーブル席は立見席は出ないものの、マスコミ関係者でほぼ満席だった。

 白い布で覆われた登壇者のテーブルには、シンドバッド・ドットコム社の役員が並んで座っている。

「お早うございます。シンドバッドの進藤です」進藤翔が言う。「プレスリリースでご案内の通り、弊社は株式会社コジローさんに対しまして、TOB、すなわち株式公開買い付けをいたします」

 TOB、株式公開買付けとは、特定の株式会社の株式を、不特定多数の株主から株式市場外で買い集める証券取引上の制度を指す。企業買収など、対象企業の経営権の取得を目的に実施することが多い。

 進藤は慣れた手つきでノートPCのパワーポイントを操作し、DLPプロジェクタの大画面でプレゼンテーションする。

 TOBの買い付け期間、買取り株数、価格について、進藤は詳細に説明した。

「ちょっといいですか」一番前の席の女性記者が手を上げる。「今回のTOBですが、コジロー社の経営陣と話し合ったのですか?」

「いいえ」進藤が言う。「コジローさんには何の連絡もしていません」

「だったらこれは敵対的買収ということですか」

「もちろん、そのつもりです」

 会場からざわめきが聞こえる。

 TOBには、買収される企業の経営陣の同意を得ている友好的買収と、そうではない敵対的買収、つまり”乗っ取り”の二種類がある。

 進藤のプレゼンテーションが終わり、質疑応答に入ると、ビジネスマガジン系の記者たちから熱心な質問が飛び交う。

「時間も押しておりますので」明日香が言う。「最後にあと一つだけ質問をお受けします」

 後ろの方に座っていた中年の男性記者が手を上げる。

「週刊ゴシップワールドの鈴木と申します。進藤社長は最近、女優のスーザン加藤さんと交際しているという噂ですが、本当でしょうか。ついこの前も、都内の高級フランス料理店でいっしょにお食事されましたよねえ」

「ちょっと待ってください」明日香がヒステリックに叫ぶ。「ご質問は、TOBの件に限らせていただきます」

「じゃあ、別の質問」鈴木が言う。「去年、進藤社長と噂があったフリーアナウンサーの日下部紗枝(くさがべさえ)さんなんですけど......現在、お二人の仲は破局してるんですか」

「ですからTOBのご質問だけお願いします」



 記者発表会場とパーティションで区切られた空間が、控えの間になっていた。

「翔ちゃん、どういうこと」明日香が言う。「まだあんな小娘と付き合ってたの?」

「君の誤解だよ」進藤が言う。「スーザンちゃんとはもう別れたよ」

「......」

「本当だ。信じてくれ」

 控えの間では進藤と明日香の二人だけだった。パーティションの向こうでは、若手社員たちが長テーブルをかたづけ、記者発表用の機材などを撤収している最中だ。

 まったく翔ちゃんたら、若い女とカレーには目がないんだから......。

 明日香はふてくされた表情を進藤に見せつけるように吐息を漏らす。


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